ふと気付いたらテスト中だった。な、何を言っているか分からないと思うが以下略。
はふ、と溜め息を一つ吐く。おかしいな、俺は何でこんなところにいるんだろうか?
俺は確か、さっきまでデッキの調整をしていたはずなのだけれど。ゲームで。
もう一度言っておこう。ゲームで。
デッキの調整をするためだけにカードを購入すると高く付いて仕方がないので、ちょっと前のカードだけで組めるデッキの調整はゲームで済ませているのだ。
誰だってそーする、俺もそーする。いやあ、タッグフォースシリーズは便利でしたね……。
と、そんな事は如何でも良い。とりあえずは現状認識をしなければならない。とりあえず周囲を見回すと試験官っぽい人に怒られそうなので、目の前にあるテスト用紙へと目を向けた。
第一問:青眼の白龍の攻撃力、守備力、レベル、属性、種族を答えなさい。
第二問以下も似たようなモンだった。要するに遊戯王OCG関係の問題がわんさかである。
あからさまに現実世界じゃあ有り得ないテストだと言わざるを得ない。はいはい、わろすわろす。
……って言うかなんぞこれ? 夢? 幻? さっぱり分からん。とりあえずほっぺたを抓ってみたら痛かった。
その後は現実感のないままでテスト終了。埋めるだけは埋めておいたよ。
しかし、サクリファイスの設問は微妙に意地が悪かったな。現実世界でも答えられる人間そんなにいないんじゃないのか?
試験場なう。ここまでの道すがら、軽く所持品をチェックしてみたらバッグの中から出るわ出るわ、カードの山。デッキもいっぱい。
って言うかおい、何処にこんなに詰まってるんだ。各種最大で九枚までしかないとは言え……って、時械神とかシンクロとかエクシーズとかこの時代に存在して良いカードじゃねえぞ!
その上でオベリスクとかオシリスが3枚ずつとかお前……。あ、ライフちゅっちゅギガントさんは出来ればTF4までの効果で出直してきてください。ぶっちゃけ名前変えれば普通に存在していても許されるレベルの弱さだ。
――と、まあそんなことはともかくとして、これで何となく理解できた。自分はタッグフォース、それも最新作であるTF6で所有していたカードを所持したままで此処に居るらしい。
これなんてご都合主義?許されるの?ライフ8000環境で戦えちゃうデッキが山盛りですよ? いやまあ、ファンデッキ依りの構築ばかりだからワンキルヒャッハー! とか有り得ないけどさぁ……。でも逆に4000だと速攻で片を付けられる事も有り得るのか。
ふむ、なかなか難しい……ってサバティエルまでありやがる。封印だ封印。禁止カードとか封印するべき。ああ、でも苦渋ネクロスならちょっと作ってみたいかも。
とか懊悩していたら何時の間にか自分の番だった。ちょっくら行って参ります。
「受験番号23番、倉沢克己くんだね?」
「あ、はい、そうです。よろしくおねがいします」
まだ現実感がないせいか、Yes,I am! チッチッ、とかやりたくなったりしたが、そこは抑えて無難なお返事で返しておいた。
あ、名前は変わってませんでした。やっぱり夢だからだな、うん。多分そうだ。
「うん、ではデュエルを始めよう。試験の一環ではあるが、いつものようにリラックスして、デュエルを楽しみなさい」
「はい、分かりました」
さーせん、お心遣いは嬉しいんですが、デュエルディスクでのデュエルとか初めてなんでいつものようにって言われても困ります。
内心で突っ込みながらも左手を掲げる。ガシャン、と音を立ててデュエルディスクが変形した。
ああ、よかった。これで起動しなかったら物笑いの種だったぞ。正直起動の仕方とか全く分かってなかったし。
モーションセンサーなのかデュエルエナジー? とか言うのを検知しているのか、なんだか分からんがKCの超技術万歳だ。
さて、と。それじゃあ――…
「「デュエル!」」
開始の掛け声と共にデッキからカードを五枚ドロー。手札を確認。うん、悪くない――…悪くないと言うか良すぎるくらいなんだが、うわあ、使用デッキの確認忘れてたぜ。
これ召喚して良いのか? ペガサスさんとかに目を付けられやしないか? 何とも言えない存在感をかもし出す、●が写し出されたマイフェイバリットと、その隣に鎮座するガチャピン様をじっと見詰めていると、試験官の先生から優しい声が掛けられた。
「大事なデュエルとは言え、緊張していても始まらない。どうするかはドローしてから考えなさい」
うわあ、マジでこの先生男前やわあ……。って言うか俺が先攻だったのね。
こくんと頷いてから、無言でカードをドロー。ちらりと視線をやった先にあるのは、マイフェイバリットカードその2だった。
くすりと笑う。夢か現実か定かではないが、それでもここは遊戯王の世界。もしかしたらこいつにも精霊が宿っているのかもしれない。
緊張を解すためにこいつがやってきてくれた、と思うと何だか面白いじゃないか。――いや、実際に精霊がこいつだったら凶悪すぎるけど。
っていうか洒落にならないけど。こいつらの精霊とか三幻魔に(笑)が付いちゃうレベルでやばいだろ。特に真●様とか倒せる気がしない。
と、それよりもデュエルを先に進めねば。遅延行為は宜しくない。
「モンスターをセット、リバースカードを一枚セット。ターンエンド」
「モンスターをセット……リバース効果モンスターか?――私のターン、ドローだ!」
いやまあ、それもありますが、表守備じゃ反射ダメージとか狙えないでしょ。まあ、アニメみたいに表守備で出せるとありがたいモンスターも一杯いるけど。
とにかく、相手を警戒させるには裏側守備表示は良い形式だ。
実際、先生も警戒心を露にしつつ、カードをドローした。
「私はジェネティック・ワーウルフを攻撃表示で召喚する!」
ジェネティック・ワーウルフ。レベル4、デメリットなしのアタッカーでは最高攻撃力の獣戦士族モンスターか。
これを見るに先生のデッキは凡骨ビートか、はてさてビーストデッキか、どちらにせよビートダウンデッキなのは間違いないだろう。
そう思考を纏めている内に、バトルフェイズに入っていたらしい。
「攻めなければ敵は倒れない! ジェネティック・ワーウルフでセットモンスターを攻撃だ!」
まあ、ビートダウンならそうだろうな。攻撃宣言と同時に伏せられたモンスターにジェネティック・ワーウルフが突撃する。
伏せられていたモンスターはピラミッド・タートル。その守備力は1400ポイント、ジェネティック・ワーウルフの攻撃力である2000には遥かに及ばない。
が、しかし――ピラミッド・タートルは元より戦闘破壊される事で真価を発揮するモンスターだ。
「ピラミッド・タートルが戦闘破壊された事により、効果発動。デッキより守備力2000以下のアンデットを召喚します。――出ろ、ダブルコストン!」
ぬるり、と破壊された亀の躯から二つの影が生れ落ちる。舌を出した間抜けな面構えがちょっぴりユーモラスなダブルコストンがフィールド上に現れ、けひひと笑った。
「む、ダブルコストモンスターか……。私はリバースカードを一枚セットし、ターンエンドだ」
ああ、やっぱ効果は知られてるのね。アドバ、…生贄召喚全盛の時代だしなぁ。やっぱり便利に使われているのかもしれない。カイザー海馬さんとかも。
「では、俺のターン。ドロー」
と、言うことは先生が伏せた、一枚のカード。恐らくあのカードは召喚されるであろう最上級モンスターに対応できるカードだろう。
召喚反応型か、攻撃反応型か、はたまたコンバットトリック用のカードか……まあ何にせよ、俺のやることは一つだけ。
「手札からレベル10のモンスター、地縛神 CcapacApuを捨てる事でハードアームドラゴンを特殊召喚!」
墓地へと送られたモンスターの強大な力を用いて、フィールド上に一匹のドラゴンが舞い降りた。
骨を剥き出しにした痛々しいとすら思える姿を誇るように、一声鳴いてその存在を誇示してみせる。
「高レベルモンスターを墓地へと……!? 生贄召喚が目的ではないのか…?」
いいえ、生贄召喚が目的ですとも。ただ、生贄が二体では足りないだけで。先のターンに引いたカードを手に取り、にやりと笑う。
「ダブルコストンは闇属性モンスターのアド、…生贄召喚を行う際、二体分の生贄に出来る。ハードアームドラゴンと、二体分のコストとなったダブルコストンを生贄に捧げ!」
「三体分の生贄…!?」
闇色の渦が、二体のモンスターを包み込む。生まれ出でるのは漆黒の闇。巨大なそれを割り開き、中心部から生まれ出でる巨体。
悪魔の骨で身を飾った神が、絶大な存在感を振り撒きながらフィールドへと降り立つ。瞬間、建物そのものが揺れ動いたような気がした。
それほどのプレッシャーを感じさせるこのカード、このモンスター。そう、これが、これこそがマイフェイバリットカードの一!
「君臨せよ、恐怖の根源――…! 邪神、ドレッドルートォッ!!」
俺がその名を呼ぶと同時に、彼の神もまた咆哮を上げた。
大気が震え、大地が悲鳴を上げる。――その感覚が錯覚か、真実か、自分には分からない。ただ、とても気分が良かった。
お気に入りのカードを自分が呼び出して、ソリッドヴィジョンがその威圧感溢れる姿を映し出している。その事実こそが重要なのだ。
「邪神、攻撃力……、4000……!?」
丁度良い具合に盛り上げてくれる人も居る訳だし。
――ああ、テンション上がってきた!
「ドレッドルートはフィールド上に存在するモンスターを恐怖の深淵に叩き込む! ドレッドルート以外の全モンスターの攻撃力、守備力は半減!」
「なんだと!?」
邪神の姿に対してか、それともその強力な効果に対してか、そこかしこから響くざわめきをかき消すように、今一度ドレッドルートが吼える。
その声が、姿が、理性を破壊されたはずの人狼をすら恐怖させ、その能力を減少させた。
屈強な狂狼の姿は立ち消えて、今そこにいるのは怯えて竦む一匹の獣だけ。その姿を見据えながら、大きく手を掲げる。
「行くぞ、バトルフェイズッ!」
声を張り上げて、下すのは攻撃命令。振り下ろした手に合わせて叫んだ。
「ドレッドルートの攻撃、フィアーズ・ノックダウンッ!!」
合わせて振り下ろされる、邪神の豪腕。全てを打ち砕くだろうその拳が到達する寸前に、先生の声が負けじと響く。
「罠発動、ジャスティブレイク! 場に攻撃表示で存在する通常モンスター以外を全て破壊するッ!」
ワーウルフを守るように大きく広がる、落雷の渦。絶大な威力を秘めたそれが、邪神の巨体をも飲み込んでいく。
フィールドをまばゆい光が染め上げて――…だが、しかしっ!
「ハードアームドラゴンの加護により、ジャスティブレイクはドレッドルートには通用しないっ!」
俺の声に合わせて広げられた翼の影が白光を打ち払った。巨体に被さる様に映し出されたのはハードアームドラゴンの幻影。
ハードアームドラゴンを生贄に捧げて召喚されたレベル8以上のモンスターは、効果破壊に対する耐性を得る。
本来の神には及ばずとも、ドレッドルートもこれによってそれなり以上の耐性を得ているため、その突破は容易ではない!
「なっ……」
「改めて! 打ち砕け、フィアーズ・ノックダウン!」
再び繰り出された一撃がワーウルフを粉微塵に吹き飛ばした。攻撃力の差は3000ポイント。ライフの四分の三が一撃で消し飛んだ計算になる。
逆転のカードはその意味を為さず、そしてレプリカとは言え、邪神の放つ圧倒的な威圧感。それを考えれば、先生の意志は折れてもおかしくはない。だがしかし。
「くぅっ…!」
彼の目には未だ力がある。――やべえ、この先生に教わりてえ。良いデュエリストじゃないか……。
「リバースカードを一枚セットし、ターン終了」
「私のターン、ドローだ!」
次のターン。しかし、俺のフィールドには効果破壊を受け付けず、戦闘には無類の強さを誇るドレッドルートが存在する訳だが――…。
「っ……リバースカードを4枚伏せ、暗黒の狂犬を守備表示!ターンエンド!」
ふむ。なるほど、確かにあのうちのどれかが破壊を介さずにドレッドルートを処理できるカードであれば逆にこちらが拙い状況になりうる。
その上、的は4枚。大嵐でもない限りはそのカードを破壊できるかどうかは運次第でしかない。無論、ブラフの可能性もあるし、ただの時間稼ぎかもしれない――が、しかしだ。
「先生のエンドフェイズ、リバースカードをオープン、終焉の焔。終焉トークンを二体特殊召喚する。このカードを発動したターンはセット以外の召喚を
封じられますが、エンドフェイズならデメリットはほぼ無意味。…さて、俺のターン」
引いたカードが何であれ、やることは変わらないんだな、これが。
「残り一枚のリバースカードオープン、リビングデッドの呼び声。ハードアームドラゴンを特殊召喚」
「っ、また三体のモンスターが…!? まさか――…」
そう、そのまさかだ。
「三体のモンスターをリリース。……全てを写し出す深き闇の神!現れろ、邪神アバター!」
リリース、って言っちゃったけど雰囲気、雰囲気。渦を巻いて飲み込まれていく三体のモンスターたちの後に残されたのは、漆黒の闇。
深く、静かにそこに在る。それこそが邪神アバターの本来の姿。だがしかし――アバターは写し身の神。その姿は場の状況によって千変万化する。
「邪神アバターは、フィールド上に存在する中で最も高い攻撃力を持つモンスターの攻撃力を写し取り、それを100ポイント上回る攻撃力と防御力を得る!」
暗き闇が静かにたゆたい、その姿を変えていく。この場で最も強き者の姿を、悪魔の骨で飾られた巨体を闇が形作り、そして生まれ出でるのは二体目のドレッドルート。
攻撃力4000。それに100を加えた4100が邪神アバターの攻撃力となった。
ドレッドルートとアバターの効果はかち合ってしまっている。
この処理だが、お互いに一番最後に適用される永続効果であるためか、後に出た方が優先される。
既に召喚されたアバターに後出しでドレッドルートをぶつける事で、攻撃力4100から半減され、攻撃力2050となった邪神アバターを戦闘破壊できるのだ。
……閑話休題。
「バトルフェイズ、ドレッドルートの攻撃! フィアーズ・ノックダウン!」
とりあえずは攻撃である。今一度振り上げられた豪腕が、怯える獣へと向けて振り下ろされる。
対して先生、リバースカードを発動しようとしたものの――…
「馬鹿な、罠カードが発動できない…!?」
「邪神アバターは召喚成功から2ターンの間、相手の魔法・罠カードの発動を封じます。幾らカードを伏せようとも無意味です」
まあ、ぶっちゃけこんな効果付けるくらいなら普通に耐性が欲しかったけどね。ともあれ、暗黒の狂犬、粉☆砕。
「これでとどめ!アバターの攻撃、フィアーズ・ノックダウン! 第二打ァッ!」
続けて打ち放たれた第二撃が、残り1000ポイントとなっていた先生のライフをざっくり削り取った。
デュエル終了。静かにドレッドルートとアバターが消えていく。ありがとう、俺の切り札たちよ。
レプリカだけあってリアルアタックにはならなかったらしく、先生も元気だ。ありがたい話である。
「…ふぅ。見事なデュエルだった。この内容なら、文句なしに合格だろう。一足早いが見事だった、と言わせてもらうよ」
「あ、はい。ありがとうございます。手札がよかったお陰だと思いますけど」
「はは、謙遜することはないさ。私はよく考えられたデッキだと思ったし、本当に強かった。しかし、邪神か…」
ぎくり。やっぱあれか、三幻神を連想しちゃうのか。
「……ゼミアの神とかも邪神ですよ?」
「ああ、確かに…。しかし、うん。君の持っているそれは神の名に相応しい強さのカードだ。良い物を見せてもらった」
とりあえずそんな会話でお茶を濁してから、俺は観客席の方へと向かっていった。しかし、うん。
「やっちまったぜ…」
現実だったら間違いなくKCとかI2とかに目を付けられるよね。三幻神のカウンターだもんね、こいつら。
その上に地縛神とかまで所有してるとか。こっちはバレてないけど、邪神だけで十分に危ないデュエリストです、本当に以下略。
召喚した邪神様のプレッシャーその他でボケていた頭が正気に戻り始めたのもあり、この先の展望に色々と不安を隠せない俺だった。
召喚補助的には神属性じゃないのが利点になってるけど、でもやっぱり耐性欲しかった。そう考えているのは自分だけじゃないと思います。
ドレッドルートに耐性あったらオベリスク涙目?ははは、こやつめ。