御曹司は(強制的に)TSお嬢様になって、異世界で面白おかしく過ごしたい   作:九十九一

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before(御曹司)→after(お嬢様)

 俺――春原蓮夜(すのはられんや)は巨大なグループ会社の御曹司だ。

 

『蓮夜、お前は近い将来春原グループを継承するのだ。そのために、この私の言うことは絶対に聞くのだ、いいな?』

 

 小さい頃、俺はクソ親父にそう言い聞かされ続けて育った。

 幼い頃はそれが当たり前だと思ったし、何より子供故に、親が言うことは正しいと思った。

 

 だが、歳を重ねるごとに気付く。

 

 親の敷いたレールの上を走る人生なんて、クソくらえだ。

 

 望みもしない政略結婚に、無駄に(へりくだ)る奴ら、金目当てで近づいてくるバカ共。

 

 俺は春原グループというグループ会社の御曹司だが、そんなもの、親がすごかっただけで、俺がすごいわけでもなんでもないというのに、周りの奴らは俺をなぜか褒め称える。

 

 過去にごく普通の生活をしてみたいと思い、一度だけ一般の公立校に行ったことがあったが、まともな友達はできず、それどころかカツアゲをする奴が出る始末。

 

 一応、身分を隠して友達になった奴もいたが、俺の正体を知るなり、手のひらを返したように下手に出てきた。

 

 そういう奴らを見る度に、今の生活に嫌気がさしていくのが分かった。

 

 たしかに何不自由ない生活を享受することはできている。

 

 だが逆に、不自由さがないのだ。

 

 これが欲しいと言えば、すぐに買い与えられ、こうしたいと言えば、すぐにそれに関する行動が始まる。

 

 口にするだけでぽんぽん出てくるというのは、最初こそ嬉しいのかもしれないが、だんだんと嫌になってくるものだ。

 

 以前、ネットで友達になった奴に遠回しに話していると、こう返された。

 

『ニート生活だって、最初のうちは自由気ままで楽しいが、次第に退屈やら罪悪感が出てきて、嫌になる。それと同じじゃないか?』

 

 と。

 

 たしかにその通りだと思った。

 

 楽な生活をずっと続けていると、最初こそは嬉しいのかもしれないが、次第に飽きが来るし、何より辛くなってくる。

 

 俺の状況はまさにそれだった。

 

 俺は、不自由があるごく普通の一般家庭に生まれたかった。

 

 不自由とは、結局のところ努力をするための原動力だと俺は思ってる。

 不自由さがあるからこそ、どうすれば不自由出なくなるのかを模索し、努力し、そして成し遂げる。

 

 それが俺にはない。

 

 親の言う勉強をして、言う通りに動いていれば大抵のことはどうにかなる。

 

 俺は、それがたまらなく嫌だ。

 

 これを、ごく普通の一般家庭の生まれの人に言ったとしよう。

 

 その場合、そいつらはほとんどは決まって、

 

『勝ち組じゃん』

 

 だの、

 

『羨ましいわ』

 

 だの、

 

『は? 自慢かよ』

 

 とか言う。

 

 要はあれだ。

 

 ある者に無い者の気持ちはわからない、という奴だ。

 

 たしかに俺も逆の立場だったらそう思うのかもしれないが、これが生まれてからずっと続く状況なんて、息が詰まりそうだ。

 

 現に詰まってるし。

 

 でも俺は思う。

 

 逆に、無い者にある者の気持ちはわからない、と。

 

 無い者はきっと、そこに苦労がないと思っているんだろうが、そう思ったら大間違いだ。

 

 実際、やりたくもない勉強をさせられるし、見ず知らずの奴と婚約者同士にさせられるし、無駄に難しいことを覚えさせられるしで、いいことなんて何一つない。

 

 そういったことが好きなら別にいいかもしれないが、俺はそうじゃなかった。

 

 だって、めんどくさいし。

 

 今通っている学園の登校途中、車で登下校をしている俺の目には、いつだってわいわいと楽しそうにしながら登下校するごく普通の学生の姿があった。

 

 俺は心底羨ましかった。

 

 楽しく馬鹿をやって、何らかの苦労をして、仲間と一緒に何かを成し遂げようとして……それが、酷く羨ましかった。

 

 なんで、俺にはそれがないんだ、そう天を恨んだ時もあった。

 

 でも、どうすることもできなかった。

 

 なんとか脱走を試みても、普通に連れ戻されるし、さぼろうとすれば普通に怒られる(これは当たり前だとは思うが)。

 

 俺をなんだと思ってんだ、あのクソ親父。

 

 親父はクソだし、母親は……どっちかと言えば父親寄りで、俺のことをあんまり気にしない。

 一応従者とかもいるが、全員俺を見るんじゃなくて、親父の機嫌をうかがってばかりだ。

 

 ……だがまあ、俺に心を許せる存在がいなかったのか、と言えば嘘になる。

 

 それは、俺専属のメイドと執事だ。

 

 メイドは花宮瑠璃(はなみやるり)という人で、かなりの美人。ちなみに、二十一歳。

 

 小学生の頃からの付き合いで、俺とメイドと執事三人だけの時は、ちょっとしたバカなことをするくらいには関係が良好。

 

 百六十センチ越えと、女性にしては割と高めの身長。

 黒髪のポニーテールがトレードマークで、スタイルはモデル体型と言えばいいだろう。

 実際、スラっとしているし。

 執事から聞いた話では、割と人気があるらしい。

 

 だが、俺と執事はこのメイドの本性を少しは知っているので、何とも言えない気分になったがな。

 

 

 とりあえず、瑠璃の方は置いておいて、次、執事。

 

 執事は石動刃(いするぎじん)という人で、こっちは知的なクール系のイケメン。二十二歳。

 

 こちらも小学生の頃からの付き合い。

 なんというか、某黒い執事に出てきそうなタイプで、頭がよさそうに見えるのだが……実際は脳筋である。

 

 知恵の輪をやらせたとしよう。

 こいつは脳筋なので、鉄を曲げて外そうとする。

 他にも、ガスバーナーで柔らかくして曲げようとしたり、逆に鈍器で殴って曲げようとしたりするほど、脳筋だ。

 

 というかバカだ。

 

 そんなバカだが、俺にとっては友人と言ってもいい存在だ。

 

 なんだかんだ言って一緒にいるのは楽しいし、御曹司という肩書を持つ俺に対しても、敬意は表しつつ、バカをするからな。マジで嬉しい存在だ。

 

 その点は、瑠璃も同じだな。

 

 そんな二人がいたからこそ、俺は何とか日々のイライラを抑えて生活できていた。

 

 この二人がいなかったら、マジで失踪や自殺を考えるくらいだしな。

 

 そのため、俺は日常的に、自由になりたいと考えていた。

 

 何か、刺激的な、それでいて楽しい日常を送れるくらい、自由を、と。

 

 そして……それは、死という概念によって、達成させられることになる。

 

 

 ある日のこと。

 

 俺は、瑠璃と刃の二人と共に、金持ちの家の奴らばかりが通う学園へと向かっていた。

 

 ちなみに運転手は瑠璃だ。

 

 いつものように、代り映えしない通学路(山道)を走行していたその道中、

 

『おい、そこの車ぁ。今すぐ止まって、中にいる春原蓮夜を渡せや』

 

 武装した集団が俺たちの車を取り囲むようにして走っていた。

 

「坊ちゃん。大変です。見ての通り武装した集団が、我々を取り囲んでおります。突撃しますか?」

「しねーよバカ! ってか、なんでこうなってんだよ! たしか、SPとか近くにいたよな!?」

「それが……どうやらSPは全員、謎の腹痛により倒れているらしく、現在は私と刃の二名しか……」

「何があったんだよ、うちのSPに!」

 

 確かあいつら、

 

『毒キノコを食っても平気だぜ☆』

 

 とか言ってたよな!?

 

 それがどうして、謎の腹痛で倒れてるんだよ!?

 やっぱりあれか? 毒キノコ、だめだったのか!?

 

 ……いや、それは当たり前のことだな。うん。

 

 あいつら、

 

『意外と火を通すとうまいですぜ? 坊ちゃん』

 

 とか言ってきてたが、絶対その毒素が溜まって、今日噴き出た感じじゃねぇの? それ。

 

 何してんだよ……。

 

「……クソ親父には?」

「すでに、救難信号を本邸に発信しております。しかし、今日はなぜか渋滞しているとかで、到着が遅れると」

「運わりぃ……」

「坊ちゃん。やはりここは、全速前進しつつ、武装グループの車両に突っ込むしかありませんよね!」

「なんでお前は嬉々として突っ込もうとする! これはグ〇セフの世界じゃねーんだよ! 現実なんだよ! 普通に死ぬだろそれ!」

「……チッ」

「舌打ちした!?」

 

 なんでこいつ、執事クビならないんだよ。

 

「瑠璃、何か方法はないのか?」

「私と刃が犯人たちを制圧することができれば突破できると思うのですが……今回はさすがに人数が多い上に、今はこちらの武器も心許ない状況です」

「そうか……だが、確実にあいつら、身代金目的、だよな?」

「その可能性が大です」

「だよなぁ……。さすがに、付いていくわけにはいかねぇし……どうする」

 

 何か方法はないかと頭の中で考える。

 

 しかし、状況が状況なだけに、良案は思い浮かばない。

 見れば、運転中の瑠璃も似たような状況だ。

 

 そんな中、

 

「坊ちゃん。僕に考えがあります」

 

 刃が良案があると言わんばかりに、自信満々にそう言ってきた。

 

「……ほほう。言ってみろ」

「時間がありません。ここは、一度僕に運転をさせてもらえないでしょうか?」

「……確かに時間がない。だが、お前に任せたら何をするかわから――」

「時間がないので、僕が運転しますね!」

「あ、刃、何をするのですか!」

 

 俺の了承も得ずに、刃は瑠璃を助手席に放り投げ、ハンドルを奪い取った。

 

 って、

 

「ちょっ、揺れる揺れる! ってか回転してるから!?」

 

 いきなりハンドルを奪ったことで、車体が大きく揺れ、かなり回転した。

 

 き、気持ち悪っ!?

 

「さぁ、行きますよ! 坊ちゃん、瑠璃さん!」

 

 ハンドルを握り、車体を安定させた刃は、なぜか嬉しそうにそう言いながら、急加速をし始めた。

 

「お、おまっ、何しようとしてる?!」

「お気になさらず」

「お前、法定速度ガン無視で気にするなって方が無理だろ!? ここは高速道路じゃねーんだよ!」

「ふっ、ルールとは、破るためにある!」

「おまわりさーん! このバカ逮捕して―!?」

 

 平然と違反すると宣言しているバカ。

 

 外を見やれば、そこには今にも発砲してきそうな犯人グループ。

 

 ……これ、やばいんじゃね?

 

「お、おい、刃! さすがにこの状況はまずいぞ!? 本当に、どうにかする方法があるんだろうな!?」

「お任せください」

「私としましては、刃のお任せくださいほど、信用できない言葉はないと思っているのですけれど」

「ふふ、お二人は心配性ですね」

「「誰のせいだ(ですか)誰の!」」

「まったく、興奮しているお二人のために、ここは音楽を流すとしましょう」

 

 やれやれと肩をすくめるしぐさを見せる刃は、音楽を流すと言い出す。

 

 すると、刃は音楽を流すために、本当に機械を操作し始める。

 

 そこから流れ出したのは……。

 

「…………おい。おい待て。おい待て刃」

「はい、なんでしょうか? 坊ちゃん」

「お前……この曲は、なんだ?」

 

 俺はバカが流しだした音楽に対し、一抹の不安を覚えながらそう尋ねた。

 

 瑠璃も、曲を理解したためか、眉間を指で揉んでいた。

 

「何とは……フ〇ージアですが?」

「なんでその選曲をした!? お前まさかとは思うが……!」

 

 この曲の理由がすぐに頭の中に思い浮かびつつも、俺はそれを否定。

 

 しかし、しかしだ……少なくとも、全てはパワーで解決できる! とか、平気で思うバカだ。その可能性は非常に高い……!

 

「止まんねぇ限り、道は続く」

「続かねぇよ! ここで止まらなかったらあるのは普通の道じゃねぇ。地獄への黄泉路だよ!」

「俺は止まんねぇからよ……」

「止まれよ!」

「止まってください刃!」

「だからお前らも、止まるんじゃねぇぞ……」

「止まれ止まれ! マジで死ぬから!」

「刃! 早く止まりなさい!」

 

 俺と瑠璃の必死の制止の叫び虚しく、この直後、俺たちが乗っていた車は目の前を走行していた車に衝突した……というわけではなく、スピードの出しすぎによってカーブを曲がり切れず、ガードレールに突っ込んでそのまま落下して意識が途絶えた。

 

 

 そして、数瞬後に、俺たちはなぜか目が覚めた。

 

「……ここは?」

 

 思っていたことが思わず口に出るほど、俺たちがいる場所は何かがおかしかった。

 なんというか……周囲は星だらけ。

 まるで、宇宙空間にいるような感覚だった。

 

「……おい、まさかとは思うがここって……死後の世界じゃねぇだろうな」

「坊ちゃま。我々が実はただ夢を見ているだけ、という可能性は考えられませんか?」

「それはないだろ。というか、これが夢だったら、なんで俺たち三人、同じ状況の夢を見て、尚且つこんな不思議空間にいるんだよ。ってか、普通に五感があるよな、ここ」

「言われてみれば……」

 

 俺の発言の通り、どういうわけかこの空間にいる俺たちには五感があった。

 

 視覚、聴覚、錯覚、味覚、嗅覚。

 

 全部ある。

 

 もしあの落下事故(という名の人為的事故)が現実だったとしたら、俺は――というより、俺たちは間違いなく見せられないよ! というあれで隠されるほどに、見るも無残な、地面の染み、もしくは挽肉になり、五感なんてものはなくなってるはずだが……。

 

「だからこそ、ここは夢ではないと言える……と思う。周囲の風景があれだが」

 

 これが山道とか、家の中だったら、まだ夢かもしれない、で済ますことができたんだが、こんな謎の場所にいたら、死後の世界とか疑うだろこれ。

 

 全然血みどろじゃないし、雲の上とかってわけじゃないが。

 

「はっ! 坊ちゃん! よく見ると、足がスケスケです!」

「うるせぇ愉快犯。そんなありえないことあるわけ……って、マジで透けてるんだけど!?」

 

 やらかしの原因がスケスケなんて言うから、愉快犯呼びして、その後否定の言葉を口に出そうとしたら……マジで透けていた。

 

 見れば、瑠璃の方も透けていた。

 

 え、なんだこれ!?

 

「お、おい、やっぱりこれ、死後の世界なんじゃ……」

「近からずとも遠からずですね」

「おいおい、やっぱり俺、死んだのか……って、ん? なあ、瑠璃。お前今、何か言ったか?」

「いえ、私は何も……」

「刃、じゃなかった。愉快犯は……違うな、絶対。今のは女の声だったし」

 

 じゃあ今のは誰なんだ?

 そんな疑問が頭をよぎった瞬間、

 

「初めまして、日本のお坊ちゃまとその一行」

 

 そう言いながら、俺たちの目の前に、羽の生えた超が付くほどの美女が現れた。

 

「「「誰……?」」」

 

 突然現れた謎の美女に、俺たちはそろって首を傾げた。

 

「まずは、自己紹介からですね。こほん。初めまして、日本の方々。わたくしはクリアナリアと申します。有体に言えば、女神です」

「へぇ、女神……って、女神!? え、マジで!?」

「マジでございます」

「か、神っていたのか……」

「はい、いますよ」

 

 にこにことした笑顔で肯定する自らを神と名乗る美女こと、クリアナリア。

 

「坊ちゃま、初対面の方の言うことをいきなり信用するというのは、まずいことかと思います」

「っと、そうだったな」

 

 神であることを信用した俺に対し、瑠璃は冷静にいきなり信用するのはまずいと忠告してくれた。

 

「あー、えっと……本当に神様、なんですか?」

 

 違う可能性もなくはないが、俺は試しに敬語で尋ねてみる。

 

「はい、神です。……と言っても、そちらの世界の神ではなく、異世界の神です」

 

 そのセリフを聞いた直後、俺たちは軽く円陣を組むようにしてひそひそと話す。

 

「……おい、なんか異世界という単語が出てきたんだが」

「出てきましたね」

「出ましたね」

「……どう思うよ、お前ら」

「私は……信用していいかどうか迷っております」

「僕は特には。面白そうですし」

「ほんっとお前ら正反対だな……」

 

 瑠璃は基本、仕事時は冷静に常に警戒心を持っているが、刃のバカはそんなこと関係なく、警戒心が薄い。

 

 まあ、場面によっては強くなるが……。

 

「……とりあえず、俺が代表して色々と訊いてみるから、お前たちはすぐ動けるようにしておいてくれ」

「「かしこまりました」」

 

 こういうのは、この二人がやるのが正解なんだろうが、俺としてはこいつらが死ぬのは嫌だしな。

 いや、もう死んでるのかもしれんが。

 

「あー、とりあえず、クリアナリア様、の方がいいでしょうか?」

「様付けは不要ですよ。何せ、別の世界の神なのですから。むしろ、敬語もいりません。友人と接するような言葉づかいでよいですよ」

「あ、あぁ、そうか。じゃあ、そうしよう。……で、さっきの近からずとも遠からずってのは、どういうことだ?」

「そうですね。状況説明をしてしまいましょうか。えー、こほん。最初に言っておきます。あなたたちは死にました」

「……は?」

「そこにいる執事の方がガードレールに突っ込み、そのまま落下して、見るも無残な姿になりました。あれで助かるという方が無理ですので、仕方ありませんね」

「…………やっぱりテメェのせいで俺たち死んでんじゃねーかこの野郎!?」

 

 バカのせいで死亡したということが確定し、俺はバカの胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす。

 

「はははは! いやー、すごいですよ僕たち! 死後の世界を体験してるんですからね! これで蘇生されれば、一躍有名人になれますよ」

「もうすでに有名人だよ! ってか、ことの経緯を知られたら、ダーウィン賞を取って有名になるわ!」

 

 ふざっけんなよマジで!

 こいつのふざけた行為のせいで、マジで死んでんだけど!

 従者の暴走で死ぬ主とか聞いたことねーよ! なんで俺こうなってんだよ!

 

「……あぁ、坊ちゃまを守れずに共に死亡するとは……花宮家の恥ではないですか、私……。申し訳ございません、坊ちゃま」

 

 無情な現実に、瑠璃が顔を覆ってその場に崩れ落ちた。

 

「いや、瑠璃はいいんだよ、瑠璃は。全部このバカが悪いから」

 

 死ぬなら勝手に一人で死んでほしかったが、このバカはやらかしたからな……。

 

 ってか俺、普通にキレていいんじゃね? それどころか、こいつを殺してもいいんじゃね? すでに死んでるが。

 

「えー、お話を続けてもよろしいでしょうか?」

「っと、あぁ、続けてくれ」

「はい。では、続きを。そもそもの話ですね、人は死亡したら転生するか、そのまま天国か地獄へと旅立つわけですが、稀にわたくしのしゅm――こほん。善意で魂をわたくしが管理する世界へとお招きしているのです」

「おい、今なんか趣味って聞こえたんだが」

「いやですね、気のせいですよ」

 

 にこにこと、綺麗な笑顔を浮かべるクリアナリア。

 

 なんだろうか。この女神、何か裏を感じる……。

 

 俺の人生で磨かれた、演技を見抜く能力が、怪しいと警報を鳴らしている気がする。

 

「……ん? なあ、今わたくしの世界にって言ったよな? それってどういう意味だ?」

「簡単なことです。そちらの世界風に言えば、異世界転生というものですね。最も、もうほとんど出尽くしている状況でしょうが」

 

 たしかに出尽くしているかもしれないが……それよりも、今の発言だ。

 

「異世界転生、だと?」

「はい。異世界転生です」

「マジ、なのか?」

「マジです」

 

 異世界転生……。

 

 クリアナリアが言っていることが本当だったら、今の俺としてはかなり嬉しい状況だ。

 異世界転生と言えば、刺激的な生活が待っている、まさに非日常体験の定番ネタだ。

 あの退屈な毎日を過ごす中で、何度異世界に行きたいと願ったことか。

 

 それがまさか、叶うというのか。

 

「つまり、俺たちは異世界へ行ける、ってことか?」

「そういうことです。ちなみに、わたくしの世界には、とある方法で元の世界へ渡る方法があります」

「マジで!? 行き来できんの!?」

「はい。とはいえ、方法はかなり面倒くさいので、幸運でなければ、その方法を手に入れられずに生涯を終えてしまいますが」

「それはきついな……」

 

 いや、だがあの退屈な日常に戻るわけにはいかない。

 

 何せ、本当に退屈だし、うんざりしてたからな。

 

 人間関係はクソみたいだったし、俺が心を許せたのなんて、瑠璃とバカだけだしな……。

 

 だったらいっそ、異世界で今の人間関係をリセットして、この三人でやり直した方が幸せなんじゃないか?

 

「それで、どうしますか? 異世界行きましょうか?」

「あぁ、俺は行く。……って、悪い。二人に訊くのを忘れてた、お前たちはどうするよ」

 

 自分だけで話が進んでいたことを思い出し、俺は二人にどうしたいかを訊いた。

 俺の質問を受けた二人は、一瞬の迷いなく笑みを浮かべ、

 

「私は、坊ちゃまと一緒に行かせていただきたいと思います」

「僕も同じく」

 

 付いていくと告げた。

 俺は口元を緩め、クリアナリアに向き直る。

 

「というわけだ、異世界転生をお願いするよ」

「ありがとうございます!」

 

 ……ん? 礼? なんで礼の言葉が出てくるんだ?

 

 おい、やっぱこの女神、何かおかしくないか?

 

「ささ、すぐに転生を……」

「ちょっと待て」

 

 手元で魔方陣らしきものを嬉々として操作するクリアナリアに対し、俺は制止の声をかけた。

 

「はい、どうかしましたか?」

「いや、気のせいならいいんだが…………お前、さては何か隠してるな?」

「ドキッ……! か、隠してる、とは何をでしょうかぁ?」

 

 自分でドキッって言った上に、すっごいしどろもどろだな、この女神。

 

「何を隠してるかまではわからないけどさ、なんかお前……その口調取り繕ってないか? なんというか、もとはかなり適当な気がするんだが」

 

 半信半疑に、俺はクリアナリアに対してそう指摘してみる。

 

 すると、

 

「……いやはや、今回の方はなかなかに面白い人のようで」

 

 さっきまでの神々しい雰囲気はどこへやら。

 

 丁寧な口調が消え、砕けた口調に変わった。

 

「それにしても、かなり巧妙に隠していたと思うんだけどなぁ……なんでわかったの?」

「普通さ、善意で異世界へ転生させたい、って言ってるのに、お礼は変じゃないか? と思ってな。あと、さっき趣味って口走ってたしな」

「なるほどー。まさか、見破られるとは……まあいいです。素でいいのなら、別に構いませんし……では早速……ぷっ、くくっ……あっははははははははははははははっっっ!」

「「「!?」」」

 

 目の前の女神は、いきなり腹を抱えて爆笑し始めた。

 

 え、すまん。どういう状況なん、これ。

 

 ものすごい美人な女性が、腹抱えて爆笑とか……すっごい反応に困る。

 

「ま、まさかっ、あ、あんな死因とか……ぶふっ! じ、自分の従者が原因で、し、死ぬとか、ひぃっ、ひぃーっ……お、お腹痛いっ……! 数百年ぶりですよっ、ここまで、ぷくくっ……ば、爆笑したの……!」

「「……イラッ」」

 

 俺と瑠璃の二人は、普通に女神に対し、苛立ちを覚えた。

 人の不幸な死を笑うとか……こいつ、絶対女神じゃねぇ。

 

「いやぁっ、あははっ、そこの執事最高! あと、そっちの二人も最高! 今回はほんっとに当たりだったし、素晴らしく面白い光景が見れたしで……一生の思い出だわー」

「……瑠璃」

「はい、なんでしょうか、坊ちゃま」

「お前今、何か武器になるもの、持ってるか? ナイフでも何でもいい。とりあえず、致命傷を与えられるようなもの」

「そうですね……では、千枚通しなどいかがでしょう? 目、頸動脈、左手首、心臓部に刺せばイチコロです」

「いいじゃないか。……よし、殺れ」

「お任せください。では、お覚悟!」

「ちょっ、たんまたんま! 笑うのは悪かったからそれは勘弁して!?」

 

 俺の命令を聞き、即材に首を狙いに行った瑠璃。

 しかし、その千枚通しは女神がテレポートしたことで、空振りしてしまう。

 

「――チッ、外しましたか」

「君、本当にメイドなの……?」

「私は、坊ちゃまに仕える忠実なメイドでございます。坊ちゃまの敵は私の敵ですので、よってあなたは殺します」

「こわっ!? こっわ!? あなたメイドじゃないって絶対!」

「メイドでございます」

 

 いや、うん。正直、俺もたまに瑠璃が怖いと思うときはある。

 

 だってこいつ、なんか知らんけど俺への忠誠心がやたらたけぇんだもん。

 

 俺を侮辱するような奴が現れようもんなら、そいつは次の日引きこもりになっちまうみたいだからな……。

 

 ま、まあ、こういう時はかなりありがたいんだがな。

 

「ふむ。瑠璃さんの攻撃を躱すとは……やはり、神という存在はすごいのですね」

「ま、まあ、神様だしね! ……って、まあ、いいや。ともかく、えー……転生ということで、OK?」

「お前のそのムカつく性格以外はOKだ」

「はいはーい。それじゃあ……三人には転生特典の『恩恵』を授けよう!」

「「「恩恵?」」」

「そ、恩恵。まあ、その辺りは向こうに行ってから調べてよ。……そして、見事わたくしの演技を見破ったそこのお坊ちゃま!」

「お、おう」

 

 ビシィッ! と俺を指さすクソ女神。

 

「わたくしは大いに君を気に入りました。よって、君には特別ボーナスを二つほど、恩恵とは別に授けましょう!」

「それは、あれか? さっきの詫び的な?」

「それもありますが、そっちの方が面白そ――ゲフンゲフン。有利に人生を謳歌できると思うので!」

「おいテメェ。今面白そうって言いかけたよな?」

 

 俺の耳は聞き逃さなかったぞ。

 

「ひゅ~♪ ひゅひゅ~♪」

 

 なんて上手い口笛なんだ……!

 

 すっげえ腹立つ。

 

「瑠璃」

「はい」

「殺れ」

「かしこまりました」

「ちょっ、またぁ!? さすがにテレポートは疲れるし……えぇい、君たちの恩恵の説明はすっ飛ばします! なので、さっさと異世界へGOGO!」

 

 瑠璃が再び攻撃態勢に入るのを見て焦ったクリアナリアは、慌てつつも精密な動きで手元の魔方陣を操作。

 

 すると、俺たちの足元にかなり細かい模様の魔方陣が浮かび、激しく光りだした。

 

 って、まぶし!?

 

「さぁ、行ってらっしゃい! わたくしの世界、レブラントへ!」

 

 そのセリフを最後に、俺たちの意識はぷつりと途絶えた。

 

 

「――――ま」

「んっ……」

「――ちゃま」

「ん、う……」

「坊ちゃま!」

「はっ!」

 

 いきなり大きな声が聞こえて、俺はガバッ! と勢いよく状態を起こした。

 

「こ、ここは……」

 

 まだ靄のかかる頭をなんとかして動かし、状況把握のために周囲を見回してみると、そこには見渡す限りの草原が広がっていた。

 

 ところどころに木々が見えるが、ここはおそらく普通の草原なのだろう。

 

 だが……なんだろうか。この謎の違和感は。

 

「お目覚めになられましたか? おじょ――坊ちゃま」

「えぇ、目が覚めたわ。……あら? 瑠璃、あなた今、私のこと、別の言い方をしませんでした……って、え?」

 

 おい……おい、なんだ、今俺、何を喋った?

 

 いや、それ以前に、なんか体、おかしくないか?

 

「ぼ、坊ちゃま? 今のその口調は……?」

「し、知らないわよ。って、ど、どうなっているのよ、これ……?」

 

 今、俺の口調、おかしくなかったか?

 いや、口調以前に声もおかしい。

 なんか、妙に高いような……。

 

「って、そうだったわ。瑠璃、おバカさんはどこに?」

 

 ん!? やっぱおかしくね!?

 

 なんか、俺が思った通りの言葉が出ない代わりに、なんか妙に丁寧な口調になって言葉が出てくるんだが!?

 

 はぁ!?

 

「ま、まさか、見た目通りの口調……? いえ、ですが、坊ちゃまは気づいておられないご様子……し、しかし……」

 

 俺の発言については、どうやら瑠璃自身も驚いている様子。

 

 だが……なんだ、見た目通りの口調って。

 

 ……この、一抹の不安は一体なんだ。

 

「う~ん…………はっ! ここはどこ!? 僕は誰!? 坊ちゃまは死んだ!?」

「あなたは起きて早々、何をとんでもないことを言っているのよ!」

 

 くそっ! やっぱり口調が戻らねぇ!?

 心の声は普通なのに、なぜ俺の口から出るセリフはこうも女っぽいんだ!?

 

 …………女っぽい……?

 

「おや、瑠璃さん。いつからそんな口調に?」

「刃、今のは私ではありません」

「ですが今、たしかに女性の声に、女性らしい口調が聞こえたのですが」

「あー……刃。あなたはわからないのですか?」

「わからない、とは?」

「ちょうど私の近くにいるではありませんか、一人の女性が」

「はい、いますね。どこか、坊ちゃんに似た雰囲気を感じる女性が」

 

 瑠璃に言われ、刃はこちらを見ながらそう答える。

 

 ……女性?

 

「……そこまで気付いているのなら、もうお分かりですね?」

「はい? ……ん!? る、瑠璃さん。ま、まさかこの女性……いえ、この方は……!」

「そうです。この方は――」

「まさか、坊ちゃんの生き別れの妹様でしょうか!?」

 

 ずこーっ!

 

 刃の言葉に、瑠璃は思わずこけた。

 

 なんというかこいつ、色々と変わらねぇ……。

 

「違います! このお方は、我々が生涯お仕えするべき主……春原蓮夜様です!」

「…………ははっ! 何を仰いますやら。坊ちゃんは確かにほんの少しだけ、女性っぽくはありましたが、ここまで見事な白髪紅眼の美少女ではありませんでしたよ?」

 

 …………白髪、紅眼? 美少女……?

 

「確かにそうです。私が愛す――こほん。敬愛する坊ちゃまは、神に造られたと言われても違和感のないほどの美貌の少女ではありませんでしたが……どうやらこれは、事実のようですよ、刃」

 

 なんか今、愛する、とか言いかけなかった? このメイド。

 

「なんと。それではまるで、坊ちゃんが――」

「ちょっといいかしら? 二人とも」

 

 何やら俺をそっちのけで話に集中する二人の気をこちらへ向ける。

 

 相変わらず、口調は女らしいものになっちまってるが……。

 

 だがしかし、俺はそんなことを気にすることすらどうでもよくなるくらいの、とんでもないことを聞いた気がするんですが。

 

「なんですか、おじょ――坊ちゃん。今、良いところなんですが」

「……今、確実にお嬢様、と言いかけたわね? 刃」

「ははっ。気のせいですよ」

「……瑠璃。正直に言いなさい。今私は……いえ、もう自分でも薄々感づいてはいます。ですが、自分の耳でしっかりと、あなたたちの口から聞きたいわ。……私、どうなっているのかしら?」

 

 俺はもう、自分の口調やら、この二人が話していた、お嬢様、と言いかけた言葉や、白髪紅眼に、そして『美少女』という部分でどうなっているのか察した。

 

 というかこれは間違いなく、あれ、だな。

 

 そして、俺の予想通りと言うべきか、瑠璃と刃の答えは、

 

「「坊ちゃま(ん)が、お嬢様になっております(なってます)」」

 

 俺が男から女になっている、という事実そのものだった。

 

 春原蓮夜十七歳。

 

 付き人の暴走運転により異世界転生を果たし、そして……女性としての生活がスタートした。




 初めましての方は初めまして、他作品を読んでいる方はお久しぶりです、九十九一です。

 今作は、異世界転生系の作品です。

 もうとっくに使い古されたようなネタではありますが、まあ、うん。書きたかったんです、こういうの。

 簡単な内容はあらすじの通りですね。異世界転生した御曹司が、お嬢様になって異世界を面白おかしく生きる、というものです。

 珍道中とは書いてありますが、一章は一つの街にとどまってそこで準備をする話となっています。

 主人公の死因がちょっとあれすぎますが……うん、許して。ついでに、執事も許してあげてください(絶対無理だと思うけど)。

 あと、タグにギャグとありますが……正直なところ、ギャグを書くのはあまりうまくないので、その辺は温かく見守ってくださるとありがたいです。

 さて、この小説は、書きあがっているところまでは毎日一話ずつ投稿します。時間は10時ですね。

 とはいえ、数日で投稿がストックがなくなるので、その先は気長に……。

 ちなみに、この小説とは別で、新作を投稿していますので、よければそちらも読んでいただけると、私はとてつもなく嬉しく、狂喜乱舞します。

 では!
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