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「で?ウオッカに勝つってどういうことよ?」
俺はトレーナールームで、念願の担当となったダイワスカーレットと共に、今後の動きについて話し合いをしていた。
「前にも言ったろ?ウオッカに負けて折られた自信ならば、ウオッカに勝って取り戻すしかねぇ」
「……アンタの言い分はわかったけど、アイツに勝つなんて簡単なことじゃないわよ。なにか算段はあるんでしょうね?言っとくけど、普段の先行策じゃなくて、脚をためる策に切り替えたって無駄よ。そんな付け焼き刃でアイツに勝てるわけ──」
「いや、この前よりもっと早く、仕掛けるだけでいい。いわゆるロングスパート?みたいな感じで。具体的には1ハロンぐらい前かなぁ」
「はあっ!?アンタ、馬鹿なのっ!?スタミナ管理って言葉知らないわけ?そんな前から全力出したら、普通バテるに決まってるじゃない!」
スカーレットが俺の出した作戦に抗議する。当然だ、普通に考えれば、1ハロン(=200m)も前から仕掛け出したら、スタミナがなくなるに決まってる。だが──
「でも、そうしないとウオッカには勝てねぇぞ?末脚勝負になったら、勝つのは絶対無理だ。したらもう、こっちのスタミナでゴリ押して、押し切るしか道はねぇ」
「それは……そうだけど……でも……!」
「1番のウマ娘になるんだろ?スカーレット、お前なら必ずできる!信じろ自分を」
「う……。っぁぁああああもう!!わかったわよ、やればいいんでしょ、やれば!」
半ばやけくそ気味に、スカーレットは俺の作戦に同意する。実際、相当厳しいものだが、スカーレットの自信を取り戻すにはやるしかない。
「ほら!ぐすぐすしてないで、さっさとトレーニング行くわよ!スタミナ重点で鍛えるメニュー、当然考えてきてるんでしょうね!?半端な指示なんか出したら許さないんだからっ!!」
「おお!やりますかっ!!」
こうして、俺達はウオッカにリベンジを果たすため、気持ちを新たにトレーニングに向かうのだった。
「ねえ、トレーナー?さっきトレーニングするって言ったわよね?」
「ん?そーだけど?どうした?」
「……どーしたも、こーしたもないわよ!!トレーニングするって言って!なんで!こんなところにいるのよ!アタシ達は!!」
叫ぶスカーレットと俺は、学園からほど近い郵便局に来ていた。彼女が怒るのも無理はないが、もちろんトレーニングのために、この場所に来たのだ。
「落ち着けよ、スカーレット。ちゃんとトレーニングはするから。……あっ、こっちです。今日はよろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。……しかし、本当によろしいのですか?やはり、やめておいたほうがいいのでは?」
事前に連絡を取り合っていた、従業員さんとあいさつを交わす。彼は心配そうな顔で、これからやることに対して、やめるよう促してくる。普通ならやっぱ、そう思うよなぁ。だけど──
「大丈夫ですよ。やらないとトレーニングになりませんし。それで、お願いしていたものは?」
「そうですか……。よっ……と。頼まれていたもの、こちらになります。」
「お!ありがとうございます!」
「トレーナー、それって……?」
「ああ、夕刊だな。よし、スカーレットもこれ持て」
俺が従業員さんにお願いしていたもの──それがこの夕刊だ。両手いっばいに持てる分だけ持った俺は、スカーレットにも同じ様に持つよう促す。
「結局何するのよ?これから」
未だ何をするかわかっていないスカーレットが、素直に夕刊を持ちながら、ジトーっと俺の方を見つめる。機嫌を損ねない間にさっさと、これからやることを説明しないと。そろそろ本気で怒られそうだ。
「よし!それじゃあこれから、東京23区を回って、この夕刊を届けるぞ!もちろん、走ってな!」
「…………は?」
「制限時間は18時まで!つまり、あと2時間で全部配るぞ!あ、あと負荷かけるために……ほい!この甲羅を背負って走るぞ!さあ、がんばるぞーおー!」
「アンタ馬鹿なのっ!?やっぱり馬鹿よねっ!?東京23区を回るのだって無茶な話なのに、こんな重い甲羅を背負ってなんて!普通に考えて無理に決まってるじゃない!!」
説明しても怒られた。いや、わかっていたけれども。スカーレットの言う通り、普通なら無理だろう。こんなトレーニングともいえない、体を壊す可能性の方が高いような、無茶な走り込み。
しかし、スカーレットは普通とは違う。1番を目指すことができる、才能とメンタルを持った天才だ。彼女ならできると信じたからこそ、このトレーニング方を提案したのだ。
「スカーレット、1番を目指すお前ならできる。絶対に。それに、これをクリアできたら必ず、お前の力になるはずだ。だから頼む、何も言わず一緒に走ってくれ」
「っ!」
こちらの真剣な眼差しを感じとったのか、スカーレットも落ち着きを取り戻し、ゆっくりと一度目を閉じる。そしてそのまま考えるようなそぶりをして、覚悟を決めたように俺を見る。
「……はあ。わかったわよ、やってやるわよ。その無茶なトレーニング。効果がなかったら、タダじゃおかないわよ!そこんとこ、わかってるんでしょうね!?」
「ハハッ!わかってるよ!……よし!んじゃ、ちょっくら行くとしますか!」
スカーレットの了承を得て、さっそく俺も甲羅を背負って走り出す。ちゃちゃっと回ってやんないと、18時までに終わらないからな。少し急がんと。
「ちょっ!?アンタも走るのっ!?」
「当たり前だろ!?トレーニングもできて、バイト代も出るんだ。やらなきゃ損だろ!」
「ちょっと!待ちなさいよっ!!……ああっ!もお!!」
「はあっ……はあっ……はあっ……!」
体が、重い。喉は焼けるようだし、腕も上がらない。終いには足の感覚がなくなってくる始末。
それでもアタシは、走ることをやめない。なぜなら、アイツが、トレーナーがムカつくからだ。常人には到底、達成不可能なトレーニング法を、さも良い方法を思いついたと言わんばかりの笑顔で、叩きつけてきたあのトレーナーが。
元々、アタシの本性を知ってなおスカウトしてくる、変なヤツだとおもっていたけど。まさかここまで、変で、馬鹿な人間とは思っていなかったわ。
スタミナには、そこそこ自信があったアタシが限界に近づいてきてる。というより、正直もう、キツい。それでもまだ走れているのは、アイツに情けないところを見せたくないという、意地があるからだった。
なぜか知らないけど、あのトレーナー無自覚に煽ってくるのよね。「おっ?もう休憩か?」とか、「これじゃ、俺が後ろから押して走った方が、速いかもしんねぇな!」とか。思い出しただけで、腹が立ってきたわ。あんなヤツになんか、絶対負けたくない!
そもそも、なんでアイツは息の一つも切らさずに走ってられるわけ!?アタシも速度は抑えて走ってるけど、40kmは出てると思うわよ!?普通人って、こんな速度で走れないわよね?なんかもう、さも当然みたいに一緒に走ってるけど、おかしいから。人がウマ娘と一緒に走るなんて。
ああ!もうっ!こんなこと考えてたら頭痛くなってきた。ホント、規格外というかなんというか。このトレーナー、大丈夫なのかしら?今更だけど思わずにはいられない。
そうこうしてる内に、どうやらゴールが見えてきたみたいだ。よくやったわ、アタシ!偉いわよ、アタシ!今日だけは手放しに誉めてあげていい気がする。
「よし!スカーレット!ゴールだぞ、学園に戻ってきた」
「はあっ……はあっ……!よっ、ようやく……っ、終わった……のね……はあっ……はあっ……!」
「ああ!にしてもすごいぞ、スカーレット!まさか、初回から完走しちまうとは。おめぇ、やっぱり天才だな!」
一つも息切らしてないアンタに言われても、嬉しくないわよ!皮肉にしか聞こえないわ!本来なら言っていたセリフも、呼吸を整えるので精一杯なアタシは、口には出せず心の中で叫ぶ。
「さて、これで今日のトレーニングは終わりだな。おつかれさま!あっ、もう甲羅は下ろしていいぞ」
そういえば、背負ってたわね。この甲羅。走ることに集中しすぎて、忘れてたわ。というか重いわね、コレ!?20kg近くあるんじゃないの?……よく走りきったわね、アタシ。
「それじゃ、早く帰って飯食って寝ろ!明日も同じことやるから、なるべく疲労を残さないようにしないとな。宿題とかもやれたらで構わねぇから。それよりも体を休めることを優先しろよ?」
「明日もやるのね、これ……。わかったわ、正直すぐにでも横になりたい気分だもの」
本当はいますぐにでも、体を投げ捨てて倒れ込みたいくらい、立っているのがやっとって感じ。これ以上何かしろって言われても、無理よ、さすがに。息を整え終わったアタシは、ゆっくりと寮の方に足を向ける。
「あっ!伝え忘れてたけど、朝練はなしな!たっぷり寝とけよ!」
「朝練なしってどういうことよ!?」
「言葉の通りだ!今はまだ、このトレーニングに体を慣らさないといけねぇ。無理に練習量を増やすのは体がキツいだけだ。それに……どうせ朝練なんて出来やしないしな。まあ、明日になればわかんだろ」
色々と聞きたい事はあったけど、もうそんな気力も残ってない。アタシはトレーナーに背を向けて、寮へと歩き始めるのだった。
寮に戻って、着替えをしてからご飯を食べて、お風呂に入って宿題をやってから、ようやくベッドへと飛び込んだ。もうここから一歩も動けそうにないわ。襲いかかってくる睡魔に身を任せようとした時──
「ただいまー」
ガチャリとドアが開き、ウオッカが部屋に入ってくる。最近、ウオッカにも専属のトレーナーがついたらしく、少し遅い時間までトレーニングをやっているみたい。
「……なんだよ、もう寝てるのか。珍しいな。」
「……まだ、起きてるわよ。」
選抜レースで負けたあの日から、ウオッカとは気まずい空気が流れている。もちろん、同じ部屋にいる時もずっとだ。アタシがただ、いじけていると言われたらそれまでだけど、今のままでウオッカにいつも通り接することは出来そうにない。
「スカーレット、お前にもトレーナーついたみたいだな。それに、早速勝負を申し込んでくるなんて。……まあ、何度やっても結果は同じだけどな。俺が勝つ。今のお前に負ける気はしないからな。」
アタシだって、二度とアンタには負けないわよ。1番の座は、誰にも譲らないんだから。その言葉は声になる事はなく、アタシはとうとう限界を迎え、深い眠りについた。
──翌日
「〜〜〜〜〜〜っ!!!いっっっっったああぁぁああっっ!?」
目を覚ましたアタシを襲ったのは、全身に巡る、筋肉痛だった。
(明日になればわかるってこういうこと!?あの馬鹿トレーナー!ぜっっっったいに許さないんだからぁぁぁぁぁぁ!!)
スカーレットとスタミナトレーニングを始めてから2週間が経ち、とうとうウオッカとの勝負の日がやってきた。天気にも恵まれて、絶好のレース日和だ。
「いやぁ〜、遂に来たな。この日が!……なんだ、スカーレット?緊張してんのか?」
「…………してるわよ、うるさいわね。そういうアンタも珍しく緊張してるじゃない。」
「ハハッ、やっぱわかるか。……俺にとっても初めての、担当と挑むレースだからな。この勝負で俺とお前の力が、どこまでのものかが分かる。でもまあ、今のお前なら負ける事はねぇはずだ。取り戻してこい!1番の座を!」
「……ふふっ。分かってるわよ、そんなこと。勝ってくるわ、必ず!」
どうやらそこそこは、緊張が解けたみたいだな。彼女の元気な笑顔に安心していると、あちらさんも準備ができたのか、ウオッカがスカーレットに近寄ってくる。
「スカーレット。……そろそろいいか?」
「……ええ。じゃ、行ってくるから。……そこでちゃんと見てなさいよね、トレーナー。」
スカーレットとウオッカがゲートに向かって歩いていく。後はもう、彼女が勝つのを信じて待つだけだ。二人を眺めていると、俺の元に一人の男がやってくる。
「今日はよろしく頼む」
「ああ!こっちこそよろしくな!それに、本当にありがとうな。急な勝負にも応じてくれて」
高身長でくっきりとした目鼻立ちに、堅実な雰囲気を持った美男、今回の勝負を快く受け入れてくれた、ウオッカの担当トレーナーが挨拶にやってきた。
「別に構わない。ウオッカも、ダイワスカーレットのことを気にしていた。……それに、負ける気もしないからな。」
「……それは俺もだ。」
二人してニヤッと笑うと、彼は満足したのか元の位置に戻っていく。やっぱり、どこのトレーナーも自分の担当に自信を持ってんだな。そりゃそうか。
ふと後ろを振り向くと、かなりの数の観客が集まっていた。この二人の対決という事で、そうとうな注目が集まっているようだ。よく見ると、生徒会副会長のエアグルーヴや、スカーレット達の同級生のトウカイテイオーの姿もある。
大観衆が固唾を飲んで見守る中、遂にゲートが開きレースが始まった。
「あ、スカーレットが前に出た!やっぱり今回も先行策かー。でもそれじゃ、前と同じ展開だよね?また、最後の直線でウオッカに差されちゃうんじゃないかな〜。」
「いや、待て。どうやら──同じ展開ではないようだぞ。」
「ここっ……!」
「は!?ちょっ……!!」
選抜レースの時とは全く違う。スカーレットは伝えた作戦通り、前回よりもさらに速くスパートをかけていく。普通に考えれば、暴走にしか見えない無茶な走り。しかし──
「フッ……フッ……フッ……!!」
(足が軽いっ!!スタミナもまだまだ余裕があるし、もっと……もっと……いけるわっ!!)
「くっ……そお!!なんで……差が縮まらねーんだっ……!?」
この2週間、スカーレットはあの、地獄のスタミナトレーニングだけを行ってきた。最初のうちからは想像できないほど、スカーレットの体は順応し、以前までの倍ぐらいのスタミナを手に入れていた。
「1番はアタシなんだからぁああああああああっ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!負けてたまるかぁああああああっ!!」
懸命に追うウオッカに、さらにスピードを上げていくスカーレット。レースを制したのは──
「はあっ……はあっ……フッー……!!〜〜〜〜〜っ!!アタシ……!勝ったのね……!!」
勝者は、2馬身差で力を見せつけた、スカーレットだった。
「……っだぁあああー、くそっ!負けた負けた、ちくしょー!!」
「ウオッカ……。」
「ふん……けど、このままじゃ終わらせねーからな。いいか、次に勝つのは俺だ!絶対負けねーぞ……優等生!」
「……ふふっ。いい度胸じゃない、かかってきなさい!次も1番を取るのはこのアタシよ!……そうでしょ、トレ──きゃっ!?」
「スカーレット!!おめぇやっぱすげぇよ!!さっすが、1番のウマ娘だぜ!ハハッ!ハハハッ!!」
喜びのあまり、俺はスカーレットを両手で持ち上げ、その場でぐるぐると回る。よく見るとスカーレットが顔を真っ赤にして「下ろしなさいよ、バカッ!!」とか色々言っていたが、気にする余裕はなかった。二人の力が証明されたのが、本当に嬉しかったから。
ようやく満足した俺は、スカーレットを地面に下ろす。そして俺がしたことに説教をするスカーレットの話を聞いていると、ウオッカのトレーナーがまた俺に話しかけてきた。
「対戦ありがとう。……まさかここまでやるとは思わなかった。次は必ず勝つ。ではな、行くぞウオッカ。」
「おう!またよろしくな!」
俺とスカーレットの初コンビの、初レースは、最高の結果で幕を閉じたのだった。
「いい?もう二度と人前であんなみっともない事しないこと!アタシがどれだけ恥ずかしい思いをしたか、わかってるわけ!?」
「みっともないって……そこまで言わんでも……」
「何ですって?」
「いや……ごめんなさい。もうしません。」
トレーナールームに戻っても、スカーレットのお説教は続いていた。笑顔で凄んでくるスカーレットに反論はできず、俺はもう謝るしかない。
「はあ……まあ、もういいわよ。アンタにも悪気があったわけじゃないのはわかってるし。そっ、それに……。」
スカーレットがなにやらモジモジしながら、こちらをチラチラと見てくる。何だろうと眺めていると、やがて意を決したのかこちらを真っ直ぐに向いて、口を開く。
「アンタのおかげでウオッカに勝てたんだもの。あんな無茶なトレーニングで強くなれるなんて、思ってもみなかったわ。だから……ありがと。こんなアタシを信じてくれて。」
「スカーレット……。」
どうやら素直に感謝を伝えるのが、気恥ずかしかったようだ。こうやって素直にお礼を言われると、頑張ってきた甲斐があるってもんだ。それに、よほどウオッカに勝てた事が嬉しいのか、尻尾はブンブンと揺れているし、耳もピクピク動いてる。なんだか年相応の少女って感じがして──
「可愛いなぁ!お前はぁ!!」
「なっ!?」
また顔が真っ赤になるスカーレットを見ながら、もう大丈夫だなと思う。ウオッカに勝って自信を取り戻したスカーレット。これでようやく、俺達はスタートラインに立ったんだ。目指すべき、トゥインクル・シリーズに向けて!
スタミナトレーニングは、ドラゴンボールで亀仙人の修行でやっていたもののオマージュですね。亀仙人の修行、大好きなんですよね。他にも参考にするかもしれません。
次回からはやっとトゥインクル・シリーズ編が始まります。どうにか大神勇斗君の力を腐らさずに書けるよう、頑張っていきます。よろしくお願いします!