ううん、キャラを崩さないようにするのが難しい……。
デュエル終了。血を払うかの如き仕草で左腕を振り払った後、ワイゼルがゆっくりと虚空に消えていく。
やはり機皇帝は良い。何より変形合体が格好良いしな! 特にワイゼルに関してはパーツの変形がダイナミックなのもあって、見た目が素晴らしいのでお気に入りである。
……スキエルやグランエルもそれぞれ良い点はあるのだが、人型ロボットはやはりロマンだと言わざるを得ない。それに変形のギミックがなぁ。微妙に劣ると言うか。
性能的な事にも触れておくと、4000環境だとグランエルは原作効果のが良いんだよね。TF版はライフの半分になっているので、4000環境ではライフ回復ギミックを積まない限りは攻撃力2000までなのだ。
パーツの攻撃力合計で攻撃力が決定される訳ではないため、一族の結束との相性が然程良くない事もあり爆発力に置いてスキエル、ワイゼルに劣る。
パーツ全てがメリット効果を持っているのは利点なんだがなぁ……。利点になっていた最大攻撃力でもワイゼルに負けてしまう訳だし、うーむ、この世界だと運用が難しい。
スキエルはGパーツの攻撃を無効にする効果が利点だが、風属性のサポートは意外と使いにくい。しかし、闇属性のワイゼルは使い易いサポートが多く、安定性の上昇に繋げられる。
と、意識が脇に逸れていた。しまったしまった。
ディスクが格納されたことを確認すると、拳を握って左肩を叩く。いや、凝るんだよ、左肩。結構ディスクって重いんだぜ?
「……ふう、デュエル終了。ありがとうございました。いや、ひやひやさせてもらったよ」
「こちらこそ。意外と礼儀正しいのね」
「剣道の試合だって終わったら礼くらいするだろ。勝負ってのは礼に始まり、礼に終わるもんさ」
とか言いながら少年とした後にしてないだろうって? だって第一声がアレだったし。
と、そんなやりとりをしている内にエキサイトした十代が走り寄ってきた。あーあー、目をキラキラさせちゃってまあ。
隣に居る人も同じ様な感想を抱いたようで、お互いに視線を合わせてこっそりと、苦笑する。
「明日香、克己ー! すっげえデュエルだったぜ! 」
「そいつは良かった。楽しんでもらえたなら幸いだ」
キングのデュエルは以下略。…って言っても、俺は一介の凡骨なんだけどな。
お互いにモンスターが派手な動きをしてくれてたから、見ていて飽きないのは確かだっただろう。
俺も同じ様な経験あるしなぁ。フォーチュンカップのジャンクさん対DDBの作画には心躍った……。
最高に格好良かったよ、アレ。だがDDB、てめえは絶対に禁止から戻ってくるな。
と、それよりも今にもおい、デュエルしろよ的な台詞を言いそうな十代を何とかしなければならないんだった。
ちょくちょく明後日の方向に飛んでしまう思考を無理やりに捻じ曲げて笑顔を浮かべ、言う。
「でもまあ、まだまだ完成系じゃないしな。出来上がったらその時は、十代も付き合ってくれよ」
「お、…そうか。まだまだ強くなるんだな。楽しみだぜ!」
先手を取って完成したらな、と言う事で先延ばしにする策はどうにか実を結んでくれたようで何より。
正直、チートドロー組と二連戦とか、あまりの展開に“認められるかこんな事!?”って口走ってしまいそうな気がするしなあ。
明日香の機械天使の儀式からの流れでもSAN値が削れそうだったのに、十代のドローブーストなんか見せられたらどうなることか。
「良い勝負だったな、克己」
「ああ。…お膳立てしてくれた誰かさんのお陰で、随分冷や汗をかかせてもらったよ」
直後に追い付いてきたらしい三沢の声に振り返ると、打って変わって今度はじと目を向けてやった。
お前が急に妙な事言い出すから、とちょっとした皮肉を交えてやったが、苦笑一つで流された。良い性格してるなこんにゃろう。
その後からやってきた翔や明日香様親衛隊の元からさり気なく距離を取ると、改めて視線を三沢へと遣る。
「まさか、口にも出してない内からパーツの自壊効果を見抜かれるとは思わなかった。流石はブルーでも名の通ったデュエリストって事なんだろうな」
「そうだな。あの状況なら攻撃力が0になった本体を攻撃してダメージを稼ごうとするのが当然だ。――恐ろしい判断力だよ」
ワイゼル∞を破壊し、攻撃力が倍になったサイバー・ブレイダーでパーツを始末すればライフゼロ。
僅かな情報からその思考を切り捨て、正解の道を選び取ってくるとか怖すぎる。どういう頭してるんだ。
きっと、サイクロンを持たせたら破壊して欲しくないカードを正確に狙い打ってくるんだろうなぁ。
三沢の言葉に頷きながら、お付きと戯れている明日香へと視線を向けた後、示し合わせたように俺と三沢は顔を見合わせていた。
「でもま、だからこそ参考にもなるし?」
「戦ってみたいと思うんだがな」
まだ二月も経っていないと言うのに、自分も随分この世界に毒されてしまっていたらしい。
デュエル脳らしい台詞を吐いてお互いに笑うと、俺たちは改めて十代たちの会話の輪に加わっていったのだった。
その後はまあ、そこそこに親交を深めてお開きとなり、特に何が起こる訳でもなく日々は過ぎた。
初めての月一テストは同じイエローの奴となぁなぁで済んでしまったし、廃寮の事件は俺が関わることもなく終わっていたようだ。
その後の十代と翔の制裁タッグデュエルは原作通りにユーフォロイド・ファイターがダーク・ガーディアンを粉砕して終了。
……しかし、ダーク・ガーディアンか。ゲート・ガーディアンが墓地にあるなんて緩い条件だけであんなモンスターが出せるとか、インチキ効果もいいとこだ。
ライフを半分払うのもワンキル的に考えればご褒美以外の何物でもない。何せ、世には巨大化と言う装備カードがあるのだから。
ダーク・グレファーなり終末の騎士、あるいはこっちでは使えるらしい苦汁の選択、天使の施しを用いてゲート・ガーディアンを墓地に送る。
次のターンに、魔法で送ったのならそのターン内にダーク・エレメントでライフを半分払ってダーク・ガーディアンを特殊召喚。巨大化があればそのまま使用、ないならアームズ・ホールでサーチして装備。
後は相手をぶん殴れば良い。守備モンスターがいるなら適当に除去するか、メテオストライクで問題ないだろう。伏せカード対策はお触れかトラップ・スタンで良し。
ダーク・エレメントにはそのターンに通常召喚・特殊召喚を行えない制限が付いているために8000環境でのワンキル成立は少し難しいだろうが、4000環境なら完全にオーバーキルだ。そうでなくても一枚で攻撃力3800の超大型モンスターがぽんと出てくるとか、何と言うぶっ壊れカード…。
正規召喚したゲート・ガーディアンではなく、とにかくゲート・ガーディアンが墓地にあれば良いと言う条件なのが悪いよなぁ。
などと思っていた訳ではあるが。制裁タッグデュエル終了後、何とはなしに船を見送りに行った時に迷宮兄弟の方々を見かけたのでその辺を聞いてみた。
やはりかなりのレアカードらしい。ゲート・ガーディアンともども手に入れるのが非常に難しく、揃えるのには苦労したのだと言っていた。
あ、効果を鑑みると三魔神バラバラで使った方が強くないですか? と言う質問もしてみたのだが、それでもそこは譲れないと力強い返答が帰ってきた事を此処に記しておく。
つよいカード よわいカード そんなのひとのかって と言う事なんだろう。これからもロマンデッキを巧みに操っていくのだろう、流浪の番人たちに幸あれ。
思わずフェリーが見えなくなるまで港に佇み、彼らを見送ってしまった俺の気持ちを皆もきっと分かってくれると思う。
さて、それは置いておきまして。それまでにもワイゼルデッキで幾度かデュエルをしてみたのだが、思う事があった。
ラーイエロー寮の人間以外とは然程デュエルしていないのだが、全体的にモンスターカードの展開速度が遅い気がするのだ。特殊召喚ギミックを全然積んでいない。有ってもリビデか死者蘇生くらいってどういうことなのか。
調整をしていた時からの癖で同寮の奴とはデュエル後反省会っぽい事をやっていたのだが、手札、墓地からの特殊召喚ギミックでリリース要員を確保できれば引っ繰り返せるような状況で、手札の上級モンスターが腐って死亡とかが良くあった。
後はモンスター一体しか置けなかったせいでコア→ツインボルテックス→ワイゼル降臨→総攻撃オラァ!で終了とかね。いや、機皇帝が一度回ると展開が速いデッキだってのも一因なんだろうけどさ。
後はシンクロのせいで強力モンスターがポンポン出てくるのに俺が慣れてしまったと言うのもあるかも知れない。寒波サモサモキャットベルンベルンDDBDDBダイレクトダイレクト以下略。
あ、俺が手札事故で憤死した事も勿論あった。言い忘れてたけど。
……自壊するパーツ8枚にシンクロがいないと0/0の効果なしになるモンスター2枚積んでりゃ、そりゃ事故る時は事故るわ。
でも思ったよりは事故る回数少ないんだよなぁ。何でだろ?
何はともあれ、色々考えている内に十代やカイザーが別格レベルになる訳だと納得したよ。
HEROは言うまでもなく融合を用いて、サイバー流はサイバー・ドラゴン自身の効果や各種融合サポートによって強力なモンスターを容易に特殊召喚できるが、他の生徒は律儀に生贄から通常召喚しているのだから、一度上級モンスターを破壊されてしまえばリカバリーが間に合う筈もない。
考えてみればアニメでも強いデュエリストとして描かれていたキャラはほぼ例外なく上級モンスターの特殊召喚を行っていた訳だしなぁ。今はダークネスな感じだと思われる吹雪さんなら黒竜の雛からレッドアイズ、明日香なら融合と儀式……。ううん、そこらを梃入れしていけばアカデミアの環境は大分変わるんじゃないか?
とりあえず、通常召喚するならって事で彼らには血の代償を薦めておいた。手札消費が加速すると思われるので、手札を補充するカードも忘れずにな、とも。
まあ言わずと知れた強欲な壷とか、チートそのものな天よりの宝札とか、壷の中の魔術書とか、強力なドローソースがこっちでは一杯あるみたいだしね。意外とどうにかなるだろう。
さて、それはそれとして、俺も他の奴の事を心配してる場合じゃあなかったりする。
二度目の月一テストは既に目前に迫っている。具体的に言うと明日に。
ルールやなんかは当に頭に入ってるし、メジャー所のモンスターも大体覚えてるから筆記が駄目駄目って事はないだろうし、とりあえず問題になるのは実技だ。
流石にテストで手札事故なんてアホな姿を晒したくはない。それを考えるとワイゼルデッキは少しアレな気がするんだよな。それに先月からずっと使ってる訳だし、そろそろ他のデッキが恋しくなってきた。
うーん、……かと言って今からデッキ考えるのもめんどいんだよなぁ。三幻魔は使えないし、形だけ整えておいたヘリオスデッキを使うのも……大徳寺先生が居る間に使うのはなんかちょっとアレな気がするし。
まあ、良いか。テストで使うためのデッキを適当に組み上げる訳にも行かないし。
明日は今まで通りにワイゼルで何とかしよう。そう結論を出すと、俺はベッドへと潜り込んだ。
――で、次の日。筆記を終わらせて実技テストをする事になったんだけれど、目の前にいるのが誰かと言うと。
「……カイザー?」
「ああ。――色々と話を聞いていたら、君とデュエルをしてみたくなってな。……迷惑だったか?」
いや、そんな事はないんですけどね。って言うか、話を聞いた? 何処で、――…あ、灯台部経由か、もしかしてっ!?
……つまり明日香かー。そっかー。過大評価してくれたんだろうなー、きっと。
あはは、と乾いた笑いを漏らす俺の顔を、アカデミアの帝王が訝しげに見詰めていた。