久しぶりに、この番号に電話をかける。昔はいつも一緒にいたのに、今では電話どころかメッセージすら送らない。いつからこうなったのだろう。
本当は分かっている。きっとあの日から、心は離れ始めていた。離れ始めた心をもう一度つなぎ止めてくれる存在は、1台の軽トラだった。
『お久しぶりですわね、果南さん。』
果南「久しぶり。実はダイヤに話があるんだ。」
ダイヤ『数年も話さなかったのにこんなタイミングで電話をかけてくるんですもの、余程のことなんでしょうね。』
果南「ダイヤ、あのクリッパートラックとバトルしてみたくない?」
千歌「ジュエリーシスターズ?」
梨子「そう。私も詳しくは知らないんだけど、あの峠を拠点にして、沼津の峠を制覇したすごいドライバーがいるんだって。千歌ちゃんなら見たことあるかなって思ったんだけど。」
千歌「そうは言ってもな〜、私、人と走ったのこの前梨子ちゃんとが初めてなんだよ〜。」
千歌「それ以外はいっつも朝早くに運転してるから、そういう人たちと会うことは少ないんだよね。」
梨子「そうなんだ。千歌ちゃんすごく運転上手いから、もしかしたらその人たちと競ったら勝てちゃうかもしれないと思ったんだけどね。」
千歌「やだな〜、そんな褒められるほどの事じゃないよ〜!」ニヘニヘ
梨子「本音は顔に出てるけどね?」
千歌「えぇ?そうかな?そんな事ないよ〜!ねー曜ちゃん!」
曜「......」ボー
千歌「曜ちゃん?曜ちゃーん?」
曜「......」ボー
千歌「曜ちゃんの一番好きな制服は?」
曜「水兵さんのセーラー服...ハッ!どうしたの千歌ちゃん?」
千歌「それはこっちのセリフだよ〜。どうしたの曜ちゃん?なんか元気ないよ?」
曜「う、ううん!!なんでもないよ!ちょっと最近部活が忙しくてね!」
千歌「そっか〜、あんまり無理しないでね?」
曜「...うん」
梨子「......」
千歌「あ、果南ちゃんからメッセージきてる。放課後松月集合か〜。暇だしいっか。おっけー、わかったよ、っと。」
梨子「どうしたの?」
千歌「ん〜、友達から放課後に呼ばれたんだ。ちょっと話すことがあるから来てって。曜ちゃんと梨子ちゃんも来る?」
梨子「えぇ?いいの?込み入った話かもしれないのに。」
千歌「大丈夫でしょ。そんなに大事な話するような人じゃないし。曜ちゃんも行こ?」
曜「...いや〜、私はいいかな〜」
梨子「いや絶対行きましょ!」グイッ
曜「ゔぇっ!?」
梨子「千歌ちゃんも大丈夫って言ってるから。だから行きましょ?」ゴゴゴ...
曜「桜内さん...圧が強いよ...」
梨子「そう?気のせいだと思うけど。あと、梨子でいいよ。」
曜「は、はぃぃ...」
千歌「やった!じゃー決定!」
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ー松月にてー
千歌「......」
梨子「.......」
曜「......」
ダイヤ「......」
果南「早速なんだけどさ千歌、ダイヤとバt」
ダイヤ「ちょっとお待ち頂いてもよろしくて!?」
ダイヤ「聞いてた人数とだいぶ違うのですけれど!?」
果南「だねぇ。まぁいいじゃん、そんな大した話じゃないんだし。」
ダイヤ「電話越しにあれだけ重苦しい雰囲気で切り出しておきながら、ちょっと能天気すぎませんこと!?」
千歌「果南ちゃんって、昔っから何か考えてるようで何も考えてないこと多いんですよね〜」
ダイヤ「えぇ、確かにそうですわね。長い付き合いですのに、この人のアイデンティティとも言える部分を失念しておりましたわ。」
果南「えぇ〜、長い付き合いなのに忘れられちゃってるのちょっと傷つくな〜。」
ダイヤ「長い付き合いと言いながら、2年ほど連絡を取らなかったのはお忘れですの?」
果南「長い付き合いって先に言い出したのはダイヤじゃんか〜。」
ダイヤ「うぐっ...何も考えてない割には痛いところを突いてきますわね...!」
千歌「なぁんだ、2人とも仲良いんじゃん!」
果南「そうでしょ〜?ダイヤとは長い間話さなくても阿吽の呼吸なんだよ〜」
ダイヤ「黙らっしゃい!」
ようりこ(私たちは何を見せられてるんだろう...)
ダイヤ「コホン。先程は取り乱してしまい失礼しましたわ。黒澤ダイヤと申します。よろしくお願いしますわ。」
千歌「高海千歌です!よろしくお願いします!」
果南「自己紹介も済んだ所で、本題に入ろうか。千歌。ダイヤと車でバトルしてほしいんだ。」
千歌「それはいいんだけど、どうして?別に私じゃなくても他にあそこ走ってる人はいっぱいいるのに。」
果南「いや、千歌じゃないとダメなんだよ。これはただのバトルじゃない。千歌とダイヤ、両方の実力を見定めるためのものだからね。両者とも運転の腕は同じくらいだから。」
梨子「ちょっと待ってください。」
果南「お、どうしたのかなん新顔ちゃん。」
梨子「桜内梨子です。千歌ちゃんとは一度走ってるので分かるんですけど、千歌ちゃんのレベルはかなり高いと思います。少なくともあの道ではトップレベルだと思います。ダイヤさんには失礼ですが、到底かなうレベルではないかと...」
ダイヤ「む...」
果南「そうだね。もしダイヤが並の腕なら間違いなくかなわない。でも梨子ちゃん、君もこの『地域』を走ってるんなら一度は聞いたことあるんじゃないかな?」
梨子「?......!?」
果南「気付いたね。そう。ダイヤは沼津最速の、『ジュエリーシスターズ』の異名を持ってる。」
果南「スイフトスポーツ戦で偶然ダイヤを見かけた時、ダイヤの顔はすごく輝いてた。久しぶりにあんな顔を見たよ。そして確信した。ダイヤはもっと成長できる。千歌にはそれができる。そしてそれは逆もまた同じこと。お互いがお互いを成長させることができるんだよ。」
果南「だからこれはただのバトルじゃない。2人とも、今自分がどこにいるのかを確かめ、
更に上を目指すためのきっかけ作りなんだよ。」
結果としてこのバトルを千歌は快諾してくれた。私なりに最もらしい理由を作るのに苦労した。互いを切磋琢磨させるためなんかじゃない。はっきり言って、さらに上を目指したところで、その先になにかあるのかと言われても肯定できない。
これは私の単なるエゴでしかない。
本当は。
本当は、ダイヤの輝いた瞳を見たいだけなんだ。
3人で、同じ場所をひたすらに追いかけていた時と同じ、あの輝きを......
ついていけなかった。
同じ場所にいたのに、あの場所にいた皆がどこか遠くにいるみたいで、あの場にいてよかったのか分からなくなる。車とか、沼津最速とか、私にとっては全然訳わかんなかった...
梨子「曜ちゃん。」
曜「さくr...梨子ちゃん...。」
梨子「ひょっとして、『みんなの話題についていけなくて、仲間はずれにされたかも』って思ってない?」
曜「あはは...」
梨子「今はそれでいいの。というか、無理に分かろうとしなくていいの。」
梨子「曜ちゃんは千歌ちゃんのそばにいてあげるだけ、それで良いんだよ。たとえ今は何もできなくても、いつか必ず、千歌ちゃんが曜ちゃんの力を必要とする時が来るよ。」
梨子「じゃなかったら曜ちゃんのこと、初めから誘ってないはずだよ?曜ちゃんを誘ったのは、そばにいて欲しいからだよ。だからそんなに自分を責めないで。」
曜「...すごいや、梨子ちゃんは...」グスッ
曜「私のこと、全部お見通しなんだもん...」
梨子「打ち明け話するけどね、私、浦の星にいた時からふたりがずっと羨ましかったんだ。いつでも一緒で、息もピッタリなふたりが。」
梨子「今までそんな深い仲の人っていなかったから、そうやってどんなことも共有できるふたりみたいになりたかったんだ。」
梨子「だから、こうやってふたりと繋がりができて、とても嬉しいの。だから、二人の支えになれるならどんな事だってしたい。」
曜「梨子ちゃん...私、梨子ちゃんのこと誤解してたよ...。ありがとう...。」
梨子「泣かないで。今度のバトル、絶対に二人で応援しに行きましょう?」
曜「うん!絶対行こう!」