ダイワスカーレットと異世界勇者トレーナー   作:グリングリン

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牝馬三冠惜しかったけど、坂井瑠星ジョッキーの初G1制覇が見れたからOKです!




ダイワスカーレットと桜花賞

 

「おーい、スカーレット、入るぞー」

 

「いいわよー」

 

 控室の扉を開くと、勝負服を身に纏い準備万端の様子のスカーレットがいた。

 

「どう?この勝負服!1番のアタシにふさわしい、最高の勝負服でしょ?」

 

「そうだな、似合ってるじゃねぇか」

 

 いつもの体操服ではなく、鮮やかな群青色の勝負服を着て気合いが入りまくっているスカーレット。

 

 今日は桜花賞。トリプルティアラの最初の一つ目にして、スカーレットにとって初めてのG1レースだ。

 

「がうがー」

 

「あら?がうがう、アンタも来てたのね。ふふっ、アタシを応援しにきたのかしら。」

 

「がうぅ」

 

 どこからやってきたのか、白いふわふわのモンスター、がうがうがスカーレットに体を擦り寄せている。

 

「この子、魔物、なのよね……? がうがうは大丈夫なの?」

 

「まあな、そいつからは特に悪い気は感じねぇ。人畜無害だろ、ペットみたいなもんだと思って大丈夫だよ」

 

 先日の魔族襲来から一週間、スカーレットのメンタルが心配だったが、思いの外元気みたいだ。がうがうのことを教えた時も、そこまで拒否反応はしなかったし。

 

 この世界の方も逞しいようで、あんな事件があったにも関わらず、誰もが希望を失わず復興にあたっている。トゥインクル・シリーズをはじめとした、エンタメ業界も人々に笑顔を与えようと、さらに力を入れているようだ。

 

「にしても、すげぇ気合いの入りようだな。本番前に疲れんじゃねぇぞ?」

 

「当たり前でしょ!?桜花賞よ、桜花賞! 最初のティアラ……、ここから始まるのよ! トリプルティアラへの第一歩が! それに、今日はママが来てるし。恥ずかしいレースなんてできないわ」

 

「ん?母さんが来るのか」

 

 スカーレットの母親はバイタリティ溢れる人のようで、世界を股にかけて仕事をしている。そのため、顔を合わせる機会も少ないらしい。娘の応援に帰国してきたのか、想像以上に良い人みたいだな。

 

「んじゃ、なおさら勝たなきゃな」

 

「元より、負ける気なんてさらさらないけどね」

 

 スカーレットの目に力強い焔が宿る。これならもう、彼女は大丈夫だろう。いつも通りに勝利を手に入れてくるはずだ。

 

 というか、俺の方が緊張してるっぽいのなんか悔しいな。最初はスカーレットの方が不安に押しつぶされそうになってたのに、今じゃこんなに頼もしくなっちゃって。

 

 そんな俺を見て何か察したのか、スカーレットは優しい笑顔で話しかけてくる。

 

「アンタはどっしり構えてアタシの帰りを待ってればいいの! そんな不安そうな顔してないで、いつもみたいに馬鹿らしく笑ってなさい。 アンタが育てたダイワスカーレットは、1番のウマ娘よ。 誰にも負けないわ!」

 

「……ははっ!そうだな! よし、ぶっちぎってこい!スカーレット!」

 

「がう!」

 

 スカーレットのおかげで肩の力が抜ける。これじゃどっちがトレーナーなんだか。でも、いい雰囲気と流れのままレースに臨める。覇気を纏ったスカーレットを、俺とがうがうは笑顔で見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日こそ俺が勝つ」

 

 パドックから本馬場へと続く薄暗い地下道で、ウオッカがダイワスカーレットに宣戦布告をしてくる。

 

「あっそう。残念だけど、万が一にもアンタの勝ち目はないわ。諦めることね」

 

「はっ、寝言は寝て言え、優等生」

 

 レースが始まる前から火花を散らす二人。傍から見れば一見、仲が悪そうにとれるがその実、互いが互いを認め合うライバル同士。

 

 言葉とは裏腹に、楽しみを抑えきれないといった顔のウオッカとダイワスカーレット。ライバルが全力を尽くして向かってくる。それだけで彼女たちの気持ちの昂りは、ピークに達していた。

 

 一生に一度のクラシック、ティアラ路線。たった一つの桜の女王の座をかけて今、桜花賞が始まる──

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

『さあ、やってきました、クラシック級最初のG1桜花賞。 一つ目のティアラを手に入れるのはどのウマ娘になるのか、楽しみですね下橋さん』

 

『はい、そうですね。 今年もなかなかのメンバーが揃っていますし、その中でも今まで無敗のダイワスカーレット、ジュニアG1を制したウオッカがどういったレースをするのか。どちらが勝つのか、それともまったく別の新勢力か、楽しみです』

 

『連戦連勝のダイワスカーレットか、ジュニア級女王のウオッカか、はたまたダークホースが現れるのか。さあ、それでは桜花賞、ファンファーレです』

 

「うおっ!?やべぇ!!もうファンファーレかよ、ちくしょう!トイレ混みすぎだろぉ!急げ、がうがう!」

 

「がうぅ……」

 

 トイレが想像以上に並んでいて、駆け足で観客席に向かう俺とそれを呆れた様子で後ろをついてくるがうがう。

 

 人の波をすり抜けて常人には感知できないほどのスピードで走る。そんな中、ある一人の女性に目を奪われ足を止めてしまう。

 

(なんだ……あの美人!?)

 

 長く伸びた赤色の髪に、横顔からでも分かる端正な顔立ち。大人の女性特有の色気を醸し出す姿に、スカーレットが成長したらこんな風になるのかもと思ってしまうぐらい、彼女に雰囲気が似ていた。

 

「がう!」

 

「っと、そうだな。女に見惚れてる場合じゃねぇ!」

 

 がうがうに促され再び走り出す。さっきの女性のことを忘れ、最前列に一目散に進む。ようやく辿り着くと、選手たちのゲート入りが始まっていた。

 

(スカーレットは大外18番、ゲート入りは1番最後だ。 落ち着いてるみたいだし、勝てよ、スカーレット!)

 

 順調に枠入りが進み、観客たちの熱気も上がっていく。17人が入り終わり、最後にスカーレットがゲートへと向かっていった。

 

『ゆっくりとダイワスカーレット収まって、今年の桜花賞、いざスタートです!』

 

 ゲートが開きレースが始まった。大きな出遅れはなく、全員キレイなスタートを切っている。

 

『さあ、先頭は誰が行くか。ダイワスカーレット、上がって来ますが3番手、3番手の位置です。 ハナには立ちませんでした。 それを見てウオッカも上がってくる、中団やや前目6番手あたりの位置です。』

 

 スカーレットはいつもの先頭に立つ逃げではなく、番手に抑えた先行策でレースをしている。

 

 大外から無理にハナを狙わなくてもいいから、自分のペースで走れと事前に伝えておいた。作戦通りスカーレットは動いているし、無駄にスタミナを消費している様子もない。

 

『第3コーナー中間点、未だ隊列に変化はなく、淀みなくレースが進んでいって第4コーナーに入っていきます。 がっしりとダイワスカーレット3番手、その後ろウオッカが上がってくる! 現在4番手!!』

 

(スカーレットが動かないなら、こっちが先に仕掛けてやるッ!!ここで一気に加速して、ぶち抜くッ!!)

 

「うぉおおおおおおおおおっっっっっ!!!」

 

 第4コーナーを回ってダイワスカーレットの外を、ウオッカが上がっていく。加速をつけたウオッカの末脚が炸裂する──しかし、

 

「ここッッッ!!!」

 

「なっ!?」

 

 ウオッカとほぼ同時にスカーレットもスパートをかける。コーナーで膨らんだ体を内に戻そうと進路を少し変えたウオッカに、スカーレットの加速が重なる。

 

 そのため、ウオッカが進もうとした道の前にスカーレットが先に現れることになる。一瞬、ウオッカの加速が緩むことになり、これが勝負をきめた。

 

『ウオッカ外から上がってきた!ウオッカ上がってくる!  ダイワスカーレットも先頭に立つが、ウオッカ! 少し苦しいかウオッカ、ウオッカ苦しい! ダイワスカーレットまだ先頭で、ウオッカは捉えきれないか! 前2人突き抜けましたが、勝ったのは、ダイワスカーレット! ウオッカは届きませんでした! 桜の女王は無敗のまま、樫の舞台へ挑みます!!』

 

 最終直線、後続と大きな差をつけ、唯一ついて来たウオッカも振り切ってスカーレットが最初にゴール板を駆け抜けた。

 

 スカーレットが初のG1を、桜花賞を制したのだ。

 

 俺は喜びを抑えきれず、観客席を飛び出してスカーレットがいる本馬場へと走り出してしまう。

 

『いやぁ、ダイワスカーレット強かったですね、下橋さん』

 

『ええ、ウオッカの末脚を封じた完璧な走りでした。普段の逃げではなく、番手でも走れるというのはこれからのレースで大きな強みになると思います。』

 

『なるほど、オークスでどんな走りを見せるのか楽しみですね。……おっと?誰か馬場に入ってきましたね? ダイワスカーレットに近づいていきますが……?』

 

『ああ、彼女のトレーナーですね、あれは。彼は明るく、感情的な人でしたから、喜びのあまり、といったところでしょうか』

 

『そうでしたか。あ!今軽々ダイワスカーレットを持ち上げてグルグル回っていますね。すごいパワーです。どこか微笑ましい──「チョットハナシナサイヨー‼︎」「グワァアアアアアアツツツ⁉︎」 ……ははっ、仲良さそうですね』

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

「ファンのみんなが見てるんだから、ああいう恥ずかしいコトしないで!わかった?」

 

「なはは……すまん、すまん。嬉しすぎて体が勝手にな」

 

「ほんっと、子供っぽいんだから」

 

 鳴り止まない歓声の中、コースのど真ん中でスカーレットに怒られる俺。機嫌を損ねてしまったかと思ったが、尻尾はブンブン振ってるし、耳もピクピクと動いている。

 

 喜びを隠しきれないスカーレットを見て、自然に口角が上がる。初のG1タイトルなのだからもっとはしゃぎたいだろうに、自分のイメージを崩さないためにそれを抑えている。

 

 どこまでも真面目なスカーレット。なら彼女の分までトレーナーの俺が、喜んでやる。彼女には悪いが、G1勝ったら毎回これやってやるからな、覚悟してろよ。

 

「はあっ……はあっ……スカーレット」

 

「ウオッカ……」

 

 スカーレットの元に、未だ息が整っていないウオッカがやってきた。その顔は悔しさを滲ませながらも、どことなく晴れやかなものだった。

 

「負けだ、俺の。まさかあそこで仕掛けてくるとはな、完敗だ。今のお前は俺より強い、認めるよ」

 

「ふふん、当然でしょ! アンタにだけは負けるわけにはいかないの。というか、やけに素直ね? アンタが負けを認めるなんて、どういう風の吹き回し?」

 

 レースに負けたとはいえ、普段とは違うウオッカの態度に違和感を覚えるスカーレット。一度フッと笑うとウオッカは観客席の方を向く。

 

「そう……だな……。俺は負けた……、だから、だからこそ」

 

 そう呟きどこか遠くを見ているウオッカ。やがて、何かを決心したのかスカーレットへと向き直り、真剣な表情で衝撃的な発言をした。

 

「スカーレット……、俺は……ダービーに出る……!」

 

 ダービー。それは世代の頂点を決める最高のレースの一つ。この特別なレースに選手生命の全てを懸けるウマ娘も少なくはない、三冠路線の栄光。

 

 ティアラ路線が美しさを求める女王の道だとすれば、三冠路線は強さを求める王者の道。そこにウオッカは挑むという。路線を途中で変更する例は珍しくはないが、その悉くが結果を残さずに終わっている。

 

 ましてや、ティアラ路線のウマ娘がダービーを制した事など、片手で数えるほどだったはず。正直、そうとう厳しい話だし、スカーレットと同じくオークスに出ると思っていたからかなり驚いた。

 

 スカーレットも取り乱すと思ったが、俺とは対照的に冷静にウオッカの言葉の続きを待っている。

 

「今日のレースで俺は思ったんだ……、このままお前の後ろを追っかけてるだけじゃ、一生お前を追い越せねぇって。俺は俺の道を行かなきゃいけない。お前が1番を目指して自分の道を歩むように、俺も……俺の目指すカッコいいウマ娘になるため、俺の夢……ダービーを獲りにいく……!」

 

 ウオッカは拳を強く握り、思いの丈を熱く語る。スカーレットに勝つため、自分の夢を叶えるため、ダービーに挑戦する決意を見せる。その気迫は、本当に勝ってしまうのではないかと思わせるほどで。

 

「だから……すまねぇ、スカーレット。オークスには出られない……。」

 

 腰を折り誠心誠意謝るウオッカ。その姿を見て、スカーレットは呆れながら口を開いた。

 

「はあ……、顔上げて。そんなことだろうとは思ってたけど、アンタが行きたいなら行けばいいでしょ。アタシにそれを止める権利なんてないわ」

 

「知ってたのか……?」

 

「そりゃ、ね。アンタ最近、部屋の中でも何か言いたげにソワソワしてたし、前からダービー走ってみてぇって言ってたじゃない。分かるわよ、さすがに」

 

「スカーレット……」

 

 スカーレットも本当はウオッカと走りたいはずだが、それを押し付けるほど子供ではない。ライバルが夢を掴もうとしている、その背中を押すのもライバルの役目だ。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「必ず勝って。アタシ以外に負けることは許さないわ。そして、秋にまたアタシと勝負しなさい! 強くなったアンタと、アタシは戦いたい! だから、ダービー獲ってきなさいよね」

 

「…………へへっ、まかせろッ!!」

 

 自然と笑みを浮かべる二人。次の勝負のため、それぞれ強くなることを誓い合う。なんだかすごく青春してるな、スカーレットは本当に良いライバルを持った。

 

 ウオッカは言いたいことを言い切って、清々しい表情で戻っていった。

 

「こりゃ、負けらんねぇなぁ」

 

「ふふっ、アタシは負けないわよ、誰にもね!」

 

 いたずらっぽく笑うスカーレットに、俺もまた笑みを返す。俺たちにとって初めてのG1は、新たな戦いを予感させつつも最高に充実した一日になった。

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「おし、もう準備できたか?」

 

「OKよ、行きましょ」

 

「んじゃ、帰っか」

 

 ウイニングライブも無事に終わり帰り支度をする俺たち。G1ということもあり、普段のレースよりスカーレットもくたくただろう。かくいう俺も朝からの緊張で疲れ切っている。

 

(はよ帰って寝たいとこだが、よくやってくれたスカーレットに美味い飯でも食わせてやりてぇな。聞いてみっか)

 

「スカーレット、この後時間あるか? 飯食いに行こうぜ。今日の打ち上げでよ、奢ってやるぜ!」

 

「えっ、ホント!? 行きたい……けど、この後ママと会う約束してるから、その……」

 

「そういや、お袋さん来てるって言ってたな。ならしゃーない、飯はいつでも行けるし、気にすんな」

 

「うん、ごめんね……。行きたいのは山々だけど、やっぱりママとの時間は大切だから……」

 

「ならみんなで行けばいいんじゃない? その方が楽しいわよ、絶対!」

 

「「えっ?」」

 

 会場から出ようと歩きながら話していると、急に後ろから声がかかる。振り向くとそこには、スカーレットに似た美人の女性、もっというと観客席で見かけたどストライクな女がいた。

 

「ママッ!!」

 

「ハロー、スカーレット。久しぶりっ!」

 

「ママっぁ!?」

 

 スカーレットが興奮した様子で、ママと呼んだ女性に抱き着く。それはもう幸せそうな顔で。女性の方もスカーレットを抱きしめ返し、聖母のような温かい表情で頭を撫でている。

 

 にわかには信じられないが、この美人な姉ちゃんがつまり……

 

「なあ、スカーレット……。もしかしなくてもその人がお前の……」

 

「ええ、アタシのママよ」

 

「はい、私がこの子の母です。スカーレットのトレーナーさんですね? 娘がいつもお世話になってます」

 

「あっ、いやいや、こっちこそ娘さんには世話になってて……。改めて大神勇斗です、彼女のトレーナーをやらせてもらってます。よろしくどうぞ」

 

 驚きつつも、どうにか最低限の礼儀を果たす。まさか本当にスカーレットの母親だったとは。よく見ると顔立ちも似ているし、親子と言われれば納得しかないのだが。

 

「……にしても若ぇな、おめぇの母さん。ぶっちゃけ超タイプなんだけど」

 

「あらやだ、褒めてもスカーレットの好きな男性のタイプぐらいしか出ないですよ、ふふっ」

 

「なにサラッと娘の個人情報暴露しようとしてるのママ」

 

 どうやらだいぶおちゃめな人のようだ。うーん、困ったぞ。どんどんこの人に惹かれていってるね、ワタクシ。いや待て、落ち着けぇ。相手は既婚者だぞ、旦那もいる。倫理的にアウトなんだ。

 

 それに、俺はNTRが大ッッッ嫌いなはずだろォ!

 

「今日のレース見てたわよ、スカーレット。あなた本当に強くなったのね、ママ嬉しいわ。とってもかっこよかった、メジャーも来れたらよかったんだけど、ごめんね。あの子また風邪ひいちゃったみたいで」

 

「ううん、姉さんが応援してくれてるのは分かってるし、ママが来てくれただけでも十分だわ。それと……アタシが強くなれたのはトレーナーのおかげよ。一人じゃきっと、ここまで来れなかった……」

 

「うん……、そっか。ふふっ♪あなたも素敵な人に出会えたのね。ねえ大神さん、これからもスカーレットのことよろしくお願いします。娘にはトレーナーさんが必要みたいですから」

 

「そっ、それはもちろんっ。まっ、任せてください!」

 

 つっかえながらもなんとか答える。完全に俺の心はスカーレットの母親にやられていた。彼女がスカーレットに向ける笑顔は心の底から喜んでいるようで、こっちも嬉しくなってしまう。

 

「でへへ……」

 

「っ! なに鼻の下伸ばしてんのよバカッ!!」

 

「いってえええええっっ!!」

 

 母親にデレデレしていると、ハグし終わったスカーレットが俺の腕を思いっきりつねってくる。抗議の声を上げようと彼女の方を向くと、不機嫌そうな目で俺をじっーと見ている。

 

 冷静に考えると担当の母親に惚れかけてるって、かなりヤバイな。危ねぇ、助かったぜスカーレット。俺は正気に戻ったぞ、うん。

 

「二人とも仲がいいのね、よかった。さっきも言ったけど、ご飯食べるなら大神さんも一緒にどう? その方が楽しそうだし、ね? スカーレットもそっちの方がいいでしょ?」

 

「うん……と……、ママがそう言うなら……」

 

「いや、俺は遠慮させてもらいますよ。自分が居たんじゃ話したい事も話せないでしょうし、スカーレットは。それに滅多にない家族水入らずの時間を潰すほど、俺の肝は座ってないですから」

 

「アンタ……」

 

 そう。俺が居たんじゃスカーレットは恥ずかしがって、話せる事が少なくなっちまうだろう。俺がこの親子の間に入るのは邪魔なだけだ。

 

 ああそうだ。断じてこれ以上この母親と一緒にいたら、ガチ恋してしまうとかそんな理由じゃなくて、心からこの母娘を思ってのことだ。

 

「そうですか……。なら、またの機会にしましょう! 次は絶対来てもらいますからね。そうだ! その時は家族みんなに会ってもらいましょ!」

 

「ははは……、じゃあ俺はこれで。スカーレット、しっかり休めよ。そんじゃあ、またな」

 

「アンタこそ、きちんと休みなさいよね! えっと……またね♪」

 

 スカーレットと母親に手を振ってこの場を去る。なんか最後にとんでもねぇ約束をさせられた気がしたが、まあ実現しないだろう。スカーレットの母親はかなり忙しいみたいだからな。

 

 ふと空を見上げると、星たちが輝き始めていた。残り二つのティアラ、スカーレットが必ず掴み取れるようにと、何とも無しに星に願うのだった。

 

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