過分な評価を頂いているような気も致しますが、嬉しいです。ありがとうございます。
更新も遅い拙作ですが、これからもご愛顧くださいませ。
あれから一週間と数日。特に何事もなく日々は過ぎた。
今日は休日、外で軽く友人とデュエル中。酷いコンボが出来た! ちょっと見てくれ! と言って強引に付き合わせている。
――いや、こっちでパックを買ってみたらさ。当然だけれど俺が持ってない、アニメ登場カードなんかも出てきたりするんだよ。
その中で悪用の方法を簡単に思い付いたカードがあったので、それを使ったデッキを組んでみたのである。
デュエルは俺の先攻になった。五枚ドローして手札を確認。
……ああ、うん。こう言う時にはあの台詞を言うべきだろう。
おいおい、これじゃあ……Meの勝ちじゃないか。
「俺のターン、ドロー。ダーク・グレファーを召喚。んでもって効果発動。手札の闇属性モンスター一体を墓地に送り、デッキからも闇属性モンスター一体を墓地に送る。G・コザッキーを手札から捨てて、デッキからG・コザッキーを墓地へ。んでもって魔法発動、ネクロ・サクリファイス。俺の墓地から相手フィールド上に二体までモンスターを特殊召喚し、このターン、その数だけ上級モンスターを召喚するのに必要な生贄の数を減らす。G・コザッキー二体を奢ってやろう」
「え、あ、了か……ってちょっと待て! 自爆モンスターだろうがそいつは!」
「その通りでございます。G・コザッキーはフィールドにコザッキーがいない場合自壊して、一体に付き2500ポイントの効果ダメージがコントローラーに発生するんで宜しく」
「理不尽だあああああああああっ!!」
デュエル終了。思わずどや顔をしたくなったがそこは我慢した。偉いぞ、俺。
それでも終わった後で散々愚痴られたけどね。仕方がないね。
いやあ、しかしアニメで出てきたカードって悪用できそうだとは思ってたけど、これだもんなあ。4000ライフだととんでもない。
ネクロ・サクリファイスのテキストに効果を無効にして、の一節があればまた違ったんだが――まあ、その場合は皆既日触の書でリセットし、強引に効果を発動させれば済む話だ。必要になるカードが増える分だけ成功率は下がるが、誤差の範囲だろう。
と、そんな具合にコンボを決めたことでこのカードの危険性を友人も認識したらしく、二人で揃ってI2社に陳情してみる事にした。
サーチやドローや墓地落としが容易なこのご時世、このワンキルは成功率が高すぎるのである。先攻ワンキルも余裕だよ!
更に言えば必要になるカードもレアリティが低いものばっかりだったり。成功率が高いコンボであることもあり、ライフ4000制のこの世界においては、勝利だけをリスペクトする連中が使いまくって環境を席捲しかねん。
苦渋の選択でG・コザッキーとネクロ・サクリファイス落として魔法石の採掘からぶっぱとか、天使の施しから以下略とか、幾らでもルートは作り上げられる。
まあ、とは言っても俺たちができることなんて、I2社のお問い合わせ先に手紙を送るくらいなんだけどね。
序でに見かけた、えーっと、……名前なんだっけ? とにかく、カレーを作るのが異様に上手いイエローの寮監の先生の前でもう一回これを実演し、署名を頂いておいた。名門校の教師の名前まであるとなれば適当に流されることはあるまいて。
直接的なバーンカードは厳しく締め付けられているが、こういったコンボになると緩々なのはどうなんだろう? いや、カードの種類が多いせいで手が回っていないんだろうけどさ。
やりたかったことはやったので、今日の予定を済ませるとしよう。
新しく組み上げたデッキを慣らしたかったので、デュエル場に行く。
付き合ってくれてた友人にそう言うと、なら付いていく、と返されたので、一緒に行く事にした。
「で、倉沢。新しいデッキが出来たって言ってたが、どんなデッキを使うんだ?」
「んー、儀式召喚だな。なんか使ってる人、そんなにいなかったし。お前は?」
「今はVtoZだな。ただ、万丈目がいないお陰で……」
「お前、最初はなりきりから始めないと調子出ないもんなぁ」
「ああ、自分でも不思議なんだがイマイチ乗り切れないんだよ。いっそいない奴を気にするよりも思考を切り替えようとも思ってるんだが、ユニオンは初めて使うカテゴリなんだ。なかなかな……」
「俺が知ってる限りだと、ユニオン回すならゲットライドと前線基地だろ。後は万丈目も使ってた異次元格納庫、光属性だからシャインスパークに、YZWをリクルートできるシャインエンジェル辺りか。後は機械サポートでも入れときゃいいんじゃないか?」
「なるほどな。戻ったら改良するか……後はプレイングを練り上げたい。その時は頼むぜ、倉沢」
「あいよ。俺もデッキの調整したいしな。でもまあ、二人でデュエルし続けても身にならんし、他の奴らにも声かけようぜー」
道すがら、雑談に花が咲いた。自然とデュエル関係の会話になるのは場所柄と言う事で、仕方がないね。
ああ、内容から分かるかもしれないが、友人こと同行者はなりきりデュエリスト神楽坂くんでございます。
理論の三沢、直感の十代とはまた違って、こいつは見取る事で強くなるタイプのデュエリストだ。本人も戦術の研究に余念がない。
そんなこいつからすると、幾つかデッキを持っていたり、不定期ながらも新しいデッキを使う人間と言うのは魅力的に見えるらしく、こうして行動を共にする事も割と多かったりした。
どうやら今は万丈目ベースのVtoZデッキを使っているようだが、お手本がアカデミアから去ってしまったことでなりきりにも身が入っていないのか、成績は今一つらしい。
……本編では他人の真似事しか出来ないとかなんとか言ってたっけなあ、確か。
まあ、この世界ではそんな事にはならないだろうが。
今の神楽坂はコピーデッキを一通り回して理解を深めた後、自分用に少しずつデッキをカスタマイズして練り上げていくと言うスタイルを確立している。
デュエル後の反省会では指摘を受ける事もあれば、する事もある。神楽坂もその例に漏れる事はなかった。
そしてこいつ、強い相手と見れば躊躇わずコピーデッキを作り上げる辺り、割と執着心は薄いようなのである。指摘に関してもそうした方が良いと理解できれば、あっさりと受け入れていた。
反省会での指摘に従い、自分なりの改良を加えてまたデュエル。再びの反省会、もう一度改良、デュエル。そしてもう一度。
そうやってデュエルを繰り返す内に、コピーデッキは徐々に神楽坂のデッキへと移り変わっていく。それも研究に熱心な分、元デッキよりも練り上げられたデッキに、だ。
まあ、流石にドロー力なんかはどうしようもないんだが、それを勘定に入れたとしても現ラーイエローで一、二を争う腕前なのは間違いない。俺も大分、砂を舐めさせられた。
カードプールが同じと言う条件でこいつとデュエルするとなったら、俺は勝てる自信は全くないです。
まあ、余談だけれどね。
そうこうしている内に、デュエル場に到着した。
休日でもちらほらと人の姿が見えるが、さて、どうするか。
適当に声を掛けてもデュエルしてもらえる気がするが、うーむ。
「……お?」
「どうした?」
「いや、知り合いがな。ほれ、あそこ」
「どれ、――っておい、オベリスクの女王じゃないか!? 一体どこで……」
男前なヒロインとそのご友人がいたので何とはなしに話題に出してみると、意外なくらい反応があってついつい苦笑が漏れた。
「オシリスレッドに遊城十代って、強い奴いるだろ?」
「あ、ああ」
「加えて同室の二人と三沢、それに天上院の五人でよくつるんでるっぽいんだよな。俺は三沢といた時に偶然知り合いになった」
神楽坂が愕然とした顔でこっちを見た。
こいつも三沢とは割と良く話してるんだが、寮以外で行動を一緒にすることはなかったっぽいからなあ。気付いていなかったんだろう。
俯きがちに何かぶつくさと呟き始めたので、少し耳を澄ませてみると今度少し一緒に行動してみるか? いやしかし……なんて言っている。
やっぱ、明日香って人気あるのな。まあ、しゅっとした立ち居振る舞いにはちょいと憧れるけどさ、俺も。そこらの男よりイケメンだよな、明日香。
どっかに意識を飛ばしている神楽坂を生暖かい視線で一瞥すると、明日香たちに視線を戻――ってあれえ、なんかこっちに近付いて来てるんだけど。別に指差したりしてないぞ?
さて困った。基本的にチキンな俺は、話題に出していた人間がいきなり現れたりすると後ろめたくなるのである。
自分の世界に入っている神楽坂を置いて逃げ出すか? いやしかし、そしたらデュエルが……。
そんな風に迷っていたせいで機を逸してしまったようだ。気付けば、もう結構近い距離にいらっしゃった。
「あー、……よう、天上院さん。後、ジュンコにももえだっけ? 今日は十代たちと一緒じゃないんだな」
そこまで来られたら、声を掛けないといけない気がする。知り合いな訳だし。
第一声に迷いながらも、こちらから挨拶を。ただ、お付きの方々の名前が咄嗟に出て来なくて、ワンクッションを置く羽目になったが。
「仲が良いのはそうかも知れないけど、毎日一緒、って訳じゃないわよ。それより、ついで扱いはどうかと思うんだけど?」
「仕方が無いだろ、自己紹介されたわけじゃあないんだから。……ほら、神楽坂」
「……おわっ!? 何するんだ、お前は……って天上院さん!」
未だにお二人からは名前をお聞きしておりません。知識として名前は覚えているが、苗字は全くだ。
そうなの? とばかり明日香が振り向く。
その隙に、まだぼーっとしてる神楽坂の背を握りこぶしで押し、軽く胸を張らせるようにしてやった。
それに反応してだろう。はっとして俺の顔を見た神楽坂だったが、明日香の姿を確認してわたついていた。慌てすぎだろ、お前。
その様子に生暖かい視線を送ってから、改めて前へと向き直る。
すると、面白そうな視線が二つと、きつく眇められた視線が一つ、此方へと注がれていた。神楽坂だけでなく、俺にも。何でよ?
「……その、なんだ。そっちも神楽坂のこと知らないだろうし、皆で自己紹介でもどうよ?」
微妙に居心地の悪いそれに、俺は取り敢えず愛想笑いで応じることにした。
それから十数分。改めて名前を名乗り合ったのは良い物の、その後が続かなかった。
神楽坂は憧れの女王様が直ぐ近くにいらっしゃると言うことで固くなってるし、俺はと言えばジュンコからの視線が気になってしまって仕方がない。
いや、そりゃさ、前のデュエルで俺が明日香に勝てたのは偶然かも知れないさ。多分まぐれだろうとは俺も思ってるよ?
でもさ、もう一ヶ月は前の事で睨まれるとか。正直、居心地が悪くて堪らんわ。
平気な顔をしているのは明日香とももえくらいのものである。
十代への対応も似たような感じだった、とかで慣れたのか? できれば窘めて欲しいんですが。
とか、そんな事を考えていたんだが、そしたら明日香がさ。デュエリストなんだから、後はデュエルで自己紹介しない? とか言い出したのである。
しかも、変則バトルロイヤル。五人での。……ジュンコさんが俺を集中攻撃してくる未来しか見えないんだけど。
けどまあ、それもありかなあ、と思ったんだが、ここでまずももえが抜けた。
わたくしのデッキはロックデッキですから、全体の流れを阻害してしまいますわー、と言って離脱。
そして、神楽坂も困り顔になった。
研究熱心と言う性が、既に大規模改良案の出てしまっているデッキでのデュエルを躊躇わせているらしい。
そんな訳で、大急ぎで改良してくると言って神楽坂も一時離脱。物凄い勢いでイエロー寮へと走っていった。
結果、残された側は先に始める訳にも行かずにすっかり手持ち無沙汰だ。
そこで、じゃあ待ってる間は普通にデュエルでもしてる? とそう口にした瞬間である。
ジュンコが食い付いた。
そして、こてんぱんにしてやるわ! と言わんばかりの視線をこちらに向けてきたのである。
――なんでじゃ。
あれか? 十代には勝てる気がしないから俺を虐めようって言うのか? それとも他に理由でもあるのか?
何はともあれ、結果として俺は枕田ジュンコとデュエルする事に相成ったのだった。
で、現状。向かい合ってデュエル場に上っている。――なんだかなあ。
「聞きたいんだが、なんでそんな怖い目で見るんだ。俺、なんかしたっけ?」
「別にしてないわよ。……あんた、周りから自分がどう見られてるか知ってる?」
「いや、知らん知らん。どう見られてるんだ、一体」
「――イエローの座敷童」
「は?」
「だから座敷童よ。付き合いがあるだけで実技の成績が上がるって噂になってるの」
どういうことなの……。
いやまあ、確かにイエロー寮の友人たちと過ごしている時、デュエルする度に手強くなってるなあ、と思ったことはある。
だがしかし、それは俺が原因って訳じゃあないだろう。単に感想戦をやるようになったからだ。
と、その考えが顔に出ていたのか、向けられる視線がまた厳しいものになった――ような? なぜだ。俺悪くないよね?
そんな意を込めて、壁の花になっている二人に視線をやる。苦笑していらっしゃった。
ああもう、訳分からんっ!
「……一応、どう言うやり方でやってるかは知ってるわよ。意見を言い合うだけじゃなくて、デッキまで見せ合ってるって聞いたわ。確かに有効でしょうけどね。あたしにはそこまで晒せないから」
僅かな間。その間には恐らく、デュエリストとして、と言う言葉が入るように俺には思えた。
……あー、つまりあれか。こっちだとお互いのデッキを全部見せて意見を出し合うってのは、つまり自分の手札と言うか、手の内をぶちまけることになる訳か。
それを、俺は元いたとこの感覚でやっちゃっていた、と。
じゃあなんで友人連中はそれに付き合ってくれてるのか、と言う疑問も湧く。が、それはきっと、恐らく、連中がいい奴らだったからだろう。
相手が勝手に晒したとは言え、自分だけ見せてもらってそのままと言うのは、デュエリストとしての誇りが許さない、とかそんな具合に。
……でも、そうしたら、だ。
俺ってもしかしなくても、とんでもなく非常識な真似してた?
息をするようにしていた行為が問題だらけだったと気付き、冷や汗がだらだらと流れる。
そんな俺に向かい、ふんと鼻を鳴らしたジュンコが話は終わりだ、とばかりデッキに手を掛けた。
だがしかし、良く考えたらまだ質問に答えてもらってない。
「……いやちょっと待て。それでなんでこうなる?」
「あんた、ここがなんの学校だと思ってるわけ? ――強くなりたいからに決まってるじゃない」
「まるで意味が分から……、いや、待てよ」
もしかして、デュエルして見えた問題点とかを指摘しろって事なのか? そうなのか?
「つまり、一戦交えてから感想戦しようぜ、って事か?」
「……まあ、大体そうよ。デッキは見せないけど」
「睨んでたのは?」
「本気でデュエルしようって時に、へらへらしてられる訳ないでしょ」
それにしたって喧嘩腰すぎるだろ! とツッコみたい。心の底からツッコみたい。
けどツッコムとろくな事にならない気がする。
でもま、一応理由も分かったしなあ。すっきりしたから、もう良いや。
軽く息を吐き出してから、俺もまたディスクを構える。デッキトップに手を添えて、デュエルの構え。
デュエルの構えって何だ、って思うかもしれないけど、まあ、あれだ。フィーリングと言う事で。
互いにその体勢になったからには、言うべき言葉はただ一つだ。
視線を重ねて、同時に宣言する。
「「デュエルッ!!」」
五枚ドロー。手札は……キーは来ていないが、マンジュ・ゴッドでサーチもできる。
その他もバランス良く揃っているし、滑り出しとしては上々、と言ったところだろう。
先攻は……っと、こっちか。
「俺のターン、ドロー。メインフェイズ、モンスターをセット。更にリバースカードをセットしてターン終了」
壁を出し、カードを伏せる。極一般的な一ターン目である。
マンジュ・ゴッドは先攻で出すにはステータスが心もとない事もあり、まずは壁を出しておくに留めた。
次のターンで儀式に必要なカードのどちらかが引ければ、その時点で攻めに行くつもりではいるが、はてさて。
「私のターン! フィールド魔法、伝説の都 アトランティスを発動するわ!」
む、アトランティスか。
ジュンコってゲームではハーピーデッキだったけど、アニメでは海系のデッキだったんだっけ?
彼女がカードをディスクにセットすると、周囲の風景ががらりと変化した。
ソリッドヴィジョンが映し出すのは海底に沈んだ石造りの都市と、その中を暢気に泳いでいる魚の群れ。水面より差し込む光が幻想的だ。
しかし、そんな光景を見ていると水の抵抗や圧力を感じない事に違和感を覚えてしまう俺だったりする訳で。
軽く掌を振ったり、肩を回したりなどしてしまって、明日香たちから少し笑われた。……畜生、おのれKC!
茶番はさておき。
伝説の都 アトランティスは手札及び場に存在する水属性モンスターのレベルを1下げ、攻撃力・防御力を200上げる効果を持っている。
その影響下では本来は生贄が一体必要になるレベル5モンスターをノーコストでフィールドに出せるし、グラヴィティ・バインドやレベル制限B地区などのレベル4以上で引っかかってしまうロックパーツを下級モンスターにすり抜けさせる事もできる。更に、最上級モンスターを生贄一体で召喚する事も可能だ。
総じて非常に優秀なフィールド魔法だが、どの戦術を軸に据えるかで役割が変わるカードでもある。さて、どう出てくることやら。
「更にマーメイド・ナイトを召喚! このカードはフィールドが海の時に二回攻撃できる。そしてアトランティスは名前を海として扱うカードよ!」
マーメイド・ナイト。昔はアトランティスデッキでのメインアタッカーを張っていた事もあるカードだ。
攻撃力は1500、守備力は700。グリズリーマザーからリクルート可能な事もあって使い勝手は悪くないが、素のステータスが少々貧弱ではある。
「お互いに効果が適用され、攻撃力は1700まで上昇。更に二回攻撃か」
「そうよ。そのモンスターを倒して、ダイレクトアタックを叩き込んでやるわ! マーメイド・ナイトで裏守備モンスターに攻撃!」
命を下された人魚の騎士が、滑らかにその尾をうねらせて海中を駆けた。
一瞬にして詰められた距離。振り翳された刃が一枚のカードを両断しようとして、その寸前でカードが反転する。
「セットモンスターは弾圧される民だ。守備力は本来2000だが、こいつは水属性モンスター。よって200アップして2200になる!」
瞬間、現れたのは見るからにやせ細った農民だった。
吹けば倒れてしまいそうな彼に、刃が振り下ろされる。普通なら切り伏せられてそれで終わりになるだろう光景なのだが――何故かその守備力は2000ポイント。
彼は手に持った鍬でその剣を受け止めると、思いっきり人魚を押し返してみせた。思わぬ反撃に面食らったのか、後ろに流された人魚がジュンコに勢い良くぶつかる。
合わせて、ライフの減る音が彼女のディスクから響いた。
LP:4000 - 500 → 3500
「っく……ほんっとに面倒ね、その表示形式っ!」
「守備モンスターに対しちゃ褒め言葉だろうさ。仕事した証拠だ」
「……カードを一枚伏せてターンエンドよ!」
マーメイド・ナイトでは民を屈服させることはできない。二回攻撃しても手傷が増えるだけである。
ジュンコがその事実に眉をしかめ、ターンエンドを宣言したのを確認してから、俺はデッキトップのカードを引き抜いた。
「俺のターン、ドロー。…マンジュ・ゴッドを守備表示で召喚する。モンスター効果を発動! このカードが召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターか、儀式魔法を手札に加える。俺が手札に加えるのは高等儀式術!」
ドロー、スタンバイ、メイン。ディスクの灯りがフェイズの移行を知らせたのを確かめてから、一枚のカードをディスクにセット。
本来ならば攻撃表示でなければ効果を発動できないモンスターだが、この世界では表側守備表示が可能なのでそれを行い、そして迷いなくキーカードをサーチ。
最も重要な一枚であり、このカードがなければデッキは回らない。故に、体勢が整った今、いち早く確保して起きたかったカードだ。
だがしかし、まだ攻めには移れない。呼び出すべきモンスターが手札に来ていないのだ。まだまだ、ここは我慢の時。
「……ターンエンド」
どちらか片方が来てくれていれば、そのまま攻めに移れたんだが。
詮無いことを考えながら、エンド宣言をしておいた。
「私のターン! 水陸両用バグロス mk-3を攻撃表示で召喚するわ!」
「そいつは……っ!」
海が場にある時にダイレクトアタックが可能なモンスターだ。元世界では然したる脅威でもないが、ライフ4000制だと非常に危険なモンスターと言える。
素の攻撃力は1500。マーメイドナイトと同じく強化されて、その値は1700だ。
三発通せば勝負が決まる。適当な装備魔法と合わせれば、二発で終わりだ。
その上、グリズリーマザーの存在から場に残す事も容易と来た。……め、面倒臭い。グリマザに安易に攻撃できないじゃないか。
ともかく、こいつは次のターンで早々に排除しなければならないだろう。
「行くわよ、バトル! まずはマーメイド・ナイトでマンジュ・ゴッドを攻撃!」
再び剣を振り翳し、踊りかかるマーメイドナイト。振り下ろされる刃が万手の神を両断する。
――神って名前の割に攻撃力1400、守備力1000と並みのリクルーターレベルの攻防なんだよな、こいつ。攻撃力1600くらいあっても良いと思うんだけど。
とか思っている間に、追撃が来た。
「続けてバグロスでダイレクトアタック!」
機体横の推進器が勢い良く気泡を噴き上げ、バグロスが上方へと昇っていく。
そして、その位置から勢い良く急降下を行ってきた。弾圧される民の頭上を越え、何も守るもののない俺へ向けての体当たりがごっそりとライフを削り取った。
LP:4000 - 1700 → 2300
「ターンエンドよ」
「俺のターン!」
カードをドロー。残念ながら、儀式カードではない。
……ここはアドバンス召喚に拘らず、アタッカーとしてこのカードを運用するべきだろう。
手札の内の一枚に視線をやった後、まずは露払いとばかりカードをディスクにセットした。
「速攻魔法、サイクロンを発動。その伏せカードを破壊っ!」
「……っ!」
旋風に巻き上げられ、墓地に送られたのは――忘却の海底神殿か。海として扱うカード、と。なるほどね。
まあ、何か面倒なモンスターが出てきた時に逃げられてもアレだし、コダロス辺りが湧いてきてこれをコストに効果を使われても困る。破壊できて良かった、と思う事にしよう。
憂いを廃した事もあり、安心と共に一枚のカードを手に取ると迷わず召喚する。
「神獣王バルバロスを生贄なしで召喚! このカードは元々の攻撃力を1900にして妥協召喚できる!」
このデッキにおける切り札とも言えるモンスターであり、妥協召喚をするのは本来の用途ではないが、この状況で優先するべきはダイレクトアタッカーの排除である。
俺の声に合わせて下半身を獣の身体とした戦士がフィールドへと現れると、猛々しく吼え声を上げた。
獅子の鬣を象ったのか、腰と顔を飾る黄金の飾りが勇ましい。実に頼りになる姿だ。
「バトルフェイズだ。バルバロスでバグロスを攻撃! トルネード・シェイバー!」
命令と共に、獣の四肢が地を蹴る。
互いの間にあった距離を疾風のように詰めての、突き技一閃。槍先がキャノピーを突き破り、それを追って生まれ出た螺旋の水流が機体そのものを捩じり切った。
一瞬にしてスクラップと化したバグロスが水圧に呑まれて砕け散る。
その光景を後目に、獣の王は悠々と俺のフィールドに凱旋した。
攻撃力差は200。一瞬の間を置いて爆発したバグロスの破片がジュンコの身体を掠り、そのライフを僅かに削っていく。
LP:3500 - 200 → 3300
さて、これ以上はやることはない。手札にあるのは、今使っても仕方がないか、あるいは条件に合わないカードばかりだ。
「俺はこれでターンエンド」
「私のターン、ドロー! ……来たわ。私はマーメイド・ナイトを生贄に――」
カードを引き抜いた瞬間、ジュンコの瞳に喜びの色が閃いた。
切り札を引き当てた、と言うことか。
アトランティスデッキにおける切り札と言えば、ぱっと思い当たるのは三種類だが――仮にその内の一体が出てきた場合、俺の敗北は確定だ。
じっと息を潜めて、その時を待つ。
「海竜‐ダイダロスを召喚ッ!」
人魚の騎士が光に包まれて消えうせた、その直後、海底都市が激震に襲われた。
幾つかの建物が崩れ落ち、静かにたゆたっていた海水が竜巻の様に渦を巻く。
その中心部で、長大な影が揺らめいた。激流が弱まるに連れて、その威容が明らかになっていく。
兜の様な厳めしい甲殻に包まれた頭部、巨大な杭のような牙。
蛇に似た長い身体を雄大にうねらせながら、獣の神とその隣で震えるちっぽけな民を四つの目で見下ろした竜が吼える。震える水が衝撃波のように、バルバロスと民の身体を打ち据えた。
これこそがアトランティスデッキの切り札の一、海竜‐ダイダロス。
フィールド上の「海」をコストに自分を除いたフィールド上のカード全てを破壊する効果を持った、暴虐の竜だ。
……って、あれ? こいつこっちだとパラレルレアじゃなかったっけ? まあ、良いか。
こほん。ともかく、出てくるのがこいつまでなら良い。
攻撃力2600のダイレクトをそのまま通せば負けるが、こちらにも一応リバースカードがある。このターンを凌ぐ事は恐らく可能だろう。
問題なのは更に上の階梯へと進み、神の名を冠したダイダロスが存在していることだ。
海竜神‐ネオダイダロス。その身に備わった力はフィールド上のカードに限らず、お互いの手札すらも全て墓地へと埋葬する。
儀式モンスターの召喚には基本的に多くのカードが必要になる。手札の全てを墓地に送られ、ゼロからの立て直しを強制された場合、俺のデッキでは絶対に間に合わない。
よしんば間に合うとしても、その間に再び海を引き当てられネオダイダロスに効果を使われればそれだけでジ・エンドだ。
パラレルレアのダイダロスを更に強化したモンスター。そんなとんでもないレアリティのカードを持っているとは考えにくいが……可能性は、ゼロじゃあない。
――頼むから、来ないでくれよ。
祈るような気持ちでダイダロスを、その操り手であるジュンコを見詰める。
視線の先で細い指先がディスクへと延ばされた。触れた先は、音を立てて開かれたフィールドカードのゾーン。
……つまり、ダイダロスの効果を発動する、と言うことだろう。これで多分、次のターンまでは持ち応えられるっ!
「ダイダロスの効果を発動するわ。自分フィールド上に存在する『海』を墓地に送って、このカード以外のフィールド上のカード全てを破壊する! やりなさい、ダイダロス!」
「この瞬間、速攻魔法を発動! 収縮! ダイダロスの攻撃力を、元々の攻撃力の半分にする!」
ジュンコの宣言と共に、静けさを取り戻していた水の流れが再び荒々しくうねり始める。
それに全てが押し流される前に、俺は伏せていたカードを発動させた。
速攻魔法、収縮。戦闘補助のために入れていたカードだが、思わぬ所で役に立ってくれた。
先んじて放たれた魔法が、ダイダロスの巨体を縮小する。――だがしかし、解き放たれた破壊の力を止めるには能わない。
フィールド上の全てが打ち砕かれる。伝説の都、雄雄しき獣の王、じっと耐え忍ぶ民すらも。
後に残っているのは、僅かばかりその力を減退させた海竜のみだった。
「アトランティスの戦士を墓地に送って、効果発動! 伝説の都 アトランティスを手札に加えて、そのまま発動っ! 更に魔法カード、サルベージよ。墓地から攻撃力1500以下の水属性モンスター二体を手札に加えるわ。あたしが選択するのは、水陸両用バグロス mk-3とマーメイド・ナイト!」
アトランティスの戦士は、攻撃力1900のモンスターだが、今まで手札にあったっぽいな。
初手のマーメイド・ナイトは守備モンスターを処理すると同時にライフアドを取る為のチョイス、その後は弾圧される民の防御を抜けないこともあって温存していたと言うところだろう。
その結果、海竜は次のターンにも全体除去を発動させることが出来るようになった。流石にエリートの代名詞、オベリスク・ブルーの生徒。良い判断してやがる。
更に手札にはバグロス。ダイダロスの攻撃力は2600から半減しているが、アトランティスで200強化されて1500ポイント。
俺にはそのダイレクトアタックを防ぐ手はないため、このターンでライフポイントは1000を切る。
仮にダイダロスが排除されても、次のターンにバグロスを召喚してダイレクトアタックで勝てる、と見たのだろうが……全く以ってその通り。
俺が勝つには次のターンで決めるか、伝説の都とダイダロスの両方を排除するかしかない。
ただ、両方排除しても二枚目の忘却の海底神殿を伏せられたり、ジュンコがテラ・フォーミングと海のセットまで突っ込んでいたらまずいので――次のターンでやるだけやってみるしかないだろう。
そう覚悟を決め、息を吐くとダイダロスを見据える。――よっしゃあ、来いっ!
「バトルよ! ダイダロスでダイレクトアタック! リヴァイア・ストリーム!」
直後、ダイダロスの口から放たれた激流が俺を飲み込んだ。
とは言え、収縮の効果でその攻撃力は下級レベルまで落ち込んでいるので、派手なだけなのだが。
LP:2300 - 1500 → 800
それでも思わず顔を庇ってしまった。だって迫力凄いんだもんよ。
「カードを一枚伏せて、ターンエンド。――次のターンで決めてやるわ!」
「キーを引けなかったらそうなるな! ……ドロー!」
これで俺の手札は五枚。他のパーツは大体揃っている。
サーチカードでも引ければ御の字、と言ったところだが――…っと?
……よし、回ったっ!
「俺は魔法カード、儀式の準備を発動。デッキからレベル7以下のモンスターを手札に加え、その後、墓地から儀式魔法一枚を手札に加えられる。俺の墓地に儀式魔法はない。前者の効果のみを適用し――レベル6のライカン・スロープを手札に加えさせてもらう」
まずは準備、とはよく言ったものだよなあ、と思わず苦笑が漏れた。
このデッキは上手く回れば8000環境でもワンキルを狙えるが、その一翼を担うのがこのモンスターだ。それなり以上の火力を出すにはちょっとした準備が要るが、恐らくは最も相性の良い儀式モンスターである。
他の儀式モンスターは……ダメージを稼げる効果ではないので、ルートが限られる。爆発力が少々足りない、と言うのが正直なところだ。
と、今回は上手く行かなかったが、理想の流れに付いて少々触れておこう。
墓地には大量の通常モンスターを貯めておきたいので、デッキには可能な限り低レベルの通常モンスター、後はジェリービーンズマン辺りの能力値の高いレベル3通常モンスターを適宜投入。
儀式の準備によって高等儀式術を使い回す都合上、レベル1モンスターのみで揃えると、引きによっては儀式術を発動できなくなる事がある。
パーツが揃うまでは下克上の首飾りなりを使って戦線を維持し、時間を稼ぐのが基本戦術だが――本番はそれからだ。
まず、高等儀式術で墓地に大量の通常モンスターを送り込みつつ、ライカン・スロープを儀式召喚。
儀式術によって墓地に送られた低レベル通常モンスター三体をトライワイトゾーンで蘇生し、三体の生贄を得たバルバロスの全体除去で道を開く。
後は好みで殴れば良い。バルバロスの3000を差っぴいて、相手の残りライフは大抵の場合は残り5000。
儀式術を使い回しておけばライカン・スロープのバーン効果――墓地の通常モンスターの数×200のダメージを与える効果で2000以上の大ダメージを狙うことも容易い。
二回攻撃を行える閃光の双剣‐トライスでの連続攻撃で火力を増したり、ライフを削られているのなら巨大化で攻撃力を増強したり、儀式の準備で二体目を出してみたり、ルートとしては結構色々ある。
まあ、そんな具合なのだが、今回は割とごり押しなのよね。ついつい、苦笑が漏れた。
「そしてお待ちかね、高等儀式術を発動。儀式召喚するモンスターのレベルと合計が同じになるようにデッキから通常モンスターを墓地に送り、儀式召喚を行う。俺が墓地に送るのは全てレベル1のモンスターだ」
お前の攻撃が通れば勝てる。だから頑張ってくれよ。
携えたカードにそう念を込めると、カードをディスクへとセットし、召喚。
「さあ、頼んだぞ! こいつがこのデッキの要、ライカン・スロープだッ!!」
ふっ、と周囲が陰りを帯びる。
見上げてみれば、優しかった陽光に代わって冷たい月光が差し込んでいた。
水面で散らされ、弱弱しく海底へと落ちてくる月明かり。
一体何時から存在していたのか、その只中に一つの影があった。
硬い獣毛と逞しい筋肉で身を鎧ったそのモンスターが、高々と吼え声を上げて、その存在を誇示した。その声音に理性の色は見出せない。
……なにこれ、超カッコ良い。こんな地味なカードにこんな力の入った演出があっていいの?
思わずぽかーんとなってその姿を見ている内に、何時の間にかライカン・スロープは戦闘態勢を取っていた。
繰り返される実験の中で育まれた狂気と素体となった狼の野性に衝き動かされてか、敵を見据えた狼男が牙を剥き出しにして唸る。その様は、まるで攻撃命令をしろ、と俺を急かしているかのよう。
だがしかし、まだまだ下準備は終わっていない!
このまま突っ込んだら無駄死にするだけなのである。
妙に力の入った演出にまだ引き気味なジュンコを後目に、俺は二枚の装備カードを発動させた。
「コストとして手札を一枚墓地に送り、閃光の双剣‐トライスを! 更に流星の弓‐シールを発動し、ライカン・スロープに装備する! 攻撃力は合計で1500ポイントダウンするが、これでライカン・スロープは直接攻撃と二回攻撃の効果を得た。……さあいくぞ、バトルフェイズ!」
その両腕に細身の剣を、そして、足元に輝く弓を。
それぞれ与えられた狼男が、来るべき時が来た事を察してか、歓喜の咆哮を上げる。
攻撃力は2400から900にまで減退したが、なんの問題もない。
手札は全て使い切った。間違いなく、これが俺のラストターンになる。
「いけ、ライカン・スロープ! ジュンコにダイレクトアタック!」
俺の叫びと同時に輝く弓を大きく蹴り上げ、狼男が走り出した。
月光を受けて輝く弓に、思わず視線を向けてしまったのだろう。海竜の視線が僅かに泳ぎ――その間隙を衝いて、ライカン・スロープは俊敏に巨体の脇を駆け抜けた。
道を遮っていた巨体さえなくなってしまえば、彼にとってはこの程度の距離は無いに等しい。既に不可避の間合いだ。
だがしかし、ジュンコは余裕の色を崩さなかった。伏せられたカードの存在故にか、あるいはこいつの効果を知らないからか――。
「けれど、ダメージは1800でしょ。次の私のターンで終わりよ!」
どうやら、後者であったらしい。にやりと笑って、応じてやる。
「悪いが、その伏せカードで止められなければ次のターンは来ない。ライカン・スロープは相手にダメージを与える度、墓地に存在する通常モンスターの枚数の二百倍のダメージを与える! 俺の墓地の通常モンスターは七体だ。例え相手が無傷だろうが、残らずライフを削り取れる!」
「なっ……!? ああもう! だったら受け止めてやるわよ! 全部持ってきなさい!」
そういう反応、嫌いじゃないわ!
ライカン・スロープとジュンコとの距離は既に零。その手に携えた双剣の銘の通り、閃光の様な連撃が駆け抜けてから――、一瞬の間。
速過ぎた剣閃に衝撃が追い付かなかったのか、遅れて噴き上がった爆風がジュンコを包み込み、響くブザーがデュエルの終わりを告げた。