遊戯王GX 徒然アカデミア日記   作:mobimobi

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四期でいなくなったレッド生がどこに行ったかを考えていたら、こんな形になりました。
お待たせした上に独自設定祭りでデュエルもなし、恐らくは穴も多々あるであろう申し訳ないことしきりの出来ですが、お目こぼし頂ければ幸いです。


第七話 決着の後のお話

燃え尽きたぜ、真っ白に。

 

今の自分の状態を言葉にすると、そんな感じだった。

いや、だってさ。最後の最後で神引きが来て、攻撃力同士の比べ合いになればいける! と思ったら正面から粉砕されたんだぜ? そら真っ白くもなりますがな。流石は最高攻撃力36900をマークするサイバー流正統継承者と言うべきか……。

いやま、でも良いデュエルだった。あそこでああしていれば、なんてミスをやらかしてもいないし、実に清々しい決着だったと思う。

まだディスクにセットされたままのサンダー・アーマーを労う様に、カードの表面を制服の袖で軽く拭う。今はこれが精一杯だが、帰ったらちゃんと綺麗にしてから仕舞ってやるからなー。

 

この世界にはカードの精霊がいるのだ。自意識を持っている可能性があるのなら、大事にしてやるべきだろう。

俺がそんな思考に至ったのは、アカデミア入学寸前のことだった。

デッキ弄りをしているその最中に、ふっとそういう気分になったのである。

それ以来、朝と夜、その日に使う予定のデッキと、実際に使ったデッキの手入れを欠かしていない。

当初は自分でも三日坊主になるだろうと思っていたのだが、これが不思議と癖になってしまったのだ。

それ以来、何かちょっと引きが良くなってる気がするんだよなあ。精霊は憑いていなくとも、何かしら恩恵があるのかもしれない――と、そんなことは置いといて。

 

静かにディスクを下ろしたカイザーに向き直ると、俺は頭を下げた。

楽しかったとか、良い勉強をさせてもらいましたとか、後は今度はもっと食らい付ける様に、あわよくば勝ちを掻っ攫えるように努力しますだとか、言葉に仕切れない思いを込めて、無言で――笑いながら。

そんな俺を見て、言葉は無粋だとでも思ったのか、カイザーもまた微笑むと軽く頭を下げてから背を向けた。

 

その背を見送った後、俺もまたデュエル場から退室するべく歩き出した。

超攻撃力による真っ向勝負のインパクト故にか、しんと静まり返った中のことである。

沈黙が痛い。けれど、気分も良かった。それだけ魅せるデュエルが出来たんだなあ、と言う実感を感じた。満足感があったのだ。

 

――まあ、メタデッキ使っといてこのザマだぜ! とか思うと凹めるけどね。そこら辺は措いておきまして。

 

これからもこう言うデュエルがしたいなあ、などと考えつつ、俺はイエロー寮の友人たちの元へと歩みを進めたのだった。

 

 

 

「よう、お疲れさん!」

「あいよ、ありがとさん」

 

観客席に到着すると、早速と言った様子で声が掛けられた。

同時に、掌も。数人が同時に掲げたそれに順番に掌を当ててから座席へと腰を下ろすと、漸く気が抜けたような気がして、腿に肘を乗せるようにして頬杖を突いた。

その様を見て、まあ友人たちも気疲れしている事を察してくれたんだろう。どうやら質問その他は後回しにして、デュエル場で始まった次のデュエルにそれぞれ視線を向けていた。

行われているデュエルに関しては特筆する事もない。お互いにビートダウンデッキで、単純なドツキ合いばかりである。が、上級モンスターの召喚ギミックがそれぞれ違っていて割と面白かったり。

ある者がコストダウンを使えば、またあるものはトークンを生贄にし、……って基本生贄召喚なんだよな。分かってたつもりだけどさ、なんか違和感が。

……うわ、血の代償から謎の傀儡師召喚、ライフ補填しつつ三色ガジェ並べてモイスチャー星人とかカッコ良いな。バルバロスとかギルフォード・ザ・ライトニングじゃないとこが素敵だ。

ギミック流用させて貰って俺も何か作ってみようか。とりあえずガジェと謎の傀儡師、そいつらをリクルートできる巨大ネズミにガジェットを戻すスクラップ・リサイクラー辺りは採用決定として、最上級モンスターで強い奴。

ガジェットをフル投入するのならリミッター解除も生かしたいし、機械族であるのが望ましい。機械族最上級モンスターか……。

 

言わずと知れたマシンナーズ・フォートレス。ガジェットと同じく地属性だし、相性もかなり良い。腐った最上級モンスターの処理もできるし、フロントラインで更にガジェなりスクラップ・リサイクラーをサーチ……入れない理由がないな。

パーフェクト機械王、――微妙。ガジェットと一緒に並べれば攻撃力は1500上がるが、だったら団結の力でもつける。

デモニック・モーター・Ωは、モータートークンの攻撃力200ってのがなあ。的にされそうで嫌だ。攻撃力1000アップは割と魅力的だけど……。

ガンナー・ドラゴンはわざわざ生贄召喚する必要がない気がしてならない。

リボルバー・ドラゴン、……割と優秀なんだよなあ。考えておこう。機甲部隊の最前線を使う場合、ガンナー・ドラゴンを入れる理由も出てくる。

となるとそこからリクルートする対象としてブローバック・ドラゴンやサイコ・ショッカーも選択肢に入るか? クロスソウルも使いやすくなる。これはありだな。

後は、と。ああ、The big SATURNも闇・機械か。効果破壊への対策もあると言えばあるし、ダブったガジェをコストにして効果も使える。候補、と。

……あ、でもプラネットシリーズなのか。漫画だと世界に一枚だったけど、こっちだとどうなんだろう? 後で調べてみよう。

 

とりあえずはフォートレスを混ぜつつ、上級は闇属性・機械族で固めていく感じが良さそうだ。

 

きっとそうやってあれこれと考えていたせいで、周囲への注意が散漫になっていたのだろう。

 

「シニョール倉沢。ちょっとお話があるノーネ」

「へあ?」

 

不意打ちで声を掛けられたことで妙な声が出てしまったが、それはそれとして。

声が聞こえた方に顔を向けると、そこに居たのはデュエルアカデミア実技最高責任者、クロノス・デ・メディチ教諭だった。

 

 

 

 

「シニョール倉沢。まずは先程のデュエルですが、素晴らしいものだったノーネ。これからも期待していまスーノ」

「あ、はい。ありがとうございます。次はもっと頑張ろうと思うので、ご指導ご鞭撻を頂ければ幸いです」

「任せておきなサーイ! 生徒を立派なデュエリストに育てるのーは、教師としての義務デスーノ!」

 

廊下に場所を移して会話中なう。行きしなに缶ジュースも買いました。

並んで椅子に腰掛けると、まず口を開いたのは当然と言うべきか、クロノス先生の方である。

褒め言葉を頂いて、ちょっぴり気分も上昇。いや、嬉しいよ、本当に。この人、序盤では嫌味なところが多かったけれど、先生としてもデュエリストとしても一流だしね。大好きなキャラですとも。

上機嫌なクロノス先生を横目に眺めつつ、ずずー、とウーロン茶を啜る。ああ、落ち着くなあ、この味。

 

「さて、本題なノーネ。実はシニョール三沢と、それに次ぐ成績のシニョール倉沢をオベリスク・ブルーに昇格させては、というお話があるノーネ。今回呼び立てしたのは、そのお話をするためなノーネ」

「はあ、昇格ですか。でもなんか、ちょっと早くありませんか?」

「確かにそういう意見もありまスーノ。デスーが、それだけシニョールたちが優秀だ、と言うことなノーネ」

 

いやまあ、ルールは大体把握しているし、メジャーどころのカードも大体網羅している。

更に言えば、高校レベルの勉強は一度済ませているから一般教養の方も復習しておけば問題ないとくれば、確かに座学の成績は良いだろう。

デュエルの方も、まあそれなり以上だしなあ。

とりあえず、三沢の昇格許可がサンダーにカードを捨てられた回に出てたはずだから、その周辺の時期だとして……ああ、そう言えばちょっと前にカードがなくなったとか言ってたな。

俺は他の寮生と試験対策してたから探してやれなかったが、そうか、あの時にか。うん、流れとしては有り得なくもない。大体把握。

 

「ちなみーに、シニョール三沢はドロップアウトボーイを倒してからにするーと、ブルー昇格は辞退してしまったノーネ。……ガクリンチョ」

「あー、あいつは十代をライバル視していますからね。自分も対抗デッキの調整に駆り出されたりしてるんで、その辺は分かります」

「全く、あんなドロップアウトボーイの事なんて放っておけばいいですノーニ、シニョール三沢も物好きなことなノーネ。フンッ!」

 

あはは、と愛想笑い。でもまあ、確かに実技以外での十代の態度は不真面目だからなあ。

カードに体育、この辺りはまだ良いんだが、座学においては瞼に目を描いて寝てるなんて真似もしている訳だし。

それを考えると、目の敵にされても仕方がない、とは思うけどなあ。

口に出したせいでまた不満が再燃してきたのか、鬱憤を晴らすように愚痴る先生の話を聞きながら、俺は飲み物で口を湿らせた。

 

「見た感じ、あいつ……十代は理論家寄りの三沢とは対照的な、直感的な強さって言うんですか? そういうものがありますから、三沢も気になるんでしょう」

「それにしたって、あまりにも不真面目なノーネ! ドロップアウトボーイに限った話じゃありませんーノ。オシリスレッドに残る生徒は、怠惰で無気力な生徒ばっかりなノーネ!」

「……残る生徒?」

「生徒はあまり知らないようデスーガ、実はレッドからイエローへ上がるノーハ、そんなに難しくないノーネ」

 

視線を向けたその先では、ついさっきまで不満をぶちまけていたクロノス先生が打って変わって溜め息を吐いていた。

オシリスレッドに残る生徒とはどういうことなのだろう。その横顔を見詰めながら言葉の続きを待っていると、ずずーと音を立ててミルクティーを啜った後、先生がゆっくりと口を開いた。

 

「オシリスレッドはギリギリで合格を許された人間が入るトコロと言うイメージが先行していますーガ、惜しくも入学時、ラーイエローの定員から漏れてしまった新入生が一時的に入れられる寮でもあるノーネ。イエロー寮にはまだまだ空き部屋があるノーハ、シニョール倉沢も知ってるかも知れませんーノ」

「あ、はい。知ってます。この前の月一テストの時にも何人か上がってきてましたけど、まだ部屋には余裕があるみたいですね」

「そうでーしょう? それは編入生を受け入れるためのものでもありますーが、本来はオシリスレッドからの昇格者のためのモノなノーネ。今のイエロー寮でも、レッド生を全員受け入れてまだ少し余裕があるはずなノーネ!」

 

ほほう。……となると、四期でいつの間にかいなくなってたレッド生たちがラーイエローに放り込まれてた可能性が浮上、――とそんなことは今は関係ないんだった。

では、昇格はそれほど難しくないらしいイエロー寮に、何故にこんなに空きがあるのだろうか。

その疑問を解消する為に、問いを紡ぐ。

 

「じゃあ、なんでイエローの空きが多いんでしょう?」

「……勉強、実技。共にそこそこできていれーば、イエローまでの昇格は簡単なノーネ。だと言うのにレッドに残留してしまうのは、学ぼうとする意欲が足りないからだと私は思っていますーノ」

 

その後に滔々と語られていく言葉の数々に、俺は相槌を打つだけに留めた。

クロノス先生曰く、成績としては下位ながらもアカデミアと言う名門に入ったという事で満足でもしたのか、歩みを止めてしまった生徒の成れの果てがレッド残留組になったのだと言う。

アカデミアはデュエルについての学校だ。授業を聞き、勉強をしていればデュエリストとしての実力は増していき、実技でもそこそこ結果を出せるようになる。

ギリギリで入学した生徒でも目的意識や上昇志向がある生徒は押し並べて熱心であるために、殆ど間を置かずイエローへと昇格するし、入学時にイエローから漏れた生徒も大抵は本来あるべきだった位置へと上っていく。

だがしかし、何もしない、しようとしない無気力だったり怠惰だったりする人間は吹き溜まりとも言えるレッドに延々と居座り続けるのだそうだ。

 

そりゃ扱いも悪くなるわ。ドロップアウト言われるのも仕方がない。

 

じゃあバイタリティの塊な十代については別に敵視する必要はないんじゃないか? とも一瞬思ったが、その辺りはさすがに聞くのは憚られた。

でもまあ、一応推測はできた。

恐らく、十代はデュエルを楽しむと言う方面に一転突破しすぎていて、学ぶという意識が希薄なのが問題なのだろう。俺ですら十代はアカデミアが学校だって事を忘れてるんじゃないか、と思うくらいだ。

アカデミアと言う名門校にて教鞭を取る事に誇りを持っている教師からしたら、授業は全力でサボり、デュエルは楽しんでいるあいつの姿は遊んでいるようにしか見えないのではないか。

だとしたら、深い付き合いがない内は嫌われるのも無理はない。

でもメンタルはデュエリストとしての理想系の一つとも言える。それ故に、長く関わる内に周囲の見る目も変わって行ったんじゃあなかろうか――。

 

まあ、俺の勝手な想像だけれども。

それに、本編での描写だとレッド寮も十代たちが活躍するに従ってモチベーション高くなってたような気がするし。

十代と言う台風に巻き込まれて鬱屈とした空気も吹き飛ばされ、カリスマ的存在な万丈目サンダーによって引っ張られていくんだろうさ。多分、きっと。

 

……あれ? そう言えば、カードポイ捨て事件が終わってるって事はもう万丈目さんアカデミア出てんのか?

 

「気付いたら随分話が逸れていたノーネ! さっきの話ーは、オフレコでお願いしますーノ。――さて! シニョール三沢はブルーへの昇格は希望しませんでしたーが、シニョール倉沢はどうしますーノ?」

「あ、はい。それじゃあ、俺もなしで。なんだかんだで満足してますし、出来たばかりの友人たちと疎遠になるのもちょっと、遠慮したいですから」

 

そんな風に逸れていた思考を先生の言葉に引き戻されて、軽く咳払い。

そうして気を改めると、クロノス先生の問いへと真っ直ぐに答えを返した。

あそこ雰囲気悪そうだし、と言う言葉が出そうになったが、そこは何とか堪えて当たり障りのない理由を付け加える。

一応、真っ当そうな理由だったせいだろうか。先生の表情に落胆の色が浮かぶ事はなかった。

 

「シニョール倉沢も昇格は希望しない、ということで了解なノーネ。――シニョール倉沢」

「はい」

 

お互いに立ち上がった所で不意に名前を呼ばれ、俺は姿勢を正した。

まだ何かあるのだろうか? そんな事を考えていると、向けられたのは予想外の言葉。

 

「タイプは違えーど、ワタクシも機械族のデッキを使っているので、何か相談があったらいつでも相談するといいノーネ。シニョール三沢を含め、あなたたちには特に期待していマスーノ」

「――はい! ご期待に沿えるよう、頑張ります!」

 

一瞬きょとんとしてしまったが、ある意味では憧れの人でもあったクロノス・デ・メディチ。

彼が目を掛けている、と言う言葉を自分にくれたのだ。嬉しくない訳がない。

そのせいだろうか、返事も妙に殊勝なものになってしまったが、先生は上機嫌だったのでよしとしよう。

 

けれど、ただ一つだけ言いそびれたことがあるのが心残りだった。

俺、別に機械族にこだわりを持ってはいないです。

その言葉は、先生の背を見送る俺の胸中にのみ響いた

 

総評。優等生やってると得だなあ。そんな事を実感する一日でした、まる。

 


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