オーバーロード ~絶死絶命交流ルート~   作:日ノ川

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エルフ襲来を知った村人とアインズ様たちの話
この次の話と合わせて一話くらいの気持ちで書いているので、今回はあまり話は進みません


第13話 集会前の確認

 太陽が昇り始めたばかりでまだ薄暗い村の中、エグニアはアウラに会うため、彼女たちが寝泊まりしているエルフツリーへ向かっていた。

 

「少し早すぎたか? しかし、この間の件で呆れさせてしまったままだからな。また子供たちが迎えにくる前に……」

 

 この間とは、エグニアも同行した際に狩ったウルススを持ち帰った時のことだ。

 マーレと接触して頑なだった長老たちが歩み寄りを見せたのだが、そのことに調子に乗ったのか、若者グループの纏め役であるガネンが長老たちを扱き下ろし始めたのだ。

 そんなガネンを見たアウラが呆れた様子を見せたため、慌ててエグニアが仲裁に入ったのだが、今度は矛先が自分に向いた。

 

 曰く、横からやってきて偉そうなことを言うな。

 

 要するに、アウラの側近という立場に就いたガネン──自称だが──の地位をエグニアが脅かしかねないと恐れたのだろう。

 こちらとしても、そうした自分こそがアウラに最も信頼されていると言わんばかりの態度には我慢の限界が来ていたため、そのまま言い争いに発展した。

 アウラはそんな二人にますます呆れてしまい、その日から狩りを始めとした村の仕事には関わらず、子供たちと遊んでいるという。

 もちろん、アウラたちは村の客人にして恩人であり、毎日狩りに同行する必要はなく、なにをしようと自由なのだが、エグニアにとっては別の心配がある。

 

(村の子供たちが彼女に惚れて、それでもし、もし万が一彼女の方も……)

 

 想像するだけで、いや想像しようとするだけでも、頭がそれを拒否してしまう。

 女神が如き絶世の美少女であるアウラに村の子供たちが惚れてしまうのは当然のことなのだが、村の子供たちの中にはアウラと同い年くらいの子供もいる。

 二百五十歳を超えるエグニアの初恋相手はアウラだが、村の者たちの初恋はもっと早く、それこそアウラくらいの年齢で初恋を経験していてもおかしくはないと聞く。

 特に男子と異なり、女子は精神的な成長も早いらしいので心配だ。

 

(彼女が村に居る時間はそう長くない。その間になんとしても、俺のことをもっと知って貰わなくては)

 

 後はアウラたちの保護者だというモモンなる御仁にも接触し、婚約者の有無やアウラが村に残る意志があるかなども確認したいところだ。

 

(いざとなれば自分も旅に同行するのもありか?)

 

 他の村に行くにしても、その場所や道順を彼らは知らないはず。

 その案内役をかって出れば、もっと長くアウラと共に居ることができる。

 なかなか良いアイデアだが、これも提案すれば付いていきたいと名乗り出る者は数多くいることだろう。

 ならばこそ、キチンと失態を詫び、自分の認識を改めて貰わなくては。

 

「よし!」

 

 改めて気合いを入れ直し、アウラたちが使っているエルフツリーに向かおうとしたエグニアの耳が、微かな音を捉えた。

 瞬間、だらしなく緩んでいた表情が引き締まり、音のした方向を睨む。

 まだ何も見えないが、確実に音がまっすぐに近づいてきている。

 

「……デカい」

 

 咆哮こそ聞こえないものの、間違いなく人間より遙かに巨大な何者かが移動している音だ。

 

王種(ロード)が戻ってきたのか? だったらすぐにアウラさんたちに!)

 

 アウラが討ち取った、この近辺を縄張りにしていたアンキロウルススが居なくなり、森の中のパワーバランスが崩れたことで、一度追い払った王種(ロード)が再びやってきた可能性がある。

 その場合は、一刻も早くアウラたちを呼んでこなくては。

 通常のウルススならばともかく、王種(ロード)が相手では村人全員を動員しても勝ち目はないからだ。

 情けない話だが、再びアウラたちに頼る必要がある。

 急ぎ駆け出そうとした瞬間、エルフツリーの上から女神が降りてきた。

 

「心配いらないよ」

 

「ア、んんっ。フィオーラさん。どうして」

 

 どうして、ここにいるのだ。という意味と、心配いらないのはどうしてだ。という二つの意味を込めて問うと彼女は、太陽が如き輝かしい笑顔と共に後ろを指した。

 そこにはこちらに向かって歩いてきているマーレと真っ黒な鎧を着た大柄な男、モモンの姿があった。

 全員がすでに揃っているから、心配いらないと言いたいのかと思ったが、それにしてはアウラは武器も持っておらず、モモンたちも特別急いでいる様子はない。

 そうこうしているうちに、音はエグニアの耳にもはっきりと聞こえるほど大きくなる。

 改めて視線を向けると、目視で確認できる距離の木が大きく揺れていた。

 一撃で太い樹木をなぎ倒すほどの力を持ったウルススの王を思い返し、ゴクリと唾を飲むが、やがて現れたのはウルススとは違う四足獣の姿だった。

 

「あれは?」

 

 森の中でも見たことのない巨大な体躯と精強な面構え、大きな瞳には英知の輝きも見て取れる。

 その魔獣からは、あのウルススの王と同等に近い風格を感じた。

 

「みんな揃って。よく気付いたわね」

 

 少し遅れて現れた白黒二色の髪を持った細身の少女を見て、眉を顰める。

 モモンたちと一緒にウルススを撤退させたハーフエルフの少女である。エグニアとはあまり関わりはなかったが、確か名前は……

 

「アンティリーネ。どういうつもり?」

 

 天真爛漫という言葉がよく似合うアウラらしからぬ冷たい声に、背筋にゾクリと悪寒が走った。

 

「見ての通りよ。ハムスケが森の中で厄介なもの──」

 

 アウラの言葉に肩を竦めて話し始めた直後、彼女は一瞬視線をエグニアに送り、ニンマリと笑う。

 

「武装したエルフの集団と、例の土の精霊を見たそうよ。まっすぐこの村に向かってきている、きっと村を襲うつもりね」

 

「エルフ? 彼らが何故!?」

 

 エルフとダークエルフは近縁種ではあるが、住処も離れており関わりは少ない。

 だからといって仲が悪いわけではない。

 少なくともダークエルフにとっては、かつて北の森から大移動を行った際、自分たちを受け入れてくれたことで恩義を覚えている。

 あちらも、自分たちのことを別の土地からやってきた遠い親戚のようなものだと思って親近感を抱いてくれている。と聞いた覚えがあり、ごく偶にだがエルフの行商がやってきて物々交換を行うこともある。

 そんなエルフが何故。

 

「それは──」

 

 近づいてきたモモンが、何か言おうとする前にきっぱりとした声が追いかけてくる。

 

「私たちのせいでしょうね」

 

 凄惨な笑みと言葉に、なにを言えば良いのか分からず黙ったままのエグニアの肩に手が乗せられた。

 ビクリと身を震わせ、振り返ると自分の直ぐ側まで近づいていたモモンがこちらを見ていた。

 

「詳しい話は私たちが聞いておく。貴方には申し訳ないが、直ぐに長老たちにこの話を伝えて欲しい」

 

「わ、分かりました」

 

 有無を言わさぬ圧を感じる言葉に、エグニアは一つ頷き、その場を離れた。

 

(これは大変なことになった)

 

 

 

「長老!」

 

 長老たちが自分たちの住処であるエルフツリーに居なかったため、三人が会議などをするために集まる木の中に入ったエグニアは目を見張った。

 

「……エグニア。来たか」

 

 最長老の声は重い。

 同時に強い血の臭いが鼻を突き、思わず手で鼻を押さえた。

 

「これは、いったい」

 

 モモンたちから聞いた話を伝えなくてはならないのだが、あまりの光景に思わず聞いてしまう。

 エルフツリーの中には長老衆のみならず、薬師頭と祭祀頭、狩猟頭の姿もあった。

 更にもう一人。

 部屋の中央に寝かされ、治療を受けているダークエルフの姿。

 体中傷だらけの男は村の住人ではないが、どこかで見覚えがある。

 

「今、ガネンも呼びに行かせている。話は全員揃ってからだ」

 

「いったい何の話です? そこにいる彼は一体」

 

 エグニアの返答に、最長老が不思議そうに顔を持ち上げる。

 

「お前のエルフツリーに使いを出したが。それを聞いてきたのではないのか?」

 

「いや、俺はモモン殿たちからこの村にエルフの軍勢が迫っていると聞いて──」

 

 エルフという言葉を聞いた瞬間、治療を受けていたダークエルフの体がビクンと跳ね上がった。

 

「エ、エルフ! エルフに、村が! 俺たちの村が!」

 

「チッ! おい。体を押さえろ。これ以上興奮させると死んじまうぞ」

 

 薬師頭の指示で、狩猟頭が慌てて体を押さえに掛かった。

 どうやら余計なことを言ってしまったようだが、その反応と先ほど聞いた話を併せてようやく、あのダークエルフが何者なのか思い出した。

 

「彼は確か」

「外で話そう」

 

 有無を言わさぬ厳しい口調で告げられ、最長老と共に大人しく外に出た。

 太陽が昇りきる前で皆眠っていることもあり、聞こえるのは背後から響くダークエルフの嗚咽だけ。

 その悲痛な声に眉を顰めながら、エグニアは改めて確認した。

 

「彼はアジュの村の者ですね」

 

 この村から最も近いアジュの村は北側、エルフの王都と呼ばれる巨大な都市とこの村との間辺りに位置している。

 彼は村で一番の実力を持った野伏(レンジャー)だったはずだ。

 

「その通りじゃ。まだ詳しい話は聞けていないのじゃが、夜中、傷だらけで村にやってきた。混乱を避けるため先ずは祭祀頭と薬師頭にだけ声をかけ、治療して貰いながら話を聞いたのじゃが……どうやらアジュの村は壊滅したらしい」

 

「そ、それは、エルフに?」

 

 再び刺激しないように声を落とす。

 

「ああ。だが、エルフは周囲を取り囲み逃がさないようにしていただけで、直接村を破壊したのは、巨大な土の精霊だという話だ」

「土の精霊……」

 

 やはり彼女たちが話していた内容と同じだ。

 

「お前はモモン殿から話を聞いたと言っておったな?」

 

「あ、いえ。正確にはあのハーフエルフの少女と、モモン殿が騎獣として使っている言葉を話す魔獣からですが」

 

「魔獣?」

 

「ええ。フィオーラ殿たちはともかく、モモン殿がこの森を移動できたのは、あの魔獣のおかげなのでしょうね」

 

 宴に出席できず、モモンの姿をまともに見たのは先ほどが初めてだったが、ただでさえ大柄な体格に加えて重量が有りそうな鎧を着て歩くには、この樹海は厳しい環境だが、強大な魔獣の背に乗ったなら話は分かる。

 

「なるほど──妖精の小道を使ったと思っていたが、そうではなかったのか」

 

「小道?」

 

 聞き覚えのある言葉に問い返すが、長老は頭を振って話を戻した。

 

「いや。ともかく、その魔獣とやらがエルフの軍勢を見たのじゃな?」

 

「はい。まっすぐこちらに向かっているそうです」

 

「……アジュの村から集団で移動となれば、ここまで二日といったところか」

 

 移動速度は数が少なければ少ないほど早くなる。

 この村に命辛々到着した彼が単独でやってきたことに比べ、村を取り囲める程の軍勢、何十名での移動ならば数日程度の差が出るのは当然だ。

 

「ところで。長老はどうして、ガネンを?」

 

 使者としてやってきた者が大けがを負っていたのだから、薬師頭と祭祀頭を呼ぶのは当然。周囲の警戒要員として狩猟頭に声を掛けるところまでは分かるが、若者グループの実質的なまとめ役であるガネンは長老衆と対立している。

 副狩猟頭全員を呼び出すならまだしも、一人だけわざわざ呼び出す理由は薄いはずだ。

 

「それは──」

 

 長老が話しかけた瞬間、エグニアの耳が音を拾った。

 自らの存在を誇示するかのような、わざとらしい足音。

 視線を向けると、それに合わせるように最長老も顔を動かした。

 案の定、二人が見た先には、大股でこちらに近づいてくるガネンの姿があった。

 

「来たか」

 

 ポツリと独り言を落とした後、最長老は静かに息を吸う。

 何か覚悟を決めたような態度を不思議に思っている間に、近づいてきたガネンが自分たちの前に立った。

 

「こんな早くからいったい何の用だ?」

 

 非常に威圧的な態度だ。

 普段から長老衆への態度は悪いものの、ここまでではなかったと思うが、アウラという自分たちの理想──年齢や経験ではなく能力の高さこそが絶対的な指標となる──を体現しているかのような存在に出会ったことで、ますます調子づいている。

 そのアウラに呆れられた後でも、態度を変える気はないようだ。

 

(全く。こいつの頭の固さは長老に引けを取らないな)

 

 エグニアは元からどちらの考えにも一理あるとは思っていたが、それ故に互いが譲歩することなく対立に発展していると推察していた。

 それならば長老衆が頭を固くしてくれている方がまだ村の中だけで完結している分、マシだと思って黙認していたのだが、頭の固さならガネンも負けていないようだ。

 これではやはり、村の一本化など不可能だろう。

 

「それは済まなかった。だが今は一刻を争う。お前たちの力も貸して欲しい」

 

 ガネンの不遜な態度にも嫌な顔一つ見せず、頭を下げる最長老の姿にエグニアは目を見張った。

 

「あ、いや……分かった。話は聞こう」

 

 それはガネンも同じだったようで、慌てた様子を見せつつも何とか平静を保とうとする。

 

「すまないな。では、改めて話そう。エグニア。お前もモモン殿たちから聞いた話で補足があれば教えてくれ」

 

「分かりました。ガネン、お前も心して聞いてくれ。これはこの村どころか、森に住む全てのダークエルフの危機だ」

 

 長老の態度も含めて、場に流れるいつもとは違う空気を察知したのか、ガネンはゴクリと唾を飲み、神妙に頷いた。

 

 

 

 最長老の話は概ねモモンたちから聞いた話と同じだった。

 実際に大けがを負ったアジュの村の者が直ぐ傍にいることで、ガネンもこの話が嘘ではないと確信したようだ。

 すぐに口を開くことなく、しばらく眉間に皺を寄せて下を向いていたが、やがて顔を持ち上げ長老を見た。

 

「……それで。その話を俺にしてどうしようって言うんだ。これは村人全員で話し合うべき問題だろ?」

 

 確かにその通りだ。

 通常村で問題が起こった場合、その場で対処に当たった者や、それぞれの分野の頭が対処法を決めることもあるが、今回のようにある程度時間があり、また他の村にも問題が波及するようなときは違う。

 主立った村人を広場に集めて広く意見を募り、その上で他の村と相談してダークエルフ全体の意見を纏めるのがいつものやり方のはすだ。

 

「うむ。もちろんこの後皆を集めて話をするつもりじゃが、その前に我々の中でもある程度方針を決めておきたい」

 

「我々って長老たちだけではなく。ということか?」

 

「無論。お前たちの考えも聞いた上でだ。どうすれば良いと思う?」

 

 直接的な言い方はしないものの、それは現在村を二分している派閥争いの垣根を越えてという意味だ。

 その上、先にこちらの意見を聞いたことで、長老たちは一歩引き、若者グループの案を重視すると言外に告げている。

 先のことがあってなお、歩み寄ろうとする姿勢を見せる長老を前に、ガネンは勝ち誇ったようにニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

 

 ・

 

 

「……ハムスケ。エルフが近づいているのは間違いないんだな?」

 

 念のため確認すると、ハムスケはその巨体をビクリと震わせてから姿勢を正した。

 

「そ、その通りでござる! アンティリーネ殿を助けた時に見たデカい土の化け物も一緒でござった」

 

「プ──あの土の精霊か」

 

 ユグドラシルでの名前はまずいと言い直す。

 そのついでにアンティリーネを見ると、彼女は素知らぬ顔で視線を逸らしていた。

 

(コイツ。わざとアイツの前で言ったな)

 

 思わずため息を一つ落とすと、ハムスケが再度体を震わせる。

 ほぼ同時にアウラとマーレもアンティリーネに非難がましい視線──アウラに至っては明確に睨みつけている──を送った。

 アンティリーネはおそらく憎しみの対象であるエルフ王を討つため、アインズを利用しようとしている。

 ハムスケを連れてきたり、ブルーベリーの前でわざわざ話をしたのはその布石だろう。

 実際、村の者たちに知られることなく、その情報を手に入れた場合、アインズはこの村を見捨てていたに違いない。

 

 村を襲わせて、エルフたちの強さを確認するためだ。

 エルフ王の力は見ているが、他のエルフはどれほどの力を持っているのか不明なのだから。

 少なくともエルフの国には王とアンティリーネ。二人の強者が存在していた。

 他のエルフの中にも、それなりの強者が混ざっていても不思議はない。

 

 もちろん、彼女たちレベルはそうはいないだろう──エルフの国にそんなに多数の強者がいるのなら、とっくの昔に法国を撃退できているはずだ──が、ある程度の強さを持った者たちが、ユグドラシル製の武器を持っていると、魔法の使えない今のアインズでは、対処が面倒になる。

 だから、まずは村を襲わせて様子を見る選択を取るのは合理的な考えだ。

 

(アウラとマーレの友達になれそうな子供もいないみたいだしな)

 

 アンティリーネから二人が楽しくなさそうだったと聞いたため、それとなく確認したが、やはり仕事として嫌々遊んでいたことを遠回しに告げられてしまった。

 そのためこの村に残る理由はもうない。

 

 もちろん、アインズとて幾人か知り合いも出来た村を犠牲にするのは忍びない。

 特に薬師頭からは、仮とはいえ師匠として薬学の知識を教わり、新たな知識や技術を学んでいく楽しさを教わった、いや思い出させて貰った。

 だが、あけみちゃんの血縁かも知れず、シャルティアを洗脳した可能性すらあるエルフ王の情報を集める方がよっぽど重要だ。

 そのためなら、この村の住人すべてが犠牲になろうと関係ない。

 

(俺はそうでもコイツは違ったってことか)

 

 アウラたちからの視線を気に止めないアンティリーネをチラと見て、もう一度ため息を吐く。

 

「ち、ちなみに今はフェンリル殿が、見張ってくれているでござる。アウラ殿なら自分の場所が分かるはずだからと」

 

 アインズのため息が、自分に向けられたとでも思ったのか、震える声でハムスケが言う。

 

「ほう」

 

 思いがけないアイデアに、一端思考を止めた。

 アインズが自分で作ったアンデッドと見えない糸のようなもので繋がり、大ざっぱな方向と距離を把握できるようにアウラもまた、自分が支配下に置いている魔獣たちと見えない繋がりを持っている。

 それをGPS代わりに使用するのはなかなか良いアイデアだ。

 

 魔法的な手段で代用もできるが、今はモモンの姿を取っていることや、攻性防壁に阻まれる可能性を考えると、こちらの方が確実だ。

 

(まあ、ハムスケが思いついたとは思えないからフェンリルの方か)

「アウラ。フェンリルは今、どうしている?」

 

「え? あ、えっと。ハムスケのいうように、こっちに近づいてきているのは間違いない、よ?」

 

「なるほどな……」

 

 これでハムスケの言っていることの裏付けが取れた。

 

(軍だけでなく、根源の土精霊(プライマル・アースエレメンタル)まで持ち出したのは示威行為か?)

 

 ナザリックがかつて蜥蜴人(リザードマン)の村にやったことと同じだ。

 あのときは、蜥蜴人(リザードマン)の村を支配下に置くことが目的だったため、ああした行動を取ったが、エルフがダークエルフの村をまっすぐ目指しているなら、狙いはおそらくアウラとマーレだ。

 二人がこの森に住むダークエルフだと誤解して探しに来たのだろう。

 

(その場合は戦いが前提か)

 

 アンティリーネを助ける際、少し強さも見せているので、根源の土精霊(プライマル・アースエレメンタル)を連れてきたのは、単純に初めから戦いになることを想定して最大戦力を投入したと見るべきだ。

 つまり、接触すれば戦いは避けられない。

 

「到着までどれほど掛かる?」

 

 エルフの国の王都からこのダークエルフの村までアインズたちは数時間程度で到着したが、それはフェンリルの森渡りの能力と移動速度があってこそだ。

 

「えっと。あの辺りからだと、人数にもよるけど、多分二日くらいかな」

 

(二日。逃げ出すことはできるが……)

 

 思案するアインズを余所に、アンティリーネはニヤリと挑発的に笑う。

 

「このっ!」

 

 その笑みをアインズに対する不敬と捉えて激昂したアウラを手で制する。

 そんなことをしている場合ではないのもあるが、それ以上に先ほどの笑みに見覚えがあったからだ。

 

「アウラ。とりあえずお前はマーレとハムスケを連れて、村周辺を警戒しておいてくれ」

 

「それは……~ッ! はい……行くよ。マーレ、ハムスケ」

 

「う、うん」

「了解でござる!」

 

 明らかに渋々といった様子だが、なんとか納得し、アウラはマーレとハムスケを連れてこの場を離れていく。

 

「……それで? お前の目的は何だ?」

 

 三人が十分に離れたのを確認後、アインズは問いかける。

 

「目的って。私はただ緊急事態だったから──」

 

 相変わらず微笑みを浮かべたままだが、この笑みは先日子供たちと何をして遊んだのか聞いた際にも見た。

 

 あの時も表情と内面が合っていない様子だった。

 恐らく彼女が本心を隠す際の癖なのだろう。

 

「嘘をつけ」

 

 アインズは自分でも察しが良い方だとは思わないし、なにを考えているのかまでは推察できないが、隠し事をしているか否か程度なら分かる。

 

「っ」

 

 瞬間、アンティリーネの表情が変わった。

 笑顔ではなく、イタズラがバレた子供のようなばつの悪そうな表情だ。

 

(やはりな)

「一つ確認したい」

 

「……なに?」

 

「お前の目的はなんだ? エルフ王か、それともこの村を守ることか? そのどちらかなら、俺たちは協力しても良い」

 

 エルフ王が狙いなら話は簡単だ。

 村を出たフリをして近くで潜伏し、わざと村を襲わせて相手の戦力を見てから対応を決める。

 

 村を守ることならば、このまま二人で長老に会いに行き、エルフ王の危険性を改めて伝える。後は村を捨てさせ、しばらく別の地に避難させれば良い。

 その場合は、別の村を襲わせて力を調べる方法に変更だ。

 

 しかし、アンティリーネは首を横に振り、キッパリと告げた。

 

「両方」

 

「なに?」

 

「だから両方よ。エルフ王は私の手で必ず殺す。そして、この村の連中も助けたいから逃げるように説得して。その後、私たちはここに残ってエルフ王を迎え討つ」

 

「ワガママだな」

 

 半ば予想していたこととはいえ、村人を逃がすだけでなく、エルフ討伐にも手を貸せと言われると、ため息も吐きたくなる。

 アウラたちを遠ざけておいて良かった。

 

(敵の戦力も分からないうちから戦うなど。ぷにっと萌えさんがいたら怒られるな)

 

 だが、悪い気分ではない。

 今ここにいるのはナザリック地下大墳墓の絶対的支配者ではなく、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の王でもない。未知を求める冒険者モモンだからだろうか。

 

「いいだろう。その代わり、お前にも話してもらうぞ」

 

「話?」

 

「エルフ王のことだ」

 

 アンティリーネが身を固くする。

 今まで詳しい話を聞けずにいたが、もうそんなことを言っている場合ではないのは彼女も分かっているはずだ。

 ここでアインズが知りたいことを確かめられたのなら、全力で手を貸すことができる。

 

「エルフ王の、何が知りたいの?」

 

「先ずは奴自身と、そして、あの力の源となった者の名前だ」

 

 今まで聞けなかった理由が、父親を憎んでいるアンティリーネを気遣っていたから、というのはあくまで建前。

 本当はアインズ自身、まだ答えが見つかっていなかったからだ。

 シャルティアを洗脳した怨敵が、『アインズ・ウール・ゴウン』とつながりのある誰かであったらどうするのか。という問いへの答えが。

 

 唯一、ユグドラシル時代に関係があったエルフと言えば、あけみちゃんであり、アインズはこれまで、エルフ王がその息子であることを前提としていたが、実際その可能性は非常に低い。

 ユグドラシルをプレイしていた者の中で、見栄えの良いエルフのキャラメイクをしている者は多かったはずだ。

 その中の一人がたまたまアインズの顔見知りの可能性は、それこそ万に一つ。

 

 普通に考えればあり得ないことだが、何しろアインズは変なことで運が良い、いや悪い。

 誤魔化すために適当に告げた言葉を深読みされた上、その通りに進んでしまったことが何度もあった。

 今回も同じようなことが起こったら。と警戒して自分の中で答えが見つかるまでは聞かずにいたのだ。

 しかし、もうそんな悠長なことは言っていられない。

 しばしの熟考の後アンティリーネが答えを告げる。

 

「王の名は、デケム・ホウガン。そしてその父はかつて強大な力で瞬く間に大陸を支配した八欲王と呼ばれた者の一人よ」

 

 八欲王。

 その名は報告書で何度か見ている。

 ナザリックより南方にある砂漠の真ん中に浮遊都市を建設した存在で、強さやその都市そのものが魔法的な結界に包まれていることもあって、近隣では最も警戒が必要だと考えていた。

 

 だが今重要なのは、その八欲王の一人がエルフ王の父親だという点だ。

 あけみちゃんはやまいこの妹。当然女性であり、アバターも女エルフだった。

 つまりエルフ王もアンティリーネも、あけみちゃんとは血の繋がりはない。

 それならば何の問題もない。

 

「……分かった。できる限り手を貸そう」

 

「いいの?」

 

 突然の変化に驚いたのか、アンティリーネの声が変わる。

 

「ただし、エルフ王と会って、確かめなくてはならないことができた。悪いが殺すのはその後にしてもらうぞ」

 

「それって──」

 

 アンティリーネがなにか言おうとしたところで、背後から足音と共に、先ほど送り出したブルーベリーの声が聞こえて来た。

 

「モモン殿! これから村人を集めて話し合いを行います。長老たちが詳しく話を聞きたいので集会に出席して欲しいとのことです」

 




次の話も大体書き終わっているので推敲次第、二、三日後に投稿します
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