ダイワスカーレットと異世界勇者トレーナー   作:グリングリン

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 思ってる以上に、多くの方に読んで頂けているみたいで、嬉しい限りです!







ダイワスカーレットと始まる3年間

 トレセン学園にトレーナーとして、やってきて数日。未だ担当は見つかっていないものの、少しずつこの学園の一員として認められ、生徒たちや他の教職員とも軽く交流を持つくらいには上手くやれていた。

 

「よし。これで全部だな?」

 

「は〜い。ありがとうございま〜す!」

 

「ホントに助かりました!トレーナーさん!」

 

 俺は今、生徒たちと一緒にトレーニング用具を片付けている。現状の自分が出来る仕事は、簡単な雑用と力仕事ぐらいなもの。トレーナーの勉強をしつつ、暇な時間は手伝えることに片っ端から手を出していた。

 そのおかげか、生徒との距離はかなり近づいていた。それこそ、近所の気のいい兄ちゃんぐらいには。

 

「トレーナーさ〜ん。私の担当になってくださいよ〜」

 

「そうです!今担当いないんですよね!?わたしもお願いしたいです!」

 

「おう。今気になってるやついるから、そいつのスカウト失敗したら、そん時は担当にしてやるよん」

 

「うわ〜、さいて〜い」

 

「ホントに最低ですね!?」

 

「へへっ、よせやい。照れるぜ。ってか、もう昼休みだろ?早く飯食ってこいよ。こんなとこで俺と駄弁ってないで。」

 

「は〜い。じゃあ、またね〜」

 

「失礼します!トレーナーさん!」

 

 二人のありがたいお誘いをやんわりと断って、自分もトレーニングルームを後にする。

 

『2着じゃダメなのよっ!!アタシは1番じゃなきゃいけないの!!』

 

 あの日から、ダイワスカーレットとは一度も会えていない。何度か会いに行こうとはしたのだが、タイミングが悪かったり、他のトレーナー達のスカウトを受けていたりと中々話しかけられずにいた。

 幸い、まだ誰かと契約を交わしてはいないらしいが。

 

「はあー……どうしたもんかなぁ……」

 

「どうしたんですか?ため息なんかついて?」

 

「んえ?」

 

 後ろを振り向くと、緑色の制服を着た超絶美人のお姉さん、理事長秘書のたづなさんがいた。

 

「なんだ、たづなさんか。……いやまあ、ちょっーとな?考え事っつーか」

 

「あら?あなたでも悩むことがあるんですね。意外です。」

 

「いや、ひどくない?ひどいよね?たづなさんの中で、どんだけ能天気キャラになってんの俺。」

 

 最近の頑張りのおかげか、たづなさんの態度は最初に会った時から、だいぶ柔らかいものになっていた。嬉しい反面、冷たさに拍車がかかっているのは気のせいだろうか。

 

「まあ、大神さんも頑張っているみたいですし、お話聞きますよ。何かアドバイスできるかもしれませんし」

 

 なんのかんの話を聞いてくれるらしく、彼女の隠しきれない優しさが垣間見える。

 なんだこの人。天使かよ。惚れるぞコラァ。

 

「……ダイワスカーレットって子をスカウトしたいんだけど、なかなか声をかけられてなくてさ」

 

「ダイワスカーレットさんですか……先日の選抜レースからかなり注目を集めていますけど、誰かと契約を交わしたという話は、まだ上がっていませんね。ですがそれも時間の問題です。彼女ほどの逸材でしたら、ひっきりなしにスカウトの話は舞い込んで来るでしょうから。」

 

「うーん……やっぱそうだよなぁ」

 

 たづなさんから話を聞いて、さらに焦る。今の段階で一度もアタックできていないこと、仮にアタックできても他のトレーナー同様、断られる可能性の方が高いはずだ。

 

「……?何を迷っているのか知りませんが、いつもみたいに空気も読まず彼女に話しかければいいのでは?」

 

「なんか一々言葉に棘がある気がしますけど……それが出来たら苦労してねーすっよ。俺結構人見知りなんですぜ?」

 

「えっ……!?」

 

 たづなさんが信じられないものを見たような目で、俺を見つめている。いやまじでたづなさんの中で俺の存在ってどう写ってるわけ!?一度ちゃんと話し合いたいですね!もちろん二人っきりでね!

 

「冗談はさておき、……それならもう、彼女が一人っきりの時を狙って、落ち着いてスカウトを持ちかけるしかないのでは?……これは内密にして頂きたいのですが……近頃、ダイワスカーレットさんが門限を過ぎても寮に戻ってこないことが多いみたいで。スカウトついでに様子も見てきてくれませんか?」

 

(もしかして、あの時の自主トレーニング……!あいつ、まだ続けてたのか……)

 

 おそらく、神社での自主トレを今のいままで続けているのだろう。思ったより、悠長にことを構えている時間はないようだ。

 

「そーいうことならまかせてくれ!俺もさっさとスカウトを持ちかけたいしな。今晩にでも探してくるよ」

 

「ええ、よろしくお願いします。期待してますよ、勇者さん♪」

 

「……っ!あっ、あんがとな、話聞いてくれて。助かったよ」

 

 フフッとあどけない笑顔を見せるたづなさんに、ドキッとしてしまう。たぶん素でやってるんだろうな、この人は。一体何人の男性トレーナーの心を釘付けにしているんだろうか。

 そんなたづなさんと話して、次の目的が決まった。今度こそダイワスカーレットをスカウトしなくては。俺は一層気合いを入れ直す。

 

「あっ、ところでたづなさん!明日の夜とか暇だったりします?せっかく日本にいるんだから、寿司でも数年ぶりに食いたいなーって思って!二人で行きませんこと?もちろん!ここの先輩である、たづなさんの奢りでいい……」

 

「それでは大神さん、スカウト頑張ってくださいね。」

 

「いや無視ッ!?俺への対応慣れすぎじゃない!?ちくしょー!!もっと優しくしてくれぇええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になり、俺は先日ダイワスカーレットと遭遇した神社に向かって歩いていた。昼間の間に、彼女をスカウトしに行ったトレーナー達から話を聞いたら、口々に「礼儀正しい優等生と聞いていたが、かなりの気性難」、「あの態度じゃ、ちょっと厳しい」だとか言われていた。

 他のトレーナー達も手を焼いているみたいで、最初よりもだいぶスカウトに訪れる数は減っているらしい。俺としてはありがたい話だが。

 

(っと、着いたか。……おっ!やっぱりいたな、あいつ)

 

「はあっ……はあっ……こんなのじゃ……!足りないっ!!……もっと、もっと……!」

 

 予想通り、ダイワスカーレットは神社にいた。この前と同じように、体に無理なトレーニングを続けて。

 

「よお。ずいぶんとまあ、無茶してるみたいだな」

 

「!?……あっ、アンタは……、あの時の?……いっ、一体何の用よ!」

 

「そりゃあもちろん、こんな時間まで外に出てる不良生徒をー?連れ戻しにきたわけですよ。」

 

「アンタには関係ないって言ったはずでしょ!?……それともなに?数日前のことも忘れちゃうくらい、お馬鹿さんなのかしら。」

 

 俺が急にやってきたことに焦っているのか、優等生もびっくりな口調で俺に口ごたえしてきた。しかも何気に俺のこと馬鹿にしてるし。

 

「……もしかして、そっちが素なんか?なんか優等生って聞いてたけど」

 

「…………そうよ。優等生、なんてそういう『フリ』してるだけ。ほんとのアタシはこっち!……他のトレーナーが言ってる通り、頑固でワガママな気性難よ。どう?幻滅したかしら?アタシはアンタの言うことを素直に聞く気はないわ。わかったら、とっとと居なくなって!」

 

「悪いがそれはできねぇな。連れ戻しにきたってのは建前で、本当はお前に聞きたいことがあってきたんだよ」

 

「なっ、何よ……?」

 

 俺が真剣な目でダイワスカーレットを見つめると、彼女も察したのか喉をごくりと鳴らし、話を聞く態勢に入った。

 

「おめぇ前に、言ってたよな。2番じゃだめだ、1番じゃなきゃいけないって。……なぜそこまで1番であることにこだわるんだ?」

 

 彼女が何故1番にこだわるのか。一体何が彼女を掻き立てているのか。その思いを、気持ちを、ダイワスカーレットの本心を聞いておきたかった。スカウトをする前に。

 

「……この学園に来るまで、アタシにとって1番であることは当然で、誇りだった。1番になることで、アタシはアタシを認められるし、家族も喜んでくれるから、アタシは1番であることが好きだった……。でも、それもただの驕りで、結局……ここに来たら、ウオッカみたいな『本物』の速い子に、あっさり負けて……」

 

 ダイワスカーレットがゆっくりと、自身の思いの丈を吐いていく。拳をギュッと握り、目に涙を溜め、強く、強く、悔しさを滲ませながらさらに言葉を続ける。

 

「1度ウオッカに負けたぐらいで、拗ねてヤケになって、自分でもバカだなって思うわ。それでも……それでも……!アタシは1番じゃなきゃ許せない!!納得いかないの!!1番速くて1番強い!1番みんなに認められる、1番注目されるアタシじゃなきゃ嫌なの!……そうじゃなきゃ絶対満足できないんだから……そういうふうになっちゃったんだから、しょうがないじゃない……!アタシはっ、アタシのために1番だけを取り続けなきゃいけないのよ!」

 

「そうか……」

 

 彼女はどこまでいっても、ワガママで不器用な女の子だった。誰よりも負けず嫌いで、決めたことには一直線で、自分の思い通りにいかないと満足できない、なかなかに面倒くさい女の子。

 だけどそれは、俺の心を釘付けにして、さらにスカウトしたい欲求を最高潮まで高めさせた。こんなおもしろそうなやつ、見逃す手はねぇ。

 だが誘う前に一つ、話しておかなくてはいけないことがある。

 

「おめぇの気持ちはよーくわかった。……ただ一個だけ、おまえさんに言っときたいことがある。」

 

「……何よ?」

 

「1番にこだわんのはいいが、1番以外を否定すんな。お前以外も一生懸命走ってるやつはいんだから。2着にも3着にも、もちろん最下位にだって意味はある。……だからよ、2着じゃダメだなんて言うなよ。じゃないとお前に負けた、他の子たちに怒られるぜ?」

 

「っ!……それは……!」

 

「今の自分を受け入れてやれ、ダイワスカーレット。今の自分を受け入れて、明日の自分を信じんだ!そしたらきっと上手くいくさ。今の自分を受け入れられなかったら、明日もずっとそのままだろ?……急がなくていいからさ、その後にまた1番を目指せばいいさ。」

 

「今の自分を……受け入れる……」

 

 そう、2着だっていいのだ。何着だって。その結果を受け入れて、次に活かせばいい。そうすれば、1番にだって、何にだってなれるはず。

 一度の失敗に心を悩ませるより、そうやって前向きに考えていた方が、絶対に楽しいからな。

 

「まっ、こんなとこだな。俺が言いたかったことは。……あんまり真に受けなくていいぜ、完全に俺の主観だしな」

 

「……そんなことないわ、今のアタシがどれだけ周りが見えてなかったかわかったもの。……そ、その……ありがと。すぐには無理だけど、今のアタシを受け入れてみるから……」

 

「おう!それでいいさ」

 

 どうやら少しでも、俺が伝えたいことが彼女の心に届いたみたいだな。

 さて!こっからが勝負だ。どうやってスカウトしよう。キザっぽい口説き文句で、カッコよくいくか?それともいっそのこと、シンプルに「俺の担当になってくれ!」とか……

 

「ふう……それじゃあ、ありがたいお説教はこれで終わりかしら?アンタももう帰りなさい。アタシも……いや、やっぱりちょっとだけ走っていくわ。安心して、軽く流すくらいだから、すぐ帰るわよ!それじゃあね!」

 

「ちょっぉぉぉぉぉおおと!?まってええええぇぇえ!?俺まだお前のことスカウトしてないんだけどおおぉぉぉおお!?」

 

「…………は、はぁ!?」

 

「あっ、いや、その〜……」

 

 やっべぇぇ、あまりにもスムーズにあいつがこの場を立ち去ろうとするから、つい勢いで言っちまった。

 どうする?いや、このまま押し切るしかない。いけ!大神勇斗!このチャンスを掴み取るんだ!

 

「アンタ、アタシの話聞いてたでしょ!?アタシは1番にこだわる事しかできない、ただの頑固で面倒なヤツだって!他のトレーナー達だってそんなアタシに呆れて、もうほとんど話しかけに来なくなったわ!……それなのに、なんで……?」

 

「…………知ってるよ、お前がどれだけ面倒なヤツかぐらい。……そーいうとこひっくるめて、俺はお前に惚れたんだ」

 

「………………ふぇ!?」

 

 ボンッと音を立てて、みるみるうちに顔が真っ赤になっていくダイワスカーレット。そんな彼女をよそに、さらに言葉を紡ぐ。

 

「俺は惚れたんだよ、お前の走りに。馬鹿みたいに1番を目指すその心に。初めて見た時から、ずっと目が離せなかった。こいつといっしょにいたら、どんだけおもしろい事が起きるんだろうって。……だから、改めてもう一度言うぜ」

 

 俺は姿勢を正し、今一度ダイワスカーレットの目を見て、1番言いたかったことを伝える。

 

「俺にお前のトレーナーをさせてくれ、ダイワスカーレット!」

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

 伝えたいことは伝えきった。俺の心からの思い。勢いで喋ったため、かなり恥ずかしい言い方になってしまったが。後はもう彼女の答えを待つだけだ。

 

「……アタシは、そうやすやすとアンタの言うことなんか聞かないわよ……!」

 

「ああ、だろうな」

 

 ダイワスカーレットは涙ぐみながら、ポツリポツリと口を開く。

 

「納得いかなきゃ、トレーニングメニューにもめちゃくちゃ口出しするんだから!……その覚悟、できてるわけ!?」

 

「おう、俺も反論しまくるからな!ドンときやがれってんだ!」

 

「…………な、なんなのよ、アンタ。本気で……アタシと……一緒に……」

 

「そう、一緒にだ。1番のウマ娘を目指すんだろ?なら俺はお前にとって、1番のトレーナーになってやるよ!」

 

「…………ッ!!」

 

 ああ、そうだ。俺はこいつと一緒に1番を目指してみたいんだ。他の誰でもない、彼女と共に。

 

「……ふん。ヒトの口癖取らないでくれるかしら?それに、アンタ自分で1番にこだわりすぎるな、みたいなこと言ってたじゃないの」

 

「それはそれ、これはこれ、だ!どーせやるんだったら、1番がいいに決まってるだろ?」

 

「ほんと……っ、変なヤツに、捕まっちゃった……っ。」

 

 ダイワスカーレットは、俺の前だというのに、今まで抱え込んでいたものが決壊したかのように思いっきり泣いた。

 そうして、思う存分泣き終わった後──

 

「……人前で泣くとか、いつぶりかしら。それに、よりによってアンタの前でなんて」

 

「一丁前に照れてんのか。ハハッ!かわいいとこあんじゃねぇか」

 

「うっさいわね!……ほんと、なんでアンタなのよ……。はあっ〜……アンタ、名前は?」

 

 目を赤く腫らしたまま、彼女が名前を聞いてくる。そういえばまだ名前を言っていなかったのか。スカウトするのに夢中になって、忘れていた。

 

「俺は大神勇斗!つい最近、トレセン学園に来たばっかの新人トレーナーだな!」

 

「あっ、そう。……じゃあ、改めて。アタシはダイワスカーレット、1番を目指すウマ娘よ。……これからよろしく。トレーナー。」

 

 これからよろしく。それはつまり、俺を彼女のトレーナーとして認めてくれたということで。

 

「っ!ああ!こっちこそ、よろしくな!スカーレット!!」

 

 

 こうして、大神勇斗とダイワスカーレット、二人の1番を目指す3年間が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?これからどうするわけ?トレーナー?」

 

「うーん、……そうだなぁ」

 

 ある程度吹っ切れたようには見えるが、スカーレットに以前のような自信に満ちた覇気は感じられない。

 この状態を改善しないと、この先には進めないだろう。ならやるべき事は一つ。取られたものは取り返せばいいのだ。

 

「……ウオッカに勝つぞ、スカーレット」

 

「…………はあっ!?いきなり何言って……!?」

 

「ウオッカに折られた自信は、ウオッカに勝って取り戻す!ウオッカに勝負を仕掛けるぞ!スカーレット!!」

 

 

 

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