なんかもう色々とありがとうございます。
思い付きで書いているような駄文ではありますが、これからも宜しくご愛顧いただければ幸いです。
アカデミア最強の人間がデュエルするともなると、周囲の視線が集まるのは当然だった。
そして、その対戦相手に同情の目が向けられるのもまた、至極当たり前のことであって――つまり、すっごく居心地が悪い。
四方八方から向けられる“ああ、あいつ終わったな”的な視線が、こうね? 突き刺さってきてね? 何とも言えない気分になるんだよ。
そんな事をしても意味はないと知りつつも、向けられる視線を僅かでも散らそうとついつい身動ぎしてしまう。そんな俺を見つめていたカイザーの視線が、ふっと緩んだ。
「――…無用な注目を集めさせてしまったかも知れない。済まないな」
「あ、いえ。単にこう言う雰囲気に慣れてないってだけなんで、お気になさらずに」
気遣いの言葉を向けられると逆に恐縮してしまうんですが、とは流石に言えず、曖昧に笑って応じながら俺は思考を回転させた。思う事は唯一つ。どうしてこうなった?
……確か、第一期の大きなイベントは制裁タッグデュエルの他にはノース校との代表デュエル、一連のセブンスターズに関する事件くらいだったはず。
制裁デュエルは終了。ノース校関係の出来事はまだ起こってはいない。自然、その後に起こっていたセブンスターズ関係は影も形も――、……あ。
ああ、そうか。第一期の大きな事件はその殆どが一年の後半に集中している。前半は事件と言えるような事は殆どない、学園生活の延長上とも言えるような出来事ばかりだ。
ちょっとしたトラブルにも首を突っ込みまくる十代に引っ張り回されてる人はともかく、それ以外の人間は生活に追われるような事は殆どないと言っても良い。アカデミアナンバーワンのデュエリストであり、優等生であるはずのカイザーならば尚更とも言える。
そんな状況で、親しい人間から面白そうな話を聞いたらどうなるか、と言うそれだけの事なのだろう、多分。
ここ一ヶ月で俺が使っていた機皇帝は5体のカードから成立する特殊なモンスターだ。その上、試験会場では邪神の姿すら見せている。そんなデュエリストが、自分も腕を認めているデュエリストを――天上院明日香を――倒したのだと聞いたなら?
デュエル脳な人間なら、考える事は唯一つであるはずだ。即ち、デュエルしてみたいと思うに違いない。
まあ、大体そんな流れでこの場は形作られているんだろうなあ。
幸いと言うべきか、思考を纏める過程で幾らか落ち着きも取り戻せた。……取り戻せたからと言って勝てる自信はないけれど、まあ少しはマシなデュエルもできるだろう。
うん、と自分自身に頷いて、明後日の方向に向いてしまっていた視線を改めて、対戦相手であるカイザーへと振り向けた。
「…落ち着いたようだな」
「はい、お陰様で。……一応は用意もしていましたし」
どちらともなく苦笑を漏らすと、ディスクを掲げる。
音を立てて変形し、光が灯ったそれを一瞥すると、俺は腰のデッキケースへと手を伸ばした。
蓋を開けて、以前に組み上げておいた対カイザー用とも言えるデッキを取り出す。具体的に言うと光属性メタの尖兵、A・O・J。
出足が遅くなる事のあるワイゼルデッキよりはこちらの方が良いはずだ。仮にワイゼルデッキを用いたとして、コアを引き損ねた場合、俺は帝王の猛攻をパーツだけで凌がなければならなくなる。
そんな事が出来ると思うほど俺は相手のドロー力を軽視しちゃいないし、自分のドロー力を過信してもいない。既にセットしてあったデッキに変わってそれをディスクに差し込むと、一度深呼吸をしてから改めて、前を向いた。
「非才の身ではありますが、カイザーと言う名の壁、ぶち抜くつもりでぶつからせてもらいます」
「……良いだろう。来いッ!!」
「「デュエル!!」」
決闘の始まりを告げる叫びと共に、カードをドローした。先行は――、……うわ、こっちか。小さく舌打ちが漏れた。
サイバー流ドローが齎す積み込みじみた初期手札の事を考えると、先行は譲っておきたかったんだがなあ。まあ、仕方がない。
「俺のターン、ドロー」
手札を確認。……うん、悪くない。下級の中では使い易いモンスターが来てくれた。
融合とサイバー・ドラゴンの効果による特殊召喚をメインに据えたカイザーのデッキに対しては、かなり刺さってくれるはずだ。迷う事なく一枚のモンスターカードを手にすると、ディスクへとセットする。
「A・O・J D.D.チェッカーを召喚!」
フィールドへと生み落とされたのは、六機の小型機械だった。
各々浮き上がった小型機が滑らかにフォーメーションを組み上げ、それぞれに向かってエネルギーを照射する事で正八面体を象ったフィールドを作り出すと、軸をランダムに歪ませながら静かに回転を始める。
恐らくは、そうする事で検知器を多方向へと向けているのだろう。怨敵たる何者かを捜し求めて、機械の瞳が緩やかに周囲を睥睨する。その様を後目に、俺は更に二枚のカードを手に取ってディスクへとセットした。
サイバー流と言えば圧倒的な攻撃力での速攻。D.D.チェッカーでモンスターの展開を防げるとは言え、保険は掛けて置いて損はない。
「更に永続魔法、機甲部隊の最前線を発動。カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー。サイバー・ドラゴンを――」
そして、カイザーのターン。…何と言うか、案の定の流れについつい溜め息が漏れた。
この人、必ずサイドラ引き込むんだもんなぁ。怖いわー。そんな風に内心で溜め息を吐きつつも、焦りがないのは――D.D.チェッカーの存在故に。
カイザーの宣言に合わせてディスクへとカードが寄せられ、その縁がセンサー部分に触れた、その瞬間。六つの検知器が敵意も露に、カイザーのデュエルディスクを見据えた。刹那の後、180度反転する。
“敵”へと向けられたのは六つの発信器。そこから奔った青白い光がサイバー・ドラゴンのカードへと集中し、直後――パチン、と言う音と共に、カイザーの手はディスクから弾かれていた。
あ、弾かれたのはデュエルディスクの機能である。条件を満たしていないカードを使おうとすると軽く弾かれるのだ。どういう訳かは知らないが。――分解してみたいな、ディスク。知識があればやったんだがなぁ。
「何ッ……!?」
「D.D.チェッカーがフィールドに表側表示で存在する限り、光属性モンスターは特殊召喚できません」
驚愕の声を漏らすカイザーに、俺は淡々と告げた。
宇宙より降り注いだ光の侵略者、ワームたちに対抗する為に生まれたのがA・O・Jと言うカテゴリのモンスターだ。
彼らの効果は光属性モンスターを弾圧する為だけに存在していると言っても良い。いや、約一枚闇属性以外は死ね! と言わんばかりの効果を持ったモンスターも居るが、……まあそれはそれと言う事で。
そんな彼らの中でも使い易い部類に入る一体、それがD.D.チェッカーである。ステータスは1700/1200と下級としてはそこそこ。類似効果を持つコアキメイル・ドラゴに比べるとステータスやメタれる範囲に措いて劣るが、維持コストを必要としない。
その属性以外の特殊召喚を封じる効果を持つ各種結界像よりはステータスが高いので、そのまま立たせておいてもある程度なら大丈夫。それで居て闇属性・機械族という恵まれた属性と種族を持っているモンスターなのので、使い勝手は悪くない。
先に俺が発動したモンスターが戦闘破壊された際に同属性、且つそれよりも攻撃力の劣る機械族モンスターをデッキより呼び出す永続魔法、機甲部隊の最前線から殆どの下級A・O・Jを呼び出す事も出来る。
特殊召喚を抑制する効果も相俟って、対サイバー流のモンスターとしては最有力の一体だと言えるだろう。如何に攻撃力が高かろうが、召喚ができなけりゃあただの紙。怖くも何ともない。
が、この程度で安心していられる相手ではない、と言うのが正直な見解だ。
面白いとばかり笑うカイザーの表情を見ていれば、誰だってそう思うだろう。さあ、どう出てくる。それだけを考えて、相手を見据える。
「……なるほど、対策は練っていたと言う事か。ならば――俺はサイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚! サイバー・ドラゴン・ツヴァイは手札の魔法カード、一枚を相手に見せる事でカード名をサイバー・ドラゴンに変更できる。俺はエヴォリューション・バーストを見せる事で効果を発動!」
鳴き声と共にフィールドへと生まれ出たのは、一体の機械竜だった。量産型なのだろうか、細身で洗練されたデザインが目を引くそのモンスターの攻撃力は1500。ただし、攻撃時に300ポイント、攻撃力をアップする効果を持っている。
それ単体でもD.D.チェッカーを破壊する事は可能だが、見せられたカードを考えるそれだけで済ませてくれるとは考え辛い。そしてその思考の通り、続いてディスクにセットされた一枚が俺のモンスターに終わりを告げた。
「更に魔法カード、エヴォリューション・バースト! 自分のフィールドにサイバー・ドラゴンが存在する時、カードを一枚破壊する! サイバー・ドラゴン・ツヴァイのモンスター名はサイバー・ドラゴンとなっているため、発動条件は満たしている。…D.D.チェッカーを破壊!」
簡素な造りの口を開いた機械竜が、眩き光の奔流を陣を組み直したD.D.チェッカーへと吐き出す。六機は一溜まりもなくその輝きに飲まれ――光が通り過ぎた後には何も残らなかった。
ちっ、と小さく舌打ちが漏れる。機甲部隊の最前線のリクルートは効果による破壊には対応していない。これで俺を守るモンスターは存在しなくなった。一撃を打ち込む好機だ。
エヴォリューション・バーストを使用したターン、サイバー・ドラゴンは攻撃できない。よって、現在はサイバー・ドラゴンとして扱う事になるサイバー・ドラゴン・ツヴァイも攻撃は行えないが――展開を阻む邪魔者が消え、手札にもサイバードラゴンが存在しているこの状況、融合をしない理由が何処にある。
八割方、いやそれ以上の確率で融合を引き入れているはず。その公算は、勿論、当たっていた。実に困った事に。
「魔法カード、融合を発動。フィールドのサイバー・ドラゴン・ツヴァイと手札のサイバー・ドラゴンを融合し――…現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」
宣言と共に宙へと黒い渦が湧き上がる。その中心へと吸い寄せられた二体の機械竜が溶け合うように一つとなり、生まれるのは混沌とした銀色。滑らかに形を変えるそれが双頭の蛇竜を形作り、刹那の後に――力強い咆哮がデュエル場に響き渡った。
これこそがカイザー、丸藤亮のエースカード、サイバー・ツイン・ドラゴン。
ソリッドヴィジョンによって立体的に映し出されたその威容。使い手の気迫すら感じられそうな迫力に思わず一歩を退きかけて、如何にか持ち直す。
いかんいかん、ドローパワーで負けている上に気圧されていたら勝負にならない。この世界だと気の持ち様すらもデュエルに影響してくる可能性があるのだから、常に余裕を持っておかなければ。
心の中で念仏のように平常心だと繰り返しながら、改めて目の前の機械竜へと視線を向けた。今度はちゃんと、落ち着いてその姿を見ることができた。……ああ、これは。実に――
「――格好良いなぁ」
「……ふ」
つい、そんな言葉が零れてしまっていたことに気付いたのはカイザーの笑い声が耳に届いてから。
くうっ、つい子供みたいな台詞を吐いてしまった! 慌てて視線を対戦相手の方に振り向けると、そこにあったのは微笑ましげに口元を緩めた表情。
やっべ、超恥ずかしい。
「えー、あー、……す、すみません。先に進めていただけるとですね?」
「ああ、そうしよう。――…行くぞ、バトル!」
若干の気まずさを感じながらもお願いを致しまして、デュエル続行。
そしてバトルフェイズなのだが、この攻撃を通すと負ける。サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力は2800だが、その効果は二回攻撃だ。通してしまえば受けるダメージは5600。俺のライフを0にするには十分すぎる。
故に、俺はフェイズ移行の宣言に合わせて伏せていたカードを発動させた。
「だが断るッ! 罠カード、威嚇する咆哮!」
威嚇する咆哮。フリーチェーンの罠カードであり、相手の攻撃宣言を封じる効果を持つ。
戦闘破壊を無効にし、ダメージを0にする和睦の使者といわゆる相互互換の関係にあるカードだ。
前者は戦闘を介さずに、後者はリバース効果などを発動させながらモンスターを守ったりする事が出来る。
ちなみに、このデッキには後者三枚、前者一枚の割合で採用してあったりする。A・O・Jには戦闘を介して効果を発動させるモンスターが多いのだ。
「いなされたか。俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー!」
だがしかし、どうするべきか。後続は呼べず、相手のフィールドには二回攻撃が可能なサイバー・ツイン・ドラゴン。
手札の消費も相応だったとは言え、その損失を一気に回復させられるカードを引き当てないとも限らない。
かと言って、攻め崩すにはリソースが――、……と、あいつが一枚入ってたか。伏せカードが気になるが、ここは一つ攻めさせてもらおう。ツイン・ドラゴンを場に残しておくのも怖い。
「A・O・J ブラインド・サッカーを攻撃表示で召喚。…バトルフェイズ」
現れたのは蜘蛛の如き下半身を持つ多脚機械。呼び寄せたそれに視線をちらりと見遣ると、俺はフェイズの移行を宣言する。
ざわざわと周囲から響く声は、攻撃力の劣るモンスターで攻撃しようとする素振りを見せたからか。自棄になったのかなんて声まで聞こえるが、気にしても仕方がない。
「ブラインド・サッカーでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃!」
「――迎え撃て、エヴォリューション・ツイン・バースト!」
背負った砲を反転させる事でバーニアとして、ブラインド・サッカーが強壮な竜へと立ち向かっていく。
だがしかし、迎撃に放たれた光輝がそのボディへと突き立てられた。光に下半身と右腕、そして片肺を捻じ切られて、だがそれでもせめて一太刀とボロボロになった身体で突撃するブラインド・サッカー。
それを鬱陶しいと言わんばかりに振るわれたツイン・ドラゴンの尾が薙ぎ払わんとしたのだが――瞬間、残された推進器が一際強い炎を吹き上げた。
空を切る尾、跳ね上がる速度。機体そのものを弾丸として、半ば残骸と化したブラインド・サッカーはツイン・ドラゴンの頭の一つをスクラップへと変えてみせた。
LP:4000 - 1200 → 2800
攻撃力2800と1600の差は1200ポイント。ライフがざっくりと削り取られる。だがしかし、結果としてツイン・ドラゴンの連続攻撃効果は失われた。
ブラインド・サッカーには戦闘後に光属性モンスターの効果を封じる効果が存在する。この熱い攻防は恐らくその表れなのだろう。――良い挺身だ、感動的だな。あんまり意味ないけど。
「ブラインド・サッカーと戦闘した光属性モンスターの効果は無効になる。更に永続魔法、機甲部隊の最前線の効果を発動! 機械族モンスターが戦闘破壊された事により、それよりも攻撃力の劣る機械族モンスターを1ターンに1度だけ、デッキより特殊召喚する。出でよ、A・O・J コアデストロイ!」
本命はこっちだし。
「A・O・J コアデストロイでサイバー・ツイン・ドラゴンに攻撃!」
「っ、何……!?」
相対していたカイザーの目に僅かな驚きの色が宿ったように見えた。
自爆特攻の目的に関しては、永続魔法が関係していると読んではいたのだろう。その時点では動揺の色はなかった。
しかし、その効果が1ターンに1度に限定されている上、更に攻撃力の劣るモンスターで攻撃をかけると言う行為。何かしらの効果の発動を狙ったとしても、あまりにも無謀が過ぎる――と考えていたのだろう。恐らくは。
それは正しい。俺だって、他のモンスターを召喚したのだったら決して取らない行動だ。だがしかし、このモンスター、A・O・J コアデストロイならば話は別である。コアデストロイは戦闘を行う時、相手モンスターが光属性ならばダメージ計算を行わずに破壊する効果を持つモンスターだ。どれほど攻撃力に差があろうとも、問題はない!
四足の獣を模したコアデストロイのカメラアイが煌いた直後、その一点より収束された闇が迸る。
呼応してツイン・ドラゴンから放たれた白光を切り裂いたそれが、白銀の巨体へと突き立とうとしたその刹那――カイザーの声が響き渡った。
「罠カード、攻撃の無力化ッ! モンスター一体の攻撃を無効化し、バトルフェイズを終了させる!」
「っな!?」
流石に怪しすぎた!? それとも、脆弱なはずのコアデストロイの攻撃にツイン・バーストが切り開かれていく違和感に即応した!?
絶句する俺の眼前で、ツイン・ドラゴンを滅ぼすはずだった闇が時空の狭間に飲み込まれて消えていく。その光景に一瞬呆然としてしまった。……判断力ぱねぇ。
「……カードを二枚伏せてターンエンド」
もうやれる事はない。小さく唇を噛みながらそう宣言する。
「俺のターン、ドロー! その反応、やはりサイバー・ツイン・ドラゴンを倒せるモンスターだったか。出し惜しみしなくて正解だったな」
「ええ、まあ。詳しくは申し上げられませんけど」
「その辺りはデュエルが終わってから聞かせてもらうとしよう。――俺は魔法カード、壺の中の魔術書を発動。お互いにカードを三枚ドロー」
壺の中の魔術書はお互いに三枚のカードをドローする魔法カードだ。お互いに手札が枯渇しかけているこの状況、アドバンテージとフィールド上に存在するモンスターの相性を考えれば有利だったのはこちらだった。
カイザーにとっては福音だろうが、此方にとっては嫌な展開だ。苦々しい表情になっているのを自覚しながらも、効果に従ってドローする。……即戦力になってくれそうなカードは一枚だが、腐るカードもまた一枚。思わず溜め息が零れた。
「アーマード・サイバーンを召喚する。アーマード・サイバーンはサイバー・ドラゴン及び、サイバー・ドラゴンを融合素材としたモンスターの装備カードとなる事が可能! サイバー・ツイン・ドラゴンに装備!」
フィールドへと召喚された戦闘機が、機械竜へと装着される。
アーマード・サイバーンはユニオン効果を持ったモンスター。装備モンスターが破壊される時、それを肩代わりする効果ともう一つ、攻撃力を1000下げる事で相手モンスターを破壊する効果を持っている。後は、言うまでもないだろう。
「アーマード・サイバーンの効果発動。装備モンスターの攻撃力を1000ポイント下げ、フィールドに表側表示で存在するモンスター一体を破壊する! A・O・J コアデストロイを破壊。ジャッジメント・キャノン!」
戦闘に置いて負ける要素はなくとも、それを介してもらえなければどうしようもない。
機械竜の翼となったアーマード・サイバーンの砲口より迸る光が、容赦なくコアデストロイを吹き飛ばしてくれた。――殴ればサイバーンを身代わりに、大ダメージを与えられる。しかし、最前線の効果で面倒な後続が出てくると見たんだろう。
流石と言うべきか、ミスをしてくれないのが非常に困る。コアデストロイの攻撃への対応はミスとかそう言う次元じゃない気もするけどな!
さて、それはそれとして俺のフィールドにモンスターはいない。再び手痛い一撃を加えるチャンスな訳だが、そうは問屋が卸すかっ!
「バトル、サイバー・ツイン・ドラゴンでダイレクトアタック!」
「通すかあっ! 永続罠、血の代償を発動! 500ポイントライフを支払い、モンスターを通常召喚する! A・O・J ガラドホルグを攻撃表示で召喚ッ!」
LP:2800 - 500 → 2300
「――攻撃力1600か。……そのまま行け、サイバー・ツイン・ドラゴン! エヴォリューション・ツイン・バースト!!」
「だがダメージステップ! ガラドホルグは光属性モンスターとの戦闘時、攻撃力を200ポイントアップする!」
三度放たれた機械竜のブレスの前へと現れたのは光の剣を両手に携えた、ずんぐりむっくりとした人型ロボット。一刀を以って迫り来る光を防ぐ傍ら、鋭く閃かせた片手からそのサーベルを投げ放ち、攻撃力を1800に落とした機械竜の翼を射止めてみせた。
だがしかし、健闘もそこまで。対光属性モンスターとの戦闘時に攻撃力が上昇すると言っても、単体では1800でしかない。負荷に耐えかねてサーベルの発信部が爆ぜると同時、光の濁流に包み込まれてガラドホルグもまた破壊される。
だがしかし、後詰となる存在がこれで呼び出せる!
「機甲部隊の最前線の効果! A・O・J アンリミッターを守備表示で特殊召喚!」
A・O・J アンリミッター。その名の通りに、自身をリリースする事でA・O・Jのリミッターを外すモンスター。ネックとなっていたアーマード・サイバーンは消えた。これで次のターン、下級モンスターを引き当ててツイン・ドラゴンを排除できれば――!
「…ふ、なるほど。このターンで決められるかとも思ったんだが――そうも行かなかったか。速攻魔法発動、融合解除」
「……は?」
と思っていたんだが、甘かった。予想外の宣言に目を見開いて惚けてしまった俺の眼前で、ツイン・ドラゴンがその姿を分裂させていく。
破壊された首はサイバー・ドラゴン・ツヴァイに。健在だった方は、サイバー・ドラゴンに。フィールドに並ぶ二体のモンスターが、追撃の命令を、と促すように吼え猛った。
俺の手札には、通常召喚できる下級モンスターはいない。伏せカードも、このターンはもう使えないカードだ。否応なしにサイバー・ドラゴンのダイレクトアタックを貰わなければならない状況である。
「サイバー・ドラゴン・ツヴァイでA・O・J アンリミッターを攻撃。その後、サイバー・ドラゴンでダイレクトアタック」
アンリミッターの守備力はたった200。ワイトの攻撃力にも劣る。あっさりとその姿が吹き散らされた直後、眩き光芒が俺に叩きつけられた。
LP:2300 - 2100 → 200
ダメージを受けるのにはもう慣れたが、この展開はないわ。どんな神引きだおい!?
内心でドローの神と言う居るんだか居ないんだか分からない存在を盛大に罵りながらも、顔を上げる。
丁度、カードを伏せている姿が目に入った。この上で、相手の攻撃への備えまで出来る手札だったのか!? どういうことなの……。
「カードを一枚セットし、ターンエンドだ」
「俺のターン。……ドロー! 魔法カード、マジック・プランター! フィールドの永続罠一枚を墓地に送り、二枚ドローする。血の代償をコストに、ドロー!」
ま、まあ、愚痴ってばかりでも居られない。ライフ的にもう使えないカードをコストにしての手札の増強を行った後、改めてフィールドをチェック。
……幸い、腐るかと思っていたモンスターが有効活用出来そうだった。ここは使っておくべきだろう。
「相手フィールド上に光属性を含むモンスターが2体以上存在する時、手札からA・O・J コズミック・クローザーは特殊召喚できる!」
壺の中の魔術書の効果でやってきてくれたのはいいものの、強力モンスター一体で圧倒するスタイルになっていたカイザーにはいまいち噛み合わない感じがしていたカードを、俺は迷わずフィールドへと召喚した。
降り注ぐワームを吸い込み、閉じ込めるためのその存在は――あー、何と言うか。カッコ良い名前の割に非常に見た目があれなモンスターだった。どんな感じにかって言うと、控えめに見ても足の生えたバキューム装置、って言うか。
うん、まあ、でも一応上級モンスターだし。
そう自分に言い聞かせると、一つ咳払いをして敵へと向き直った。
「このままバトルフェイズ! ……コズミック・クローザーでサイバー・ドラゴンを攻撃!」
LP:4000 - 300 → 3700
無論、攻撃に関しても見た目相応のアレでしたとさ。物凄い勢いで渦を巻く暗黒空間へとサイバー・ドラゴンが吸い込まれていく。
コズミック・クローザーの攻撃力は2400、サイバー・ドラゴンは2100。悪ければここでカウンターを貰って死亡だと思っていたのだが、幸いにもカイザーは伏せカードを発動させる事はなかった。良かった、助かった。
「カードを二枚セットして、ターンエンド」
それはそれとして、次辺りが正念場だろう。手札に集まってきた罠カードを纏めて伏せると、俺はカイザーのターンに備え、身構えた。
身構えた、のだが。
「俺のターン。……魔法カード発動、命削りの宝札。手札が五枚になるようにドローし、五ターン後に手札を全て捨てる」
おい。おいまて、おい。そのカードはチートすぎるだろう色々な意味で! ゲームエンドまで持ってく気満々にしか見えねえぞ!
思わず頬が引き攣る俺。そして、そんな俺と自分の手札を交互に見やったカイザーが、不意に小さく笑った。
「……えー、っと?」
え、なに? 勝利宣言? いや、俺も全然勝てる気しないけど。
「いや、このターンでは決着を付けられないらしいと思って、ついな。……俺は速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動する。ライフを半分払い、このターン、融合素材を墓地から除外する事で代用できる」
LP:3700 ÷ 2 → 1850
違ってた。と、それはさておき。サイバネティック・フュージョン・サポートはサイバー流の融合サポートカード。
この状況でそれを使うと言うことは、それはつまり、あのモンスターが来ると言うことなのか。思わず息を呑む。
「サイバー・ドラゴン・ツヴァイの効果を発動する。手札のパワー・ボンドを見せる事でカード名を変更。そして、魔法カード、パワー・ボンドを発動。手札、墓地にそれぞれ存在するサイバー・ドラゴン2体とフィールドのサイバー・ドラゴン・ツヴァイを融合! 現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!!」
三体のモンスターが、生まれ出た次元の狭間に吸い込まれていく。そして数瞬の後、暗かった内部から眩い光が溢れ出た。光の中より羽ばたき、迫って来る、三つ首の巨竜の影。
これが、サイバー流継承者の証とされるサイバー・エンドの勇姿か。フィールドへと舞い降りたその姿を、一心に見詰める。その瞬間だけは他の何も目に入らなかった。神々しいとすら思える輝きに見蕩れてしまって。本当にカッコ良い。社長風に言うと、ふつくしい。
「パワー・ボンドによって召喚されたサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は二倍となる。――バトルフェイズ」
だが、今はデュエルの最中な訳で。カイザーの宣言に頭を振って意識を引き戻すと、俺もまたディスクへと手を掛けた。アホな事はもっと後で考えるべきだ。
「サイバー・エンド・ドラゴンで、A・O・J コズミック・クローザーを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!」
サイバー・エンドの三つの口から放たれる光。一つ一つでも十分すぎる威力を持っている筈の輝きが束ねられ、巨大な光の槍となってコズミック・クローザーを薄紙の如く貫いた。
そのまま己へと迫る光輝。立体映像だと分かっていても怖気づきそうになる光景。だが、まだだ。それを受け切る札はこの手にある。伏せていたカードの一枚を発動させるべく、宣言。
「罠発動! ガード・ブロック! 戦闘ダメージを無効にし、カードを一枚ドローする! 更に機甲部隊の最前線の効果……っ、いや、最前線の効果は発動しない」
そして、ドロー。引き抜いたカードを確認して、少しだけ笑った。良く来てくれた。これで、多少は勝ちの目も出て来たぞ。
最前線は少し考えたが、――この状況を覆せるモンスターはデッキにはいない。発動したい伏せカードがある事を考えると、ここは置いておくのが吉だろう。
さて、と。前のターンに伏せたカードはこちらから攻撃する際にこそ効果を発揮するカードだし、墓地にはあいつがいる。次のターンで上手くこいつの攻撃を通せれば。
――まあ、取らぬ狸の皮算用でしかないのだが。
「やはりか。俺はサイバー・ジラフを通常召喚し、効果発動。こいつを生贄にする事でこのターン、俺が受ける効果ダメージは0となる。更にカードを一枚伏せ、ターンエンド」
「エンドフェイズに速攻魔法、終焉の焔を発動! 終焉トークン二体を特殊召喚し、俺のターン!」
そしてこちらのターン。当然のように効果ダメージによる自爆を回避している事に言うべき事は特にない。ただ、伏せカードが更に増えたのが怖い。
――まあ、恐れていても始まらないのだが。それはそれとして、カードをドロー。確認。……都合の良い事に、一番引きたかったカードが来てくれた。これでもう少しだけ勝率が上がる。
これはもはや神の導き。サイバー・エンドが如何に強大であろうとも突っ込むしかあるまい。全速前進だ!
「正面からぶつからせてもらうからな、カイザー! 終焉トークン二体を生贄に最上級モンスターを通常召喚! 起動せよ、A・O・J サンダー・アーマー!!」
空間がスパークし、稲光の中心より両の腕に雷光を携えた戦機が生まれ出る。
赤いボディに、細い多脚。背部に雷を呼び寄せる為なのか、避雷針を備え、放熱板と思しき赤い翼を背負ったそのモンスターこそが、A・O・J サンダー・アーマー。このデッキにおける俺の最大戦力だ。
とは言え、攻撃力8000を誇る現在のサイバー・エンドに比べれば、その能力は貧弱もいいところだ。攻撃力は2700、最上級モンスターとしても十分満足な数値、とは言い難い。だがしかし、目を付けるべき点はこいつがA・O・Jの名を冠したモンスターであると言う点である。
「更に魔法カード、死者蘇生! A・O・J アンリミッターを墓地より特殊召喚し、効果発動! このカードを生贄に捧げ、フィールドのA・O・Jと名前の付いたモンスター、一体の元々の攻撃力を倍にする。リミッター解除!」
効果を発動する事無く葬られたアンリミッターの効果を、今こそ使う。
その能力によって枷を外されたサンダー・アーマーの纏う雷光が、目に見えてその勢いを増した。
だがまだまだだ。届かない、このままでは届かない!
「だが、それで終わりではないはずだ」
「それは勿論、その通り。続けて罠、発動! メタル化・魔法反射装甲! サンダー・アーマーに装備する!」
何処となく楽しげなカイザーに短く応じて、続く二枚目の――最後の伏せカードを発動させる。
メタル化のカードがもたらすのは300ポイントの能力上昇効果と、攻撃時に相手の攻撃力の半分を得ると言う効果。
現在のサンダー・アーマーの攻撃力はアンリミッターで2700、とメタル化で300ポイント強化された事で5700。それにサイバー・エンドの攻撃力の半分、4000を加えればその攻撃力は9700にまで上昇する。
その事をカイザーも察したのだろう。僅かに表情を動かしたのが目に入ったが、狼狽の色は全くなかった。その事に、小さく溜め息を吐く。
展開、読めちゃったよ。
サイバー・ドラゴンを攻撃する際に発動しなかったカードはとりあえず除外。こちらが1700の差を埋め得る攻撃力上昇カードなら、コズミック・クローザーの攻撃に対して発動していればジ・エンドだ。温存する必要はない。
となると、新たに伏せられたカードがそうである可能性がある。そして、機械族においてそれだけの強化値を得られるカードと言えば、言わずと知れたリミッター解除だろう。エンドフェイズの自壊を代償に自分のコントロールする機械族モンスターの攻撃力を倍にする、超強力カードである。
もしそうだった場合、どうなるか。メタル化の強化はチェーンブロックを作らないが、リミッター解除によって攻撃力16000に達したサイバー・エンドの攻撃力の内、8000を得たとしてもサンダー・アーマーの攻撃力は13700。その差、2300ポイント。俺のライフを消し飛ばすには十分すぎるダメージだ。
だが、仮にそうだったとしても俺にはそれを超える手立てが一つある。さっき引き入れた。故に、問題となるのは沈黙を守っているもう一枚の伏せカードだが――こちらに関しては考えても正体が掴めない。単に条件付だった可能性もあるし、除去する手段もない。よって、考えるだけ無駄だ。
とにかく、突撃あるのみッ!
「行くぞ、カイザー!! A・O・J サンダー・アーマーでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃するっ!」
「迎え撃て、サイバー・エンド・ドラゴン! エターナル・エヴォリューション・バァァストッ!!」
両の腕を頭上にて重ね、巨大な雷の剣を生み出したサンダー・アーマーが、それを振り下ろす。
応じて、機械巨竜もまたその身に秘めた破滅の輝きを解き放った。雷光を容易く飲み込み、銀に染まった機体へと直撃する光。
だがしかしその身を鎧う白銀が、徐々に、徐々に、その光を雷光へと変換し、それに連れて――何者をも打ち砕く巨竜の息吹が、雷の刃に切り裂かれ始めた。このまま行けば敗北するのは、サイバー・エンド・ドラゴンだ。
だがしかし、あんたならそれを見逃したりしないだろう、カイザー!
俺の内心の叫びに呼応したかの如きタイミングで、鋭い声が空を裂いた。
「速攻魔法、リミッター解除を発動! サイバー・エンドの攻撃力を二倍にするッ!」
轟、と音を立てて光がその圧力を増した。雷の刃が再び散らされようとするのと同時、サンダー・アーマーを包んだ銀の色が剥げ落ちて赤い地肌が覗き始める。
耐えかねた様に一歩、二歩と退き始めたサンダー・アーマー。それに出来る最後の援護として、俺は寸前で引き入れたカードをディスクに叩き付けた。
「――チェーンして、速攻魔法ッ! リミッター解除ォッ!!」
崩れかけた身体から唸りを上げて、彼がその身を持ち直した。
負けてなるものかとばかり、ゆっくりと脚部を上げて、踏み出す。刃が散らされると言うのなら距離を詰め、零距離で切り裂いてやると一歩ずつ、一歩ずつ、互いの距離を詰め始める。
アンリミッターによって枷を外された事で100%の力を振り絞り、既に限界を迎えていたはずのサンダー・アーマーの主機が敵を討てと吼える音が、デュエル場に響いた。
――リミッター解除によって、サンダー・アーマーの攻撃力は倍増し、11400となる。
そこにサイバー・エンドの攻撃力の半分を加えれば、その攻撃力は19400。サイバー・エンド・ドラゴンを打ち砕き、ライフを残らず奪い取るには十分な数値だ。
前へと進み始めたサンダー・アーマーの姿を見た一瞬は、これで、と思った。だがしかし、――アカデミアの帝王は更にその先を行く。
その事をディスクに手を伸ばすカイザーの姿から察した俺は、思わず天を仰いだ。……届かなかったかあ。
「更にチェーンして速攻魔法、決闘融合 -バトル・フュージョン-! 相手モンスターの攻撃力分、融合モンスターの攻撃力をアップさせるッ!」
逆順処理によって、サイバー・エンドの攻撃力はまず5700アップして13700。
そこからサンダー・アーマーの攻撃力は倍になって11400。
その後、リミッター解除が適用されることで、27400となったサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力の半分、13700を得たサンダー・アーマーの攻撃力は25100ポイント。サイバー・エンド・ドラゴンには届かない。
辿り着くまで後一歩の距離で、放たれる光が更にその圧力を増した。
脚部が内部より爆ぜる。次に、頭部が。胴体が。次々に砕け散る機体。サンダー・アーマーは静かにくず折れようとして――それでも尚、刃を巨竜に突き立てようと倒れ込むように腕を前へと突き出した。
だが、その一瞬前に腕部が爆発する。光に抗っていた雷刃が消えると同時、サンダー・アーマーもまた光の中に融け消えて、後には何も残らなかった。
同時に俺のライフ0を告げるアラームがデュエル上に響く。
その音が何と言うか、サンダー・アーマーの頑張りには見合ってないように思えてしまって、俺は深い溜め息を吐き出したのだった。
感想欄であったご指摘にそった修正をさせていただきました。
プロト・サイバー・ドラゴン→サイバー・ドラゴン・ツヴァイ
それに伴う微修正が行われています。感想に返信した後に気付くとかカッコ悪すぎるorz
感想より
Q:コズミックやられた時に最前線でコアデストロイ出せば勝てたんじゃね?
A:申し開きのしようもございません。その通りでございます。
なのでデッキに一枚と言う部分を挿入し、適当な奴を引っ張ってきました。
せこい修正ですが、お見逃しくださいませ。
A2:良く考えたらフロントラインを使ったら終焉の焔が発動できませんでした。再修正しました。