TS転生したら人を喰わないと生きれない個性の持ち主でした 作:関心
「よぉマスター、相変わらず人気がないな。そろそろ潰れるんじゃないか?」
暗く、寂れていて、何処となく怪しい雰囲気を醸し出すバー。もう何度ここに来たかもわからない、それ程に馴染みのある場所だ。入店すると同時に、カウンターの向こうにいる店主に向かって僕は話しかけた。
「入店して一言目がそれかよ、デリカシーってもんを知らないのか?それとも最近の若者ってのはみんなそうなのか?」
「おいおい、僕如きを基準にするのは最近の若者に失礼すぎるぜ」
僕に比べたら親の脛を齧っているニートすら真っ当に生きてると言えるだろうし、リボ払いを客に勧める店員すら誠実に見えることだろう。そんな下劣で惨めでイカれた僕のせいで、最近の若者の評価が下がるのは御免被りたい。
「そりゃそうか。この店に来るのはお前も含めて社会のはぐれ者ばっかだからな。薬中の半グレばかり相手してたらそれが普通かと思っちまう」
聞いたところによると店主はもう60を超えたジジイらしい。そうは見えない程に筋骨隆々な両腕にはタトゥーが入っていて、年齢による衰えを感じさせない。
「あぁ、そりゃ大変。もっと外に出て所謂マトモな人間と会話したらどうだ。せっかく身辺調査で各地を巡ってるんだからさ。ま、何をマトモと定義するかによるが・・・・・・・・・僕の定義じゃマトモな人間なんてこの世界にゃ存在しねーけどな!」
「ったく哲学の話なら他所でしてくれよ」
ケラケラと嗤う僕、それを呆れた顔で眺める店主。マトモな人間が存在するか否か、そもそもマトモとはなんなのか。それはもはや哲学の領域だ。
それこそマトモの定義なんて人によって変わってくるだろう。犯罪を犯さないことをマトモとする人間、人様に迷惑をかけないことをマトモだとする人間、薬を吸って夜道を爆走する我こそマトモだと断言する人間、キチンと学校で勉強していることがマトモだと断ずる人間、色んな奴がいる。
人それぞれ定義が違うのなら真にマトモな人間なんて存在しない、それが僕の考えだ。ああ、ただの木端ヴィランの戯言だ。真に受ける必要はない。
「さてと、与太話はこれくらいにして、頼んでおいた調査の結果を教えてくれよ」
「オーケーだ、ちょっとばかり長くなるしコーヒーでも飲むか?安くしておくぞ」
「いや、コーヒーは飲み飽きてるんでね。いつも通り真水を頼むよマスター」
「わかった、書類と一緒に持ってくるから少し待ってろ」
「ほいほーい」
僕の個性は酷く難儀な物だ。食せる物は「人」と「水」それか「コーヒー」この三つだけだ。そう、最近巷で噂の食人鬼とは僕のこと。とても幸いで素晴らしいことに、今のところ警察にもヒーローにも誰が食人鬼なのか知られていない。
「ほらよ、酒すら拒絶するとは本当に厄介だな、お前の個性」
「ホントその通り。こんなクソみたいな個性が無ければ僕だって今頃学校に通って授業を受けて・・・・・・」
もしも、もしも僕の個性が「食人」じゃなかったら。フツウの両親に育てられて、フツウに学校に通って、フツウに日々を楽しんでいたのだろうか。
「どうした?ありもしねぇifの人生でも妄想してんのか?辞めとけよ、気が滅入るだけだ」
違うんだ、そうじゃないんだ。気が滅入るから、どうにもならないから、理由をつけて自分の境遇に納得しなければならないなんて認めたくないんだ。
平和を甘受し楽しく今を生きる人間たちを、ただただ見上げるだけなんてのは嫌なんだ。どうせ二度とゼロに戻ることのできないマイナスの人生、確かにそれは受け入れたさ。今となってはヘラヘラ今の生活を楽しめるさ。
だけど納得はできない。だから僕は決めたんだ。僕らを見下し嘲笑する民衆を、この社会をぶち壊すと。木端ヴィランの戯言、今はただの夢物語。ただ一人の親友にしか話したことのない夢。
言葉の途中で口を閉じてしまった僕を横目に、手元の書類をカウンターに並べながら、店長は僕に声をかけた。一番近くに置かれた書類の一角には
「・・・・・・なぁマスター、フツウってなんだろうな」
「あ?また哲学か?」
「そう、多分哲学。ふと気になったんだよ、フツウの人生ってなんなんだってね」
「答えなんてねぇよそんなもん。紛争地帯で育った子供にとっての普通の人生と現代日本で育ったガキにとっての普通の人生は違う。人それぞれってやつだ」
店長の言うことももっともだ。戦国時代の武士にとっては敵は殺すのがフツウだけど、今この国では敵は生かして捉えるのがフツウだ。答えなんてないのだろう。きっとこの悩みは思春期の子供が経験する様な、どこにでもある様な普遍的で凡庸で馬鹿馬鹿しい悩みなのだろう。
「人それぞれ、ならば僕にとってのフツウはなんだ?フツウ・・・・・・フツウ・・・・・まぁいいや、とりあえず調査結果を見せてくれよ」
「おう、ようやくか。ほらよ、この書類にまとめてある」
店長から渡された10枚程度のの紙をテーブルの上に広げる。今回依頼したのは
だが住所だけとはいえ数が数だ、依頼料はかなりの額になってしまった。この前ヤクザの事務所ぶっ壊して金庫から盗んだ金が、ほとんど無くなってしまった。だが自分で調べるのはあまりにも手間だし必要経費と思えばいいだろう。
「マジ?八百万の家って大豪邸だったはずだろ?・・・・・・のくせになんでこんな高級住宅街に住んでるんだよ。銀座の一等地程ではないとはいえ十分すぎるほどに土地代かかってるだろコレ」
八百万家が想像以上の富豪であることに驚愕しながらも、ほかの新入生の住所も見ていく。僕はそこまで地理に明るいわけではない、そのため県名と市以外は言われてもピンとこないのだ。
だが住所さえわかれば後はネットで検索するだけで、目的地までのルートは簡単に出てくる。ストリートビューを使えば家の全貌だってわかってしまう。
「先に言っとくがオールマイトの住所はそこには載ってない。裏の世界でも知ってる奴がまったくいないもんでな。俺でさえ突き止められなかった。すまない。もちろん前払いの依頼料からそれ分の代金は返却させてもらう」
「通りで見当たらないと思ったよ。まぁNo. 1に関しては完全にダメ元だったからな、見つかればラッキーくらいのもんだ。金が戻ってくるなら文句ねぇよ」
オールマイトに恨みを持つ人間は山ほどいる。だがマッスルフォームしか知らない人間がいくら彼の住居を探したところで無駄だ、彼の移動速度についていくのはまず不可能であるし、トゥルーフォームを知らなければ完璧な尾行はできない。
「成る程ね、サンキューなマスター。これで好き勝手やる準備は整った」
「一応聞いとくが何するつもりだ?接点も何も無いガキ共と雄英教師の情報を使って何をやらかす気だ?」
薄ら笑いを浮かべながら店主は興味を示した。まだこれは誰にも言うつもりはない。実際何をするかは正確には決まってないからだ。バタフライエフェクトで彼らが雄英に入れない可能性も考えられる。
「まだ教えねーよ。ただ一つ言えるのは『僕らは生み出すショーを心の底から楽しんでくれ』ってだけだ」
「果たしてそれは俺が楽しめるようなもんなのかね。ガキが酷い目に遭うのは趣味じゃねぇし、お前のことだから碌でもない悪事なんだろ?見たくもないね・・・・・・待てよ、お前今『僕ら」って言ったか?お前に
「心外だぜマスター、いるさ。素晴らしく狂気という正気に満ち溢れた相棒が一人ね」
脳裏に思い浮かべるのは年上の少女。トガヒミコと名乗った彼女のこと。
「へぇ、お前みたいなやつと共にいてくれるのか。余程の物好きか聖人か」
「・・・・・・この個性社会の被害者だよ。それでいて加害者でもあるけどな」
「どっちだよ」
相棒がいたから僕はここまで生きて来れた。人食いの僕を受け入れてくれたから、ヘラヘラ笑って過ごすことができた。何もかもは相棒のおかげだ。
「なぁマスター」
「なんだ」
「他者の血を吸うことで、一時的に対象に変身して個性を使用可能になる個性があるとして。あるとしての話だ。もしも吸血した対象の個性がものを永久的に増やすことができる『二倍』だったらどうなると思う?」
「どうって・・・・・・・・・成る程。悪趣味なこと考えやがる」
どうやら言いたいことが伝わったみたいだ。ニヤリと嗤いながら店主は僕の話の続きを促した。
「事前に採取しておいた血液の一部を吸って個性を発動→その血液を増やす→吸って変身→増やすのか無限ループ。半永久的にその個性の持ち主は『二倍』の持ち主に成り代わることが出来るんだ。これはもう裏ワザだよマスター。もう既にこの国トップクラスのヒーロー育成校の内部に僕の相棒が入り込んでるんだ」
興奮で早口になってしまう。元々この案を考えたのは僕だ、その時は一時的に雄英の内部に入るだけのつもりだった。それを相棒がどうせなら雄英に入学してしまおうと言ったことから計画は始まった。
もう一年近く相棒は雄英に通っている。誰も違和感には気づかない、入学前の彼女を知る人間は一人たりともいないからだ。加えて『二倍』の彼女は一人暮らし、あまりに都合のいい条件が揃っていた。
「それを俺にいっちまっていいのかい?」
「ああ、いいんだいいんだ。僕はマスターを信頼している。万が一にも秘密を漏らさないことくらい長年の付き合いで分かるさ。それに今度それに関して協力して貰いたいことがあるんだ。もちろん金は払う」
「なら文句ねぇ、依頼はいつでも承る」
いつもの光景だ。僕と店主はテーブルで駄弁っているいつもの光景。嗚呼、どうせなら楽しく行こうじゃないか。楽しくないテロなんてクソッタレ。テロルとは衝動の発露。ならば楽しく衝動をぶつけようじゃないか。
『続いてのニュースです。本日未明○✖️区にて行方不明者が・・・・・・・・・』