オーバーロード ~絶死絶命交流ルート~   作:日ノ川

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れっど・おーが・くらいどミッションに関しては書籍版と大して変わらないため飛ばして、村に着いてからの話
こちらも似通った部分はあるので飛ばしつつ書いていますので、書籍版を読んでいないと分からないところがありますのでご注意ください


第5話 ダークエルフの村へ

「で。先ずはアウラとマーレが先行し、こいつの足を止める。その後私とアンティリーネが前に出て撃退する」

 

 こいつと言ってモモンが指した先にいるのは、体長四メートルほどの熊に似た魔獣だ。

 絶死も見たことのない魔獣だが、強さはなかなかのもので、漆黒聖典のメンバーでも一対一で戦えば何人かは危ないかも知れない。

 つまり人間で言うところの、英雄級の実力を持った魔獣ということだ。

 

 もちろん、英雄どころか逸脱者ですら相手にもならない神人である絶死の敵ではないが、それはここにいる他のメンバー──ハムスケなる巨大な四足獣は例外だ──でも同じだ。

 

「次に村に着いてからだが──」

 

 モモンの言葉を話半分に聞きながら、絶死はそっと周囲を観察する。

 皆説明に聞き入っているため、絶死の行動に気づいた様子はない。

 

 まず見たのは、モモンの両隣を確保している双子のダークエルフ、アウラとマーレだ。

 彼らも相当な実力者。

 魔獣熊を実質的に相手したのは、この二人である。

 

 すべての力を見たわけではないが、あの余裕な態度から察するに、本気で戦えば漆黒聖典の隊長と近い。

 つまり、六大神の血が覚醒した神人級の実力はあるかも知れない。

 

(それにあの狼みたいな魔獣。あいつもやばい)

 

 先の戦闘には参加していないため、実力のほどは不明だが、密集した蔦や木々が自動的に避け、一直線に森の中を進む特殊技術を用いているとはいえ、これだけの距離を数時間で移動する速力と体力は驚嘆に値する。

 森の中であの力を使われたら、追いかけるのは難しい。

 

 そして一度姿を見失えば、再び発見するのは不可能。

 そのままゲリラ戦にでも持ち込まれたら、絶死でも危ういかもしれない。

 

(え? ちょっと待って。ハムスケは除くとしても、ここにいるだけで神人級の戦力が四つ。その上魔導王やその配下のアンデッドが加わる──)

 

 この場でもっとも強いのは、絶死の攻撃をあっさりと受け止めたモモンだ。

 それは間違いないはず。

 

 魔導王はそのモモンがほとんど戦いもせず膝を折り、配下に加わった相手と聞いている。

 つまり、戦力に於いてもモモンを超えている可能性がある。

 これまで絶死は魔導国の危険性を聞かされながらも、どこか相手を舐めていた。

 

 強者と戦いたい、敗北を知りたいと口では言っていても、その実己に勝てる存在などいるはずがないと確信していたからだ。

 

 切り札を使えば、最悪魔導王ともう一人くらいならばどうにかできるだろうが、そこまでだ。

 そもそも、ここまで戦力が揃っている魔導国が相手では、自分一人でその状況まで持っていくこと自体不可能に思えてきた。

 

(これ、不味いわね)

 

 法国は他国に比べ、軍事力が突出している。

 加えて、漆黒聖典を始めとした個の戦力育成にも力を入れていた。

 英雄以上の実力者は万軍に勝るが、個であるが故に、複数箇所を同時に攻められると弱い欠点もある。

 

 故に法国は軍と個どちらも強化し、相手の出方によって、軍には軍を個には個をそれぞれ配置できるようにしている。

 それが法国を周辺国家最強たらしめている理由だ。

 

 対して魔導国は、疲れ知らずで広範囲の敵を同時に攻撃できるソウルイーターを始めとして、斬った敵をアンデッドに変えるデスナイトなど、個でありながら軍を相手取れるアンデッドを多数持っているだけでなく、純粋な個に於いてもこれほどの数を揃えている。

 まさしく法国の上位互換。

 

(やっぱりさっさと本陣に帰還して、情報共有をするべき? でも、今戻れば本国に私の敗北が伝わる。そうなればきっと、もう奴を殺すチャンスは貰えない)

 

 人間の存続を第一に考える上層部のことだ。

 ここにいる戦力を含めた魔導国の危険性を伝えてしまうと、戦線を二つ抱える危険を冒すくらいならば。とエルフの国と講和を結ぶなどと言い出しかねない。

 

(冗談じゃない! そんなことをすれば、私は。あの人は)

 

 母の姿を思い出す。

 彼女の憎悪をコピーされ、エルフ王を憎み、その恨みを晴らすためだけに強くなった。

 母が死に、当時の関係者が一人もいなくなったとしても、それは変わらない。

 

 絶死の喉に刺さった棘。

 アレを抜かなければ、自分は前に進めない。

 

(法国に戻るのは、奴を殺してからだ。そのためにこいつらを利用してやる)

 

 当初絶死は、モモンたちとエルフ王を接触させないように立ち回るつもりだったが、少しの間彼らと接してみて分かったことがある。

 魔導王はどうか知らないが、少なくとも彼らとエルフ王は確実にそりが合わないということだ。

 

 特に下半身でものを考えているエルフ王がアウラ──男の子かと思っていたが、女の子らしい──の存在を知れば、たとえ孫が相手であっても、不埒なことを言い出すに決まっている。

 少し接しただけでも分かるほど、二人のことを大事にしているモモンが、それを受け入れるはずがない。

 

 カロンの導きがない今、絶死の切り札のうち一つは使えない。

 かといって、もう一つの切り札だけではエルフ王はともかく、あの土の精霊がいては勝ち目は薄い。

 だからこそ、どうにかしてモモンたちとエルフ王をぶつけ、彼らに土の精霊の相手をしてもらっている間に、絶死がエルフ王を殺す。

 これが彼女の考えた今後の計画だ。

 

(そのためにも、まずは信用を勝ち取らないと)

 

 双子も絶死のことを明らかに疑っているらしく、時折、こちらを監視しているが、このチームのリーダーはモモンだ。

 そのモモンさえ信用させればいいのだが、現時点ではそれも難しい。

 

 先ほどモモンは、絶死に武器を貸さなかった。一定期間装備していなくてはいけないなどと言っていたが、それはおそらく嘘だ。

 実際そうした制約のある武具があるのは知っているが、それらの武具に共通しているのは魔法の力が込められていること。

 そして、魔法の武具は輝きが目に見える。

 

 だが、モモンの装備には、その輝きがない。

 向こうがそのことに気づいていないとは思えないので、あれは絶死に、お前のことはまだ信用していない。と伝えるためのものだろう。

 問題はその信用がどのレベルで──

 

「……ティリーネ?」

 

「え? あ。なに?」

 

 突然声を掛けられて、慌てて対応する。

 

「いや、ずっと難しい顔をしているが、何か疑問でもあるのか?」

 

 全員の視線が絶死に注がれた。

 まさか聞いていなかった。とも言えずに誤魔化すため、必死に頭を回転させる。

 

「いいえ。作戦に関しては問題ないわ。ただ、村で匿ってもらうだけで、なんでそんな面倒なことまでしないといけないのかと思って」

 

 一番最初に疑問に思ったことをそのまま口にした。

 今モモンが話していた計画の概要は、アウラが躾けた魔獣熊にわざとダークエルフの集落を襲わせ、タイミングを見計らって助けに入ることで、ダークエルフに感謝されて村に素早くとけ込むというものだ。

 そんな面倒なことをしなくても、強者というのはそれだけで尊敬の眼差しで見られるもの。

 

 年齢や外見で最初は侮られても、力を見せつければ直ぐ信頼を得ることができるはずだ。

 それで十分ではないだろうか。

 絶死の指摘に、モモンは少し言いづらそうな間を空けてから告げた。

 

「アウラとマーレであれば、そうかもしれないが、私は人間、君はハーフエルフだ。現在エルフの国は法国に攻められていると聞く。人間にあまり良い感情は持っていないだろう」

 

「そ、そうね。私は法国とは関係ないけど、相手がそれを理解する保証はないものね」

 

 思わず声が上擦った。

 実際法国に於けるエルフの扱いは、絶死でも目を背けたくなるようなものだ。

 戦争に参加しているエルフだけでなく、なにも知らない村を襲って、そこからエルフを奴隷として連れ帰っているとも聞いている。

 だが、それを今、わざわざ口にするというのが気になる。

 

(え? 大丈夫よね。私の素性まではバレてないわよね?)

 

 疑われているのは間違いないが、それは武器を持たせると、その場で敵に回る危険性を考えてのことであり、素性に関して気づかれるミスはしていないはずだ。

 それこそエルフを奴隷にする人間至上主義の法国が、ハーフエルフを仲間にすることはあり得ないのだから、説得力も出るだろうと思っていたが、法国のことをピンポイントに出されると勘ぐってしまう。

 

「うむ。だが、命の恩人であれば多少疑われても、邪険には扱われないだろう」

 

「……分かったわ。ただ私に演技は期待しないでよ?」

 

 どちらにしても今は様子を見るしかないと、肩を竦めてモモンから視線を逸らす。

 もし、すでに自分の素性がバレていて、わざと泳がされているのなら、その目的が何なのか考えなくてはいけない。

 絶死の言葉に、アウラは不満そうに唇を尖らせていたが、モモンはそれを制して、手を振りあげた。

 

「では、始めよう」

 

 

 ・

 

 

 魔獣熊を使った、れっど・おーが・くらいどミッションは無事成功した。

 もっとも、全員無傷とはいかず、しぶとく纏わりついていたエルフが一人、吹き飛ばされて重傷を負ったらしい。

 ケガらしいケガは無さそうだったが、頭を強く打ったのか、アウラを見て何か意味の分からない言葉を吐いていたため、そのまま連れていかれてしまった。

 

 その後、助けたうちの一人である狩猟頭を名乗るダークエルフの案内で、アウラたち一行は長老たちに会うこととなった。

 その道すがら、アウラは狩猟頭とあれこれ話をして情報収集を開始していた。

 

 長老たちのことから始まり、ここにきた表向きの目的である、未知を求める冒険についても伝えた。そのまま自分たちは複数の種族が暮らす国に住んでいるが、ダークエルフはほとんどいないため他のダークエルフに会いに来た。と適当な説明も行い、ついでに魔導国への勧誘なども行ってみたが、反応は芳しくないようだ。

 

 アウラ一人が話しているのは、現在の隊列が関係している。

 狩猟頭の後ろにアウラとマーレ。その後ろをアンティリーネが続き、最後尾が主人だ──ちなみにハムスケとフェン、そして仕事を終えた魔獣熊は揃って元のキャンプ地で待機している。

 

 この並び方は初めから決められた順番で、彼らと同じダークエルフであるアウラが話しかけて情報収集を行いつつ、ハーフであるアンティリーネや人間の冒険者モモンということになっている主人の仲介役として動く予定だ。

 そしてもう一つ。

 主人は直接口にはしなかったが、アウラの考えた通り、今回の目的がエルフの国を支援して法国にダメージを与えることならば、上手く誘導してアンティリーネをその旗頭にしてしまうことだ。

 本当ならこの辺りも主人に指示を仰ぎたいところなのだが、アンティリーネがなにかと主人の傍に居たがるため、その隙がなく、モモンの鎧を纏っている最中は伝言(メッセージ)も使えないため、内密に連絡を取ることもできない。

 

 もっとも仮にできたとしても、主人は自分たちが自発的に考え、成長することを望んでいるようなので、あえて指示を出さないかもしれない。

 たとえアウラがミスをしても、叡智に溢れる主人の策で挽回できるからこそだが、アウラにとっては辛い。

 主人が尻拭いをしてくれるからといって、それを見越して不用意な行動をするなど不忠もいいところだ。

 

 だからこそ、アウラは必死に頭を働かせ続ける。

 そうこうしている間に狩猟頭は、他のエルフツリーと大して変わらない木の前で振り返った。

 

「ここだ」

 

 アウラとマーレも足を止め、それにアンティリーネと主人も続く。

 更にその背後をぐるりと半円を描くように、一緒に付いてきていた多数のダークエルフが取り囲んだ。

 

「知っていると思うんだが、中はそれほど広くないんでな。長老たちを呼ぼう──長老たち。御客人が参ったぞ!」

 

 その言葉を合図にエルフツリーに開いた穴から三人のダークエルフが降りてくる。

 男が二人に女が一人。

 人間の外見に換算すれば全員三十代半ば程度だが、ダークエルフの年齢は外見から想像しづらい。

 実際、つい先ほど雑談の最中に狩猟頭の年齢を読み間違えてしまったばかりだ。

 迂闊なことは言えない。

 

 三人のダークエルフはアウラとマーレを見てからその後ろに立っている主人とアンティリーネを見て、一瞬怪訝そうに眉を寄せたが、すぐに威厳を込めた表情を見せる。

 狩猟頭が、魔獣熊──ダークエルフたちに言わせるとアンキロウルスス──の王を撃退してくれた事実と共に全員の紹介をした。

 それを受けて真ん中に立っていた長老の代表らしき男が重々しく口を開き。

 

「うむ。よくぞ来られた。遠方の若き木々。それに──」

 

 若い木々というのはアウラとマーレのことを指しているのだろう。

 その後、僅かに考えるような間を空けてから続ける。

 

「我々とは異なる種より生まれた方々よ。歓迎しよう」

 

 違和感のある話し方は、人間やハーフエルフを例える言葉が見つからず、無理やりひとまとめにしたように感じたが、それより気になったのは、思ったよりもダークエルフが人間──と思っているであろう主人──やその人間とのハーフに対して、悪感情を持っていないことだ。

 

 正式にナザリックに置くことになった元奴隷のエルフたちは、法国は唾棄すべき存在として強い憎悪を抱いている。

 その法国が人間国家であるため、人間全体にもあまり良い感情を持っていなかったようだが、ダークエルフからはそうした雰囲気を感じない。

 

 これは直接被害を受けていないダークエルフだけの特徴なのか、それともあの三人は一時期奴隷になっていたから人間を憎んでいるだけで、他のエルフも人間自体には特に悪感情を持っていないのかは不明だ。

 そんなことを考えていると、周りにいるダークエルフの誰かが呟く声が聞こえてきた。

 

「村を救ってくれた方に対して最初にすべきはお礼でしょ?」

 

「ええ。本当に」

 

 アウラとしては長老たちの挨拶は特に問題があるとは思えないが、ここに来るまで間に聞いたところによると、どうやらこの村で、長老たちと能力主義の若者たちで対立が起こっているらしいので、同じ行動をとっても好感度の違いによって受け取り方が変わるという奴だろう。

 

 その後、代表である長老と女長老が反論し、改めて礼の言葉を口にしたが、今度は優先順位が分かっていないなどと言いだし、それにも反論が入り、いがみ合いを始める両派閥に加え、どちらの派閥にも付かない者たちもいて、この村がそれら三つの派閥争いで揉めていることが確定した。

 

(これは使えるかも)

 

 派閥争いをしていた者たちを纏めあげた。という実績は、アンティリーネを祭り上げる上で役立つ。

 

(どっちにしろ、そろそろ止めないとね。憎まれ役はあたしがするか)

 

 今後のことを考えればアンティリーネの評価を下げるのは得策ではないし、マーレにはそうした演技は無理だ。

 当然主人にそんな雑務はさせられない。となれば選択肢はアウラしかない。

 未だ繰り広げられるダークエルフたちの言い合いに、口を挟もうとした次の瞬間。

 

「申し訳ないが、村のもめ事なら私たちの居ないところでやってくれないか? 私が聞いたトブの大森林に居たというダークエルフの話とはだいぶ違うようだな」

 

 一歩前に出た主人がピシャリと言い切り、場に沈黙が落ちた。

 

(トブのって──あ! ピニスンの。そっか、これを使えば良かったんだ)

 

 なぜここで主人が動いたのか気づき、アウラは内心で自分の愚かさを責め立てる。

 もともとダークエルフはトブの大森林で暮らしていたが、アウラたち守護者総出で討伐した封印の魔樹、ザイトルクワエの脅威に晒されて、この地に逃げ延びてきたのだ。

 彼らの中にはそのころから生きている者も居るはずなので、この事実を巧く伝えれば、アウラたちの立場は村の恩人だけでなく、かつての故郷の平穏を取り戻した者となる。

 

 喧嘩を始めたダークエルフたちを見て、主人はアウラがその手札を切ることを期待していたに違いない。

 しかし、アウラが一向に動かないため、自分が動いたのだ。

 

(ピニスンはあたしたちの守護階層の住人なのに。これじゃあシャルティアのこと言えないよ)

 

「……聞いた、とは? いったいどなたに」

 

 長い沈黙の後、恐る恐るといった様子で長老代表が言い、他のダークエルフもそんな長老の態度に驚いて様子を見守る。

 そんな視線を一身に受けても動じた様子を見せない主人は、そのままアウラに目を向けた。

 

「奴と仲が良いのはアウラだったな。話してやってくれ」

 

「あ。はい! 分かりました!」

 

 突然話を振られ思わず、敬語を使ってしまったが、特に誰も気にした様子はなくアウラに視線を移した。

 

「トブの大森林──ここから北の森で出会った森精霊(ドライアード)だよ。何百年も前から森に住んでるみたいで、ダークエルフとも仲が良かった時期もあるとか言ってたから、それってこの辺のダークエルフのことじゃないの?」

 

「そ、そのドライアードの名前は?」

 

 話を聞いていた女長老が、震えた声で告げた。

 一瞬名前を言って良いものか考えたが、視界の端で主人が頷いたのを確認して、アウラは続ける。

 

「ピニスン。ピニスン・ポール・ペルリアだよ」

 

「ああ! 彼女は生きていたのね。てっきりもう、あの恐ろしい魔樹に殺されてしまったものだとばかり」

 

 頭を振り、地面に膝を突いた女長老を他の二人の長老が慰めるように肩を叩き、周囲のダークエルフたちはどうしたものかと様子を窺っている。

 

 しばらく女長老の嗚咽が続いたが、それもやがて治まっていく。

 そこから先は早かった。

 正気を取り戻した女長老をはじめとして、三人の長老たちからの対応が、目に見えて良くなったのだ。

 主人の言った村に滞在して調査を行う許可はもちろん、今宵魔獣熊から村を救ってくれたことに対する礼を含めて宴が開かれることとなり、とりあえず、それまでは用意されたエルフツリーの中で待機することとなった。

 

(流石はアインズ様。でもこれで、とりあえず村を纏める下地はできたってことだよね)

 

 実力を示せば、若者グループから尊敬を集められる。

 長老たちとはかつての知り合い──というには反応が過剰なのでもっと親しい間柄だったのかもしれない──のピニスンとの繋がりを活用して、友好関係を築くことができる。

 双方に認められれば、様子見をしている他の者たちも付いてくるだろう。

 

 ようはこの村をどう利用するにしても、少し手を加えるだけで、全て選ぶことができる状況ができあがった。

 今回は主人の手を煩わせる結果になってしまったが、次こそは。

 主人がどんな選択をしようとも全てに対応してみせる。

 そして。

 

(今度こそ、アインズ様に誉められるんだ!)

 

 アウラは心の中で拳を握りしめた。

 

 

 ・

 

 

(そうだ。ピニスン。ピニスンだ。この間も聞いたはずなのに、本当に俺って奴は──)

 

 用意されたエルフツリーの中で、テキパキと自分の荷物を整理し始めたアウラの背を見ながら、心の中でため息を吐く。

 元からアインズは人の顔や名前を覚えるのは得意ではないとはいえ数日前に聞いて、存在を思い出したばかりのドライアードの名前まで忘れてしまうとは。

 アウラがあっさり引き継いで話してくれたから助かったが、そのことについてアウラやマーレはどう思っただろうか。

 

 いや、あの二人、というよりナザリックの者たちはアインズを絶対的支配者として認識しているため、適当なことを言っても勝手に良いように勘違いしてくれるが、ダークエルフたちやアンティリーネはそうではない。

 そうしたところは見せないように気をつけなくてはならない。

 今回アインズは王としてではなく、冒険者モモンとしてここにいるため最悪、多少変に思われても、誤魔化すことは可能だが、気をつけるに越したことはない。

 

「モ、モモン、さん。あたしの方は荷物の整理が終わったから手伝い……おうか?」

 

 まだ言葉遣いに慣れていないらしく言いづらそうに提案してくるアウラに、返事をしようとしたところで、特に荷物を持っていないため部屋の隅に立っていたアンティリーネと目があった。

 その表情はどことなく不満げだ。

 いったいなにが不満なのかと、首を傾げそうになったところで気がつく。

 

(そうか! 俺と同じ部屋は不満ということか)

 

 借りることになったエルフツリーは空いている物の中で一番大きいものらしく、たとえ四人でも問題なく使えそうな広さはあるが、アウラはまだ子供だから問題ないとしても、アンティリーネは外見的には十代前半。

 人間で言えば思春期に入った頃だ。

 

 アンデッドの体になったことで性欲もほとんどなくなり、常にメイドが寝ずの番をしていることもあって、寝る際に他人が傍にいることを当たり前のものとして認識していたが、普通であれば、よく知りもしない異性が同じ部屋で寝泊まりすることに不満を抱くのは当然だ。

 先ほど決心したばかりだというのに。

 慌てて、しかしそれは見せないようにアインズは一つ咳払いするとまだ荷物の整理中だったマーレもこちらを振り返った。

 全員の顔を見回してからアインズは冒険者として親しみやすいような態度を見せる。

 

「その必要はないさ。そもそも私はこの後別のエルフツリーを借りてそこで寝るつもりだからな。こうして一度集まったのは、その前に今後のことについて少し話をしておきたかったからなんだ」

 

 反論が入らないように、一気に伝える。

 あくまで初めから同じ部屋を使うつもりはなく、予定通りなのだと強調しておく。

 

「モ、モモンさんはお一人でですか?」

 

 マーレの話し方は、普段と特に変わっていないが元々マーレは誰にでも敬語を使っているので、名前さえ間違えなければ問題はない。

 

「ああ、もちろん。お前たちは三人でここを使ってくれ」

 

 男女が同じ部屋はまずい。という話をしても良いのだが、それをするとマーレはどうなる。ということになってしまうので理由は言わない。

 しかし、アンティリーネにはあっさり見抜かれたようで、彼女はニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。

 

「あら。気を使ってもらって悪いわね。でも助かるわ。私は多感な年頃だから、男と一緒に寝ろなんて言われたらどうしようかと思ったわ」

 

 こちらをイジることを目的にした冗談まじりの言葉は、ちょっと新鮮だ。

 アインズはこうした会話も嫌いではないのだが、ナザリックにも魔導国にもこの手の話題を振ってくれる者は皆無。

 そうした思いがアインズの口を軽くした。

 

「そういう君は幾つなんだ?」

 

 冗談を返す。

 実際多少気になっていた。

 エルフやダークエルフの寿命は千年程度と決まっているため、大ざっぱに外見年齢を十倍することで実年齢を読むことができるが、ハーフエルフにもその法則が当てはまるとは限らないからだ。

 

「ふふ。何歳だと思う?」

 

 さらに意地悪い笑みを深めたアンティリーネに、アインズは兜の中で幻覚の顔を歪めた。

 

(出たよ。このどう答えても面倒なことにしかならない質問。調子に乗るんじゃなかった)

 

 社会人時代に何度か問われた経験があるが、この質問は答えた年齢が、実年齢より上でも下でも、なんならピタリと当てても面倒なことにしかならない。

 しかし同時にかつての経験から、躱し方にも多少の心得がある。

 

「そうだな。アウラはどう思う?」

 

 アインズが採った手段は他者、それも子供にすり付けるという正直最悪な方法だが、空気の読めるアウラならばきっと──

 

「んー。そうだね。さっきのおじさんとお似合いくらいに見えるから三百歳超えとかじゃないの?」

 

(え? そうなの? ハーフは逆に成長が遅くなるのか? それで寿命まで短かったらデメリットしかないような──)

 

「は? 誰が三百歳超えですって。貴方こそその歳でもう老眼に入ったんじゃないの? ああ、流石にそれはないかしらね、まだ五十歳くらいのお子さまでしょうしね」

 

 売り言葉に買い言葉で、明らかな挑発をするアンティリーネに、当然のようにアウラも乗った。

 

「はぁ!? 誰が五十歳だって? あたしはもう八十歳なんだけど!?」

 

「どっちにしても子供でしょ? ちょっとは年長者を敬いなさいよ」

 

 顔をつき合わせてにらみ合いながら口喧嘩を続ける二人。マーレはそんな二人の間に立って、オロオロと視線を動かし続ける。

 

(そうか。この世界に転移したときは七十六歳だったのに。月日が経つのは早いものだな)

 

 助けを求めるようにこちらを見ているマーレの視線に気づくことなく、アインズはしみじみと時間の流れを思い返すのだった。




ちなみにピニスンについては書籍版ではほぼ話に上がりませんでしたが、大樹海に来たのが三百年くらい前で、長老たちの中にはその頃から生きている者もいるのだから、直接的な知り合いがいても不思議はないのでは。と思ってこうなりました
次は歓迎の宴での話。そろそろ絶死の交流が始まる、はず
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