ダイワスカーレットと異世界勇者トレーナー   作:グリングリン

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秋競馬始まりましたね。楽しみです。サリオスッ!!






クラシック編
異世界勇者と歪みはじめた世界


『ウオッカ届かない!ウオッカ届かないか!?先頭までまだ2バ身!やはり、ダイワスカーレット!ダイワスカーレットです!連戦連勝無敗のまま、桜の女王へ一直線!チューリップ賞を制したのはダイワスカーレットだ!』

 

 メイクデビュー戦から時間が経ち、スカーレットは桜花賞の前哨戦である、チューリップ賞を危なげなく勝利していた。ウオッカも出走していたが、あれからさらにトレーニングを重ね強化されたスカーレットには、さすがに勝てなかったようだ。

 

(あの日のウオッカは負けたのにもかかわらず、その目は闘志に燃えて、己をさらに高めることを決意した戦士のようだった。ありゃそうとう強くなんな。今すぐにとはいかねぇが、ウカウカしてっと簡単にウオッカの方に軍配が上がりかねないな。……これが「ライバル」ってやつか。)

 

「よし。んじゃラスト行くぞ、スカーレット。ちゃんとついてこいよ!」

 

「ふん、当然でしょ!今日こそアンタに勝ってやるんだから!」

 

 俺たちは今、朝のトレーニングで軽めのランニングを行っていた。軽めといっても、全力ダッシュと普通に走るのを交互にやって、体に負荷をかける。これを10〜20kmで、その日のコンディションで距離を決めて走る。放課後に行う、本格的なトレーニングよりはかなり優しいモノだろう。

 

 初期と比べて体が出来上がってきたスカーレットは、夕刊届けのトレーニングだけでなく、朝トレや筋トレなど、少しずつトレーニングメニューを増やしていった。このままいけばスカーレットが目指す、トリプルティアラ、『桜花賞』『オークス』『秋華賞』の3つは手に入るだろう。

 

 恐ろしいほどの成長スピードに内心ビビっている俺。ウマ娘という種族の身体能力に、その中でも指折りの才能を持ったスカーレット。ほんの数ヶ月鍛えただけでここまで強くなるとは。そのうち戦闘能力でも俺をこえてしまうのでは!?それだけのポテンシャルを、ウマ娘は、スカーレットは持っている。

 

(俺も修行再開するかなぁ。女の子に負けたんじゃ、勇者としての面目が立たねぇしな。)

 

 密かに俺が意気込んでいる内に、ランニングコースを走り終えて学園前まで帰ってきた。すると、正門の所に、何かキョロキョロしながら辺りを見回す1人の生徒がいた。

 

「ん?あれは……?」

 

「スーパークリーク先輩ね。どうしたのかしら?……お〜い、クリークせんぱ〜い!」

 

「あら〜?スカーレットちゃん、それとスカーレットちゃんのトレーナーさんですか?おはようございます〜。うふふ、朝から精が出ますねぇ〜」

 

 スーパークリーク。確かオグリキャップや、タマモクロスといった有名ウマ娘が所属する最強チームの一角、チームレグルスの一員。彼女自身もとてつもない実力で、G1タイトルを複数、獲っているらしい。

 

「おはようございます。クリーク先輩はここで何をしているんですか?」

 

「それが、私もオグリちゃんと一緒に朝のランニングをしていたんですけど、いつの間にかはぐれてしまって。偶にあることなので、ここで待っていれば戻ってくると思っていたんですけど……」

 

「まだ帰ってきてないのか」

 

「はい……。一度探しに行ったんですけど、見つからなくて。電話にも出ませんし、そのうち帰ってくるとは思うのですけど、心配で……。」

 

 話を聞くと、どうやらオグリキャップが行方不明らしい。迷子ならまだしも、何か事件にでも巻き込まれていたら洒落にならない。それにスーパークリークの不安そうな顔を見たら、放っておくわけにはいかなくなった。スカーレットも同じ気持ちのようで、こっちを訴えるような目で見てくる。

 

「ねえ、トレーナー。」

 

「ああ、スーパークリーク。俺たちもオグリキャップを探すのを手伝わせてもらうぜ。」

 

「い、いいんですか?本当に?……ありがとうございます。一緒にオグリちゃんを探してください!」

 

「それで、オグリキャップが行きそうなとこあるか?さっき見てきたのかもしんねぇけど、何か見落としがあるかもしんねぇし、もう一度行っといた方がいいと思う。」

 

「そうですね……。なら、近くの公園に行きましょう。あそこはオグリちゃんのお気に入りの場所ですから」

 

 そうして俺とスカーレット、スーパークリークの3人は、オグリキャップを探すため公園に急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……?ここは……。」

 

「大丈夫?アンタ、顔色悪いわよ?調子悪いの?」

 

「いやっ、大丈夫だって!俺のことよりさ!探すぞ、オグリキャップをよ!」

 

「え、ええ……そうね。」

 

 明らかに異常だった。この公園に着いて初めに感じたのは、まるでこの空間だけ別の世界のような異物感。ほんのわずかだが、感じとれる魔力の残滓。幸い、二人には何の影響も見られないが、ここに長居するのは危険だろう。早めにここを立ち去らないと。

 

「オグリキャップはよくここに来るんだな?」

 

「はい。えっと……、あ!あの子です!ハツラツちゃんです。オグリちゃんに懐いてる野良猫ちゃんで、この子に会いによく来ているんですよ〜」

 

「ニャー」

 

 スーパークリークが紹介した野良猫は、彼女の足に擦り寄ると、そのまま公園の奥、小さな森のようになっている区画に行ってしまう。森に入る直前、猫はこちらをチラッと振り向いた。まるで俺たちを誘っているように。

 

「……行くぞ。あの猫を追う」

 

「ちょっ、ちょっと!いきなりどうしたのよ、もう!」

 

「まっ、待ってください〜!」

 

 急に走りだした俺を慌てて追いかける二人。猫が入った森には、微かに人の気配がする。確信は持てないが、この気配を出している人物がオグリキャップだろう。無事でいてくれ、その一心で、走る脚のスピードを上げた。

 

 一応人の手が入っているのか、大雑把に整備された道を走っていると、急に開けた場所に出る。円を形成するようにこの一帯だけ木が生えておらず、不気味なまでに空気が静かだった。

 

「ここの公園にこんな場所あったかしら……?」

 

「なに?」

 

 スーパークリークが何やら気になることを呟く。どういうことか──。問いただそうと、隣にいるスーパークリークに話しかけようとするが。

 

「ちょっと、あれって!オグリ先輩じゃない!?」

 

 すぐにスカーレットの声に意識を引き戻される。スカーレットが示した場所には、確かにオグリキャップが地面に横たわっていた。よく見るとさっきの野良猫もいる。

 

 すぐさま、俺たちはオグリキャップに駆け寄る。どうやら眠っているようで、スースーと寝息が聞こえる。体に目立った外傷はなく、少し土汚れが付いているぐらいだ。

 

「オグリちゃん!大丈夫ですか!?起きてください、オグリちゃん!」

 

「ん……んん……。ふわぁ……。ん?ここは……?」

 

「オグリちゃん!!無事だったんですね〜!本当によかったです!」

 

「うわっ、クリーク、どうしたんだ?そんなに抱きつかれたら少し苦しい。」

 

 スーパークリークが体を揺らすと、オグリキャップは普通に目を覚ました。本当に眠っていただけのようだ。それでも、感極まったスーパークリークはオグリキャップに抱きつき、オグリキャップもそれを受け入れ、どこか安心したような顔をしている。

 

「これで一件落着ね。よかったわ、オグリ先輩が見つかって。あんなに不安そうなクリーク先輩初めてだったし、アンタも偶にはやるじゃない」

 

「ああ、そうだな……。」

 

「そういえば、オグリちゃん。どうしてここにいたんですか?」

 

 俺がスカーレットに対し、歯切れの悪い答えを返していると、スーパークリークがオグリキャップに当然の疑問を投げかける。

 

「そうだ!あの子を追いかけて、私はこの公園に来たんだ」

 

「あの子?」

 

 オグリキャップの発言に、一同頭の中にハテナを浮かべる。しかし、すぐにその疑問は解消された。

 

「ああ、この辺にいたはずなんだが──」

 

「がーうぅ」

 

「「「がう?」」」

 

 声がした方──オグリキャップの肩の後ろから出てきたのは、サッカーボール大の体に、ふわふわの白い毛が生え、尖った耳にまん丸の目玉、短い手足に、背中に生えた翼、とてつもなくファンタジーで愛くるしい、謎の生物が翼をパタパタとはためかせ、宙に浮いていた。

 

「お!いたのか、がうがう!ははっ、やはりお前はすごいもふもふだな」

 

「……トレーナー、なんなの?これ?」

 

「俺だってわかんねぇよ……。初めて見たわ、こんなん。マスコットキャラみてーだな、こいつ」

 

「あらあら〜、とっても可愛らしい子ですね〜。でも、何の動物なんでしょうか?……猫?犬?よく見ると羽が生えてますし、う〜ん……。」

 

 がうがうと呼ばれたまん丸生物は、オグリキャップにめちゃくちゃもふられて気持ちよさそうにしている。スーパークリークは、こいつが何の動物なのか判断に迷っているが、当たることはないだろう。それは、これがこの世界に存在しないはずの生物──魔物だからだ。

 

(この公園の異様な空気感……。こいつがいたからか。見た感じ、悪意や敵意はないし、魔力に至ってはほぼゼロだ。こいつが何かする可能性は低いだろう。けんど、何故魔物がこの世界に?一体どうやってここに来たんだ?)

 

「がうがうはたぬきだろう。もふもふ感が似ている気がする。な?がうがう?」

 

「がうぅ〜……。」

 

「そうですか〜。ふふっ、がうがうちゃんっていうんですね。よろしくお願いしますね〜」

 

「どうしよう、トレーナー。アタシ、もう全然理解できないんだけど。どうすればいいの?」

 

 二人の先輩が作り出すゆるふわな空間に、困惑しっぱっなしのスカーレット。まあ、オグリキャップは無事だし、スーパークリークも元気が戻ったみたいだから良しとしてやってくれ。さて、目的も達成したし、一刻も早くここから離れないと。これ以上ここに居るのは、良くない気がする。

 

「とりあえず、だ。オグリキャップも見つかったことだし、さっさと学園に戻るぞ。もう授業が始まっちまう。おめぇら、遅刻したくなかったら、とっとと走って行くぞ!」

 

「そうですね〜、急ぎましょうか。スカーレットちゃん、トレーナーさん、本当にありがとうございました。オグリちゃんを見つけられたのは、お二人のおかげです」

 

「私からも、ありがとう。みんなが探しに来てくれなかったら、ずっとここで眠っていただろう。本当に助かった」

 

 二人のお礼の言葉を聞いて、俺たち四人は急いで学園に向かった。遅刻には全員、ギリギリ間に合って、慌ただしい朝は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり、あの公園は一度詳しく調べておかないとな……)

 

 学園内の掃除の手伝いをしながら、俺は今朝あった出来事について考えていた。オグリキャップが倒れていた場所──公園の奥地について、スーパークリークは知らない様子だった。

 

(がうがうとかいう魔物、あいつのせいであの空間は出来上がったんだろうか?いつの間にか、あいつの姿は消えてるし。オグリキャップが言ってたけど、ランニング中にがうがうを見つけて、追いかけていたら公園にいたらしい。いつ寝たかも覚えがないとも。)

 

 話を聞けば聞くほど、謎が深まるばかりだ。しかし、一つだけ確実にわかることがある。

 

(魔物がここにいるということは、この世界が別の世界と繋がっている、ということなんだよな。それが、俺が勇者やってた世界なのか、はたまた全く別の所なのか……。ったく、わかんねぇことが多すぎらぁ。スカーレットには悪いけど、今日のトレーニングは1人でやってもらうしかねぇな)

 

 校庭の掃除を終わらせて、俺はスカーレットの教室へと歩き始める。放課後は自主トレにするのを伝えるためだ。中等部が勉強している棟に着くと、スカーレットがいる教室あたりのベランダ目掛けて、軽くジャンプして飛び上がる。

 

 ベランダに降り立って、空いていた窓から教室に入る。もちろん、今は5限目なので、めちゃくちゃ授業中。先生と生徒の目線が俺に集まりまくってる。さすがに、空気読まなすぎたな。

 

「すんません、すぐ出てくんで。スカーレット!いるか?……おい、スカーレット。なんで無視してんだ、こらぁ」

 

 手短に用を済ませようと、スカーレットを呼ぶ。が、スカーレットは俺に気づいているにもかかわらず、視線は黒板の方を向いたまま微動だにしない。仕方ないのであいつの席まで歩いていくと、一つため息をついた後に、無理矢理作ったと思われる笑顔を顔面に貼り付けて、ようやくこちらを向いた。

 

「何の用ですか?トレーナーさん。見ての通り、今は授業中です。それを妨害するなんて、大の大人が、ましてやトレーナーのアナタがやるべき行為ではないと思いますけど。分かりますよね?ん?」

 

 完全に怒っていますね、これは。よく見ると、こめかみに青筋ができてるし。こりゃ早くここから逃げないと。用件伝えてから。

 

「ごめん、それについては俺が悪かった。言わなきゃいけない事があってな。今日のトレーニング、おめぇ1人でやってくれ。いつも通りのメニューで構わねぇから、無理さえしなけりゃ好きにやってもいい。俺はちょいと用事があるから行けねぇんだわ。ごめんな、よろしく頼むぞ」

 

「……わかりましたけど、それならスマホに連絡入れればいいのに」

 

「ばかたれ、こういう大事な事は、ちゃんと面と向かって言わないと意味ねーっての。お前もそうしろよ?わかったな?」

 

「わかったわよ……。用が終わったなら、さっさと戻りなさい?授業が進められないわ」

 

「おう。んじゃあな、スカーレット。みんなもお騒がせしました、じゃ!」

 

 スカーレットに言いたいことは言えたので、この教室を出る。来た時と同じように、ベランダから飛び降りて教室を後にした。

 

 

 

 

「ねえねえ、スカーレットさんのトレーナーって凄い人だね!ここ三階だよ?ピョーンって来て、ピョーンって帰ってったよ!」

 

「それに意外と律儀な人みたいだったし!けっこー、かっこよかったかも!」

 

「「「わかるー!」」」

 

「はは……、そうね……。はは……」

 

 俺がいなくなった後のクラスは、それはもう盛り上がったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントにもう、あの馬鹿トレーナー。明日会ったらお説教なんだから。……あら?アンタ、がうがうだっけ?なんでここに?」

 

「がーう」

 

「ちょっ!くすぐったいわよ、ふふっ!……そうだ!一緒にトレーニングする?今日は1人でちょっと寂しかったのよ。ほら、アタシの頭に乗りなさい。……よし!これでいいわね!」

 

「がうー!」

 

「……それにしてもアイツ、何してるのかしら。……まったく、早く帰ってきなさいよ、馬鹿……」

 

 

 

 ──公園にて

 

「くそっ、消えてやがる。あの空間。魔力の痕跡は残ってないが、時空が歪んだ名残りがあるな。すると、オグリキャップが倒れてた場所は、他の世界がこの公園に紛れ込んでいた可能性がでかいな……」

 

 時空が歪んで、世界と世界のゲートが開き、一時的に公園にあの場所が現れたのだろう。そして、時空の歪みが直り、元の世界へと消えた。この状況から判る一連の流れはこんな感じだ。

 

(だけど、それが何故起こった?偶々自然に発生した可能性もなくはないが、十中八九引き起こした人物がいるはずだ。だとしても、一体何の目的で?それにあの魔物。俺が前いた世界で、見たことも聞いたこともないモンスターだった。あいつも関係あるのか?)

 

 考えれば考えるほど、疑問が湯水のように湧いてくる。こんな時、神さまがいてくれれば、どれほどよかったか。

 

「この世界に、何が起こってんだ……?」

 

 俺の不安を煽るように、さっきまで晴れていた空は、今にも雨が降りそうなくらい、一面灰色の雲に覆われていた。

 




「そういえばスカーレットちゃんのトレーナーさん、とっても足が速かったですね〜。驚いちゃいました」

「そういえば、そうだな。もしかしてあのトレーナー、ウマ娘なんじゃないか?私たちより走るの速かったぞ。すごい才能の持ち主だ」

「う〜ん?そうでしょうか?男性だったと思いますよ?女の子ではないと思いますが」

「じゃあ、ウマ息子か!初めて見たぞ、ウマ息子……!」

「なるほど、ウマ息子さんでしたか!でしたらもう一度、会ってお話したいですね〜……。あれ?でも、耳がなかったような……?」

「次は本気の勝負がしたいな……!ウマ息子……!!」
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