新たなヒカリへ   作:寝神

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二話

 ルフィとその仲間たちの訪れに、歓迎の宴を開こうと言ったのは、意外なことに村長だった。

「どんな形であれ、生きて帰るかも分からん旅に出た村の仲間が帰ってきたんじゃ。その帰還は、喜ばねばなるまい」

 マキノが張り切り、ありったけの、ルフィたちが道中村人たちに押し付けられたものも含めて、今ある食材で料理を何品も作り出す。その間に、村人たちはどこから聞きつけたのか、それぞれの酒の肴を持ち寄って集まってきていた。

「まったく、だれがここまでしろと言った……」

「いいじゃねェか、村長! せっかくの祝い酒がまずくなっちまうぜ!」

「そうだそうだ!」

 村の空き地にいつの間にか作られた篝火の用意を見て、村長が頭を抱える。時間が経つにつれて噂が広まり、どんどんと村人たちが集まってくる。

 明日のフーシャ村は、二日酔いと睡眠不足でろくに仕事にならない者ばかりになるだろう。頭を抱えた村長の横から、ルフィが杯を押し付けて村長の肩を組む。

「おい、こら!」

「ししし、村長も持てよ!」

「おいこら、わしが真っ先に酔っぱらう訳には……」

「宴だ~~~!!!」

「人の話を聞け!」

 ルフィの音頭とともに、村人たちが杯を掲げ、酒を飲み干す。篝火に火が灯り、酒樽をたたき割る音が響く。文句を言っていた村長は、すぐに村人たちに囲まれて、次々と酒を注がれていた。

 そうして、村中を巻き込んだ大宴会が始まった。

 

「「「この村一番の悪党に乾杯!!!」」」

 何度目かもわからない、乾杯の音頭が夜空に響く。

 村の空き地に大きな篝火が焚かれ、村の道には酔っ払いが杯を持ち座り込んでいる。マキノの酒場の前には、普段は店内で使う机と椅子をわざわざ外に出し、酒瓶や料理が所狭しと並べられていた。

 篝火の前で男たちは裸になって踊り、次々と酒を浴びせられていた。ルフィとウソップ、それにチョッパーは、変顔とへんてこな踊りで周囲を笑わせている。

 それを少し遠目に見ながら、ウタと残りの仲間たちは、酒を片手に、馬鹿騒ぎをつまみに、これまでのことを語り合っていた。

「じゃあ、ウタからしたら、あまりエレジアの時から時間が経ってない感覚なんだ」

「うん。人並みの生活できるようになったのは、まだほんの数か月前だから。今は、もうすっかり元気だけど」

「よく、命が助かったもんだ」

「本当にね。今でも、これが夢じゃないかって、ちょっと思っちゃう」

 エレジアで、ウタが最後に皆をウタウタの世界から解放した後、シャンクスは船員に持ってこさせた予備の解毒剤を、意識を失ったウタに飲ませた。

 ネズキノコの毒は、強力だが、不眠と精神異常の作用のみだった。解毒剤が効き、ウタは能力の酷使の反動で、死んだような深い眠りについた。

 眠ったままでは、食事もとれず体力の回復はできない。そのまま力尽きてもおかしくないほど、危険な状態だったらしい。

 幸いなことに、数日後から、日にほんの数分だけだが、ウタは目を覚まし、最低限の栄養が取れていたらしい。その間の記憶は、ほとんどない。

 気が付き、日に何時間か起きれるようになったころには、フーシャ村のマキノの家で看病されていた。自分は世間では何か月も前に死んだことになっていて、シャンクスたちは、自分をフーシャ村において、とっくに旅立っていたらしい。

「最初は、大変だったよ。ほとんど寝たきりだったから、すっかり歩けなくなっちゃって。杖をついて、おばあちゃんになったみたいだった」

「へえ、それから、よくこんなに元気になれたなあ」

「マキノさんも、村の皆も良くしてくれたから。雲を追っかけたり、ヒツジやヤギと散歩してたら、いつの間にか元気になっちゃってた」

 サンジが驚いたように言うと、ウタは答えながら視線を動かした。視線の先では、村長がすっかり酔っぱらって、地面で寝かけており、マキノが苦笑しながら肩をゆすっている。

 マキノは、昔しばらく過ごしただけの自分の世話をしてくれているし、村長は医者や薬師を紹介してくれた。

 村人たちも、栄養のあるものをと、搾りたてのミルクを届け、とれたての果物や野菜を見舞いに届けてくれた。

「いい人たちね」

 ロビンが優しげに言った。

「うん。この村は、とても素敵なところだよ」

 ウタは答えた。

 

 火はまだ煌々と燃えている。

 村人たちは、何人かは酔っぱらって倒れているが、まだ篝火の前で騒がしく輪を囲んでいた。

 夜空に月はあるものの、雲が出てきて、半ば陰っていた。

 ウタたちの暗がりからは、オレンジ色に照らされる、皆の表情がよく見えた。

 ふと、輪の中から小さな影が、ウタたちに近づいてきた。

「なあ、ウタ。今日は、歌わねえのか? おれ、ウタの歌が聞きてえ!」

 駆けてきたチョッパーは、目をキラキラと光らせて、期待した表情でウタを見上げた。

「……ごめんね」

 ウタの声色は、少し固かった。

「おい」

「あ……」

 ゾロの端的な声で、ウタの様子に気が付いたチョッパーは声を漏らした。

「ごめん、そうだよな。おれ、何も考えずに……」

「ううん、いいの」

 申し訳なさそうに下を向くチョッパーに、ウタは首を振った。

「体はもうすっかり元気だから。私が、まだたくさんの人の前で歌うのが、ちょっと怖いだけだから」

 ウタは、夜空を見上げた。

 雲の切れ間から、月の光が見え隠れする。

 体の調子が戻ってからも、歌にもならないメロディーを口ずさむことはあれど、ウタは一度も歌を歌っていない。

 それまで、一日も欠かさず歌を歌って、歌とともにあるのが当たり前だったのに。

「だから、心配はないの。ごめんね、タヌキさん」

「……いや、おれはタヌキじゃねえ! トナカイだ!」

「え……本当に?」

「角、あるだろうが!」

 先ほどまでの重たい空気が一転、訝しげにチョッパーの角を触りだしたウタを見て、その場の一同が笑った。

「お~い、ウタ!」

「また騒がしいのが来たな」

 今度は、ルフィが転がるように駆けつけてきた。

「そんなとこいねえで、こっち来いって!」

「えっ、ちょっと……」

 ルフィは、ウタの手を取ると、ぐいぐいと引っ張って半ば無理やり篝火の前へと連れ出した。

「お、ウタちゃんだ!」

「よっ! 村のアイドル!」

 酔っ払いたちが、ウタを見て騒ぎ出す。離れて杯を重ねていた者たちも、つられてウタの方に目を向けだしていた。

「もう、ルフィってば……」

「なあ、ウタ。なんか勝負しようぜ!」

「はぁ?」

 ルフィは笑いながらウタを覗き込んだ。周囲の酔っ払いが、いいぞー、やれー、と騒ぎだす。

「もう……」

 ため息をついて、ウタはルフィの手を振りほどいて離れた。

 二歩、三歩。

 少し離れたところで、ウタはルフィの方へ振り向いた。

「……なら、ダンス勝負。みんなを、より笑顔にした方が、勝ち。どう?」

「にしし、乗った!」

「じゃあ、さっそく」

 ふふん、と不敵な笑みを浮かべると、ウタはステップを取り始める。軽やかに、リズムを刻みながら跳ね、くるりと一回転する。

 酔っ払いたちが、手を叩いて囃し立てる。野太い歓声が飛び、一緒に踊りだそうとした一人がそのまま転げ倒れた。

 笑い声や手拍子に合わせて、ウタは踊る。

「よーし、おれもだ!」

 ルフィが負けじと踊りだす。こちらは、リズムもなにもなく、酔っ払いの千鳥足のようだ。

 げらげらと、笑いが起きる。引っ込めー、と誰かが野次と杯を飛ばした。

「ゴムゴムのォ、風船ダンス~!」

 ルフィが息を吸い込むと、風船のように膨れ上がった体で、右へ、左へ回転しだす。投げられた杯が腹に乗り、そのままバウンドする。

 一面に笑いの渦が起きた。酔っ払いたちが転げまわり、ナミたちや、マキノといった、離れて見ていた者たちも、みな転げ笑う。

「あはははは!」

 ウタも、思わず踊りをやめて腹を抱えて笑った。

 ひとしきり笑いが起きたあと、ルフィは自信ありげに言った。

「おれの勝ちだな、ウタ!」

「いや、ないから」

 涙を拭い、ウタは周りを見渡して問いかけた。

「ねえ、どっちのダンスが良かった?」

「「「ウタ~~~!!!」」」

「ね?」

 村人たちの声を受けて、ウタはルフィに勝ち誇った。

「はあ~!? おれのダンスの方が笑ってたじゃんか!」

「馬鹿、お前、うちの村のアイドルに勝てるわけねえだろう」

 そうだそうだ、と答える酔っ払いどもに、ぐぎぎ、とルフィは悔し気に唸った。

「こんなのズルだ! もう一回だ!」

「やーよ、疲れた」

「逃げんな、ウタ!」

「……ねぇ、ルフィ」

 にやりと笑って、勿体ぶってウタは言った。

「負け惜しみ~!」

「このォ!」

 ルフィがウタを追いかける。ウタが、きゃー、と悲鳴を上げて逃げると、また一面に笑いが起きた。酔っ払いたちが、千鳥足でルフィの後をさらに追う。

 篝火の前で、ぐるぐると追いかけっこが始まり、また、笑いを誘った。

 皆が笑う。ルフィも、ウタも。

 皆の笑い声は止まず、夜が更けていった。

 




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