オーバーロード ~絶死絶命交流ルート~   作:日ノ川

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歓迎の宴の話
書籍版ではアインズ様の行った適当な礼儀作法を深読みしたせいか飛ばされていましたが、この話ではそのやりとりが無いため、普通に宴が開かれることになります


第6話 忘れ得ぬ味

 室内に居るのは三人。

 

 最長老、ラズベリー・ナバー。

 男の長老、ピーチ・オルベア。

 そして女の長老、ストロベリー・ピシュチャ。

 

「……さっきはごめんなさい。若造たちの前であんな失態──」

 

 常に礼節を持ち、年長者の経験や知識に敬意を払うよう訴えている自分が、若者グループの前で子供のように泣きじゃくるという失態を犯したことを謝罪する。

 

「仕方あるまい。お前は彼、いや彼女と仲が良かったからな」

 

 ピーチの言葉にストロベリーは小さく頷く。

 この地にやってくる前、ダークエルフは北にある大森林を支配下に置き、強大な勢力を誇っていた。

 

 しかし、そんなダークエルフにも唯一恐れるものがあった。

 それこそが遙か昔から森の奥底で封印されていた、世界を滅ぼしかねない強大な力を持った魔樹の存在だ。

 

 数多の竜王と互角に戦い、やがて封印された魔樹だったが、その封印が解けかけているのか、ある時から魔樹の一部が動き出すようになり、結果ダークエルフも多大な被害を被ることになった。

 

 ピニスンはそんな魔樹の近くに生まれてしまった森精霊であり、本体である木の傍から離れることができないため、こちらの森に渡ってくる際に別れることになったのだが、それまでは友好的な関係を築いていた。

 

「しかし、ピニスンが無事ということは魔樹はまだ目覚めていないのか? それとももしや彼らが?」

 

「それはありえん! あれの封印が解ければ世界は終わりだ。大方、触手を討伐したというところではないか? アンキロウルススの王を撃退できる実力があるならその位のことはできるだろう」

 

 触手は当然本体より遙かに弱いため、ダークエルフたちでも何度かは撃退できた。しかし、徐々にその間隔が短くなっていることに加え、毎回甚大な被害を受けたことで、もはや対処不能と判断し、北の森を捨ててこの大樹海へと渡ってきたのだ。

 

「そうね。私たちだって、妖精の祝福が失われる前なら……もしかしてあの二人も祝福を受けているんじゃないかしら」

 

「どうかな。あの二人は基本的に足止めで、主だって戦っていたのは残る二人と聞いているが……」

 

「直接ではなく、祝福としてあの素晴らしい武装を妖精から貰ったのなら説明が付くわ」

 

 すっかり調子を取り戻したストロベリーに苦笑しつつ、同意できる部分もあると二人の長老も頷く。

 

「今日の宴で探りを入れてみるか?」

 

「ただやり過ぎて悪い印象を与えるのもまずい。他にも村はあるのだから、気分を害したらそちらに向かいかねないぞ」

 

「この周辺の調査や探索が目的と言っていたものね。できればこの村を拠点にして貰いたいわ」

 

 モモンと名乗った戦士が語ったところによると、彼らの目的はこの森にしかない動植物の採取や調査らしい。

 当然、時間も掛かるため、拠点が必要になるはずだ。

 

「もっと言うならあの二人にはずっとこの村に残って貰いたいところだけれど……」

 

「それは難しいだろう。みたところ、あの双子は全身を覆う鎧の戦士にかなり懐いているようだしな」

 

「あの戦士は何者かしら。ピニスンのことを最初に伝えてきたのも彼だったし、ダークエルフ、ではないわよね? 人間、なのかしら」

 

 モモンの体格は大人のダークエルフより立派で背も高かった。

 人間はダークエルフやエルフより少しだけ大きいと聞いていたので、特徴とも合致する。

 

「それも分からん。どちらにしても宴の用意を急がなくては。時間もないからな。村の者たちを総動員し、備蓄している食料を全て使いきるしかないか」

 

「若者たちが嫌がらないか?」

 

 命の恩人を歓迎する宴なのだから、もてなすのは当然だが、礼儀作法を殆ど知らない若者からは備蓄まで放出すると不満が出そうだ。

 

「では、今日の宴は若者主導でやらせて、今のうちから別れの宴に向けて準備を始めるのはどうだ? 彼らも調査の一環として、こちらの狩りや採取に手を貸してくれると言っていた。今までより安全に大量の食料を集められるだろう。彼らがどの程度村にいるのか今回の宴で聞きだし、そこに合わせた別れの宴の準備を我々が主導すれば良い」

 

「それよ。そうすれば私たちを見直すに違いないわ。どうせあのお馬鹿さんたちじゃあ、まともな準備もできないでしょうしね」

 

「……しかし、若者に任せて手際が悪ければ、それこそ客人の機嫌を損ねてしまうのではないか?」

 

「確かに。では最低限、フォローできる準備だけは整えておこう」

 

 宴の件は終了し、そこからは宴の席でなにを聞くか、そして誰を中心に接触するかの話し合いに移行した。

 

 

 ・

 

 

 ダークエルフの村の中央にある広場──木々から伸びる橋によって固定された中空に浮かぶお盆のような場所──に、複数のダークエルフが集まっていた。

 

 村の恩人である四人の客人をもてなす宴の準備を行うためだ。

 

「急げ。手際が悪いと老害どもが口出ししてくるぞ」

 

 副狩猟頭であるプラム・ガネンの言葉に、彼と志を同じくする若者グループが力強い返事をする。

 伝統を重んじる長老衆とは異なり、この危険な森で生きる以上、伝統や年齢とは関係なく、実力の高い者が村を纏めていくべきだというのが、プラムたちの考え方だ。

 

 だからこそ、いつもであれば率先して口出ししてくる長老衆が、今回に限って、直接救われた若者たちを中心にして宴の用意をするよう言ってきたことには驚いた。

 村の住人や備蓄を好きに使う許可も貰い、何かあれば手を貸すとも言っていたが、おそらくはそれこそが長老たちの狙いに違いない。

 最初は自分たちに用意をさせておいて、手柄だけを奪っていくつもりなのだ。

 

「そうはさせない」

 

 プラムたちだけで完璧な宴の準備を終わらせることができれば、長老たちの目論見もご破算となる。

 

「やっぱり村中の備蓄を集めても、普段より少し豪華くらいにしかならなそう。特に、新鮮な食材が殆どないわ」

 

「チッ。流石に今から森に入るのもな。あのウルススの王種はいなくても、あれが来たことで他の獲物も離れてしまっただろうし」

 

 あれだけ手ひどくやられ、手傷を負ったウルススの王種が今更戻ってくるとは考えづらい。

 多少知能があってもウルススは所詮魔獣。一度痛い目に遭えばもう近づくことはない。

 

 だが、そのウルススが強い臭いを残したことで、他の獣や魔獣たちも一斉にこの付近から離れてしまったはずだ。

 そのため、狩りをするのならば匂いの届かない、いつもより離れた場所へ向かわなくてはならない。時間的にも危険性の意味でもそれは避けたい。

 

 しかし、新鮮な食材はなにかしら確保しておきたい。果物や野菜、あるいは芋虫などであれば近場でも採れる場所があったはずだ。

 それとも果実は祭祀頭に頼んで作って貰った方が手っとり早いか。

 頭を回転させて、必要な食材について考えていると、突然自分の目の前に影が落ちた。

 

「よっと──ブイ!」

 

 着地の音すら聞こえない軽やかな動きと、同じほど軽い口調、そして両手の人差し指と中指を立てた謎のポーズと共に現れたのは、件の強き客人の一人。

 双子ダークエルフの片割れにして、輝く弓を操る射手、アウラ・ベラ・フィオーラだ。

 彼女はどこか不敵にも見える笑みと共に、周囲をグルリと見回した。

 

「フィオーラ……殿」

 

 なんと呼べばいいのか一瞬悩む。

 自分たちを助けてくれた恩人であり、ウルススを撃退する実力を持った者の一人であることは間違いないが、それでも自分より遙かに年下であるアウラを副狩猟頭という立場にいるプラムとして、どう扱って良いのか分からなかったのだ。

 

「悪いんだけど、今の話、上から聞かせて貰ったよ。それで、その狩りにあたしも連れていって欲しくてさ」

 

「狩りに、ですか? しかし、今回の目的はあなた方の歓迎の宴で出す食材を確保するためです。手伝って貰っては意味が……」

 

「気にしないでよ。モモンさんから聞いてない? あたしたちの仕事は、この森の探索と調査なの。それにあたしがいれば森の中でも安全に動けるでしょ?」

 

 さらりと言ってのけるアウラの言葉は正論でもある。

 森の中で安全を確保する場合、手段は二つ。

 

 一つは、プラムたちのような野伏(レンジャー)の技術を持つ者が、周囲を警戒すること。

 これが一般的な方法だ。

 だがもう一つ。アウラの言ったような強者が護衛について安全を確保するやり方もある。

 

 しかし、そちらには問題もある。

 森にとけ込む野伏(レンジャー)と異なり、ただ強者というだけでは、周囲に自分の存在をアピールしてしまい、危険な猛獣のみならず、獲物まで逃げてしまうことだ。

 

「確かに貴方は強いが、ただでさえ今森の中は獲物となる獣が怯えている。申し訳ないが──」

 

「大丈夫。あたしの本職は、野伏(レンジャー)だから」

 

「え?」

 

 プラムの言葉を遮って、アウラが言う。

 確かにエグニアのように、野伏(レンジャー)の実力がある者は弓にも優れている場合が多いが、それも程度による。

 いくら才能があっても、あの若さであれほどの実力を持っている以上、他のことはおざなりにして弓の技術だけを磨いたと考える方が自然だ。

 少なくとも大樹海の歩き方や、気配を消す方法などに関しては自分の方が上のはず。

 

(だが、今の動き──)

 

 思考中だったとはいえ、プラムに気づかれることなく現れた、アウラの野伏(レンジャー)としての能力には興味もある。

 

「……分かりました。ですが、狩りの最中は自分の指示に従って貰います。それが条件です」

 

 これだけはきっぱり告げておく。

 その言葉はつまり、プラムとしては戦闘能力はともかく、野伏(レンジャー)としての実力であればアウラにも負けることはないだろうという自信の現れだった。

 

「ん。いいよ」

 

 相変わらず軽い口調のまま、頭の後ろで手を組んで笑う。

 

(その余裕が本物か見定めさせてもらおう)

 

 アウラを見下ろしながら、プラムは心の中で決意を固めた。

 

 そんな彼が、アウラの明敏さに戦慄し、気配を殺す技に驚愕し、弓を放つ姿に瞠目し、彼女のことをフィオーラ様と呼び慕うようになるまでそう時間は掛からなかった。

 

 

 ・

 

 

 歓迎の宴が始まって早々、彼女は絶体絶命、否。絶死絶命の危機に見舞われていた。

 幼少時の拷問じみた訓練によって最強へと成長した彼女は、危機という言葉を忘れて久しい。

 

 しかし、どういう訳か、ここ最近は連続して危機に見舞われ続けていた。

 

 最初は怨敵である血縁上の父親に敗北してしまった時、次は助けられたモモンたちの力を見て、魔導国の強大さを知った時、そして現在だ。

 

(これを、食べるの?)

 

 自分の目前に置かれた皿に載せられた巨大な芋虫と目が合う。

 他にも肉を焼いた物──アウラが一緒に狩りに付いていって捕らえた魔獣の肉らしい──や新鮮な果物や木の実、サラダらしき木の葉を刻んだもの、芋らしき何かをつぶした物など、様々な料理が用意されている。

 

 しかし、絶死はこの芋虫を食べるしかない。

 新鮮な食料は貴重らしく、客人である絶死たちに特別に振る舞われたものだからということもあるが、それ以上に先ほどからモモンがずっと芋虫とアンティリーネの顔を交互に眺めているせいだ。

 

 他の場所から回ってきたこの芋虫を、絶死はさっさとモモンに回そうとしたのだが、そもそもとしてモモンはこの歓迎の宴が始まっても未だに兜を脱ごうとしない。

 先日絶死に武器を貸さなかった際と同じく、この全身鎧は一定期間装着していないと効果が発揮しないマジックアイテムだと説明して、兜を外そうとしないのだ。

 

(ここの食べ物は人間のモモンの口には合わないから、穏便に誤魔化しただけなんでしょうけど。それは私も同じなのに!?)

 

 新鮮な芋虫はダークエルフにとってご馳走であると言われたことで、モモンは自分も食べてみたかったと残念がり、代わりにどんな味なのか教えてくれと絶死に言ってきたのだ。

 

 ごく自然に、それこそ本当に残念がっているようにしか聞こえなかったが、そんなはずはない。

 

 これは探りだ。

 

 芋虫がダークエルフにとってご馳走なら、近縁種であり、同じ森の中で暮らしているエルフにとっても同じはず。

 モモンはそのご馳走をちゃんと食べるのか確認して、絶死が本当にエルフの国の者なのか見極めようとしているに違いない。

 

(やっぱり私と法国の関係を疑っているの? それなら食べるしかない。食べるしか!)

 

 せめて何らかの形で調理されていればまだしも、この芋虫は死亡こそしているものの──皿から逃げないようにするためだろうか──特に手は加えられていない。

 本来は焼いて食べるのが一般的らしいのだが、そのままでも十分おいしく、なにより栄養を摂取するには手を加えない方が良いらしい。

 

 大樹海を旅してきた上、魔獣熊と戦って疲れているだろうから。と気を使ってのことらしいが、正直ありがた迷惑だ。

 

 かろうじて塩は振ってあるようだが、それは全く救いにならない。

 それでも。

 疑いを晴らす意味でも絶死はこの芋虫を食べなくてはならない。

 それも心底美味そうにだ。

 

「いただくわ」

 

 意を決し、絶死は芋虫を手に取り、ゆっくりと口元に運ぶ。

 そして──

 一気に噛みついた。

 これで見た目に反して味は最高。となれば、まだマシだっただろう。

 

 しかし、食事においても周辺国家随一を自負する法国での生活で、すっかり舌が肥えていた絶死にとって、その味はとても美味しいとは言えなかった。

 

 生まれて初めて食べた芋虫は、決して忘れられない味となった。

 

 

 

 果実酒で口の中に残るえぐ味を洗い流してから、絶死は味の感想──当然正直には答えず美味しかったと伝えた──を聞いて満足げに頷いているモモンから離れて、広場の隅に移動した。

 これ以上モモンから別の食事の感想を求められたくないということもあったが、それ以上に少し離れた位置から、彼らのことを観察したいと考えたからだ。

 

(モモンが私を疑っていたのは間違いない。流石にさっきのだけで完全に疑いが晴れたとは思えないけど、多少は信じてもらえたはず。そうじゃないと割に合わない!)

 

 絶死があっさりと彼の監視を逃れてここまでこられたのが、その証拠だ。

 疑いが強ければ、決して絶死から目を離すことはしないだろう。

 そう考えると先ほどの決意にも多少は意味があったのだ。と自分に言い聞かせていると一人のダークエルフが声を掛けてくる。

 

「あれ? どうしたんですか? こんなところで」

 

「ああ。気にしないで、少し酔ってしまって。風に当たりたいだけ」

 

 何か用事があったのか、外から広場に戻ってきたダークエルフは絶死の言葉を疑う様子もなく納得して輪の中に戻っていった。

 

(それにしても村の住人は私やアウラたちの目を見ても反応を示さないわね。エルフ王のことは伝わってないのかしら)

 

 ダークエルフとエルフは近縁種ではあるが、元々ダークエルフはトブの大森林一帯を支配していた種族であり、このエイヴァーシャー大森林に住んでいたエルフとは直接的な関係はない。

 

 とはいえ、ダークエルフは村程度の規模しかなく、まがりなりにも国として成立しているエルフの国とは国力が違う。

 形としては従属している扱いになるだろう。

 

 つまりここもエルフの国の一部と考えて良いはずだが、エルフ王の特徴である左右色の違う瞳のことを知らない様子を見るに、エルフの国とはほとんど交流はないのだろうか。

 

(といっても法国にとっては、人間以外は全員敵だから、交流があろうとなかろうと関係はないんだけど)

 

 少しだけ気になるのは事実だ。

 いや、ダークエルフだけではない、エルフたちもそうだ。

 絶死がモモンたちを上手く操ってエルフ王討伐を成し遂げたとして、その後エルフやダークエルフはどうなるだろうか。

 敗戦国の民が辿る道は大きく三つ。

 

 そのまま勝利国の国民となるか、奴隷となるか、あるいは魔導国が王国民にしたように皆殺しにされるかだ。

 

 人間至上主義の法国がエルフたちを国民として扱うはずがない。

 

 流石に王国民と同じく虐殺されるようなこともない──魔導国を非難する上で同じことをしては意味がない──はずだ。

 

 そうなると残る道は奴隷になることだけだ。

 それも売り物としての奴隷ではなく、労働力としての奴隷だ。

 

 以前は帝国なり他の奴隷制が残っている国にエルフを奴隷として売っていたらしいが、帝国は魔導国の属国となり、その魔導国は多種族が平等に生きることが許されている国である以上、大々的にエルフ奴隷を売り込むことはできないだろう。

 

 法国は来る魔導国との戦いの際、民を逃がす場所としてエルフの王都を利用することを検討しているため、その際の下働き辺りが妥当なところか。

 

 あまり良い気はしないが、だからといって、法国を裏切ってエルフたちに付くかと言われれば、それはあり得ないと即答できる。

 

 エルフ王への憎しみだけでなく、絶死は祖国である法国と、そこに住まう人間たちの中に、好んでいる者もそれなりにいたからだ。

 

 だからこそ、絶死はここで生活する上で、できる限り村の住人たちと関わらないようにしようと決断した。

 関わりを持たなければ、情が移ることもない。

 

 一人で居ることなど、もう慣れたものだ。

 母やナズルおばちゃんの死後、絶死は殆ど一人で居た。

 

 まれに自分が好む者と交流を持つこともあったが、それとて一時のこと。

 皆、人間とは違う時の中で生きる絶死を置いて死んでしまったか、生きていても立場が変わり、軽々に談笑することもできなくなった者たちばかりだ。

 

(そう。私は人間の守護者であるスレイン法国最強の戦士。漆黒聖典番外席次、絶死絶命。それでいいのよ)

 

 心の中で強く思いつつ宴から目を逸らした絶死は、その場を離れ、自分たちが借りているエルフツリーに戻ることにした。

 

 

 ・

 

 

(なるほどなぁ。狩りが成功しないときは、新鮮な芋虫からタンパク質を取るのか、俺も昔は昆虫とか食べていたしな。他の食材を見ても必須栄養素は人間とそう変わらないみたいだな)

 

 これなら魔導国の食材を使った交易も可能かも知れない。

 実際ここに来る前、ナザリックで正式に雇うこととなったエルフたちから聞いたところによると、贈り物としては食材や貴重な薬草が一番喜ばれるという話だった。

 それはダークエルフでも同じなのかも知れない。

 

(しかし、見たところ貨幣は使用していないようだ。物々交換が基本となると、食べ物よりドワーフの武具とかルーンのマジックアイテムとかの方が喜ばれるか?)

 

 いくら美味しくても食べて終わりとなるものよりは、生活を豊かにするマジックアイテムの方が気に入ってもらえるかもしれない。

 その辺りもおいおい探っていくとしよう。

 

(とはいえ時間もさほどあるわけではないからな。別の村に行ったり、エルフ王のことも調べないとな)

 

 忘れていた、いや忘れようとしていたエルフ王の存在を思い出して、何年も前から心の中でくすぶり続けている種火が少し大きくなる。

 更に燃料が投下されそうになる直前、アインズは頭を振った。

 あえて考えないようにしていた理由も一緒に思い出したためだ。

 

(いかんいかん。まずは奴の正体を明らかにしてからだ。奴が本当にあけみちゃんさんの子供だったらどうする? 基本的には友好的な関係を築きたいが──)

 

 だが、もしも。

 エルフ王か、あけみちゃんがシャルティアを洗脳した張本人だった場合はどうすればいいのか。

 

(……弁明は聞こう。どうするかはその後だ)

 

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーいずれかならば我慢もできるが、もともとあけみちゃんとはさほど親しかったわけではない。

 メンバーの家族、あるいはその子供というだけではアインズの数年来の怒りを完全に消し去ることはできない。

 

(……せめてエルフ王の名前が分かればな。なにかちなんだ名前を付けていてくれたら分かりやすいんだが、教えてくれそうにないんだよなぁ。父親のこと嫌ってるっぽいし)

 

 風に当たってくると言い残して、この場から離れたアンティリーネのことを考える。

 エルフ王があけみちゃんの息子だとするなら、必然的にアンティリーネは孫になるわけだが、孫にまで自分にちなんだ名前を付ける可能性は低いため、彼女の名前からでは推察はできない。

 

 さらに面倒なことに、彼女はエルフ王のことを殺したいほど憎んでいるらしく、エルフ王の話になると途端に不機嫌になり、あまり踏み込んだ話を聞くことができないのだ。

 

(あいつには法国じゃなく、アウラとマーレの友達として魔導国に亡命して貰いたいからな。あまり機嫌を損ねるわけにはいかない)

 

 どうしたものかと頭を悩ませているアインズのもとに、突然大きな歓声が届いた。

 

「あの強弓をいともたやすく引き絞ったフィオーラ様は、俺たちの弓では届きもしない遙か先にいるギガホーンエルクめがけて矢を放った。それほど離れていながらこいつは気配を察知したのか逃げようと頭を振ったが、そこは流石のフィオーラ様。動くことすら見抜き、動いた頭に矢が突き刺さった」

 

 モモンとして活動していたときに見た吟遊詩人(バード)ほどではないにしろ、熱の籠もった口調で他のダークエルフたちに語る。

 話は佳境に入ったらしく、再び歓声が上がった。

 その様にアインズは兜の中で幻術の顔を歪めた。

 

(余計なことを)

 

 語っているのは、アウラとともに獲物を狩ってきた副狩猟頭の男で、確かプラムという名前だったはずだ。

 

(アウラが自分から提案してきたから深く考えずオーケーしてしまったが、不味かったな。今からただの子供に戻すのは難しいか。友達作りが目的なら、最初から魔獣熊撃退には関わらせない方が良かったかもな)

 

 今更になって、他に方法があったように感じてしまう。

 自分一人で撃退していれば、村の英雄として称えられるのはアインズだけとなり、三人は付き添い兼道案内の子供として村の子供たちとも対等な立場を作れたかもしれないが、もう手遅れだ。

 

「魔獣の生命力をよく理解しているフィオーラ様は、一射を当てても決して油断せず、逃げようとするギガホーンエルクの頭に二射目を命中させた。俺はあのとき思ったね。やはり、年齢や経験などではなく、優れた才に裏付けされた能力こそが絶対の指標になりえると!」

 

 プラムの視線がこちらに向く。

 正確にはアインズの近くを陣取り、先ほどからあれこれと話──主に故郷であるトブの大森林やピニスンの話だ──を聞きだそうとしてくる長老衆に向けられているようだ。

 

「ふん。経験の重要さを知らない若造が。モモン殿、せっかくの宴の席で申し訳ない。礼儀知らずの者たちばかりで」

 

 小さくも聞こえる程度の声量で言った最年長の長老は、そのままアインズに詫びを入れる。

 その言葉を受けての反応は大きく分けて三つ。

 同意する者、反発する者、そして気まずそうに目を逸らす者だ。

 

(うーむ。アウラが必要以上に持ち上げられているのは、絶対派閥争いのせいでもあるよな)

 

 この村は現在長老衆と能力主義の若者グループ、そしてどっちつかずの者たちの三派閥に分かれて対立している。

 そこに現れたアインズたちという強大な力を持った外部の存在。

 どっちつかずの者たちはともかく、二つの派閥はどちらもアインズたちを自分たちのところに取り込みたいはずだ。

 

 長老たちが選んだのが、リーダーであるアインズであり、若者が選んだのはアウラということだ。

 

「いえ。特に気にしていませんよ」

 

 アインズの言葉に長老は僅かに不満そうな態度を見せた、気がする。

 同意してくれれば、若者たちを責める口実になると思っていたのだろう。

 

(できれば蝙蝠の立場を維持したい。アウラたちにも言っておこう。そのためには──)

 

 チラリと視線を向けた先にいたのは、宴の中で一人だけ少し離れた位置でつまらなそうに食事を採っている、他に比べて少しふくよかなダークエルフである。

 一人で居るからと言って周りから敬遠されている訳ではない。

 

 その証拠に、食事や酒がなくなりそうになると、村人たちが補充していく。

 嫌われているのではなく、むしろ自ら進んで孤立を選んでいる。

 彼は村の中で、それが許される立場にいるのだ。

 是非自分も同じような立場になりたい。

 

「少し聞きたいのですが」

 

「いかがされた?」

 

 こちらから話題を振ったことに意気揚々としている最長老に対し、アインズは孤立するエルフを顎でしゃくって問いかけた。

 

「あちらの方の名前を窺ってもよろしいですか?」




六大神が色々と伝えている法国なら食事事情も他国に比べて良いはず。そこで育ち、とろとろオムレツが好物の絶死の舌も肥えていて当然
ですので彼女には先ず食事の異文化交流から頑張って貰いました
次からは村人との交流話に入る予定です
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