オーバーロード ~絶死絶命交流ルート~   作:日ノ川

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大変長らくお待たせしました
ようやくリアルの方が落ち着き小説を書く時間が取れるようになったので投稿を再開します


第15話 英雄誕生

「それで。具体的に、我々はエルフの軍勢にどう対処すればよいと思う?」

 

 ひとしきり盛り上がったのち。

 進行役を代わった最長老が全員に問うが、先ほどの騒ぎとは打って変わって、口を開く者は誰も居なかった。

 

(ノーアイデアかよ。まあ、いきなり言われても困るのは分かるけど)

 

 内心で思うもののアインズ自身も、これといったアイデアを持っているわけではない。

 

 正確に言うと、意見を求められた場合に備えていくつか考えていたが、それはエルフ軍の危険を伝えて、村から出ることを前提としていた。

 そのため、皆一丸となって戦おうとしている現状では、使えなくなってしまったのだ。

 

 普段のアインズであれば、その前提が崩れた時点で自らアイデアを出すことは諦め、アドバイザーではなくオブザーバーとして話し合いの行く末を観察することに徹していただろう。

 

 だが、ここに至って話が変わった。

 なんとしても、この状況で村人を生存させるアイデアをひねり出さなくてはならない。

 なぜなら。

 

(あの子供。おそらくはマーレかアウラが説得してここに連れてきたんだろうが、これは計画に無かった。二人が意味もなくそんなことをするはずがない……なら理由は一つ。仲良くなった子供を助けたいがため。そうに違いない!)

 

 チラリとマーレを窺う。

 アインズの傍に移動してきたマーレは、話し合いを続ける村人たちをぼうっと眺めている。

 その瞳には特に感情らしい感情は浮かんでおらず、興味もなさそうだ。

 

 だからこそ、わざわざ計画外の子供を連れてきたマーレ──アウラの指示かもしれないが──の行動には強い意図を感じる。

 アンティリーネの要請を受ける前にアウラたちを遠ざけたので、アインズが村人をどう扱う予定なのかは分かっていなかったはずだ。

 

 二人はアインズがナザリックにとっては大した価値もない村人を助ける理由がなく、そのまま見捨てるだろうと推察して、子供を使って村を纏めあげて一緒に戦う状況を作ることで助命を嘆願したのではないだろうか。

 

(そんな面倒な真似をしなくても、一言言ってくれれば良かったんだが)

 

 そうすれば共に戦う方向に話が進む前に、全員を纏めて逃がすこともできた。

 

(俺に気をつかったんだろうな)

 

 実際村の子供たちはナザリックにとって大した利用価値はない。

 ナザリックの利益を第一に考える守護者として、そんな子供たちをただ助けて欲しいと嘆願は出来ず、こんな回りくどいやり方を取った。

 つまり二人なりのナザリックの利益と、自分たちの願いの折衷案だ。

 後でアインズが村人と共に戦うことにどんな利益があるのだと聞けば、子供たちを上手く使うアイデアを提示するつもりかもしれない。

 

(あるいは、子供たちだけでも自分たちが守るつもりなのかもな。だが、それではまずい)

 

 二人は仲良くなった子供たちだけ守れれば良いと考えているのかもしれないが、子供たちの親が戦いに巻き込まれて死亡すると、それが遺恨として残ってしまう。

 

(そもそも、こんな小さな村だ。村人同士がどこでどう繋がっているかも分からない。となると、やはりできる限り全員を生かす、か)

 

 そのためには敵の戦力がどの程度なのか調べなくては話にならない。

 

(その辺りもアンティリーネに聞いておく必要があるな)

 

 先ほどは時間がなく、エルフ王の名と父親が八欲王と呼ばれるプレイヤーらしき者たちの一人だという話しか聞けなかったが、到着までまだ二日もあるのだから使える能力や魔法、そして根源の土精霊(プライマル・アース・エレメンタル)の召喚方法についても聞いておきたい。

 

 そんなことを考えながら、ふと顔を持ち上げると、アンティリーネがこちらを見ていることに気が付いた。

 いや、彼女だけではない。

 長老たちや、ブルーベリー、狩猟頭、仮師匠である薬師頭までもが、アインズのことをじっと見つめていた。

 この視線には覚えがある。

 ナザリックで会議が行われる際、アインズに意見を求めるNPCたちが向けてくるものと同じ、期待のまなざしだ。

 

「仮弟子一号。俺たちがどう戦えばいいか、何か良い案はないか? 口から先に生まれてきたようなお前なら考えつくだろう」

 

「そうよそうよ」

 

 薬師頭の無茶振りに、アンティリーネも乗っかる。

 この数日で構築された仮初めの師弟関係のおかげか、妙に息が合っている。

 村の救世主となったアンティリーネも同意したためか、他の村人も皆一様に頷いた。

 一番困るのは、アインズがアイデアを出しても、村人たちがそれを受け入れずに好き勝手動かれることだったので、指示通りに動いてくれるのは助かるのだが、聞いてくるのが早すぎる。

 

(守るだけならともかく、一緒に戦うって。こいつらをどう使えばいいんだ?)

 

 村の者たちと交流していたのはもっぱらアウラとマーレであり、アインズはアンティリーネと共にずっと薬師頭のところに入り浸っていたため、正直村人の能力などは把握していない。

 

 顔役の何人かがどんな仕事をしているのかと、村の者たちの多くが野伏(レンジャー)森祭司(ドルイド)の職業を手にしていて、ある程度は戦う力があるということを知っているぐらいだ。

 その程度の情報で、村人たちを指揮して、死傷者を出さずに勝利するなど出来るはずがない。

 

(エルフ王と根源の土精霊(プライマル・アース・エレメンタル)は俺たちがなんとかするにしても、エルフの数も相当いるんだろ? 仮にエルフの一般兵がこいつらと同程度でも正面切ってぶつけさせたら、村人だけじゃなくこの村自体にもかなりの損害が出るよな。前の村は燃やされたらしいし)

 

 それではダメだ。

 マーレたちの願いを叶えることもそうだが、戦いの原因はアンティリーネと彼女を助けてこの村までつれてきたアインズたちにあるのだ。

 子供のおかげで話が纏まって、自分たちが糾弾されることはなくなったとはいえ、多くの被害が出ればその件を蒸し返されるかもしれない。

 

 村人の生命だけでなく、村の損害もできる限り減らすことも、勝利条件に組み込まなくてはならない。

 そんなアイデアが簡単に出るはずが──

 ない。と断言する前に、頭の中に過去の記憶が蘇った。

 

 ユグドラシル時代、多種類のモンスターが跋扈するフィールドで、狙ったモンスターだけを倒すために使っていた方法だ。

 

「では。こういうのはどうでしょう」

 

 周囲から向けられる期待を込めた視線に耐え兼ね、閃きを信じて話し出すと、全員が聞く姿勢を取った。

 期待の重さに一瞬口を閉じかけるが、もう話を止めることは出来ないと覚悟を決める。

 

「みなさんは、これから荷物をまとめ、村を出る準備を行ってください」

 

「それは……やはり村を棄てるということですか?」

 

 重々しい最長老の言葉に、周囲が一斉にざわめいた。

 

(しまった! 言う順番を間違えた)

 

 アインズがカッツェ平野で行った大虐殺を知りながら、エ・ランテルの住人が逃げ出さなかったように、自分の住んでいる都市や村を棄てるのはそう簡単に出来ることではない。

 加えて今回は元々逃げようとしていたところを、マーレが連れてきた少年をキッカケに一致団結し、アンティリーネ指揮の下、村を守るために戦うと決めた直後なのだ。

 その熱に水を差してはならない。

 

「いえ。あくまで念のためです。今回倒すべきはエルフ族そのものではなく、エルフ王ただ一人。今後のことを考えれば、皆さんが直接エルフと戦うのは得策ではありません。そんなことをすれば、必ずや遺恨が残りますからね。なにより皆さんはエルフ族に恩義があるのでしょう?」

 

 確かに。と何人かのダークエルフが頷く。

 正面切っての戦いとなればケガでは済まず、命の奪い合いとなる。

 エルフ王に命じられただけで本人たちはその気はなかった。と言われても簡単に相手を許すことは出来ないだろう。

 戦争とはそういうものだと頭では理解しつつ、感情がそれを許さない。良くあることだ。

 だからこそ初めから戦わせない。

 それが村人の将来や命を守ることにも繋がるはずだ。

 

「エルフ軍が村に到着する直前に、皆さんにはあえて姿を晒してもらいます。エルフが近づいていることを知り、慌てて逃げ出した途中で遭遇してしまった。という形をとるのです。その後、四方に分かれて移動する。当然、エルフたちは追いかけてくるでしょう。ここで重要なのは姿を見せるのはこの村の中でも足の速い精鋭のみに絞ることです。それ以外の皆さんは準備が整い次第、事前に別の場所に避難していてもらいます」

 

「四方に逃げることでエルフを分断して、エルフ王を手薄にするってことね。でも、さすがに全員で追いかけるってことはないでしょ? どれぐらいの人数がいるかは知らないけど、村一つ囲める程度ならかなりの人数が居るはずよ」

 

「ああ。だが、ある程度減れば問題ない。後はアウラを使ってエルフ王と土の精霊だけを奥地に誘い込む」

 

「フィオーラ殿を?」

 

「皆さんもご存じの通り、あの子の足の速さは我々の中でもずば抜けている。対するエルフ軍は皆さんを追いかけるためにおそらく足の速い精鋭を出すでしょうから、必然的に残る者は移動力の低い者ばかり。エルフ王と、その配下である土の精霊を除けばね」

 

 ここまで言えばアンティリーネもアインズの作戦が分かったようで、手を叩いた。

 

「なるほど。ある程度距離を稼げば、他の連中は追いつけず、エルフ王と土の精霊だけを分断できる」

 

 移動速度の差を利用して敵を分断させ、誘い込んだ先で待ちかまえていた仲間たちで一気に叩く。

 ユクドラシル時代によく使った手だ。

 

「そうだ。そこを我々が叩く。とはいえ、エルフ王が土の精霊に乗せて他のエルフも連れてくるようなことがあれば話は別だが──」

 

「それはないわ。あいつの性格上、王である自分の乗り物に他者を乗せることはあり得ない」

 

 きっぱりと言い切る。

 娘であり、エルフ王を熟知しているだろうアンティリーネが言うのなら信用できるが、実のところ、この作戦には穴がある。

 それを村人たちに気づかれないか。と恐る恐る様子を窺うと、一番近くで話を聞いていた最長老が感心したように大きく頷いた。

 

「それなら確かにエルフと戦わずに済みますな。流石は都市で生きるお方。我々のような森に閉じこもっている者には考えつきもしない方法です」

 

 疑う様子の無い手放しの称賛に、ほっと胸をなでおろす。

 

(とはいえ相手はモンスターではない。それもプレイヤーの血を引く者だ。こんな見え見えの誘導に引っかかるとは思えないがな)

 

 そう。本来これは行動パターンの決まっているモンスターやNPC相手だからこそ通用する方法である。

 プレイヤー相手では分断しても転移魔法で簡単に追いつける上、最初から罠だと気づかれて追いかけてこない場合がほとんどだからだ。

 エルフ王も同じ思考に至る可能性の方が高いが、村人が気づかなければそれで良い。

 

 彼らに話した内容と矛盾するが、アインズが助けたいのは双子と仲良くなったらしい村の子供と、その周辺つまりダークエルフの村人までだ。

 エルフは正直どうでも良い。

 なるべく戦わないように努力したという建前があり、村人たちがそれを理解して納得する事が重要なのだ。

 いざ戦いとなったとしても、エルフたちの忠誠心が思ったより強く無理矢理ついてきたので仕方なく戦ったということにしておけば良い。

 

「そのためには皆さんに引きつけていただく足の速い者たちが戻ってきては意味がありません。だから皆さんには、出来る限り戦わずに、逃げることで時間を稼いでもらいたい。言い方は悪いですが囮役ですね」

 

 残ったエルフたちはともかく、村のダークエルフと追いかけっこしてもらうエルフたちとは、直接戦わないようにしなくてはならない。

 

「当然、エルフを引きつける役は逃げるときだけでなく、潜伏している時にも危険はあると思いますが……」

 

 実のところ、村人の大部分は事前に逃がすことになるため、アインズが提案しようとしていた村を棄ててさっさと逃げるべきという案と大差ないのだが、少数ではあっても命の危険があると告げておくことで、アインズやアンティリーネの役に立ちたい彼らの思いを酌むことも出来る。

 同時にエルフ王討伐と村人の安全確保というアンティリーネの願いも叶う。

 即興で思いついたにしてはなかなかのアイデアではないだろうか。

 

「もちろん危険は覚悟の上です。囮の件は了解しました。皆も構わないな?」

 

 問いかけの形を取ってはいたが、事実上の決定事項を伝えるような台詞にも、否定の声は挙がらない。

 これまで断片的に見てきた状況や、アウラたちから聞いた村内での対立関係などから推察するに、長老が強権を振るえば、たとえ言っていることが正論でも、若者グループの反対意見や嫌みが出るはずだが、今回は皆納得しているようだ。

 

 二つに割れていた村が完全に一つに纏まっている。

 強大な敵を前に仲違いしていた者同士が手を取り合うのはよく聞く話だ。

 大抵の場合直近の危機に対処するための一時的なものであり、本心では嫌々なのがほとんどなのだが、今の彼らからはそうした雰囲気も感じない。

 これも今まで双子が村の者たちと交流を深めて、互いの溝を埋め、本当の意味で一つの村となったが故。

 つまりはアウラとマーレが短期間で有力者たちと仲良くなっていたおかげだ。

 

(今更ながら、俺この村に来てから何もしてないなぁ)

 

 アインズのしたことと言えば、ナザリック的には大した効果もない薬草の調合方法を教わっただけ、それも時間が足りず結局まともにメモ出来たのは、一つ二つ程度だ。

 ならばせめて、二人の成果を活かさなくては。

 

(それと──)

 

 兜の中から少年を見やると、緊張からかそれとも興奮しているのか、前のめりになって鼻息を荒くしていた。

 双子と友情を育んだかもしれない子供たちは絶対に守らなくては。

 

「では、早速準備を開始しましょう」

 

 

 ・

 

 

「さっすが、クーちゃん。大人たちの会議に入っていくなんて。ホントすげぇよ」

 

 子供たちの下に戻り、話し合いの内容を告げると、全員から尊敬の眼差しが向けられる。

 

「へっへっへっ。まぁな」

 

 得意げな顔で鼻の下あたりを擦る。

 本当は緊張のあまり声が裏返ってしまい、あまりカッコ良く決められなかったのだが、普段は決定事項を親や周囲の大人伝いに聞くだけだった自分の発言で、村の行く末が決まったと考えると、これまで感じたことのない高揚感を覚えた。

 

「……それで。結局俺たちはこれからどうすんの?」

 

 しばらくクーナスを讃えた後、話は本題に入る。

 

「ああ。戦う力のない奴とかは近くの村に避難するんだと。俺たちもその準備をしろってさ」

 

「準備って、魔獣が近くに来た時みたいな?」

 

 滅多にあることではないが、強力な魔獣が村の近くに現れた時など、しばらくの間村に籠ることがある。

 そのときの食材の準備などは、子供たちも手伝う。

 

「準備の内容は似たようなもんだけど、今回は村に閉じ籠るんじゃなくて、ここを離れるから、危険な森の中を移動することになる。森の中にはあの子たちがおっぱらったウルススの王種もまだいるらしいし、お前らもしっかり準備しとけよ」

 

 アー君みたいになりたくなかったらな。とかつて森に入って遊んでいて命を落とした友人の名前を出すと、揃って力強く頷いた。

 

「で、でも。あの人がそんなにすごい人だったなんて、驚きだよね」

 

 場の緊張感を洗い流すように一人の男の子が声を挙げる。

 ハーフエルフの少女のことだ。

 年齢としてはこの中で最年長であるクーナスより少し上、おそらく百代前半だろう。

 今の自分とそう変わらない年齢でありながら、強さだけでなく英雄然とした高潔さまで兼ね備えているとは驚きだ。

 

「最初はこの村を守るため、一人で残ってエルフたちと戦うつもりだったって話だもんな。それを聞いて一緒に残ることを決めたあの子たちもスゲーけどな」

 

 興奮気味に他の子供も話し出す。

 

「なんかツンケンして、おっかないねーちゃんだと思ってたけどなぁ」

 

 つい先日、アウラとマーレが一緒に連れてきて共に遊んだときのことだ。

 ままごとをすると言った際は、嫌そうな顔をしていたが、だったら他に何かあるか。と逆に聞くと諦めたらしく、しぶしぶ遊びにつき合ってくれた。

 ただし、その際行なったのはクーナスの提案した村ならではのままごとではなく、別の内容だったのだが。

 

「あのときも本物の英雄って感じだったよね」

 

 アウラたちと同年代である男の子の口調が、興奮気味になった。

 彼の発案で行うことになった、ダークエルフの英雄ごっこで彼女はやられ役を引き受けたのだが、途中主人公である英雄役をこなしていた少年の演技にあれこれ口を出し、最終的に自分が英雄役を買って出た。

 かなり熱が入った演技は、見ているこっちが若干引いてしまうほどだったが、彼女自身が本物の英雄なら、あの熱の入りようも分かるというものだ。

 

「だよなぁ。格好いいよなぁ」

 

 思わず言葉が溢れる。

 大人以上の狩りの腕を持つアウラや、長老たちでも知らない知識を持っているマーレも凄いが、二人は自分より年下でありながら立場に天と地ほどの差がある。

 それはハーフエルフの少女も同じだが、遊びの時もどこか引いている感のあった二人と異なり、全力で遊んでくれた上、村を守るために一人で戦おうとしていた物語の英雄顔負けの行動をとっていた彼女に対しては素直に尊敬してしまう。

 だからこそクーナスは、このまま彼女たちだけに任せるのではなく、自分たちも手助けをするべきだと考え、村の大人たちの会議に割り込むことを決めたのだ。

 

「へへっ」

 

「だらしない顔して。ばっかじゃない」

 

 ずっと黙っていたクーナスと同年代の女の子が、語気を荒げる。

 

「なに怒ってんだよ」

 

 子供たちのリーダーとして一目置かれているクーナスに対し、唯一この娘が突っかかってくるのはいつものことだったが、何の理由もなく怒っているのは珍しい。

 そっぽを向く女の子に疑問を覚えつつも、クーナスは膝を打って話をまとめる。

 

「とにかくよ。俺たちだって準備だけじゃなくて。あの人たちの助けになることがなんかあるはずだ。それをみんなで考えようぜ!」

 

 この言葉に異を唱える者は女の子を含めて誰もおらず、早速自分たちでできることについての話し合いに移行した。

 

 

 ・

 

 

 村の入り口近くに集まっているのは、狩猟頭と三人の副狩猟頭を中心とした、日頃狩りや食料の採取などを行っている者たちだ。

 集められた者たちをいくつかのグループに分け、狩猟頭がそれぞれに指示を飛ばす。

 

「お前たちは食料の調達。特に日持ちする木の実を中心に集めてきてくれ」

 

「はい!」

 

 数人が返事をしてそのまま動き出す。

 

「次にお前たちは、近場で狩りを頼む。獲れ次第長老たちに渡してくれ。フィオーレ殿から教わった香辛料を使った干し肉を、世話になる他の村への土産にする」

 

「分かった」

 

 三人いる副狩猟頭の一人である女が頷く。

 彼女はエグニアが持つ物と同じ、弓術大会で優秀な成績を収めた者だけが持てるダークエルフ式複合弓を持つ優秀な狩人だ。

 エルフ軍到着まで時間がない今、待ちが基本の狩猟頭より弓による狩りが得意な彼女の方が素早く狩りを行えると考えての采配だった。

 他にも何人か指示を出した後、残ったのは狩猟頭を含めて三人。

 残る二人はエグニアとガネンだ。

 双方とも不満げな顔で、狩猟頭を睨めつけていた。

 

「……俺たち三人は、森の奥に入って警戒を行う。今はフィオーラ殿が単独で警戒をしてくれているが、彼女にも戦う準備や体力を温存してもらった方が良いだろう」

 

 異論はあるか。という意味を込めて二人を見るが、どちらも無言のまま頷き同意を示す。

 その様子に、狩猟頭はやれやれと小さく息を落とした。

 これから最も危険な警戒任務に就くのにチーム内に不和が残ったままでは良くない。

 

「一応言っておくが、彼女が村を守ると言いだしたことに俺は無関係だ」

 

 不満の理由はこれだろう。案の定ガネンはフンと分かりやすく鼻を鳴らした。

 

「どうだか。長老と結託して、彼女に村に残ってくれるよう頼み込んだそうじゃないか」

 

 エグニアにとって初耳だったらしく、そうなのか? と驚きを示す。

 ガネンの態度から狩猟頭と長老の企みが知られているのは分かっていたが、エグニアがそのことを知らなかったのなら、彼はなぜ不機嫌なのだろう。それについて考える前に、ガネンは続けた。

 

「その密約があったから、長老たちは会議の主導権を俺に渡すと言いだしたんじゃないのか? 大移動の提案までさせておいて。あれじゃあ赤っ恥もいいところだ」

 

「それは違う。俺たちが彼女に打診したのは事実だが断られた。いや、正確には保留だったが。少なくとも俺たちは残る意志はないと考えたからこそ、長老たちを退かせてお前に後を任せることにしたんだ」

 

 ガネンはとても信じられないと言いたげな顔をしているが、これは事実だ。

 

「もっとも、今になって思えば俺たちの頼みを断ったのも、近いうちにエルフの軍勢が来るのが分かっていたからだと思うがな。まったく、彼女の英雄的行動には頭が下がる。そうは思わないか?」

 

 あえて演技じみた大仰な言葉遣いで告げると、ガネンは渋い顔をしつつも同意を示す。

 

「それは確かに。俺としては、力ある者が村に残って率いてくれるのであれば、フィオーラ様でなくても構わない」

 

 ガネンたち若者グループの主張を簡単に纏めれば森という危険な場所で生きる以上は、優れた能力を持った者に従うのが村のためになる。というものだ。

 その意味で、村のために自分だけ残ろうとした彼女たちの行動はガネンの主張に近い。

 

「そうだ。そしてお前の行動にもキチンと意味はあった。考えてみろ。あの会議の前半はお前が仕切り、その後も話を変えるキッカケになったのはクーナスだ。最終的に村は一つに纏まったが、それに長老たちは一切関わっていない。この時点で世代交代を見せつけたようなもの。今後、長老たちは一歩引いた立場しか取れないだろう」

 

「だったら良いがな」

 

 憎まれ口を利きつつも、まんざらでもないのかガネンの不満は粗方消え、口元がゆるみそうになっている。

 自分でもそれに気づいたのだろう。唇を引き締め直し真顔になった。

 

「それよりも彼女はエルフ軍をおっぱらった後も、村に残ってくれるのか?」

 

「それは……分からん」

 

「なんだよ。それ」

 

 再び鼻を鳴らすが、今度は怒りではなく、呆れを含んだものだ。

 被害が及ばないように村人を遠ざけようとしていた以上、村に対しても情があるのは間違いないと思うのだが。

 

「とにかく。そちらに関しては、これからは俺も一緒に動く。フィオーラ様は……多分、残ってはくれないだろうからな」

 

 後半になるにつれ、声が小さくなっていく。

 ここ数日、アウラの傍で信者が如く彼女を讃え続けていたガネンだったが、彼女は態度を変えることはなく、数日前からは子供たちと遊ぶようになってしまったことで、諦めかけていたのだろう。

 

「……俺は諦めてない」

 

 エグニアが、未練がましく呟く。

 だがその未練はガネンとは意味が違うものだ。

 

「まだ言っているのか? 少なくともあのモモンって人がいるうちはお前に脈はない。諦めろ」

 

 高い実力に裏付けされた、やや生意気とも取れる性格のアウラがあれほど懐いているだけでなく、モモンと話す時だけはいつも緊張しているのが見て取れる。

 単なる憧れだけでは、ああした態度は取らない。

 

「おいおい。どういうことだ? それじゃあまるで、エグニア自身がフィオーラ様を娶りたいみたいじゃないか」

 

 ガネンの乾いた笑い声が響く。

 

「……」

「……」

 

 笑いに一切反応せず、沈黙するエグニアと狩猟頭を見て、ガネンはゴクリと唾を飲んだ。

 

「本気で言っているのか? 確かにフィオーラ様と居るとき妙に話をそっちの方向に持っていこうとしているとは思っていたが。てっきり村に残ってもらうため子供たちの婚約者として、くっつけようとしているのかと──」

 

「そんなはずがないだろう! アウラさんが子供たちと一緒になって遊んでいたと聞いて。遠くから見守ることしか出来なかった俺がどれほど心配したことか」

 

 わなわな体を震わせるエグニアに対し、ガネンと狩猟頭は同時に視線を合わせ、頷き合う。

 内容は言葉にするまでもない。

 他村にも名の知れ渡っているエグニアの痴態。この件が露見してしまうと、村全体の恥になりかねない。

 アウラが村に残るにしろ残らないにしろ、エグニアだけは決して近づけてはならない。

 先ほどまで別方向を向いていた二人の心は今まさに一つとなった。




とりあえず話はラスト付近まで書きあがっているのですが、時間をかけてちまちま書いていたせいで誤字脱字だけじゃなく内容の齟齬もかなり多いので推敲に時間がかかりそうです
基本的には週に一度のペースで掲載していきますので最後までお付き合いしていただけると幸いです
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