有馬記念はタイホとイクイにクリスマスケーキ代を賭けるぜ!
ダイワスカーレットと新年の挨拶
俺は大神勇斗。ひょんな事からウマ娘の世界へとやってきた俺は、トレーナーになりダイワスカーレットと共にクラシック戦線を走り抜いてきた。
デビューから無敗で挑んだ有馬記念で負け一時はどうなる事かと思ったが、スカーレットは無事に立ち直りもう二度と負けない事を誓い合ったのだった。
んなわけで、新たに始まるシニア級での勝負に備えるため、俺は去年と同じく正月を部屋でゴロゴロと自堕落に過ごそうと思っていたのだが──
「次の信号左ね」
「このお菓子も美味しいですよ! 賢治さん、はい、あーん!」
「うぅ……。メジャー、僕もうお腹いっぱいなんだけど……」
何故か俺はハンドルを握り、スカーレット、メジャー、メジャーのトレーナーであり婚約者の賢治さんを乗せて、彼女らの実家へと車を走らせています。
「なんでじゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!?」
「うっさい。急に大声出さないで」
「あ、はい」
──それは昨日の事。
「はぁっ? 実家に行くだぁ?」
「そ、ママとパパが帰ってきてるのよ。クリスマスの時にはもういたんだけど、アタシが行かなかったでしょ? だからお正月は実家に戻って会いにいきたいのよ」
「そうかそうか。家族が集まるなんて滅多にねぇんだろ? 楽しんでこいよ、別にトレーニングに支障はないしな」
ヨギポウのクッションに身を預け、テレビでゲームをしながら空返事をする俺。その横でこれまた同じく俺のヨギポウに可愛らしく座って、一緒にゲームを見ていたスカーレットが耳を疑う発言をする。
「アンタも行くのよ、トレーナー」
「…………どーしてそーなんだ」
「メジャー姉さんが結婚するでしょ? そのお相手も来るのよ、新年の挨拶って事で。そしたらママとパパがアタシのトレーナーにも会いたいって言い出して、ついでにアンタを連れて行く事になったの」
どうやらスカーレットの親御さんが俺に会いたがっているらしい。自分達の娘がどんな男に師事しているか知りたいってところか。姉であるメジャーがトレーナーと結婚する事もあり、尚更気になるし心配になってるだろうからな。
しかし実家にお呼ばれとは……。お袋さんとは一度会ってるとはいえ、気まずいってレベルじゃねぇぞ。どうしよ、親父さんがめっちゃ娘大好きでお前なんかトレーナーと認めん、みたいな事になっちまったら。
……ぶっちゃけメンドくせぇな。それがなくたって俺はこの正月、家でゴロンゴロンしてぇんだ。数少ない休日を悪いがこんなんで消費したくねえ、この提案は却下だ。
「……俺は行かねーぞ。そもそも、年頃の女の家に恋仲でもねえ大人の男が行くのはやべぇだろ」
「あら残念ね。アンタの為にママとパパったら、気合い入れて料理やらおもてなしの準備してたのに、全部無駄になっちゃうわね。まあ、強制するわけじゃないし、仕方ないけど。分かったわ、家にはアタシ一人で帰るから」
待てやおい。聞いてねぇぞ、そんな事。俺の為に張り切って準備しているだと? それじゃこのままいくと俺は、人の善意を踏み躙り、挙句の果てに意気消沈した両親と微妙な空気の正月をスカーレットに送らせた、最低最悪のトレーナーになるじゃねぇか!
というか人としてもヤバい奴じゃん! くそ、仮にも俺は勇者をやっていた男だぞ、こんなの許せるわけねぇ。こうなったら覚悟を決めてやるしかない。
「やっぱ俺も行く……。それでいいな、スカーレット?」
「! ええ、大丈夫よ、ママ達にもそう伝えておくわ!」
花が綻ぶように笑うスカーレットに、俺も思わず軽く笑みを返してしまう。彼女的には俺が邪魔かと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
スカーレットが楽しそうならそれでいいか。どうせ泊まるってわけでもないんだし、友達の家に遊びに行くぐらいのノリで十分だろ。
「てか、わざわざそれを言いに俺ん家まで来たのか? 新年一発目に見る顔が俺で良かったのかよ」
「わざわざって……。一応、アンタには世話になってるんだから挨拶にくるのは当たり前でしょ! それにアタシが来なかったら、アンタ大掃除終わらなかったじゃない! 少しは感謝して欲しいくらいなんですけど。あと今年初めて見た顔は、トレーナーじゃなくてウオッカよ」
「ぐ……! まあ、そうなんですけど……」
スカーレットの言う通り、元旦になったというのに俺の家は掃除を終わらせていなかった。部屋もそこまで大きくもないし、置いてある物もゲームやスカーレット達ウマ娘のグッズしかないので、真面目にやれば一日かからずに終わる量だ。それが何故、スカーレットに手伝ってもらう事になったというと。
「しゃーねぇだろ、このゲームやりたくなっちゃったんだから。でもありがとうな、掃除手伝ってくれて。スカーレットが来なかったら俺は一生このゲームに囚われたままだった」
深刻そうな表情で感謝を述べる俺にため息をつくスカーレット。俺は掃除中に積んでいたゲームを発見し、我慢できずにプレイを始めてしまったのだ。我ながら馬鹿らしい理由だが、こうしてスカーレットと掃除を終わらせ、今そのゲームを一緒にやっているという流れである。
ちなみに、やっているのは「アイ
これアイ◯スじゃねぇか! と、思って買ったが、そもそもこの世界にアイ◯スなどなかった。あるのはこのアイ鱒だった。やってみたら意外と面白かったけど。
「ま、いいけど。このゲーム意外とシナリオ面白いから見てて楽しいし。にしても……アンタって、ホント胸大きい子好きよね。アタシの胸もいっつもジロジロ見てくるし、今年は少し自重した方がいいと思うわ」
「今言う必要あるそれぇ!?」
「あ、ちょっと!? 何変な選択肢選んでんのよっ!? ニジマスちゃん凹んじゃったじゃない!」
スカーレットが急にあらぬ疑いを掛けてきたので、反射的に声を上げてしまう。確かに今攻略してるニジマスちゃんも巨乳ヒロインだし、スカーレットの胸も見てはいるが、俺は巨乳好きな訳ではない。好きになる女の子が偶々、おっぱいが大きい子が多いだけである。
しかも、驚いた際にボタンを押していたようで、ニジマスちゃんの好感度が下がる選択肢を選んでしまった。スカーレットにもギャーギャー怒られるし、踏んだり蹴ったりだわ。
「突然お前が変な事言うからだろ! それに俺はおっぱいだけじゃなく、尻も好きだし太ももも好きなんじゃい!」
「要するに変態なんじゃない。アンタ、ママに変な目向けないでよ? そんな事したら、流石にパパが怒っちゃうわ。最悪、トレーナーだけ家の外で寝る事になるからね?」
「なっはっはっはっ。さしもの俺もそこまで馬鹿じゃないぜよ…………、ん? 俺、泊まんの?」
スカーレットは今、家の外で寝ると言った。寝る、つまりスカーレットの家に泊まるという事。日帰りではなくて、お泊まり。いや、聞き間違いの可能性も──
「え? そうだけど?」
聞き間違いじゃなかった。スカーレットはさも当然かの様に淡々と答える。それはつまり、彼女の家で寝食を共にする事を、スカーレット自身が肯定したという事で。
「うそでしょ!?」
「あれ、言わなかったけ? アンタも一緒に泊まるからね。安心して、ちゃんと部屋は用意してくれるみたいだから…………って! また選択肢ミスってるじゃない!!」
──そして今に至る。
助手席にスカーレット、後部座席にメジャーと賢治さんが乗り、もうかれこれ一時間は車を走らせている。レンタカーは金が勿体無かったので、車は学園からパクってきた。バレなきゃOKだ。
賢治さんとは会議とかで顔を合わせる機会はあったのだが、まともに話したのは今日が初であり、その見た目通り温和で気の良いお兄さんだった。そりゃモテるわなって感じで、自分と比べてちょっと落ち込んだのは内緒である。
「今日は本当にありがとうございます、大神さん。僕もメジャーも免許は持っていないので、電車で行くつもりでしたから。大神さんの車に乗せてもらえて助かりましたよ」
「気にしなくていいすよ。運転するだけなら労力は変わらないですし、俺からしたら旅行みたいなもんなんだ、みんなで行った方が楽しいに決まってます」
「そうですよ〜賢治さん。大神さんもああ言ってるんですから、遠慮せずもっと楽しみましょう! ほらほら、次はポッキーゲームしましょ! ポッキーゲーム!」
「メジャーはもう少し遠慮しようね……?」
ダイワメジャーはずっとこんな感じではしゃぎ続けている。このテンションで喋り続けているのもさる事ながら、俺達がいるにも関わらず賢治さんとイチャつきまくる彼女に、呆れを通り越して感心すら覚える。
スカーレットが言うには、メジャーは今幸せの絶頂期にいるため普段の三倍は喧しいらしい。賢治さんも顔が疲れてきてるのに付き合ってあげてるのを見ると、本当に愛し合っているんだと俺でも分かる。
でもポッキーゲームはやめてくんないかな。ルームミラーからちょこっと見えちまって、逆にこっちが恥ずかしいぞ。しかもキスまでいくんかい! 結婚を控えたカップル、恐るべし。
「姉さん! アタシ達も居るんだからイチャイチャするのも程々にして!」
スカーレットも流石に耐えきれなかったのか、顔を真っ赤にして抗議の声を上げる。それに対しメジャーは悪びれもなく、さらりととんでもない事を言ってくる。
「えー? そこまでイチャイチャしたつもりはなかったよ? あ、分かった! スカーレットもポッキーゲームしたかったんでしょ! じゃあ……はい、お姉ちゃんのポッキーあげるね。これでスカーレットも大神さんとイチャイチャできるよ〜!」
「なっ!?」
見た事ないくらい、スカーレットの顔が紅潮する。凄いよこの姉貴、悉く妹のペースを壊してきやがる。
「俺運転してんだから無理だからね、メジャーさんよ。第一、俺とスカーレットは付き合ってもないんだ、やらねぇぞ最初から」
差し出されたポッキーと俺の顔をアワアワしながら交互に見るスカーレットに代わり、俺がその提案を拒否する。その際、何故かスカーレットがショックを受けた表情をしていた気がしたが。
「えっ!? スカーレットと大神さんって付き合ってなかったの!?」
「そうだったんですか……。てっきり付き合っているものかと……」
メジャーはともかく、賢治さんまでそんな事を思っていたのか。やっぱりトレーナーと担当が仲が良いと、そう思われるのがこの世界では普通なのかな。
「そーゆう事です。あいにく俺は生まれてこの方、彼女なんて出来た試しないんでね。あんたら二人が羨ましい限りですよ」
「ふーん……。アンタ彼女いた事ないんだ、そっか……ふーん……」
え、何その顔。さっきまで何か落ち込んでたじゃん。何でそんな嬉しそうな顔してんの、君。もしかして、スカーレットに煽られてるのこれ。彼女いない俺を見て面白がってるのこれ。
「そっかー。じゃあじゃあ、本当に付き合っちゃえばいいんじゃないですか! スカーレットも大神さんの事好きみたいだし、お似合いだと思いますよ! そうだ! 一緒に結婚式やったら楽しそう!」
このお姉さん恋愛脳すぎるでしょ、どんだけ俺とスカーレットをくっ付けたいのよ。ちょっと賢治さん、貴方のお嫁さんなんだからどうにかして下さい。
「駄目だよメジャー。スカーレットさんはまだ結婚できる年齢じゃないんだ、一緒に結婚式を挙げる事はできないよ?」
駄目なのはアンタの方だよ、賢治さん。薄々勘づいていたが、この人も天然さんみたいだ。お似合いすぎるわ、このバカップル。
「いくら姉さんが言ったって、トレーナーと付き合う気なんてないわよ。はい、これでこの話はお終い! いいわね?」
スカーレットがこれ以上話を広げる前に無理矢理話題を終わらせる。またも顔は真っ赤になってはいるが、もう当分はメジャーも恋愛話はしてこないだろう。
「でも、好きでしょ? 大神さんの事」
「すっ、すすすすすすす好きな訳ないでしょ!? こんなバカで変態で、やることなすこと全部ぶっ飛んでて、子どもっぽくて私生活だらしなくて金遣いも荒くて悪い女に騙されそうな男、誰が好きなもんですかっ!」
「なんで急に俺の悪い所全部言ったぁ!?」
「そんなにいっぱい見てるんなら、やっぱり好きなんじゃない?」
「ああ、もう! だから違うってば!」
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「やっほー、みんな久しぶり! 遠路はるばるありがとうね!」
「お母さん、来たよー!」
「ママ、ただいま」
「はーい、お帰りなさい! 外寒かったでしょう? 早く上がって!」
長い道のりを乗り越えて辿り着いた俺達を心良く出迎えてくれるスカーレットのママさん。玄関から中に入ると外の寒気を押し出す様に、体中を温かい空気が包み人心地ついた気分になる。
桜花賞ぶりに会ったママさんに賢治さんと共に挨拶をする俺。相変わらずエネルギッシュで可愛らしい姿を見ると、なんだかこっちも元気になってくる。さっきまで散々メジャーに振り回されてたんだけどな。
ふと一つの物に目が止まる。右手にあった収納棚の空いたスペースに置かれた、写真やトロフィー。スカーレットやメジャーがまだ小さい頃に取った物だろうか。埃ひとつないそれらを見ていると、彼女達への愛情がひしひしと感じられる。
「どうしたの、大神さん? 早く行きましょ? パパが貴方に会いたくてウズウズしてるから!」
「すんません、今行きます」
ママさんに促され、靴を脱いで先に行くみんなを追いかける。1番後ろにいた賢治さんの横に並ぶと、俺はずっと気になっていた事を聞く。
「なあ、賢治さんってスカーレット達のパパさんに会った事あるんだよな? どんな人なの?」
「結婚の報告をした時に一度だけですけどね。とてもいい人でしたよ、僕達の結婚も喜んで受け入れてくれましたし。大神さんが思い描いていそうな、怖いお父さん、という事はないから大丈夫ですよ」
「そ、そーなんか……」
にこやかに笑いながら、俺に怖がる事はないと言ってくる賢治さん。しかし、逆に不安が増してしまう。
(それってもしかして……、単に賢治さんが優良物件を超えた優良物件だったからじゃねえのか……? 俺が賢治さん並にできた大人なわけないし、これはヤバいのでは……!?)
考えれば考える程憂鬱になってくるが、逃げ出す事もできず無慈悲にもパパさんが待つリビングへと着いてしまう。緊張で口の中が乾き始めた俺は、覚悟を決めて扉の先へ向かう。
リビングに入るとテーブルの椅子に腰掛けた男性がこちらへ気づき、浮かれた様子で近付いてきた。俺より身長が高くがっしりとした体付きながら、眼鏡をかけた理知的な顔で満面の笑みを披露しているこの人が──
「やあ、みんないらっしゃい。メジャーにスカーレット、賢治君も久しぶりだね、元気かい? そして……君が大神君だね! いやあ、会えて嬉しいよ。改めて、初めまして、僕がメジャーとスカーレットのパパです。よろしくね、大神君」
パパさんは俺を確認すると、少年のようにキラキラした目で握手を求めてきた。まるで有名人に会ったかの様な興奮っぷりだ。
「は、初めまして、大神勇斗です……。スカーレットのトレーナーやらせてもらってます。今日はお世話になります……」
恐る恐る握手を返し挨拶をする。第一印象は賢治さんが言っていた通り優しそうな人ではあるが、まだ油断はできない。ボロを出さない様に発言には気を付けなければ。
「まあまあ、そんな固くならないで。君はもう家族同然なんだ、僕にも遠慮はいらないからね、実の父親と思って接してくれていいよ。それと……来てそうそう悪いけど、大神君にして欲しい事があるんだけどいいかな?」
「はあ……何でしょうか……?」
俺に何を要求してくるのだろうか。ゴクリと喉を鳴らし続く言葉を待っていると、パパさんがモジモジしながら恥ずかしそうに言ってきた。
「その……いつもレース後にスカーレットを持ち上げてグルグルと回っているだろう? あれを僕にもやって欲しいんだ! テレビで見ていて僕も一度経験してみたかったんだよ!」
「ああ、分かりました…………え!?」
一瞬理解が追い付かず、反射的に肯定してしまったが、この人急に何言い出してんだ。確かにスカーレットには毎回、勝った後にそんな事はやってはいるが。それを自分にもやって欲しいなんて、もしかしてパパさんもメジャーに負けず劣らずの天然さんなのか?
パパさんはもうやる気十分の様で、腕を広げ今か今かと待ち望んでいる。助けを求めスカーレットの方を見ると、諦めろと言わんばかりの表情で顎を使って促してくる。メジャー達は見向きもせずにテーブルについているし、誰も俺に救いの手を差し伸べてはくれない。
半ばやけくそになった俺は、思い切ってパパさんの脇の下に手を差し込み、ご所望通り体を持ち上げ回りだす。
「おお! 本当に大神君は力持ちなんだね! これはスカーレットが喜ぶのも分かるなぁ、はっはっはっはっ!」
俺は一体何をしているのか、考えると悲しくなるからやらなかったけど。結局、パパさんが満足するまでやる羽目になり、今日イチでどっと疲れを感じる事となった。
「はーい、二人とも遊ぶのはその辺にして! みんなお腹空いてるだろうし、おせち食べましょ? 腕によりをかけて準備したから、お腹いっぱい食べてね!」
まあ、ママさんのおせち料理が美味しすぎて、そんな事どうでもよくなったんだけれども。