ダイワスカーレットと異世界勇者トレーナー   作:グリングリン

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ほーん、ドラゴンボールヒーローズ12周年かぁー。
…………じゅうにしゅうねん…………? 

     what!?





ダービーと新たな来訪者

 

 俺はあの日、父ちゃんに連れられて東京レース場に来ていた。

 

 レースについて存在自体は知っていたけど、そこまで興味があるわけじゃなかった。

 

 だからそんなに楽しくはなかったな。人は馬鹿みたいに多いし、天気は悪いし、結構暑かったしで、ここに来るまで父ちゃんに乗せてもらったバイクの方が楽しかったぜ。

 

 あの、日本ダービーが始まるまでは。

 

 たったの2分半。それだけの時間の光景が、俺の脳に焼き付いて離れることがなかった。

 

 18人の誰もが、ただただこのレースで勝つことだけを、どんな奴より先にゴール板を駆け抜けることだけを考えていた。

 

 ギラギラと燃え盛る瞳達に俺は釘付けになっちまった。

 

 それまでの不満なんて何処かにぶっ飛んでた。父ちゃんすらも押し退けて、自分でも気付かないうちに身を乗り出してその結末を見守ってた。

 

 最後の直線、東京525m。寸分違わず思い出せるほど今でも覚えてるな。

 

 前のみんなが横一列に並んで誰が勝つのか分かんねぇ中、ただ1人一瞬の内に抜け出して、たった1つの頂点を奪い去っちまった。

 

 俺はもう放心状態。まるで夢ん中にいるみたいだった。我に戻ったのは、観客の怒号のような歓声が耳に入ってから。

 

 右手を上げたあの人の姿を見て、俺は憧れた。レースを走る選手達に、日本ダービーに。

 

 そして憧れはいつしか夢に変わった。俺の全てを懸けて叶えたい夢に。

 

 誰もが無理だと、無謀だと言っていたけど、関係ねぇ! その誰かが決めた常識なんて俺がぶち壊してやる!

 

 そんで証明する。俺がどれだけカッコイイウマ娘かって事を! 俺と相棒が最強のコンビだって事を!

 

 夢の舞台、日本ダービー! 勝つのは俺だ!!

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

「ひゃあ〜、とんでもねぇ人の数だな。酔いそう」

 

「当たり前でしょ? ダービーよ、ダービー。トゥインクル・シリーズで最も盛り上がるとも言われるレースなんだから、我慢して」

 

 普段着ている学園支給の制服ではなくラフな格好をした青年、大神勇斗。その隣を歩く緋色の髪のウマ娘、ダイワスカーレット。こちらも可愛らしい私服を着ている。

 

 2人は日本ダービーが開催される、東京レース場にやってきている。

 

 もちろん、ダイワスカーレットのライバルであるウオッカのダービー挑戦を見届けるためだ。

 

 会場の熱気は凄まじく、先週行われたオークスも超えるほどの人の波に、昔から人混みが得意ではない大神は辟易してしまう。

 

 なるべく人が少ない場所へと顔を青ざめながら歩を進めると、大神はよく見知った顔を見つける。

 

「おっ、和也! ここにいたんか〜」

 

「大神、それにダイワスカーレットも。来てくれたのか」

 

 大神が親しげに話しかけた、背が高く誠実さを感じさせる男、霧島和也。ウオッカの担当トレーナーだ。

 

「いやなあ、スカーレットがどうしても行きたい〜って駄々こねるからよー。仕方なくだよ、仕方なく」

 

「ちょっとトレーナー! 何捏造してるのよ! アンタだって乗り気だったじゃない! ウオッカと霧島さんが心配だから行くしかないなって言ってたくせに!」

 

「いっ、言ってねえしそんな事! 第一、そんなツンデレみてーな事俺がやるわけねぇだろ、スカーレットじゃあるまいし!」

 

「それどういう意味よ!!」

 

「ははっ、何はともあれ来てくれてありがとう。ウオッカも喜ぶはずだ」

 

 2人のコテコテの茶番に霧島は微笑むが、すぐに硬い表情へと戻ってしまう。

 

「……やっぱ不安か?」

 

「まあ……な……。本当にこの選択で良かったのか、自分はまだ迷っているのかもしれない……。ウオッカが望んだ道だというのにな」

 

 路線変更というのは珍しくはないが多くもない。どうしても結果を残せる者が少数だからである。

 

 ティアラと三冠では求められる適正が大きく違う事と、路線変更を行うとそれまで闘ってきた相手がガラッと変わってしまう。これは本人が思っている以上にストレスを与え、本来の力を発揮できずに終わってしまう事がほとんど。

 

 それに加え、ファンや関係者も期待をしていない事が大きい。今までの結果から誰もが勝てる訳がないと諦めてしまっている。挑む事すら馬鹿馬鹿しいと。ましてや日本ダービーなどと。

 

 実際、ティアラ路線で優秀な成績を残してきたウオッカが、今回のレースで一つも注目されていない。一部のロマンを追い求める人間以外、ウオッカの存在を歯牙にも掛けていない。

 

 完全なるアウェー。この空気の中では不安になってしまうのも無理はないだろう。

 

 どんどん表情が厳しくなっていく霧島に、スカーレットが凛とした声で言う。

 

「……アイツは、ウオッカは勝ちますよ、必ず……。昔から馬鹿の一つ覚えみたいにダービー、ダービーって言ってた奴が本当に夢の舞台に立ったんです。ひたすらこの日のためだけに生きてきたアイツが、アタシの最強のライバルが、ここで負けるはずがないんです」

 

「ダイワスカーレット……」

 

 霧島と同じかそれ以上にウオッカの事を考え、見てきたダイワスカーレットだからこそ言える言葉。その絶対的な信頼に霧島も調子を取り戻していく。

 

「そうだな……。ここまで勝った時のカッコよさが尋常じゃないレースでウオッカが負ける事なんてないか……! ウオッカの走りを俺は信じるだけ……。ありがとう、ダイワスカーレット。君のお陰で大切な事を思い出せた」

 

「いえ、そんな……、アタシは思った事を言っただけですから」

 

「ほんっと、ウオッカのこと好きだよなースカーレットって、結婚でもすんの?」

 

「は?」

 

「いや、なんでそんなキレてんの……?」

 

「まったく……、これだから乙女心がわからん阿呆は」

 

「そこまで言いますぅ!?」

 

 ツッコミできる程に元気になった霧島を見て、安心する大神とダイワスカーレット。

 

 気づけば時間は15時35分。あと5分で待ち望んだダービーが始まる。会場のボルテージは最高潮に達し、どこもかしこも今か今かと待ちきれない様子だ。

 

「頼むぞ……ウオッカ……!!」

 

 ゲートの前に立つウオッカの目に灯された焔は静かに、しかし確かに力強く燃え盛っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(不思議だ……念願のダービーを走ってるっていうのに、怖いくらいに冷静だぜ俺。それになんか変だ。俺だけ別の場所を走ってるような感覚、体が勝手に走るとこを選んでやがる。このままここを走ってれば、勝てるって言ってる気がする)

 

 ウオッカはどこまでも落ち着いていた。頭は冴え渡り、体は羽のように軽い。彼女の走りは、過去の自分を遥かに超えて洗練されたものになっていた。

 

 極限まで高められた集中力によって、限界以上の力が引き出され、一種のゾーンのような領域にウオッカは到達していた。

 

 現在、向正面から大欅を越え第4コーナーへと集団は向かう。ウオッカはちょうど中団、8、9番手に位置付けスタミナを保ちながら、自分のペースを崩さずに走っている。

 

 少しずつ勝負を仕掛け始める者が増えていく中、ウオッカはまだ動かない。最後の直線に賭けるしかないからだ。

 

(他の奴らに比べて俺はスタミナが多いわけじゃねぇ。少しでも仕掛けどころをミスっちまえば、一気に置いてかれる。……でも、それでも、今日の俺は負ける気がしないぜ! 分かるッ! どうすれば勝てるか分かっちまう!)

 

 直線向いて全員が魂を込めた力比べが始まる。後方勢は溜め込んだ末脚を解放し、前目につけた者達は抜かされまいと執念の粘りを見せる。

 

 大地が割れんばかりの歓声が鳴り響く中、ウオッカの視界から色が消えていき、音も遮断されていく。

 

 無意識に体が走る事に要らない情報をシャットアウトしたのだ。そうする事により、全ての力が走るという事に集約され爆発的な末脚を生み出した。

 

(俺の全力全開ッ!! アクセルベタ踏みだぁっ!! この日本ダービーを勝って俺は証明する! 俺の強さを! もう誰にも負けたくねぇ! アイツに勝てるのは俺だけなんだよッ!!)

 

 バ場の真ん中突っ切って、驚異的なスピードで駆け上がってくるウオッカ。それは一瞬で前を走っていたウマ娘を置き去りにし、先頭へと躍り出る。

 

「ぶっち切れぇえええええええ!! ウオッカッッッ!!」

 

 色も音も無くなった世界に1人の男の声が響く。相棒である霧島和也。彼の声はウオッカの最後の一押しになり、さらに速度を上げた。

 

「はあぁああああああああぁぁああああああっっっっ!!!」

 

『ウオッカ先頭! ウオッカ先頭だ! なんとなんと、64年ぶりの夢叶う! ウオッカ先頭! ウオッカが見事に決めましたぁ!! ウオッカやったぁー! これは恐れ入りました! ジュニア女王はなんと、クラシックの頂点へ! 今年のティアラ世代は一味違いましたぁ!!』

 

 前評判も常識も、何もかもをぶち破って日本ダービーを制したウオッカ。終わってみれば彼女の完勝、ただ1人だけ格が違った。

 

 64年ぶりの快挙に観客達は湧き上がる。無理だと見限っていた人々がこれだけの熱狂なのだから、ウオッカを信じ応援していたファン達の喜びはひとしおだろう。もちろん、彼女のトレーナーも、彼女自身も。

 

「はあっ、はあっ……! 勝ったのか……? 俺がっ……! ダービーを……! くうぅぅぅぅぅぅっっ!! うおぉおおおおおおおおおおおおおおっおおお!!!」

 

 右手を上げて喜ぶウオッカに、歓声がさらに強くなる。あまりの感動に涙を流す者もチラホラ。それだけ目の前の光景は奇跡に近かった。

 

「…………」

 

「……なにボッーとしてんだ、和也!」

 

「あっ、ああ……」

 

「はよ行ってやれよ、待ってんぞおめーの相棒がよ」

 

「……そう、だな。すまない、行ってくる」

 

 意識が抜け落ちたように突っ立っていた霧島を、ウオッカの元へ促す大神。律儀に礼をしてから彼はコースへと走っていく。

 

 やがてターフで再会した2人は、思いのままに力強い抱擁を交わし、さらに観客達の熱を上げる事となった。

 

「しっかしまあ、あそこまで強い勝ち方とはねぇ。こりゃ秋が楽しみだなぁ、スカーレット」

 

「……帰るわよ、トレーナー」

 

「えっ? もう帰るんか? せめてウオッカに会ってからでも」

 

「アイツにはいつでも会えるでしょ。……それに、あんなの魅せられてのんびりしてる暇なんてないじゃない」

 

 ウオッカに感化されて、今すぐにでも体を動かしたくてたまらないダイワスカーレット。その姿を見て大神は嬉しい悲鳴をあげる。

 

「ったく、今日は休日だっつーのに。明日起きれなくなっても知らねーぞ?」

 

 こうして日本一の祭典は、新たな時代の到来を知らせ、興奮冷めやらぬまま幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 歴史を変えた日本ダービーから数日、あの日からスカーレットの気合いは乗りに乗りまくっていた。脂の乗った旬のブリみたいだ。

 

「……アンタ、また何か失礼な事考えてるんじゃないでしょうね?」

 

「そんなわけないだろぉ? むしろ、お前のコトを褒め称えていたくらいだぜ」

 

「それはそれで気持ち悪いわね」

 

「もう俺には正解がわかりませぇーん!!」

 

 そんなこんなで、いつも通り2人でトレーニングを行っていると、本当に唐突に空から何が降ってきた。

 

 それは学園の校庭に衝突し、大きな衝撃音をもたらした。まるで俺がこの世界に来た時と同じように。

 

「なっ、なに!? 今の!? まさか、また魔族って奴らがやってきたの!?」

 

「あー、いや……こいつは違うから安心しろ。ホントに。つーか無視してもいいくらいだ、マジで」

 

「……? どういう意味よ、それ?」

 

 スカーレットを宥めながら俺は嘆息する。今落ちてきた奴が完全に俺が知っている人物だからである。正直会いたくない。

 

 しかし、正義感の強いスカーレットがそれを許すはずもなく、渋々俺と彼女は現場へと向かうのだった。

 

「すっ、すごい……! こんな大きなクレーター初めて見たわ……! これ落ちてきた人無事なの?」

 

「まあ、大丈夫だろ。俺と同じくらい強いしあいつ。こんなんで死にはしねぇよ」

 

 バリバリ、ヤツの気を感じるしな。

 

 俺とスカーレットはクレーターに近づいて、中を覗き込んだ。すると中心から何かが飛び出し、クルクルと体を回転させながら俺達の側に着地した。

 

 その人物は目立つほど逆立った黒髪に、鍛え抜かれた肉体、ムカつくぐらい整った顔立ちを携えた、俺よりちょびっと身長が低い男。俺はこいつをよく知っている。前の世界からずっと。

 

「やっと……見つけたぞ……! オレオスッ!! 貴様ッ、今まで何をやっていたぁ!!」

 

 男は激昂しながら、拳を突き出し俺に向かって突っ込んでくる。あの時の魔族より素早い一撃に、俺は冷静に右手で受け止めた。

 

 あまりに突然な襲撃に、隣にいたスカーレットは驚き戸惑っている。つーか俺もびくったんだけど。何やってんのこいつ?

 

「ちっ……! 俺がどれだけ探したと思っているっ!! このバカ勇者がぁっ!!」

 

 一度の攻撃では飽き足らず、男は俺の前から一瞬で消え後ろへと回り込む。そのまま、後頭部を狙うように蹴りを入れようとしているみたいだ。

 

 もうめっちゃ本気ですやん。さすがにこいつを喰らったら痛そうだし、こっちもちょいと本気で迎撃しなくては。

 

 ヤツの攻撃よりも速く振り向き、男の顔面を鷲掴んで地面へと叩きつける。

 

「一旦落ち着けぇい! おめーはよぉ!」

 

「ぶべぇ」

 

 頭から硬い土にめり込んで男は動かなくなった。……やりすぎた感はあるけど、まあ、大丈夫だろ!

 

「ちょっと……、アンタこれ、大丈夫なの? この人知り合いなんでしょ?」

 

「生きてはいる……から……。問題ないはず……」

 

「自信なくしてんじゃないわよ……」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、周りに生徒達が集まってくる。その中に青ざめた顔をした理事長とたづなさんも混ざってるし、後はあの2人が来てから話を進めよう。

 

 まさかこのタイミングでもう1人の転生者がやってくるとは。どうなってんだ、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの男は八雲風太、俺と同じ転生者であり、もう1人の勇者だ。

 

 勇者としての名はミータリ。こいつも神さまから新たな命とサイヤ人としての力を授かっている。

 

 俺と共に【イルラニア】の世界を旅し、魔王討伐を目指した仲間──なんだが、ヤツはどうもそうは思っていないらしい。

 

 事あるごとにライバル視してくるから、あんまり友達みたいな関係にはなれなかったんだ。ずっとツンツンしてるから、こっちの対応もテキトーになっていって、なんだか不思議な距離感に収まっちまった。

 

 風太は今、理事長達と話をしている。あいつが何者なのか、この世界の事やこれからの事など色々と。

 

 俺は現場に残って、クレーターが出来た校庭の修復作業中。スカーレットには残りのトレーニングを1人でやってもらっている。

 

 せっせこ土を運んでクレーターを埋めていると、後ろから声がかかる。

 

「オレオス……。思った以上に元気そうだな、貴様は」

 

「……その名で呼ぶのはやめろ、風太。今は勇者でも何でもねぇ、唯の大神勇斗でやってんだ」

 

「なら貴様もミータリと呼べ。俺は勇者の誇りを捨てた覚えはないのでな」

 

「いいじゃねぇか風太くん。お前の親が泣くぜ? そんな自分の名前を嫌ってたらよ。可愛いじゃねえかよ風太くん、レッサーパンダみたいで」

 

「貴様がそうやって茶化すから嫌になったんだろうが!!」

 

 懐かしいなこんなやりとりも。クールな雰囲気出してんのに、すぐ頭に血が昇っちまうんだから。この脳筋男子。

 

「それで? もう話は終わったのか?」

 

「ああ……、理事長の計らいでこの学園で働けることになった。ここの安全を守る警備員としてな」

 

「そうか……。まあ、お前にはトレーナーよりそっちの方が合ってるわな」

 

 理事長も俺という前例があったためか、話が進むのが速い。こちらとしても風太が目の届く場所にいるのはありがたい。これで結構この男はバカだからな。見張っとかないと何をやらかすか分からん。

 

「貴様にだけは言われたくないな」

 

「おっと、そういやお前さん心が読めるんだったな。すまんすまん」

 

 正確には相手が考えている事がなんとなく分かるぐらいの力だったか。本人曰く、この能力は生まれ持ってのモノだそうで、そのせいか昔から他人を信用する事が出来なかったらしい。

 

 今ではある程度折り合いをつけて、どんな人にもフラットな対応を出来る様になったとか。

 

「フンッ…………。なあ、オレオス」

 

 俺の隣に立ち、学園の校舎を見つめる風太。その顔はとても優しく、しかし寂しさも同時に混在していた。

 

「この世界は暖かいな……。俺達のような余所者を受け入れ、居場所まで用意してくれた……。何より、【ウマ娘】という本来なら迫害されてもおかしくない存在が当たり前の様に共存している」

 

 風太の言いたい事は分かる。俺達がいた世界【イルラニア】はお世辞にも良いところだとは言えない。あっちと比べるとここは桃源郷と言っても過言じゃないだろう。

 

 ウマ娘という超常の存在。彼女達が他の人間と変わらず暮らしている、あの世界に俺より長くいた風太なら驚くのも無理はない。

 

 それだけこの世界は暖かい。人の優しさで満ち溢れている。

 

「だろ? ウマ娘達は可愛いし、人々も優しい奴らばっかだしよ。これぞ俺が求めてた異世界転生って感じだ」

 

「……貴様のそんな楽しそうな顔、久しぶりに見たな」

 

 穏やかな笑顔で話す風太。こっちだってお前のそんな顔久々に見たっての。

 

 一度会話が途切れ、2人の間に静寂が訪れる。特に気まずいわけではないが、差し込む夕日も相まって柄にもなく黄昏てしまう。

 

「なあ……どうしたら……、俺はあの世界で悟空みたいに、みんなから愛されて、頼られる勇者になれたんかなぁ……」

 

「…………そもそも、現代日本で生まれ常識という不自由に縛られて育った貴様が、孫悟空という規格外の存在になれるわけがないだろう」

 

「……それもそうか」

 

「ただ……」

 

「ん?」

 

「少なからず貴様に救われた者がいることを忘れるな。いつだって他人のために貴様が命を懸けていた事を、そいつらは知っているはずだ。……紛れも無く貴様は勇者だった。それに、こちらにもいるのだろう? 貴様に助けられた運の悪い者が」

 

「風太くん……」

 

 慣れない事をしたせいか、風太の頬は真っ赤だ。まさかお前に励まされるとは、やっぱ俺のこと好きだろコイツ。

 

 でもおかげで元気出たわ。やはり持つべきものは気の許せる仲間ってことですかね。

 

「そーいや、おめぇどうやってここに来たんだ?」

 

「神に連れて来られたんだ。オレオスを探していると言ったら、ここに転移させられた」

 

「ええっ!? 神さま、俺がこの世界にいるの知ってたんか!? ならなんで俺にコンタクトとってくれなかったんだ?」

 

「どうやら、神の力が干渉出来ないらしい。ヤツの力が弱くなっている事もあり、俺を呼ぶので精一杯だそうだ」

 

「えーー……。あの人マジで神さま失格だろー……」

 

 2人して神さまの不満をあーだこーだ言っていると、1人の女性が校舎からこちらに向かってくるのが見える。

 

 あれはクリーク達が所属するチームレグルスの担当トレーナー、櫻井芹奈さんだ。大きく手を振って走ってくる彼女に、俺も手を振り返す。

 

「櫻井さん、どうしたんだ?」

 

「ふぃー……、大神さんにこの間の会議の資料を渡し忘れていたので……どうぞ、こちらを」

 

「わざわざ届けに来てくれたのか、悪いな、助かったぜ」

 

「いえいえ、ウチのクリーク達がお世話になってますからこれくらい何ともないです! ……ところで、そちらのお方は?」

 

「ああ、こいつは八雲風太。俺の友人で、明日から学園の警備員をやってくれる男なんだ。……って、どうした? 何ボケっとしてんだ?」

 

 風太の様子がおかしい。櫻井さんを見つめたまま動きが止まってる。彼女も彼女で、キョトンと首を傾げ見つめ返しているが……。

 

 なんやこれ。何とも意味のわからない空間に、居た堪れなくなっていると、風太がゆっくりと櫻井さんの方に近づく。

 

「…………名前はなんと言うんだ?」

 

「あっ、私ですか……? えっ……と……、櫻井芹奈……ですけど……」

 

「櫻井……芹奈……」

 

 彼女の名前を呟くと、風太は櫻井さんの手を取り叫んだ──

 

「俺はお前に惚れたっ!! 櫻井芹奈、俺と付き合ってくれ!!」

 

 ──愛の告白を

 

「………………はへぇ?」

 

「えっ」

 

 あ、あの雲わたあめみたーい。おいしそーう。思考回路が停止した俺より先に、櫻井さんは言葉の意味を理解したのか、みるみる内に顔が茹で上がっていく。

 

「かっ…………、考えさせてくださーーーーいっ!!!」

 

「待ってくれ! もう少し俺はお前と話がしたいのだがっ!!」

 

 逃げ出す櫻井さんを追いかける風太。あっという間に2人に置いていかれた、私、大神勇斗。

 

 今日の夕飯は何にしよう。そんな現実逃避をしながら、俺は1人虚しく穴を埋める作業に戻るのだった。

 

 

 

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