ブオオオオォォォォォッ パシュン!
桜内「フフッ、しっかり着いてきてるわね...そうでなくちゃ。」
やっぱり期待通りの走りをしてくれる。私も高海さんも無免許。家は隣同士だし、こんな偶然ってあるかしら?
そもそも私が無免許で車を運転するようになったのは、内浦に引っ越してきてからだった。当時の私は得意だったピアノでスランプに陥って、学校の雰囲気についていけなかった。インスピレーションを養うためと、一度ピアノから距離を置くという意味で自然豊かな場所で暮らすことにした。でも私のスランプは続く一方だった。ストレスが溜まる中で、ほんの好奇心から、うちで使っている車...このスイフトスポーツにこっそり乗ってみた。うちのはATだったから、運転に慣れるまでそう時間はかからなかった。
とても楽しい!
乗りこなせるようになってきて初めに思ったことだった。誰かに見つかるのが怖くて夜しか運転してなかったけど、月明かりに照らされる内浦の海を見たり、夜景を見に行ったりもした。でもそれ以上に、鉄の塊を操るという爽快感がたまらなかった。初めてピアノを触った時に覚えた感動ととてもよく似ていた。自分の意のままに音を紡ぐことが出来るピアノと車の性質が似ていたからなのかもしれない。
私はそのうち、峠に足を運ぶようになった。スイフトスポーツは軽くて小さくて、だけどパワーがしっかり出るエンジンを積んでいるから、峠をとても走りやすかった。コーナリングやブレーキングの際に全身に掛る横Gが心地よいくらいだった。この車とならもう誰も怖くない!私はそうやってスイフトスポーツにのめり込んで行った。そして、走ることを心から楽しんでいた。
そんな時だった。私の目の前に高海千歌さん、あなたが現れたのは...
ブオオオオオオオ!!!
ヴァオオオオオオ!!!
千歌「ちょっと車間近いかなぁ?桜内さんに何かあった時が怖いから開けてるけど...でも追い越さないと負けちゃうしなぁ...」
千歌「よし!ちょっと先のくねくね道で追い越そう!あそこ走るのは自信あるんだよねー!」
桜内「もう少ししたらギャラリーのストレート、そしてそこからまた少し行けば中低速セクション。いくらあなたの車が軽トラで軽いからって、パワーがなければ私に勝つことはできないわよ!このまま2本目に持ち込んで、上りのパワー勝負で決着を付けるわ!」
ザワザワザワ...
...ォォォォン...
ギャラリー「おーい、なんか来るぞー!道開けろー!!」
ダイヤ「いよいよ来ましたわね、注目のバトルですわ。」
ルビィ「どんなバトルになってるんだろう!楽しみだね!」
果南(千歌...あんなじゃじゃ馬を5年乗って、どれほどの腕になってるか見せてもらうよ)
桜内「さぁ!このストレートで一気に引き剥がすわよ!ついてこれるなら来てみなさい!」
キュゥゥボアアアアアアアアア!!!!
千歌(あっ、桜内さんがスピードあげた!)
千歌「それならこっちも!」
ヴォオオアアアアアア!!!!!!
ギャラリー「2台突っ込んできたァ!」
ダイルビかな「!!!」
ルビィ「スイスポしゃんと!!!」
ダイヤ「あのクリッパーですわあーーー!!」
桜内(付いてきた...!?まさかそんな...有り得ない、きっと私の踏み込みが甘かったんだわ…この先の中低速セクションでキッチリカタを付ける!)
千歌(よぉーし、もうすぐくねくね道だ!桜内さん、覚悟ーっ!!)
ブオオオッ パシュブオオッ パシュブウオォォォ!!
ヴァオオヴァオオヴァオオオオオ!!!
千歌「行けるっ!今だ!」
桜内(こんなコーナーでオーバーテイクですって!?)
桜内「させないわよ!」クンッ!!
ギャギャッ
千歌「邪魔してきた〜!?」グッ
ギャギャギャッ!
桜内(危なかった...でもどういうこと!?コーナリングスピードが明らかに私よりも速かった...!スイフトでもかなり横Gかかるコーナリングなのに、それでなんでクリアできるの!?)
千歌「もぉ〜!ぶつかりそうだったじゃん!次こそは追い越してやる!」
ヴァオオォォ ヴァオオォォ!!!
ギャギャギャギャ!!!
桜内「また来た!」クンッ!
千歌「げぇ〜!また塞がれた!ならもう一回!」
桜内(ありえないわ...リッターオーバーのターボ車が、ただの軽トラに突っつかれてる!?)
さっきのストレートしかり、やっぱり何かがおかしい!この車の不調?そんなはずはないわ、だってそれならこの峠へ来るまでに気付くはずだもの......とすると、こっちの不調ではなく、向こうに何かとんでもないカラクリがあるっていうの!?
千歌「んも〜怒ったぞ〜!おこりんぼ大会だ〜!!S字カーブで絶対追い抜いてやるんだもん!」
桜内「この先はS字コーナー...進入で向こうのアタマさえ押さえ込んでしまえばやり過ごせる!)
ヴァオオオオオヴァオオヴァアアオ!!!!
桜内「!!??」
離れた...減速タイミングが早い!?ローパワー車で立ち上がり勝負するつもり!?
千歌「行っけえぇぇぇぇ!元気全開だああぁぁぁぁ!!!
ヴォオオオオアアアアアアア!!!!!!
桜内「アウトからッ...!!」
速い!?
しまった、ブロックが間に合わない!
ヴァアアアアン!!!!!!
桜内「追い...抜かれた...」
ほんの一瞬だった。減速が早いことに一瞬気を取られた。アウト側にラインを取ったと思った時には、既にブロックできない距離まで詰められていた。S字コーナーではインとアウトが入れ替わるけど、私はものの見事に走行ラインから押し出される形になった。
あの軽トラが只者ではないことに気付いていたはずなのに、『立ち上がり勝負で勝てるわけがない』と、一瞬でもタカをくくった私の負けだ。
完敗だわ...高海さん...
千歌「もぉ〜!もう少しでぶつかりそうだったじゃん!危ないよ〜!」
桜内「ごめんね?でもバトルってそういうものだし…」
千歌「あぁ、そっか!そういえばバトルしてたんだった!あっははは...」
桜内「でもすごいね。あのS字コーナー、あんなに見通しが悪いのにあんな速度で抜けていこうだなんて、普通だったら思いつかないわよ?」
千歌「うーん、でももう5年も走ってるし道がどんな感じかなんて覚えちゃってるんだもん。」
桜内「5年!?」
千歌「はっ、しまった!あんまり人に言っちゃいけないんだった...!」
5年もこの道を走ってて、あんなキレた走りができるのに、車をおりるとどこにでもいる女子高生と何ら変わりなくなる...
梨子「ほんと...変な人ね...」フフッ
千歌「あ〜!それどういう意味〜!?」
梨子「なんでもないわよ♪それより、梨子でいいよ、名前。」
千歌「分かった!じゃあ私も千歌でいいよ!よろしくね、梨子ちゃん!」ダキッ
梨子「えっ、えぇぇぇ!?!?////」
ー少し前ー
キコキコ...
千歌ちゃん、バトルするって言うから出かけるだろうとは思ってたけど、まさか車を運転して出かけちゃうなんて...
千歌ちゃんが車を運転できるなんて知らなかった...ずっと一緒にいたのに...
曜「確か、こっちに行ったよね...」
『あ〜!それどういう意味〜!?』
千歌ちゃんの声?あの駐車場からだ...
誰と話してるのかな?
『よろしくね、梨子ちゃん!』ダキッ
曜「そんな......どういう事......?」