前回更新から一月以上経ってるんですけど!サウジもドバイも終わってるんですけど!ほんとすんませんでしたァ!!
あ、大阪杯は逃げの豊が怖いのでジャック本命で!ディープ産駒の複勝適当に買いまーす!
「大猿ベジータに骨を砕かれて叫ぶ悟空のマネやります。ぎゃあああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!! ぐわあああああああああああああああああ〜〜〜〜〜っ!!!!」
「…………狂ったの、アンタ?」
「うるせいっ。こうでもしねぇとやってらんねぇよ、ちくしょう!」
行き交う人々の姿に学園関係者よりも一般人が多く、普段の生徒たちの喧騒よりも数段賑やかな雰囲気に包まれたトレセン学園。
その正門から校舎にかけての道に様々な屋台や出し物が展開されているど真ん中で、突然の奇行に走り出した大神とそれを見てドン引きしているスカーレットがいた。
「せっかくの祭りだっていうのに、警備の仕事なんてよぉ……。大事なのは分かるけど、俺も遊びたかったぞ……」
春のファン大感謝祭。年に二度開催されるファン感謝祭のうち春に行われるこの催し物が、今まさに学園を一際騒がしている元凶だった。
日頃応援してくれているファンのために開かれるこのイベントはウマ娘は勿論、学園スタッフも総動員で準備、運営にあたる。各職員に振り分けられる役割はくじ引きで決まり、殆どは生徒が企画した屋台や体育系のレクリエーションを裏でサポートする仕事に割り当てられる。
しかしその中でもはずれとされる役職が存在する。一日中敷地内を巡回しトラブルが発生しないか見張りを続ける警備の仕事。現在大神が嫌々行っているものである。
休憩時間はきちんと確保できるものの、結果的にこの楽しそうなイベントにほぼ参加できないという事実に彼のテンションはだだ下がり、先程の意味不明な行動でストレスを発散させるのも止む無しだろう。
「ぶーたれないの。休憩はちゃんと取れるんだし、その時に一緒に回るって約束したでしょ? だからね? ほら、頑張って」
「ああ、そうだったな! 頑張るとするかぁ!!」
スカーレットが慣れた手つきで見事に大神のやる気を回復させる。その光景にいつの間にやら取り囲んでいたギャラリーたちが拍手を送っていた。「やっぱあの二人キてるッ!」とか「尊い……」などと口々に呟かれていたが当の本人たちは気づかず、ファンのみんなに手を振ってその場を後にした。
二人はそのまま「ミストレセンコンテスト」が行われるステージがある中央広場へと向かう。大神の次の持ち場でありスカーレットが参加するためだ。
「つーか、ミストレって何を審査すんの? 見た目だったらウマ娘のみんな全員可愛いから1番を決めんの大変じゃね?」
「外見も判断基準だけど、流石にそれだけじゃないわよ。ファッションセンスを見られたりレースに対するスピーチもするの。色んな角度から評価を付けられるから、ミストレで1番を取るのってすっごく難易度高いんだから!」
「ふーん、そうなんだ」
「反応薄いわねっ!? せっかく教えてあげたのに!」
自分から聞いたくせに心底興味の無さそうな大神の様子に、腹を立てるスカーレット。しかし詫びることもなく大神は頭の後ろで腕を組み笑う。
「ははっ、悪りぃな! 質問した後に思ったんだけど、どうせスカーレットが勝つんだし別に知る必要ないかなってさ」
「なっ!? なによ、それ……! そんなんでご機嫌とろーなんて、そうはいかないわよっ! まったく……ほんっとにそういう所ずるいんだから……」
口ではそう言いつつも、尻尾は絶え間なくブンブンと動き、口元もにやけるのを抑える様に少しばかり口角が吊り上がっている。
そんな彼女を見て「チョロくてかわいい」と心の中で呟いた大神は、いつも通りのスカーレットの様子を確認して大いに安心していた。この調子ならミストレも楽勝だろう。先程の言葉はスカーレットをおだてるためでもあり、本心でもあった。
傍から見ればイチャついている様にしか見えないこの光景も、2年近くも続けていれば見慣れたものであり、側を通り過ぎるファンやウマ娘たちは微笑ましいものを見る様に眺めている。
「スカーレットちゃんも出るんだ? ミストレっ!」
と、そこへ話しかけてくるウマ娘が一人。声のした方へ振り向くと、スカーレットより小柄でライトグレーの髪を短く切り揃えた、黒いメンコと赤いリボンが特徴的なウマ娘がニコニコしながら立っていた。
「……だれ?」
「カ、カレンッ!?」
スカーレットにカレンと呼ばれたウマ娘──カレンチャンは可愛らしい笑みを浮かべながらも、どこか残念そうな表情をしていて初対面の大神でも彼女が気を落としているのが分かった。
「そっかぁ〜……じゃあカレン、負けちゃうかもだね。……だってカレンじゃ、かなわないもん。相手がスカーレットちゃんなら」
「お、おい……、そんな卑屈にならんでも……」
「でもスカーレットちゃんのトレーナーさんだって私が勝つなんて思ってないでしょ?」
「いやっ……! それは……」
「それに、私なんて最初っからビリだったのかも。『普段着てる服』って聞いて制服かなって勘違いした時から、ずっと。いくらグランプリになりたくても、これじゃあダメだよね……ぐすっ」
カレンチャンは口を開くたび、どんどんとローテンションになっていき終いには泣き出してしまうほどに自分を卑下し続けた。
突然現れて自分を呪い始めた情緒不安定さに呆気を取られながらも、「俺が守ってやらないと」と庇護欲にも似た情を掻き立てられた大神は、スカーレットが傍にいることも忘れカレンを慰めに入る。
「な、泣くなって……! 確かに俺はスカーレットが勝つって信じてるけどよ、他のやつが勝つ可能性だって全然あるはずだぞ? カレン……だっけ? おめぇさんだって今日のために頑張って来たんだろ? だったらやる前から諦めんなって。制服着てたっておめぇさん凄え可愛いんだし、自信持てよ。な?」
「…………くすん、あなたって優しいんだね。ありがとう。なんだかカレン、心がポカポカしてきちゃった」
カレンが涙を拭い最初に見せていた心からの笑顔に戻る。その様子に大神はホッと胸を撫で下ろす。
しかし彼は気付いていない。カレンと二人で笑い合う後ろで、スカーレットが不機嫌そうに腕を組み無言の圧を全身から放っていることに。
そんなスカーレットの心中を知ってか知らずかカレンは大神へと一歩近づき、照れくさそうに甘えた声でスカーレットにとって聞き捨てならないお願いを言い出す。
「……あの、あのね。一つだけあなたにお願いしてもいい?」
「ん? なんだ?」
「……カレンのミストレ、応援しにきてほしいの。あなたがいれば……頑張れる気がするから」
潤んだ瞳でとんでもない要望を頼み出すカレンに絶句するスカーレット。余りの突拍子のなさに怒りすら湧いてこなかったが、すぐに焦ることはないと冷静になる。
大神はアタシの担当なのだ。あんなんでも自分に対する愛情は本物だし万が一にもアタシをほっぽって他のウマ娘の応援をする訳がない。
そう自分に言い聞かせ、さっさとこの場を去ろうと彼の腕を取って動き出そうとする。だが──。
「そんなんでいいなら、お安い御用だ。ちゃんと見てっからおめぇも頑張れよ!」
「えへへっ、ありがとっ! それじゃあね♪」
あろうことか大神は二つ返事で承諾し、それを聞いたカレンは花が開いたように破顔して足取り軽くご機嫌な様子でここから立ち去った。
そんな彼女を手を振って見送った大神は、その姿が見えなくなってようやく、後ろにいるスカーレットの存在を思い出す。
慌てて振り向いた大神の視界に映ったのは、目のハイライトが消え感情が死んだスカーレットだった。
明らかに怒りを内包した空気を放つ自分の担当に冷や汗が止まらなくなる。
「…………」
「さ、さーてと! 早く会場に行かねぇとな! 思わぬライバルの登場もあったし、こりゃ面白くなりそうだなスカーレット! はははっ……!」
「……なにデレデレしてんのよ、このバカトレーナー! アンタはアタシのトレーナーでしょ! なんでアタシ以外の子を応援しようとしてるのよ!」
「ま、まあいいじゃねぇか。別に減るもんでもねぇし。それにデレデレもしてないって。俺はお前のトレーナーだぜ? 他の子に目移りなんてしないって!」
「しーてーたー! アタシがくっついてる時と同じ顔してた! すっごいアホな顔してたし! ほんっと可愛ければ誰でもいいわけっ!? この節操なし! そんなんだから彼女の一人も出来たことないのよっ!」
「てめー! 言っていいことと悪いことがあるだろーがぁ!! 見てろよちくしょう! 今すぐにでも美人の姉ちゃん捕まえて彼女にしてやるってんだよぉ!! 待ってろマイハニーッ!!」
「何勝手に彼女作ろうとしてるのよっ!! そんなの絶対許さないんだから! アンタの1番が一体誰なのか、その体に思い出させてあげるわ!」
売り言葉に買い言葉。両者の言葉はそれぞれの逆鱗に触れ言い争いはヒートアップしていく。
元はと言えば大神がカレンにうつつを抜かしていたのが悪いのだが、彼女がいないことを煽られて頭に血が上った大神は、謝るよりも先に女を探しに行こうとする。
スカーレットはそんな大神の左腕に抱き着き、どうにかこの場に押し留めていた。
当人たちは至って真面目に喧嘩をしているのだが、周りからは仲の良いカップル恒例の痴話喧嘩にしか映らず、誰も止めようと行動を起こす者はいない。
しかしそこへ先程のカレンと同じ様にたった一人、近づいてくる者がいた。堂々と道の真ん中を歩いているのに誰の目にも止まらず、
「久しぶりおにーさん! 元気そうでよかった! 喧嘩なんかしてないで、わたしとあそぼーよ、ね? そっちの子も一緒にどーう?」
音も無く接近した彼女は空いている大神の右腕に絡み付き、気安く話しかけてきた。
その声を聞いてようやく二人は女の存在を認識する。突如霧の様に現れた人物にスカーレットは警戒心を強めるが、大神にくっ付いてるのが紺色の髪を頭の後ろで束ね、髪色と同じ耳と尻尾が生えた活発で愛らしいウマ娘であることを確認すると敵対心を剥き出しに食ってかかる。
「ちょっとアンタ、誰なのその子っ! またアタシの知らないとこで口説いてたわけっ!? このおたんこナスっ! 信じられな──」
「──うおおおおおおおおおおりゃああああああああああっ!!」
スカーレットが謎のウマ娘との関係を問い詰めるが、瞬間、大神が右腕を大きく振りかぶり掴まっていたウマ娘をぶん投げた。
「なっ、何してんのよっ!?」
流石のスカーレットも大神の行動に度肝を抜かれ非難の声を上げる。大神の力は人知を超えた領域であり、そんな彼が思いっきり人をぶっ飛ばしたのだ。一般人ならひとたまりもないだろう。スカーレットが驚くのも無理はない。
だが、予想に反して悲惨なことにはならなかった。大神に飛ばされ宙に投げ出されたウマ娘は空中で体を捻って勢いを殺し、そのままヒラリと一回転して舞を踊る様にゆったりと華麗に着地した。
あまりにも現実離れした光景に周囲の人間やスカーレットでさえ声すら発せずただ眺めていることしか出来なかった。
「急に現れたと思ったら、うすら気持ち悪ぃマネしてんじゃねぇ!! 一体何考えてんだ、くそ
「えっ……えぇ!?」
前方へ舞い降りたウマ娘へ悪態を吐く大神。さっきの愛くるしい笑顔から打って変わって見た者を魅了してしまう妖艶さで微笑む彼女にスカーレットは後ずさる。
さらに大神が口にした「神さま」という言葉にスカーレットの困惑は加速していく。
神さまは大神を転生させた張本人であり、いくつもの世界を管理する創造主でもある。
スカーレットが聞いた話によれば神さまは生きてきた重みを感じさせる皺の付いた顔に、立派な白髭を携えたいかにも神聖な出で立ちの老人だという。
目の前にいる彼女が本当にその神さまなのか。スカーレットが注視していると、その人はゆっくりと口を開いた。
「ほっほっほっ。久しぶりの再会だというに、あんまりな歓迎じゃのう勇斗。折角お主の好きなボンキュッボンのおなごに扮してやったというに。ほれ、どうじゃこの乳房? 揉みしだいて良いのだぞ?」
彼女(?)は見た目にまるでそぐわない厳格な口調に変わり、自身の胸を両手で持ち見せつける様に上下に揺らすといたずらに笑う。
その姿に大神は青ざめた顔をして珍しく本気で嫌がっていた。
「あんたに言われても一つも嬉しくねぇわ! 第一、なんでそんな格好してんだ!? 俺と会ってた時はじじいだったろ! この数年で何があったんだよ神さまっ!!」
「いやワシ性別ないからのぉ。一応威厳出すために爺さんの姿をしておったが、この世界には似つかわしくないからの。お主の目の保養のためにウマ娘になってみたのじゃ。どうだ? 可愛いじゃろ?」
「あれが……神さま……?」
俄には信じ難いスカーレットだったが、確かに眼前にいる人物からは他の者とは違う神聖さが溢れ出し、さらには誰もが持っている気や魔力を感じられないため只者ではないと認めるしかなかった。
「つーか今まで何してたんだ? こっちの世界に来るなら言ってくれよ、正直あんたの存在忘れてたしよぉ。もう会えないんじゃねぇかって諦めかけてたんだぞ」
大神は訝しげに神さまに疑問を投げる。大神にとって神さまは影ながら数年間も探していた人物であり、それが突然連絡も無しに現れたのだ。怪しさ満点だろう。
「まあまあ、積もる話は後にして、ワシがこの世界に来た理由なんて一つしかないじゃろう? お主も薄々気付いとるはずじゃ」
「……は? まさか、おめぇ……!?」
神さまの不安を煽る言葉で大神の脳裏には最悪の光景が思い浮かぶ。数ヶ月前から大神たちの間であった不安要素。
それがよりにもよって今日という、祭りの最中にやってくるというのか──。
「そのまさかじゃ。来るぞ、魔族どもが──」
「「!?」」
神さまが真剣な眼差しでそう告げた瞬間、明るく活気付いた空気が暗く重く息苦しいものに変わった。
人々のどよめきが広がる中、大神とスカーレットは世界に異物が紛れ込んだのを感じとる。
──魔族襲来。ファン感謝祭は最悪のイベントによって、ぶち壊されることになった。
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大神が神さまと出会う数分前。スーパークリーク、オグリキャップ、タマモクロスの面々は学園内に幾つもある広場の一角で出店を開き、せっせと働いていた。
「へいおまち! 焼きそば一丁、たーんと食べてな! おいオグリ、たこ焼き出来たか? 次3つ来とるで!」
「ふぁふぁ、ふぉいしふへぇきふぇるおぉ。……んぐっ、もっちゃもっちゃ」
「いやそれ商品やろっ!? なに食っとんねんオグリぃ!!」
「もっちゃもっちゃ……ごくん。大丈夫だぞ、タマ。んあっ、もっちゃもっちゃ……ちゃんとおいひいぞ……!」
「そういうことやないねんっ! 唯でさえ忙しいのに余計な仕事増やすなっ、アホッ! ええいっ、食うのやめやっ!!」
「そうですよ、オグリちゃん。食べながら喋っちゃダメです! それにオグリちゃんも女の子なんですから、もっちゃもっちゃ言うのは少しお下品ですよ?」
「そこなんっ!? もっとおかしいとこあるやろっ! もーっ、ダメやっ! ウチ一人じゃこの天然二人相手にできんっ! はよ戻ってきてくれトレーナー!」
それぞれが調理と接客を並行して行い店を切り盛りする中、目の前で続々と作り上げられていく出来立ての焼きそば、たこ焼きといった定番のメニューにオグリは我慢できず、それらを勝手に口に運んでしまっていた。
それをツッコむタマモクロスに微笑み見守っているクリーク。彼女たちにとって日常的なこのやりとりもファンからすれば垂涎ものであり、それを見ようとやってきた客たちによって店は大盛況であった。
しかも今はちょうどお昼時。1番客が殺到する時間であり、オグリが反射的に店の物を食べてしまうのも、タマモクロスの怒号が飛び交うのも止む無しといったところだ。
ちなみに彼女らのトレーナーである櫻井芹奈は食材を補充しに出ておりこの場にはいない。そのため全てのツッコミはタマモクロスに一任されていた。カオスである。
その後もタマモクロスの魂のツッコミが炸裂しつつもどうにか客を捌いていき、人の入りが幾許か落ち着いてきた頃。クリークがなにかソワソワしていることに気づいたタマモクロスが声をかける。
「ちょっと早いけど休憩入ってええでクリーク。あとはウチらで何とかなりそうやし」
「えっ? でもまだまだお客さん並んでますよ……?」
「ええねん。もうトレーナーも帰ってくるやろしどうとでもなるわ。それに大神の兄ちゃんに会いに行きたいんやろ? そんな顔で店に立っててもお客が心配するだけやし、ここはバシッと決めてこいクリーク!」
「そうだぞクリーク。遠慮せず任せてくれ。いつもは君に助けられてばかりだから、今日くらい私たちを頼ってほしい。その方が私も嬉しいんだ。うん……これも美味しいな。流石タマが作ったたこ焼きだ」
「いいこと言っとるとこ悪いけど、なにまた食ってんねんアンタは。もうホンマ次やったら休憩時間なしにするでぇ!!」
「なっ!? なぜそんな残酷なことを思い付くんだタマ! この鬼! 悪魔! キ◯タマ! 守銭奴!」
「キ◯タマ挟むなぁっ!!」
「タマちゃん……オグリちゃん……! ありがとうございます、お言葉に甘えて行ってきますね!」
オグリとタマモクロスの言い争いを余所に大神の元へ向かう準備を始めるクリーク。先程まで落ち着かない様子だったのは意中の相手に会えるかどうか気にしていたからであり、今はもう嬉しさを隠し切れずニヤついてしまっていた。
(これからミストレが始まってそこで警備をしてから休憩するって言ってましたから、上手く合流できれば一緒に居られる時間はかなり増えるはず……! スカーレットちゃんだけに独占はさせませんよ、ふふふっ。よし……あとはタマちゃんに一言いれてから──えっ?)
店の裏で手早く用意を済ませ二人に一言告げようと振り向き屋台の中を覗いた瞬間、クリークの思考は完全に停止した。それは彼女の目に飛び込んできたのがあり得ない光景だったため。
タマモクロスが今現在接客している相手、それが
「な、なんやえらくゴッツいコスプレしたお客さんやな……。いらっしゃい! 注文は何にします?」
「…………フガ」
「フガ……? ちょ、ちょいオグリ! メニュー表そっちあったよな? 借してくれん? お客さん少し待ってください!」
「ん? さっきまでここにあったんだが……タマ、そっちじゃないか?」
「え!? うそやろ!?」
「…………ガーフ」
全身の肌が青く大柄な身体に特徴的な一つ目と短い角。明らかに人外の出で立ちをした目の前の人物をコスプレか何かと勘違いしたタマモクロスは、言葉が通じない相手に気を利かせてメニュー表を渡そうとする。
メニュー表を探して調理台の下で顔を突き合わせる二人。その間、待たされたことに痺れを切らしたのか、はたまた最初からそのつもりだったのか、魔物はハンマーのような腕を上げ──
「あった! お客さんこん中から選んでくれればええで!」
「ガウアァァァァァァァァァッ!!」
「──えっ?」
そのまま顔を上げたタマモクロスに向けて一切の躊躇なく振り下ろした──。
「……ガガ?」
いきなり訪れた死への恐怖にタマモクロスは反射的に目を瞑りその瞬間を待つしかなかった。
しかしいくら待ってもその時はやってこず、不思議に思ったタマモクロスが恐る恐る目を開くと自分の体が光の膜に包まれているのが分かる。怪物の拳はこれに阻まれ彼女の命は助かったようだ。
一体何が起こっているのか未だ理解が追いついていないタマモクロスはなんとか状況を確認しようと辺りを見回す。すると店の裏にいたはずのクリークが音もなく横に立っているのが目に入った。
「クリーク! 逃げるんや!!」
このままでは次はクリークも命の危機に晒されてしまう。瞬時にそう判断したタマモクロスは彼女を遠ざけようとするが、クリークはそれを手で制した。
タマモクロスを安心させるため普段の優しい笑顔を見せると、クリークは魔物へと向き直り手の平を立てるように右手を上げた。
「私の大切な人たちを傷つけることは……許しません……!」
「フ……ガ……ガガァァァァァァ……ァァァ……」
瞬間的に魔力を爆発させたクリークはそのまま魔物に向けてエネルギーを送る。体内に過剰なまでの魔力を注ぎ込まれた魔物は見る見るうちに全身が膨れ上がり、耐え切れなくなった肉体は風船が割れる様にパァンと弾け飛んだ。
光の泡になって消滅したモンスターを見てポカンと口を開くタマモクロス、そしてようやく台の下から呑気に顔を出したオグリとは対照的にクリークの表情は険しいものだった。
あと一歩気づくのが遅れていたら二人の命は助からなかった事実に恐怖を覚えながらも冷静にクリークは考える。
周囲の気配を探ると幾つもの魔力を持った存在が感知できた。恐らく大神が前に言っていた魔族の襲来がこのタイミングで起こっている事は明白だろう。
となると一刻も早く大神たちと合流して態勢を整えなくては不味いのだが、タマやオグリを始めこの場には一般客など数多くの人々がいる。まずは彼女らを優先して避難させないと。
そう思ったクリークがタマモクロスたちを安全な場所へ促そうと動き出す前に、一人の女性がこちらへ走ってきて彼女に声をかける。
「クリーク! みんな無事ですか!?」
「トレーナーさん!?」
「よかった……タマもオグリも怪我はないみたいね……。クリークが守ってくれたおかげですね、ありがとうございます」
チームレグルスのトレーナー、櫻井芹奈が息を切らしてやってきた。数回大きく空気を肺に取り込むと呼吸を落ち着かせると、クリークに伝えるべき情報を手早く話す。
「さっき風太さんから連絡がありました。魔族、そして魔物の大群が学園内外に現れたと。対応する為、風太さんは大神さんたちがいる中央広場へ向かうそうです。クリークもそちらに行ってください。貴女の力であの人たちを支えてあげて……!」
「でもトレーナーさん……ここにいる人たちが……!」
「それは私に任せて! これでも勇者と付き合っている女ですから! みんなの避難は必ず私がやり遂げます。だから貴女は貴女がやるべきことをやってください!」
そう言った芹奈の目からは絶対に成し遂げるという覚悟が感じ取れた。気弱な彼女からは信じられないほど自信に満ちた目。これでもやる時はやる女だというのはクリーク自身が1番よく知っていた。
個性が強すぎててんでバラバラなこのチームを、たった一人で最強クラスまで育て上げた人なのだ。そんな彼女が任せろと言う。これほど安心できる言葉はない。
「……わかりました。ここはお願いします、トレーナーさんっ!!」
彼女の覚悟を信じクリークは事態収束のため大神の元へ向かう事にする。飛び立つ前にふと自分を心配そうに見つめるタマモクロスの視線に気づき、クリークは彼女の頭を撫で目を合わせる。
「大丈夫ですよ、タマちゃん。私は死にませんから。トレーナーさんと一緒にみんなで避難して下さい」
「でも……!」
「タマ、クリークを信じるんだ。私たちにはそれしかできない」
「オグリ……」
いつの間にか傍に寄っていたオグリがタマモクロスを諭す。いつになく本気の顔をしたクリークを見てしまうと、もう引き止める言葉も出てこなかった。
「そうやな……必ず帰って来るんやで、クリーク……!」
「はい! じゃあ行ってきますね、タマちゃん! オグリちゃん!」
己が何もできない事の歯痒さから下唇を噛みながらも笑顔で見送るタマモクロス。それを見たクリークも破顔するとすぐに戦士の顔つきへと戻り、体に白い炎を纏うと空に弧を描く様に飛んで行った。
「アイツ……空飛んでいったで……」
「ああ、あれだけ綺麗に飛べれば今年の鳥人間コンテストは優勝間違いなしだな……! ジェットエンジンも積んでいたし、流石クリークだ」
「いやアンタも予想外すぎて感想めちゃくちゃになっとるやん……」
「ちなみにですけど、私が勇者の事とか知っていたのは風太さんと付き合い始めた時に全て教えてもらったからです! えへへ〜!」
「えっ、櫻井さんもうあいつと付き合ってんの!?」
「……フンッ! 俺は貴様とは違う。年齢=彼女いない歴では無くなったのだ! その内俺と芹奈の甘々な馴れ初めが本編でも描かれるはず! 今から楽しみで仕方がないなぁ!」
「ああそれ面倒くさいから書く気ないらしいぞ」
「…………泣けるぜ」
「ウワーッ! レオン・S・ケネディ! みんなもやろうバイオRE:4!」