ダイワスカーレットと異世界勇者トレーナー   作:グリングリン

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戦いの決着と甘い誘惑

 

「ほらほらどうしたぁ! 太刀筋がヨボヨボしてるぜ。おばあちゃんの真似事か? だとしたら上出来だな!」

 

「うるっっっっさいわよ!!」

 

 大神の煽りに呼応してスカーレットの振るう剣に力がこもる。触れればどんな物でも切り裂いてしまうほどの威力を持った剣閃。その一つ一つが必殺たり得る彼女の攻撃を大神は全て捌いていく。人差し指一本だけで。

 

 超サイヤ人と化した大神はスカーレットとクリークの猛攻を苦にもせず、手加減をした上で軽くあしらっていた。今も指一本でスカーレットの剣を受け止めており、その余りに隔絶した実力に二人の勢いは最初に比べて明らかに削がれていた。

 当の本人は「今のオレトランクスと手合わせした悟空みたいじゃん」と内心盛り上がり、超サイヤ人特有の興奮状態と合わせてテンションがハイになっているのだが。

 

 空中で戦っていた大神はふと目線を下に送る。地上ではクリークが両腕を前に突き出して魔法を展開している。額には珠のような汗が湛えられていてその疲労が窺えた。

 

 それもそのはず。クリークは戦闘開始からずっと魔力を全開に解放し、スカーレットへの補助、防御魔法と大神への妨害魔法の合わせて三つの魔法を発動し続けているのだ。

 しかも既に三時間以上経っている。その間一度も途絶えずに行使しているのを考えると、クリークも人外を超えた領域に足を突っ込んでいるのが分かる。

 

(でももうちょっと妨害系の魔法はレベル上げて欲しいのぉ。決して弱い訳じゃないんだが、今のオレには通用しねぇ。格上にも刺さるように強化出来ればいいんだが、クリークは優しいからなぁ。相手に嫌がらせすんのは気が乗らねぇんだろうか)

 

 超サイヤ人になった大神にクリークの魔法は悉く効き目がなかった。というのも金縛りや催眠などの特殊効果はある程度の実力差があると打ち消されてしまう。

 それに加えクリーク生来の性格も相まって、妨害系の魔法を率先して鍛えていなかったというのもあるのだろう。現段階のクリークの力ならば充分超サイヤ人に対抗できるはずであり、これが今後の課題とも言える。

 

「よそ見なんかして余裕かましてぇ!!」

 

「おっと」

 

「んなっ!?」

 

 クリークの方を見ていた隙を見逃さずスカーレットが素早く突きを打つが、剣先が当たる寸前で大神の体が消える。突然目の前で消えた大神を探すべく辺りを見回し、神経を研ぎ澄まし気配を追うがその姿は見当たらない。

 当然、クリークの視界からも大神は消失しており彼の気を感知しようとするがセンサーには反応しない。恐らく気のコントロールで自分のエネルギーを限りなくゼロに近く落としたのだろう。

 

 どこからどのタイミングで大神の攻撃がくるか分からない恐怖と緊張に包まれるスカーレットとクリーク。全神経を集中させて大神の奇襲に対応できるよう構えていたが──

 

「ちょっと硬くなりすぎだな。逆に隙だらけだぜ、クリーク」

 

「ッ!?」

 

 クリークの背後から声がかかる。咄嗟に振り向き速攻で自分に防御魔法をかけるが、時すでに遅し。シールドが展開しきる前に接近を終えた大神は、形成途中の障壁に対し撫でる様に右腕を上げるといとも容易く破り去る。

 

「せいっ」

 

「きゃぅ」

 

 そのまま上げた腕を振り下ろしクリークの脳天にチョップを叩き込む。軽く小突く程度の勢いではあるがその威力自体は意識を刈り取るには充分なものであり、避ける間も無く攻撃を受けたクリークは膝から崩れ落ち戦闘不能に陥った。

 目をくるくると回し倒れ込むクリークを腕で受け止め地面へと寝かせる。外傷もなく一時的に意識を失っているだけで特に問題はなく、大神は彼女から目を離し上空にいるスカーレットへと向き直る。

 

「らああああああああああああああああっ!!!!」

 

「──ッ!」

 

 しかし空には既にスカーレットの姿はなく、お返しと言わんばかりに大神の後ろに回り込み全霊を込めた一撃を放つ。

 ここまで戦い続け消耗し切ったスカーレットに残された僅かな魔気力を一気に解放する。奇跡的に不意を突いた最後のチャンス。勝利への執念が生んだ渾身の一刀にスカーレットは勝ちを確信する。

 

 この距離では流石の大神も避けることは勿論、防ぐことも儘ならないはず。スカーレットの剣が紅く染まり空気諸共大神の体を巻き込んで砕き尽くさんと唸りを上げる。

 狙い通り剣は体の芯を捉え、確かな手応えを感じたスカーレットは大神の体を吹き飛ばすためさらに力を加え真横に振り抜いた。

 

「えっ!?」

 

 しかし大神の体が折れることはなく、あろうことかスカーレットの剣が彼の胴体の強度に負けて中程からへし折れてしまった。

 魔気力で精製された彼女の剣は無惨にも空中へと霧散してしまう。

 

 何が起こったのか瞬時に理解できないスカーレットに大神はいつものおどけた調子で口を開く。

 

「いやぁ今のは惜しかったな! 気づいてないかもしんねぇけど、クリークの強化魔法がもう切れてるぞ。かかってたらワンチャンあったかもしんないけどな〜。先にクリークを倒したオレの作戦勝ちだな!」

 

「そんな……」

 

 大神が言うようにクリークの魔法の効果が今のスカーレットにはかけられていない。クリークが気を失ったことにより、それまで付与されていた強化魔法が解除されてしまったのだ。

 大神の後ろへと移動した時までは残っていたのだが、肝心の攻撃のタイミングでクリークの魔法は役目を終えており、スカーレットの力は極端に弱まっていた。

 

 強化された状態ならまだしも通常時の力、更にはヘトヘトになった今のスカーレットに超サイヤ人となった大神に決定打を与えることは不可能に近い。

 

「というわけで、おつかれさん」

 

「ぐえっ」

 

 最後の攻撃が失敗に終わり、武器も砕け残る力も使い切って殆ど戦意喪失しているスカーレット。そんな彼女に大神は勝負の決着をきっちりつけるため右手の人差し指で額を押すように突く。

 抵抗することもせず受け入れるように大神のトドメの指突きを喰らったスカーレットの体はゆっくりと後ろに倒れた。

 

 地面にぶつかる前にスカーレットの肩を抱えて優しく抱き止める。あっさりとした幕引きだが、急遽始まった三時間を超える師匠と弟子達の本気の組手は結果的に大神の圧勝で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 スカーレット・クリークコンビとの初の本気の試合を終えた俺は、気絶している二人に回復を施し学園へと帰ってきていた。

 トレーナー室へと戻りお茶とケーキを食べる準備をする。彼女達には自分に勝てたらプレゼントすると言っていたが、想像以上に強くなっていたご褒美ってことで二人に適当な理由をつけて納得してもらった。

 

 もともと渡すつもりではあったからな。二人には悪いがあの条件はやる気を出させる為だけのものなんだ、許してくれ。その代わりケーキ死ぬほど食っていいから。

 

「ほれ、あーん」

 

「ん……っ、う〜ん! ホントに美味しい! ほっぺたが落ちるって言葉の意味が分かる気がするわ!」

 

「大神さん私もお願いします〜」

 

「へいへい、そら口開けろ」

 

 というわけで今まさにご褒美タイムなわけだが、ソファの真ん中に座った俺は、何故か両脇でこれでもかと密着してくるスカーレットとクリークの口にケーキを運んでいた。

 

 というのもスカーレットが言った「あんな理不尽なことをしたんだから少しはこっちのわがまま聞きなさいよね!」の言葉を受け入れたところケーキをあーんして食べさせてという、やろうと思えばやれるが中々に小っ恥ずかしい要望が返ってきたからだ。

 甘えさせることが好きなクリークも珍しくこの提案に乗り気で、二人の美少女に餌付けをするという他の男が見たら羨ましがるだろう光景が出来上がっていた。

 

 この行為自体は別にいいのだが勘弁して欲しいのは二人が馬鹿みたいに俺にくっ付いてくることだ。テーブルに置かれたケーキをフォークで一口大に掬い口の前に持っていく、それだけのことであり恥ずかしさもすぐに消えた。

 しかし体が触れ合うのは全然慣れねぇ。極限まで密着した女性特有の柔らかな肢体に、男を誘惑するフェロモンでも入ってんのかと思うほどの甘い香りが俺の理性をもんのすんごい勢いで削っていく。

 

 そして何よりやばいのが。

 

(おっぱいがおっぱいがおっぱいがああああああああああ! 俺の右腕に二つ、左腕に二つも柔らかい感覚が、確かな肉感が、男にはないふっくらしっとりした感触がぁ! パイパイパイパイパパーイ! うおおおおおおおお! 俺の股間が真っ赤に燃える! おっぱい掴めと轟き叫んでるぅぅぅぅぅぅぅ!!)

 

 二人のたわわに実った果実が惜しげもなく俺の両腕に押し付けられていることだ。ただ密着しているだけならここまで取り乱すことはないはずなのだが、どういうわけか彼女達は腕を絡めその双丘が凹んで変形するほど体を寄せてきている。

 そのおかげか俺は規則的に手を動かし彼女らに餌付けをしながらも、頭の中は初めてまともに接触したおっぱいのことでいっぱいだった。

 

(落ち着け、落ち着くんだ大神勇斗。二人は学園の大切な生徒で俺の弟子なんだ。いくらこの世界がトレーナーと教え子の恋愛に寛容だからといって、そう易々と受け入れることはできねぇ……! それにスカーレットとは7歳も差があんだぞ、色々やべぇはず……ん? 待てよ、その理論でいくとクリークは年近いし別にいいんじゃねえか……? つーかスカーレットももう体自体は大人と大差ないし、合法なんじゃ……?)

 

 俺の理性はもう駄目だった。どうにか理由をこじつけて大切な彼女達の体に触れようと思考するその心は、かつて勇者として一つの世界を救った面影はなく呆れるほど純粋な欲望に塗れた醜い男のモノだった。

 

「ねえ! 聞いてるの、トレーナー?」

 

「あ、ああ……すまん……。おっぱいのこと考えてて聞いてなかった……」

 

「いや……そんな真剣に言われてもそれはそれで恥ずかしいんだけど」

 

 ふとスカーレットの声が耳に入り我に帰る。どうやら邪な考えを巡らせている間、何やら俺に話しかけていたらしい。正直助かった。あのままでは性欲という激情に支配され、超えてはいけない一線を超えていたはずだ。

 交際もしていない女性の胸を触ろうなどと、なんと恐ろしいことを実行しようとしていたんだ。おいどんは恥ずかしか、性犯罪者と言われても否定できねぇ。

 

 まあ冷静になっても憧れは止められない訳で、結局俺はこっそりバレない程度で二人の胸に腕を押し込んで甘美な感触をさらに味わっているのだが。

 

「そんなことより教えなさいよ、超サイヤ人のこと。あんなとんでもないのがあるなんて聞いてなかったわよ?」

 

「まあな、あれは切り札みたいなもんだしおいそれと使うわけにはいかなかったからな。それを使わざるを得ないほど追い込んだんだ、おめぇたち大したもんだよほんと」

 

「あれほどの強大な力ですから、何か使用時にデメリットがあるのでは?」

 

 スカーレットに超サイヤ人のことを教えるとクリークが疑問を投げかけてきた。二人とも初めて見たあの力に興味津々なのだろう。それまで一心不乱にケーキへと向けられていた目が今度は俺に注がれていた。

 

「いや特にデメリットはないかな。少し興奮状態に陥って態度とかがデカくなって無駄にカッコつけちまうぐらいかな」

 

「なにそれ。反則じゃない」

 

「ああ、でもなんか寿命が縮まるとか言ってた気もすんな」

 

「全然デメリットあるじゃないですか!?」

 

 寿命が縮まる、その言葉にクリークは驚愕し俺を心配するあまり声を荒げる。彼女が不安になるのも分かるが俺自身はあんまり気にしていない。

 この寿命が減るという説も確か原作で界王神のじっちゃんが一回言ったきりだし、ぶっちゃけ信憑性が少ない気もしない。実際減ってる感覚もないしな。そんなの分かる訳ないと言われたらそれまでだけど。

 

「慌てんなってクリーク。短くなってる、つってもたかが数年だと思う。人生100年、そっから少し引かれるだけだ。そんくらいなら安いもんだろ」

 

「そうですか……。貴方が納得しているのならそれでいいんです」

 

 全て受け入れたというわけではないが、俺が特に気にしていない様子を見てクリークもそれ以上追求してこなかった。彼女をこれ以上不安にさせないためにも超サイヤ人の乱用は控えないとな。

 

「あとこれになるのにすんげー苦労したんだぜ? 最初は一つも変身できなくてよぉ」

 

「ふーん、修行して強くなれば出来るんじゃないの?」

 

「一定の強さは必要なんだが、それに加えて穏やかな心を持ちながら激しい怒りを起点にこの変身が可能になるんだよ。そいつがもう大変でさぁ」

 

 超サイヤ人への覚醒条件はドラゴンボールを穴が開くほど読みまくっていたので既に分かっていたのだが、それを実行するのはめちゃくちゃ厳しいものだった。

 特に最後の鍵となる激しい怒り。やっとこさ達成したその時のことはあまり思い出したくはない。他人をあれほどまでにぶち殺してやりたいと怒りと殺意に目覚めたのは、後にも先にもあの日が最初で最後だろう。

 

 胸糞の悪い話だし詳細を話す気はないのだけれでも。

 

「てかそれを言うならおめぇらの成長ぶりにも驚いたぜ? 特にクリーク。あの強化魔法いつの間に覚えてたんだ?」

 

「私が大神さんと一緒に修行できるのは貴方の空いた時間だけでしたから、必然的に一人で訓練する時が多かったんです。その間に覚えた魔法は貴方を驚かせたくて秘密にしてました。ふふっ、喜んでもらえてよかったです!」

 

 超サイヤ人の話を切り上げて今度はクリークへと質問を投げる。最初に使っていた強化魔法『ブーストアップ』他人の力を何倍にも上げてしまう強力な魔法は、どうやらクリークオリジナルの必殺技だったらしい。

 話を聞くとあの技はまだ完成していないらしく、上げられる倍率は五倍まで、かけられる人数も一人が限界だそう。

 

 それでも絶大な効果であるし未だ成長段階であることを考えるとこれほど頼りになる魔法はない。そのことを伝え手放しに褒めてやるとクリークは子供のように喜んでいた。かわいい。

 

 スカーレットも褒めてほしそうにソワソワしていたので、剣の精度や技のテクニック、俺と戦い続けられるパワーとスタミナ、それに一瞬一瞬の判断力が予想以上にレベルアップしていたことを感じたままに褒めちぎってみた。

 それを聞いたスカーレットは「当然でしょ!」と言いながらも、俺の背中に尻尾がぶつかるほどブンブン振って喜びを隠せない様子だった。かわいい。

 

「そもそも今回は超サイヤ人になる気はなかったからな、二人とも本当に強くなってるぞ。あとはこれを実戦でも出来るようになれば完璧なんだが……」

 

「実践……ですか……?」

 

「……最近、魔物がこっちへやってくる頻度が極端に増えてんだ。理由は分らんが近い内に何かヤバいことが起こるのは間違いねぇと思う。そん時はお前たちの力を借りることになるかもしんねぇ……」

 

「「……!!」」

 

 彼女達に要らぬ心配をさせぬよう黙っていたが、今日の戦いぶりを見て大丈夫だろうと判断した俺は裏で起こっていたことを教えることにした。

 

 今年に入ってから魔物の出現が増加している。それも異常なほどに。以前と変わらずゲートを開かずに何処からともなく現れる魔物達。俺と風太で速やかに対処できているため未だ人的被害はゼロだが、いつその守りが崩れるかは分からない。

 さらに厄介なことに一度に現れる数が複数に変化しているし、二つの地点に同時に現れるなんてこともあった。

 

 そして何より謎なのが毎回決まった所に魔物達が現れるということ。オグリキャップとがうがうに初めて出会った学園近くの公園と、ここから北にある俺と風太が前に戦った時の山だ。

 何故この二箇所からしか出てこないのかは分からないが、対応しやすいのでこちらとしてはありがたかった。

 

「と、こんな感じでな、情けない話だが今んとこ原因がわからねぇ。だからこの先、俺達だけじゃどうしようもない時は二人にも手伝ってもらうしかない。悪いが……頼めるか……?」

 

「はい。もちろん」

 

「言われなくてもやってやるわよ。その為にアタシはこの力をつけたんだから」

 

 二人から力強く頼もしい声が返ってくる。本当は最後まで巻き込みたくはなかったが、今の成長した彼女達なら自信を持って任せられる。俺の心配は杞憂で終わりそうだ。

 

「さて! ちょっと暗い話しすぎたな、悪い。まだケーキは残ってるしよ、じゃんじゃん食べてくれ!」

 

「それもそうね。でもその前に……」

 

「ん?」

 

「そろそろ押し付けてる腕の力弱めてくれない? 流石に痛くなってきたわ」

 

「え?」

 

 俺の腕を指差してそう言ったスカーレットは、「バレないと思っていたの?」とでも言いたげな呆れ顔をしている。バレてるやん。

 恐る恐るクリークの方にも顔を向けると、困ったような笑顔でこっちを見ていた。やっぱりクリークにも気付かれていたらしい。まずい。

 

 しかも無意識のうちに俺の体はさらなる癒しを求めていたようで、腕に力が入りまくっていた。そりゃバレるに決まってる。

 どうにか弁明しなければ。いつもの変態発言とは今回のは訳が違うのだ。自分でやっといてなんだが、彼女達に嫌われたくはないのです。

 

 しかし予想に反してスカーレットは怒ることも、嫌がる素振りもせず絡めた腕を離すこともしなかった。

 

「アンタが女の子の胸が好きなのは知ってるけど少しは自重しなさいよね? アタシ達だからいいけど、他の子にやったらとっくのとうにぶっ飛ばされてるわよ」

 

「それを防止するために、私の胸ならいつでも飛び込んでくれていいんですよ?」

 

「いや、やらねぇよ!?」

 

 俺に反省を促すぐらいでスカーレットは特に気にしてなさそうだし、クリークに至っては俺を誘惑してくる始末。その真面目な目を見ると二人とも俺をからかっているわけではなさそうだ。

 女性経験ゼロの俺でもここまで露骨にアピールされれば流石に分かる。彼女達が俺に好意があるだろうということを。

 

 漫画やアニメに出てくるような美少女に勘違いでなければ好かれているのだ。嬉しくないわけがないのだが、正直なところつらい。

 スカーレットとの年の差だったり、生徒に手を出すといった問題を取っ払ったとしても、そもそも俺はこの世界の住人ではないし、いつまた別の世界へと飛ばされるかも分からない。

 

 そんな不安定な状態でもし関係を持ってしまったら、俺と付き合った女性を悲しませてしまうことは目に見えてる。そう簡単に彼女達の想いを受け入れることはできない。

 

 とまあそれっぽい理由を並べてみたが、実のところヘタレているだけである。だって怖いもん。女の子とこんないい感じになったことないし、上手くやれる自身ないわい。

 

 そんなわけで俺は鋼鉄の心を持って二人からの積極的なアプローチを耐える腹づもりなのだが。

 

「アンタの筋肉ってホントに凄いわよね……。アタシの体堪能したんだから、こっちも少しぐらい触っていいわよね……」

 

「今度は私が食べさせてあげますね。はい、あ〜ん」

 

 この調子だと遠くないうちに我慢の限界が来るだろうことは明白で、俺は頭を抱えるしかなかった。

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 四月初週、阪神レース場──。

 

『1000m57.9! ハイペースで刻んでいますダイワスカーレット!先頭につられて後続もペースが上がっている! 今年の仁川は激しい消耗戦となるのか!』

 

 G1大阪杯。俺とスカーレットは休み明けの大事な一線にこの舞台を選んでいた。叩きのレースを使わずにG1直行を選択したのは、秋に間隔を詰めて使いすぎたので一度大きく休養期間を取りたかったから。

 相手を舐めている訳ではないが、今回のメンバーレベルはあまり高いとは言えないので実質、このレースが俺達にとっては春のグランプリに向けての叩きと言っても過言ではない。

 

 G1が叩き扱いとは贅沢な話だが、それだけの実力が今の彼女にはあると自負している。

 

「にしても無茶すんなぁ。あんなラップで逃げたことないくせに、飛ばしまくっとる。こりゃスカーレットの対策してきた子たちが気の毒だな……」

 

 今回はスカーレットに対して特にアドバイスを出していない。復帰初戦だし無理のない範囲で好きな様にやれとだけ言ってある。その結果がこの超ハイペースだった。

 普段の彼女からは信じられない後先考えない飛ばしように、観客や共に走っている他の選手たちの困惑が手に取るように分かる。特に今までのミドルペースを刻むスカーレットの走りを想定していた子たちにはたまったものではないだろう。

 

 一見、暴走としか思えない走りだが、スカーレットにはそんな常識は当てはまらない。観客席から諦めの色が見え始めるが、そんな思いを嘲笑うかのごとく彼女は先頭を軽々と走り続ける。そして──。

 

『ダイワスカーレットが突き放す! ダイワスカーレットが突き放す! 休み明けでも問題なし! 他を圧倒、完全勝利だ緋色の女王! 春のグランプリに向けて狼煙は上がった!!』

 

 そのままのペースで走りぬけ、他ウマ娘を寄せ付けず完封し勝利を収めた。ターフの上で人差し指を天に上げ勝利を示すスカーレット。その姿に今まで唖然としていた観客たちが一斉に沸き上がる。

 無尽蔵なスタミナで他者をすり潰す。G1という舞台でここまで鮮烈な光景を初めて見た者たちの熱気は瞬く間にレース場に広まった。

 

 今日のレースを見て誰もが思ったはずだ。このウマ娘は今年、どこまで行ってしまうのだろうか。我々は途轍もない歴史の一ページを覗いているのではないのかと。

 勿論、俺もスカーレットもこの先の未来にワクワクして、期待に胸を膨らませていた。

 

 

 

 

 ──しかし、数日後。その願いは魔族の襲来という最悪の悲劇によって打ち砕かれることとなる。

 

 






大阪杯のお話も色々と考えていましたが、収まりが悪かったのでほとんどカットしちゃいました。
ごめんね大阪杯くん……。でも今年の君はめちゃくちゃ豪華なレースになりそうだから許して。

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