デュエル場に立つ。
眼前にてディスクを構えるは天上院明日香。オベリスクブルーの女王。
俺が初めて真剣に戦う原作キャラだ。――その引きの強さは、融合+儀式なんてデタラメなデッキをサポートカードなしでぶん回している事からも知れる。
自分がどの程度やれる人間なのか。それを確かめるための相手としては十分すぎるくらいだ。全力でぶつからせてもらおう。
お互いに腕を掲げた。音を立てて変形するディスク。示し合わせたように、叫ぶ――。
「「デュエルッ!」」
五枚のカードをドロー。手札――…ありがたい、時間稼ぎはしなくて良いようだ。
本来ならかなり手札事故率の高いデッキなのだが、今まで問題なく回すことが出来ているのはやはり補正なのだろう。俺への、ではなくて、多分、この世界においての。
「私のターン、ドロー!」
先攻は向こう側。さて、どう出る。
「私はブレード・スケーターを守備表示で召喚。カードを一枚伏せ、ターンエンドよ」
ブレード・スケーター。銀の身体を持った戦士族モンスター。特殊な効果は持ち合わせていないし、ステータスもそう高くはない。
……が、このカードは明日香のエース、サイバー・ブレイダーの融合素材だ。壁として召喚した?いや、流石にエースを呼ぶために必要なモンスターをただ捨て駒にするとは考えにくい。
となると、手札にサルベージの手段があるのか、或いは――リバースカードで守り切る算段か。まあ、どちらにしてもまずはカードを引いてからだ。
「俺のターン、ドロー」
ちらりと引いたカードに目を落とす。残念ながら、このターンで攻めかかる事は出来ない。向こうに先手を許す事になるか。
「モンスターをセット。リバースカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
「三沢くん、あれって…」
「ああ、お前たちはまだ馴染みがなかったようだな。守備モンスターのセットは克己が好んで扱う戦術だ」
見慣れない表示形式を前にした翔の呟きを、三沢が拾い上げた。
その言葉が切欠となり、観戦者たちの視線が自分へ向いたのを感じた三沢は、腕組みをしたまま言葉を続ける。
「セットしていれば、相手はモンスターの能力値すら分からないからな。表側表示だとその守備力をギリギリ上回るモンスターで倒される場合が多い。結果として受けるダメージは大きくなりやすいが、裏側表示なら――」
「なるほどなあ。守備力が幾つか分からない分だけ判断に困るって訳か」
「攻撃力の低いモンスターから攻撃して、倒せなかったらその攻撃が無駄になってしまいますものねー」
納得したように声を漏らした十代とももえに、まあそれだけでもないがな、と笑うと改めて、三沢はフィールドに目を向けた。
何度か克己とのデュエルをこなしてきたイエロー生以外には、まだ未知の部分が多いタクティクス。それに、オベリスクの女王はどう対応していくのかも含めて、興味は尽きない。三沢は静かに瞳を細めた。
「私のターン! ……なるほど、確かにこうして相手取ってみると、セットモンスターは面倒ね。その上で二枚の伏せカード――…どうしたものかしら」
「とか言いながらも戦意溢れる表情。男前じゃないか、天上院さん」
言葉の内容に似合わぬ楽しげな口振りに、俺もまたにやりと笑って返す。
攻めるにせよ、待つにせよ、一通りの対処は出来る布陣をこちらは敷いたつもりだ。
それをどう切り崩してくるか、正直に言って楽しみでならない。牛尾さんじゃあないが、ビリビリ来るぜ!と言う奴だ。
「それ、褒めてるつもり? ……まあいいわ。私はエトワール・サイバーを攻撃表示で召喚!」
現れたのは微妙に全裸にも見えなくもない、女性型のモンスターだった。艶やかな髪を靡かせてフィールドに降り立った彼女が、闘士も露わにこちらを見詰める。
――エトワール・サイバー。攻撃力は1200。ダイレクトアタック時に攻撃力を500ポイント増加させる効果を持った、戦士族のモンスターだ。こいつを攻撃表示で出したということは……。
「攻めてくるか」
「ええ、臆していても何にもならないもの。ブレード・スケーターを攻撃表示に変更して、バトル! ブレード・スケーターでセットモンスターに攻撃!」
片足を上げ、地面を滑るようにして迫り来る戦士。その刃が伏せられたモンスターへと迫り、直撃する寸前になって――やっと、その正体が露になった。
白く輝く卵形に、その表面を彩る幾何学模様。その中心に湛えられた光が輝きを増し、僅かに食い込んだ刃を弾き飛ばして見せる。
しかし、受け止められた側も然る者。後ろに跳び退り、綺麗に着地を決めてみせた。
流石はスケート選手だ。今度はトリプルアクセルを見せてくれ。
「ワイズ・コアの守備力は0だが、1ターンに1度、戦闘破壊を無効にする!」
「…っ、エトワール・サイバーで追撃するわ」
だがしかし、防げるのは一撃まで。続いて踊りかかってきたエトワール・サイバーの拳がワイズ・コアの殻をひしゃげさせ、見事に打ち砕いていた。
――が、この段階での破壊は寧ろありがたい。三体以上のモンスターで攻撃されたなら、ダメージを受けざるを得なかったのだから。
「ターンエンドよ」
「このエンドフェイズ、リバースカードをオープン。永続罠、リミット・リバース!」
そして、ここからが本当の勝負!
「攻撃力1000以下のモンスター……ワイズ・コアを、墓地から攻撃表示で特殊召喚する。そして俺のターン、ドロー!」
引いたカードを一瞥。……む、と思わず声が漏れた。あまり来て欲しくなかったんだがなぁ、このカード。まあ、それはそれとして、だ。
「ワイズ・コアを守備表示に変更する」
「守備表示ぃ? 明日香さんを前にして壁ばっかり出してても勝てないわよ!」
んなこたぁ分かってるんだよ、外野さん。
ちらりと視線を向けてから、反撃の狼煙となる一声を謳い上げる。
「リミット・リバースの効果により、守備表示にされたモンスターは破壊される。だが、ワイズ・コアにはカードの効果によって破壊された時に発動する、隠された能力がある!」
○○には~された時に発動する隠された能力がある。この世界で、一度言ってみたかった台詞である。と、それはさておき。
「なんですって!?」
今回声を上げたのは対戦相手である明日香の方だ。
恐らくは、ワイズ・コアを上級モンスター召喚への布石だと読んでいたのだろう。だがしかし、このデッキに上級モンスターなど入っていない。
デッキに入っているのは、その殆どがレベル1の低レベル、機械族のモンスター。そしてその力を束ね、君臨するのがこのカード!
リミット・リバースのデメリット効果によって砕け散っていくワイズ・コアが眼も眩むような輝きを放ち、その中心部から幾つもの影が生まれ出る。
「ワイズ・コアの効果発動! カード効果によって破壊された時、自分フィールド上のモンスターを全て破壊し、手札、デッキ、墓地より機皇帝ワイゼル∞! 更にワイゼルT、ワイゼルA、ワイゼルG、ワイゼルCを特殊召喚!」
「一度に五体のモンスターを召喚だって!?」
今度は……ああ、翔か。いやま、確かに衝撃的だよなぁ、この効果は。だがしかし、この程度はまだまだ序の口! お前たちはこれからこいつらの真の魅ry……能力を思い知るのだ!
現れたのは蛇のような形をした小さな機械と、三機の戦闘機らしき物。そして中心にて浮遊する、機械球体。
その姿を確認した俺は、手を掲げ、叫んだ。
「――さあ合体しろ、機皇帝ワイゼルッ!」
俺の声に呼応するように球体の中心部のシャッターが開き、それぞれのパーツが虚空へ向けて舞い上がる。
ワイゼルGが、ワイゼルAが、折りたたまれていた腕部パーツを解放して鋼の豪腕を形作る。
ワイゼルCが、中枢たるワイゼル∞の下方へと回り込み、推進部を回転させて隠されていた内部構造を展開、脚部へと変形。
左右、下方から回り込んだA,G,Cのパーツが四肢となり、重々しい音と共に各部にジョイントされ――最後に、頭部をワイゼルTが形作る。
蛇の身体を首に見立てて合身したワイゼルTのフェイスガードが下がり、能面のようだった顔から赤く輝く紋様が露出した。
五つのパーツが合わさって生まれた我が身の力強さを確かめるように、機皇帝がその拳を握り締め、振り上げた左腕の刃を、右腕の盾を、交互に振り下ろしての決めポーズ! 合わせて背後で輝くは∞の一字。これが、これこそがッ! 機皇帝ワイゼル∞だッ!
「合体ロボー!?」
「うおおおおおお!? カッコいいーっ!!」
「ふははははは、翔! 十代!お前も分かってくれるか! こいつのカッコ良さを!」
「やっぱり十代たちも気に入ったか。何度見てもいいな、克己のこれは…」
俺も初めて変形及び合体シーンを見た時は目を疑ったからな!いつからバイクカードアニメがロボアニメになったのかと正直悩んだぞ!
……いやま、カッコいいだけなんだがな。正直、こいつには弱点も多い。シンクロモンスターが存在しない現状ではフルスペック出せんし。
そんな具合に盛り上がっている俺たちに女性陣は微妙に冷めた目をくれてたが、気にしない。
「それはさておき。――機皇帝ワイゼル∞は五枚のカードより成るモンスター。その攻撃力はワイゼルAの1200、ワイゼルTの500、ワイゼルCの800ポイントを合計した2500ポイントだ! ……さあ、バトルフェイズ!」
ブン、と音を立ててワイゼルの顔を彩る紋様に輝きが灯る。
左腕の刃にエネルギーを集中させ、前傾姿勢で構えたワイゼルの下肢より、轟、と言う音と共に噴射炎が放たれた。その頭部が向いた先に在るのは、ブレード・スケーターの姿。
「この一撃で砕け散れ!機皇帝ワイゼル∞でブレード・スケーターに攻撃ッ!」
「この瞬間…ッ、な、発動できないッ!?」
「機皇帝ワイゼル∞はカード効果の対象にならない! どうやらその伏せカード、対象を取る効果のようだな! …さあ、攻撃続行だ!」
実はこの機皇帝(TF版)、アニメ版とは違い、効果対象にならない効果を持っているのである。機皇城涙目。
更にパーツも攻撃可能であることを考えると、アニメ版よりも明らかに性能が良いと言わざるを得ない。
一瞬にして接近したワイゼルが彼の戦士を打ち砕かんと巨大な刃を振り下ろす。
打ち放たれた一撃はブレード・スケーターを容易く両断し、巨大な爆炎を巻き上げた。
ブレード・スケーターの攻撃力は1400ポイント。助けがなくば、勝負にもなりはしない。
LP:4000 - 1100 → 2900
「ブレード・スケーター粉砕! ……カードを一枚伏せ、ターンエンド」
エトワール・サイバーにワイゼルAで攻撃すれば相打ち取れるが、今発動できなかった罠カードで何かされてもなんだし、ここまでにしておこう。
噴き上がった炎の中よりその姿を現したワイゼルがゆっくりと退いていく。
それに遅れる事少し、黒煙の内より姿を現した明日香の口元には面白い、と言わんばかりの笑み。
ここから仕掛けてくるか。先手を取ったことで緩みかけた顔を引き締めて、相手の動きを待つ。
「私のターン、ドロー! 魔法カード、強欲な壷! カードを二枚ドロー」
ここで壷とな。これで手札は6枚、潤沢すぎる。サルベージからの融合を意識していたが、儀式召喚も視野に入るぞ、これ。2500ぽっちで耐えれるか?戦々恐々としつつ、次なる一手を待ち受ける。
「サイバー・ジムナティクスを攻撃表示で召喚。手札を一枚捨て、サイバー・ジムナティクスの効果発動!」
現れたのは褐色の肌をした女性戦士。体操選手のような体のラインが出やすい服装と、そのプロポーションがちょっぴり目の毒だが――仮面ェ。なんかもうそれだけで台無しである。
と、そんな事はさておき、サイバー・ジムナティクスの効果は、手札をコストとした表側攻撃表示のモンスターの破壊である。
「だが、中枢部である機皇帝ワイゼル∞は相手のカード効果の対象にはならない」
「けれど、ワイゼル∞以外のパーツは対象として選択可能だったわ。――ワイゼルAを破壊!」
チッ、気付いていたか。
と言うか、まあ対象が居なかったら発動できないしね。宣言と同時にワイゼルの左腕が爆発し、哀れ機皇帝は片腕になってしまった。こんな事ならエトワール・サイバーと相打ちを取っておけば良かったか?
これで攻撃力は1200ポイントダウン。一気にほぼ半減とか……これはこのターンで撃破される事も視野に入れとかないと……
「更に魔法カード、機械天使の儀式!」
「げえっ!?」
「手札に存在するレベル6モンスター、サイバー・プリマを生贄に捧げてレベル6、サイバー・エンジェル -韋駄天-を儀式召喚! 韋駄天は特殊召喚時に墓地の魔法カードを一枚、手札に加えられるわ。強欲な壷を選択!」
まさか本当に儀式召喚するとは。しかも韋駄天とか、こんなドロー加速は流石に想定外だぞ。手札消費も馬鹿になってはいないが……いや、強欲な壷の効果で更に2ドローがあることを考えると元は取れているんだろうけどさぁ!
ブースターから噴射炎を靡かせつつ現れた機械天使がフィールドへと現れ、明日香に向けて手を翳す。同時にディスクが輝きを帯び、墓地よりカードが一枚、排出された。
「強欲な壷を再び発動、カードを二枚ドロー! ……魔法カード、戦士の生還。墓地に存在するブレード・スケーターを手札に加えるわ」
しかもここでサルベージカードである。抱えてたのか? それとも引いたのか!? これで続いて融合が行われる可能性が高まってきた。もう笑うしかないね。
自分の顔が引きつっているのが分かる。いやマジで、どんな引きだよこれ。デュエリスト怖い。ヒロイン怖い。
「魔法カード、融合! エトワール・サイバーとブレード・スケーターを融合し……来なさい、サイバー・ブレイダー! 」
そして案の定だよ! 二体のモンスターが翡翠色の光に呑まれ、その中心から新たな影が現れる。
これまたスケート選手のような、体の線が浮き出るような衣装に赤いバイザー。艶やかな青色の髪を靡かせ、明日香のエースモンスターが場に降臨した。
やっべ、冷や汗だらだら出てる。相手のフィールドには伏せカードが一枚。手札も一枚存在している。
伏せカードは攻撃反応型なのは分かっているので問題ない。だがしかし、もしも手札が蘇生カードであれば……伏せカードを全て使えば何とか生き残れるが、それをやると次のターンが……。
ワイゼル出しただけで負けとか情けなさ過ぎるだろ常識的に考えて。じりじりと、焦げ付くような気分を味わいながら相手の宣言を待つ。
「更に装備魔法、リチュアルウェポンを韋駄天に装備。……行くわ、バトル!」
その上で駄目押しとな。この攻撃力、後に控えるサイバー・ブレイダーの存在を考えると、通せば勝負が決まるのは明白だ。
「サイバー・エンジェル -韋駄天-でワイゼルCに攻撃!」
やはり決めに来たか! この後にワイゼルTをジムナティクスで、本体をサイバー・ブレイダーで攻撃すれば俺のライフは確かに0になる。だがしかし、その攻撃は通さん!
「ワイゼルGの効果発動! 攻撃対象をこのカードに変更する! ワイゼルGは守備表示、ダメージはない!」
その名の通り高速で飛翔する韋駄天が天へと駆け上がり、その右腕に装着された弓をワイゼルへと向けた。放たれるのは光の矢。一条の閃光が敵を穿たんと宙を裂く。
それに対するのは右手を掲げた機皇帝。盾を象ったその腕より光を発して受け止めんとするが、守備力にして1200でしかないその守りは、数値にして3100の威力を持った一撃を弾くには余りにも脆弱に過ぎた。
一瞬の拮抗の後に打ち砕かれる右腕。両腕を捥がれたワイゼルがそれでも残る敵へと立ち向かう素振りを見せ――だがしかし。
「…凌がれたわね。サイバー・ジムナティクスでワイゼルTに攻撃!」
何時の間にそこに居たのか、天高く飛翔していた褐色の戦士の蹴りがその頭を跳ね飛ばした。ひしゃげて吹き飛んだワイゼルTが爆発し、引き千切られた部分からスパークが散る。ジムナティクスの攻撃力は800、ワイゼルTは500。
その差、300ポイントに等しいダメージが俺のライフを削っていく。これだけなら良いのだが、問題はこの後の一撃だ。……すまん、耐えてくれワイゼル! この一撃を受けた後、お前にはもっと過酷な運命が待っているが、それでも頼む!
「これであなたのフィールドのモンスターは二体。サイバー・ブレイダーは相手フィールド上のモンスターが二体の時、攻撃力が倍になるわ。パ・ド・ドゥ!」
これでサイバー・ブレイダーの攻撃力は4200ポイント。ワイゼルC以外のパーツを失った機皇帝の攻撃力は、800ポイント。明らかに太刀打ちできません本当にありがとうございました。
「サイバー・ブレイダーで機皇帝ワイゼル∞に攻撃!グリッサード・スラッシュ!」
主の命を受けたサイバー・ブレイダーが滑らかな動きでワイゼルに迫り、垂直に地を蹴った。
華麗に飛翔した彼女の身を翡翠の旋風が包み込み、合わせて身体を高速回転させながらの蹴りが横薙ぎ一閃となってワイゼルに迫る。
両腕と頭部を失った機皇帝がその一撃に対応できるはずもない。放たれた蹴撃が腰部分を両断し、機皇帝を単なるスクラップへと変えていた。
「本体が存在しない時、機皇帝パーツは自壊する……!」
同時に砕け散るワイゼルC。……よもや、あの事件の過去であるはずのGXの時間軸に置いてこいつが真っ二つになってしまうとは。
プラシドともども、何か呪われているんじゃなかろうか、ワイゼル。
ワイゼルが粉砕され、ワイゼルCが爆発する光景を現実逃避気味に眺めていた俺を、巨大な爆風――ただし、ソリッドビジョン――が包み込んだ。
LP:4000 - 300 → 3700 - 3400 → 300
「さっすが明日香さん! 明日香さんの場には攻撃力3100の韋駄天に、サイバー・ブレイダー! これはもう決まったも同然ね!」
横から聞こえてくる声に、三沢はちらりと視線を向けた。
確かに、ライフポイントの差は歴然。
明日香のフィールドにはエースであるサイバー・ブレイダー、更に攻撃力が3000を越えた韋駄天の二体に加え、攻撃表示モンスターを破壊できるサイバー・ジムナティクスが存在している。
比べて克己のフィールドにはモンスターが存在せず、あるのは二枚のリバースカードだけ。劣勢も劣勢だ。だが、しかし――…。
「……まだだな」
「ああ、俺もそう思うぜ。手札もあるし、ライフは残ってるんだ、あいつはきっと逆転を狙ってくる!」
勝負はまだ付いていない。隣に居る十代もそう考えているのだろう。明日香の怒涛の攻勢に目を輝かせながらも、次の1ターンへの期待を隠せない様子でいた。
「ターンエンドよ」
バトルフェイズ終了。ダメージは大きかったが、乗り切ったぞ!
黒煙に包まれながらもターンエンドの宣言を耳にして、にやりと笑った。
「…エンドフェイズ、再びリミット・リバースを発動。ワイズ・コアを蘇生する」
しかしお付きどもめ、あれこれと言ってくれやがって。だがしかし、まだだ、と言うのには同感だ。
条件反射的に咳き込みながらも、エンドフェイズに逆転を賭けた一手を打っておく。
今の手札には逆転の手はない。だがしかし、それを呼び込む可能性を高める事なら出来る!
「俺のターン、ドロー! ワイズ・コアを守備表示に。今一度君臨せよ、機皇帝ワイゼル∞!」
……やはり、引けなかったか。仕方がない。そう呟いて規定の行動を取る。
砕け散るコア。呼び出されるワイゼルパーツ。この時忘れてはならないのはキーカードを引く確率を高めるために、可能な限りデッキからパーツを落とすことだ。
ただし、パーツを落とし過ぎて己の手札に眠るカードを発動できなくなるようになっては困る。そのバランスを考えて、――デッキから呼び出すパーツは3枚までに抑えた。
「またそのカード……。けれど、そのモンスターではサイバー・ブレイダー、サイバー・ジムナティクスは倒せても韋駄天を倒すことは出来ないわ」
「ああ、分かってるともさ。このままじゃあ倒せない。だからこそこのカードを使う!残る一枚のリバースカード、オープン!」
そう、このカードのために。これこそが勝利の鍵!
すまん、ワイゼル。……勝利を目指すための礎となれ!
「――罠発動、ハイレート・ドロー! 自分フィールド上の機械族モンスターを全て破壊し、破壊したカード1枚に付き、カードを1枚ドロー!俺のフィールドに存在する機械族モンスターは5体! 5枚ドローする!」
その宣言と共に轟音が響いた。巨体の内部より吹き上がる炎、砕け散っていくワイゼル。
崩落していく機皇帝の姿を背に、五枚のカードをデッキより――…引く。
俺には原作キャラのようなチートドローはない。
ジムナティクスの攻撃寸前でリミット・リバースによってワイズ・コアを召喚し、ハイレート・ドローによって完全な形の機皇帝を召喚していれば確かにダメージは低く抑えられ……、……あっ!?
駄目じゃねえか! その時点での俺のフィールド上に居るモンスターは三体、サイバー・ブレイダーの効果で無効化される!? しかもワイゼルの攻撃力も0だ!
……発動するなら韋駄天の攻撃直前だったか。――ま、まあ、結果は変わらないしな。ワイゼルGには攻撃対象を変更する効果がある訳だし、コアを殴られる可能性は0だ。
しかし、攻撃力0になったワイゼルに見向きもせず、パーツを減らしての最大ダメージを狙うとは……カードのテキストはデュエル中に確認できないようだし、俺の言った中枢と言う言葉だけで自壊の可能性に気付いたのか?とんでもないな、明日香。
ま、まあそれはそれとしてだ。完全な機皇帝を召喚した直後、俺の場にはワイゼルGが存在する。それである以上、ジムナティクスの攻撃は取り止め。続くサイバー・ブレイダーが盾を捥ぎ取るだけで終わっていただろう。
だがしかし、それではドロー出来るカードが減ってしまう。逆襲のためのキーカードを呼び込めない可能性が増加する。そうなった場合、恐らくはごり押しで負ける。
それ故に、ライフを犠牲にカードを引く選択をした。いや、本当だよ? 格好付けて誤魔化したりしてないよ? ……こほん。ともかく! このドローはライフポイント、そしてワイゼルと引き換えに得たドローだ。あのカードが来てくれれば!
引いたカードに視線を向けて、確認。……来た!
「行くぞ!魔法カード、ダーク・バースト! 墓地に存在する攻撃力1500以下の闇属性モンスターを手札に加える! 俺が選択するのはワイズ・コア! そのまま召喚!」
三度生まれ落ちる機械の卵。この後の流れは当然、ワイズ・コアの効果破壊!
「魔法カード、カオス・ブラスト! デッキよりレベル1の機械族モンスター3体を墓地に送り、フィールドのレベル4以下のモンスター1体を破壊する! 俺はワイズ・コアを破壊し――三度現れよ、機皇帝ワイゼル∞!」
墓地へと送り付けたのは残るワイゼルパーツだ。そして光の中から再誕する機皇帝。先の痛々しい姿が嘘のように、完全な状態でフィールドへと現れる。
「またぁ!? もういい加減に諦めなさいよ!」
「馬鹿の一つ覚えですわね~」
いい加減うるさいぞ外野。十代みたくわくわくした面は出来ないのか。
……畜生、見てろよ。度肝を抜いてやる。
引き当てたカードをディスクに差し込み、高らかに宣言。機皇帝の最大の力、それを引き出すのがこのカードだ!
「永続魔法、一族の結束を発動! 墓地に存在するモンスターの種族が一種類の場合、その種族のモンスターは攻撃力が800ポイント上昇する。俺の墓地に存在するのは機械族モンスターのみだ!」
「えーっと、ワイゼルは攻撃力2500だから……」
「800アップすると3300……韋駄天の攻撃力を超えたな」
おい三沢、翔に教えるのは良いがにやにやしてんな。この後の結果知ってるだろお前。
「なんですって!?」
「そんな…」
で、さっきとは裏腹にびっくりしてるお付きが面白すぎる。何この極端な人たち。
「けれど次に攻撃力の高いワイゼルAの攻撃力は1200だろ? パワーアップしても2000……攻撃してもサイバー・ブレイダーは残っちまうぜ」
十代は素直に疑問点を口に出している。まあ、そうだな。
明日香も同じ結論に達したのか、あるいはワイゼル以外に伏せカードを使って片を付ける気なのか、闘志はまだ消えていない。……だがここまでだ!
「機皇帝ワイゼル∞の攻撃力は各パーツの攻撃力の合計。――フィールド上に存在する全てのパーツの攻撃力が800アップした事で、機皇帝にはその上昇値分の攻撃力も結集される! よってワイゼルの攻撃力は自らに及ぶ攻撃力上昇効果と合わせて4000ポイントアップし、6500となる!」
「なっ……」
「攻撃力……」
「6500ぅぅぅ!?」
「その通りだ! さあ、バトルフェイズ!」
宣言と同時に上がる驚愕の叫び。それに笑みを浮かべつつ、フェイズの移行を宣言する。
明日香の場に伏せられたカードは攻撃反応型、それも対象を取る効果。もうなにもこわくない!
明日香も自らの敗北を悟ったのか、僅かに口惜しげに――けれど何処となく晴れやかな表情で、聳え立つ機皇帝を見詰めていた。
「機皇帝ワイゼル∞でサイバー・エンジェル -韋駄天-を攻撃ィッ!」
先程よりも圧倒的に力強さを増したワイゼルの巨体が空を駆ける。
迫る機皇帝に向けて幾本もの光の矢を放つ韋駄天。だがしかし、その全てが前方へと突き出されたワイゼルの刃に敢え無く弾き飛ばされ――その身体を粉微塵に打ち砕かれて、韋駄天は散った。
LP:2900 - 3400 → 0
同時に決着を知らせるブザーが明日香のディスクより、鳴り響いた。……何とか、勝てた。
Q:なんでサイバー・ブレイダーの攻撃にリミリバ使ってダメージを抑えなかったの?
A:サイバー・ブレイダーの効果は以下の通りです。
《サイバー・ブレイダー/Cyber Blader》
融合・効果モンスター
星7/地属性/戦士族/攻2100/守 800
「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」
このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
相手のコントロールするモンスターが1体のみの場合、
このカードは戦闘によっては破壊されない。
相手のコントロールするモンスターが2体のみの場合、
このカードの攻撃力は倍になる。
相手のコントロールするモンスターが3体のみの場合、
このカードは相手の魔法・罠・効果モンスターの効果を無効にする。
リミリバを使うと克己のフィールドにはワイゼルC、ワイゼル∞、ワイズ・コアとモンスターが三体になります。戦闘のまき戻しからワイズ・コアを殴られた場合、効果無効によってそのまま戦闘破壊され、次のターン、自壊によるワイゼル召喚からのハイレート・ドロー(TF効果)に繋げません。
と言う理由を書き終わってから思いつきました。
Q:明日香の伏せカードなんだったの?
A:ドゥーブルパッセです。攻撃モンスター一体の攻撃をダイレクトにする、って辺りで対象を取る効果だろうな、と睨みました。
モンスター三体時の効果を忘れて解説ミスってたのに気付いたので、修正しました。サイバー・ブレイダー、色々面倒なモンスターだなぁ……。