時計の中に水が溜まっていた。
それが綺麗なアンティーク時計の中だと思うのは文字盤の上に貼ってあるガラスが水で満ちていたからで。
よくよく考えてみるとそれは部屋の中だった。
腰までつかっている水は琵琶湖の水のように臭くもなく濁っているわけでもなく、綺麗な精製水。
自分の脳を満たす組織液がそれであることを確信したので、扉を開けて部屋の外に出た。
廊下には数多の人形が綺麗に整頓されて並んでいて、それを水が洗い流してビスクドールはこの世から宇宙空間に逃げた。
階段を降りるときに目に移った蜃気楼が電灯であったから、僕はそれを素手で掴んで握りつぶした。
2400段を降りる最中に襲われるガーディアンのゴブレットを叩き割って、それを鞄の中に大切にしまい込む。
朝食を食べるために一階に降り切った時、僕は何か大事なものが喪失していることを感じた。
机に置かれた食事がいっぱいのオムライスとスライムで出来ていることに気付いて、それを胃の中に入れることを抵抗すると、母が自分を押さえつける錯覚に満ちた。
気付いたら僕の顔は歯磨き粉がまぶされた荒れっぱなしの砂漠になっていて、サボテンは十分に焼かれていた。
僕は学校に行くために電車に乗り込む。
切符が定期券に成り代わっているのはとても素晴らしい事のように感じていたが、財布の中にあるのはいつまでも変わらない宝石のみだった。
腕時計を見る。
この時計のみが僕の正しさを証明してくれる。
何処を見てもイカレた人間ばかりで、毛が生えた金色の龍などは異常なのです。
周りの像は銅製であることは疑いようもなくて、僕の友達の小野君は常に僕の味方であるから、彼と僕のみがこのおかしくなり始めた世界の証明者なのです。
それを否定することは自意識に対する挑戦だと思うはずもなく、とりあえず安寧を得るために腕時計を見る。
動く長針と短針。
それを確認することで、ようやく僕は浸食されつつある自意識の確かたることを認識できる。
学校に行こう。
それはこの世界における疑いようもない絶対的真理で、つまるところ僕は学生であるらしかった。
着いた学校は坂の上にあって、その学校はどうやら滝の中にあるような気もしていたんだけれど、校庭にある時計を見るとここは単なる町の中だった。
小野君に会おうと思って自分の教室にある暖簾を潜った。
それは実に美しくないものの塊で、埃と既に成り果てている小野君をかき集めて、縫いぐるみを作った。
そのぬいぐるみを後生大事に持とうと思って、げらげら笑うクラスメイトを箒で清掃してゴミ箱に捨てた。
小野君は少し悲しそうな顔をしていた。
クラスメイトがいなくなってしまって、授業を受ける人数が2人しかいないので授業はあるのでしょうか。
椅子に座って先生に尋ねる。
先生は手に持った変な棒を振り回し、今日は共通テストの話をするから残れと騒ぎ始めた。
今年は西暦で表すと1万3348年。
月には人が8億人住んでいる。
そんな世界でなぜテストをやる必要があるのだろうか。
僕は先生の退屈な授業を聞き流しながら、ずっと小野君と一緒にドラマを見ていた。
自分の事が嫌いだ。そういう事に、夕暮れを見て気付いた。
気付いたら学校の机で寝ていて、身体中はバキバキだ。
小野君は先に帰ってしまっていたらしい。
僕も帰ることにしようと思って、自転車に乗って一時間。そういうくらい漕いで帰った。
家に着いたら、それは僕の家でなかったけれど。雰囲気が僕の気配を捉えて離さなかったので、明らかに違うと分かっているのに行くしかありませんでした。
家に帰って来たので、鞄を机において、晩御飯を食べることにしました。
それは全くもって有り得ない程綺麗な晩御飯で、テールスープの油を繋げて輪っかにしたようでした。
その中に混入していた睡眠薬が僕の身体の中に入って、血液を循環して脳みそを止めました。
僕が再び目を覚ますと、時計の針に縛り付けられていました。
磔にされるような格好で、茨の冠こそ被っていないけれど、有刺鉄線は肉に食い込んでいた。
水が自分の身体を満たしていることはとっくにわかっていました。
アンティークの時計の動かない長針。
文字盤にかかるガラスで外には零れないようになっているのです。
水が世界を飲み干すように、この時計には水が満ちていました。
宇宙の中にあるこの時計は何を示す時計なのかというと、時間は絶対ではなかったのです。
時間とは人が太古に作った欺瞞の価値観で、絶対などないのです。
時間はなくて、そこにあるのはただ自意識とニューロンの波動と組織液のみでした。
無限に存在する相対性と観測と自己確定の時計は、無限に増殖し始めました。
そのころには既に水となっていた僕は、時計の中を満たすことだけに終始するのです。
無限に増え続ける僕は僕で、宇宙空間は有限で、ずっと揺蕩うのです。
あううい、いう。
あああああ。