ハリー・ポッターのモンスターペアレントおばさん   作:しらなぎ

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前作で過激なヘイト思考だと思われていそうなので、真逆な話を書いてみました。
ラクガキなので石編までしか完結していません。



石編
1


 ホグワーツは巨大な城で、何もかもが厳格で壮大で、古めかしかった。グリフィンドールに組み分けられ、人生でいちども食べたことの無いごちそうをかき込んで、ハリーは幸せでいっぱいだった。

 隣にはロンという新しい友達がいて、魔法界のことをいろいろ教えてくれるし、ネビルやシェーマスとも仲良くなれそうだ。

 

 大広間の前の教員席には、ダイアゴン横丁を案内してくれた体の大きなハグリッドや、真面目な顔つきのマクゴナガル先生、握手を求めてきたオドオドしているクィレル先生、他にも色々な先生がいる。目が合った途端、額の傷がチリッと痛んだスネイプのことをしばらく眺めていたが、彼はハリーの方を一切見ようとしない。

 トライフルを食べながら、ハリーはさらにしげしげと教員席を眺めた。

 

 真ん中にいるのは校長のダンブルドア先生で、髪の毛があっちこっちに跳ねている少し太った先生や、お爺さんなのにこどもみたいに小さな体の先生、銀の短髪の活発そうな先生……スネイプの隣には、まだ年若そうな黒髪の女の先生が座って、ニコニコとおしゃべりをしている。スネイプは話しかけられても顔を全く向けず、無視しているように見えたが、女の人はかまわずひとりで話しかけていた。

 傍から見てもちょっと酷い態度に、彼女はイライラしないんだろうか?と見つめていると、パッと目が合った。彼女はハリーにニッコリと親しげに笑いかけた。

 

 スネイプが向けた「大嫌い」だと語る目と真逆だ──。うぬぼれかもしれないけれど、ハリーは彼女の温かい目が、ハリーのことを「大好き」だと言っているような気がした。魔法界に来てからハリーはそんな憧れや好奇、感謝と親しみ……そんな目を向けられることばかりだった。「生き残った男の子」。魔法界でハリーを知らない人はいない。急に気恥ずかしく、居心地が悪くなって目の前のトライフルに集中した。

 

 デザートがテーブルから消えると、ダンブルドア先生が立ち上がった。大広間を一望するとしーんとたくさんの目が校長先生を見つめた。

 

「全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言お話させていただくことにしよう。新学期を迎えるに当たり、いくつかお知らせがある。今学期から嬉しいことに、新任の先生を二人お迎えすることになった」

 ダンブルドア先生の深青の綺麗な瞳がキラキラッと輝いた。

 

「まず、クィレル先生じゃ。上級生の中には知っておる者も多いじゃろうが、一昨年までマグル学の教鞭を取ってくださっていた。そして一年間、さらに実力を磨く旅に出て、こうして戻って来てくださったわけじゃ。クィレル先生は今年から空白になっておった『闇の魔術に対する防衛術』の担当を担ってくださることになった」

 クィレル先生はパラパラとした拍手と、たくさんの目に見つめられ、怯えたように愛想笑いをしてぺこりと小さく首を下げた。

 

「あの人、本当に先生だったんだ」

 思わずハリーは小さな声で呟いた。クィレル先生は視線から逃れるように俯いている。

「クィレルの授業は分かりやすかったし、いい先生だよ。でも前はあそこまで吃音じゃなかったはずなんだけどね」

 パーシーの言葉を聞いてハグリッドが言っていたことを思い出した。旅の途中に吸血鬼や鬼婆に会ってクィレル先生は怖がりになってしまったらしい。空想上の世界。まだ夢の中にいるみたいだった。

 

「それからもう一人」ダンブルドア先生が拍手が鳴り止むのを待って言葉を続けた。

「今年から、新しく警備員を雇うことになった。務めてくださるのはノースエル先生じゃ。去年までオーラー(闇祓い)として活動していた優秀な魔女じゃから、校則を破ればすぐさま見つかってしまうじゃろう」

 ダンブルドアが悪戯っぽくウィンクした。大広間に歓声とも溜息ともつかない声がザワーっと広がった。

 

 スネイプの隣にいた黒髪の女の人が立ち上がって、控えめにはにかみ笑いをした。細くて小さくて、人が良さそうだ。大きなヘーゼル・アイが生徒たちを優しく見つめている。

 

「おっどろきー!ほんとにオーラー?そんな風に見えないよ」ロンが口をOの字にしてノースエル先生をまじまじ眺めていた。周りの人も感心したような顔をしている。

「オーラーってなに?」

「闇の魔法使い捕獲人、ってところだよ。闇の魔術を人に対して行使した魔法族を捕まえる、専門のエリート特殊戦闘部隊だ」パーシーが説明した。

「特殊戦闘……?」

 スネイプの横で朗らかな微笑みを浮かべているノースエル先生は、とても戦えるように見えない。魔法使いだから体の大きさとか性別は関係ないのかもしれないけど、刺々しい雰囲気が一切ないように見える。隣のスネイプの方がよっぽど戦いに身を置いていそうだとハリーは思った。

 

 ホグワーツは巨大な迷路のようだった。絵画もゴーストも扉も階段も、ありとあらゆるものが動き回るせいでちっとも道を覚えられない。

 そのせいでハリーは最悪なことに、次の日の朝からもう困難にぶち当たる羽目になった。授業に向かう途中で迷い、鍵の閉まった扉を開けようと躍起になっていると、根性悪のフィルチが怒鳴り声で捲し立てた。

「お前ら、そこで何してる!」

 ハリーとロンは文字通り飛び上がった。

 禿げあがった広いおでこが真っ赤に染まり、唾を飛ばしながらフィルチがふたりを見下ろした。

 

「入学早々に校則破りとはな、え!?禁じられた廊下に押し入ろうとは、グリフィンドールの連中はこれだから──」

「禁じられた廊下!?」

 ロンが素っ頓狂な声を上げた。「それじゃ、ここがダンブルドアが言ってた……」

 

「今更しらばっくれようなんて考えが通ると思っとるのか?マクゴナガルに言って罰則を与えてもらう……地下牢に閉じ込めるのが妥当だろう……」

「僕たち、道に迷っただけなんです。立ち入り禁止の場所だなんて知らなくて」

 ハリーが訴えても無駄だった。聞き耳持たずに、罰則とか退学とか、恐ろしいことをブツブツ言って、ふたりの腕を凄い力で掴んだ。

 

 その時、「パシッ」という小さな音がしたかと思うと、どこからが突然女の人が現れた。「ノースエル!」

 

 彼女は三人を目を細めて眺めた。

「一体どうしたんです?」

「このガキどもが禁じられた廊下に入り込もうと企んでやがったんだ。寮監に報告して相応しい罰を与えなきゃならん!」

「そうなの?ポッター、ウィーズリー」

 ふたりは激しく首を振った。ノースエル先生は理由を聞いて、優しそうに頷いた。

 

「フィルチ、この城は巨大ですから、慣れるまでは間違ってこの場所に来てしまうこともあるかもしれないわ。実際入ったわけじゃないんだし、この子達も反省してますよ。そうでしょう?」

 ハリーは忠実に勢いよく縦に振った。振りすぎて脳みそがシェイクされそうだった。フィルチが忌々しげにノースエル先生を睨んで、「あんたにゃ聞いとらん!生徒に対する権限なんか持っていないだろうが?」と吐き捨てた。それを聞いて、ノースエル先生のヘーゼル・アイがスっと冷たくなる。

「その通りね。じゃあ、わたしがこの子達を寮監のところに連れて行きます。もうすぐ授業だもの。遅れるのも問題だわ。罰則や減点はマクゴナガル先生に公平に決めていただきましょう」

「お前さんは新米だ!わたしの仕事に口を出すな!今の時点で規則破りに甘い顔しとるのに、任せられると思うか?」

「フィルチ、だからといってここで揉めていても……」

 ノースエル先生は眉毛をピクピクッとさせつつも、精一杯柔らかい声で説得を試みていた。ハリーとロンは困った顔で顔を見合せた。このままだと本当に遅刻してしまう。

 

 おろおろしていると、ようやく助けが来た。

「ど、ど、どうしたんです?せ、生徒の前で、こ、口論なんて……」

「クィレル……」

 彼が通りすがってくれたおかげで、ハリー達はめでたく無罪放免となった。減点も罰則も寮監への報告もなし。ハリーは胸を撫で下ろした。

 

「ちょうどクィレルが来てくれて良かった。にしても、ノースエル先生はフィルチと仲が悪いみたいだね」

「あんな意地悪爺さん、仲良くなる方が無理さ。でも元闇祓いなのに、権限が少ないんだなぁ」

「警備員って何をするんだろう。見回りとかはフィルチもミセス・ノリスもいるのに」

「フィルチと変わらないんじゃないかな。きっと手が足りなくなったんだ。もしかしたら引き継ぐのかもしれないな。フィルチは随分歳だし。ノースエル先生はまだ優しそうだからいいけど、監視の目が増えるのはなぁ」

 ロンがため息をついた。「双子が言ってたよ、フィルチを出し抜くのは慣れればカンタンだって。でも元オーラーじゃ難しくなるだろうな、たぶん」

 

*

 

 ロンの言う通りだった。入学して何日か立ったある日、談話室で双子がそっくりのポーズでソファに身を預け、全く同じタイミングで「参っちゃうよ」と嘆いているのを見かけた。

「何かあったの?」

 ロンが興味を引かれて隣に座り込んだので、ハリーもそっと双子のどっちかの隣に座らせてもらう。

 

「ハリー、ロン!それがさ、ノースエルのことだよ」

「あの人、一筋縄じゃないかないんだ」

 双子は入学して一週間でマクゴナガルに罰則を受けた伝説を持つ悪戯屋で、フィルチの用務員室に連行された回数や、禁じられた森に潜り込んだ話をどこか得意気にロンが話すのを何回も聞かされていた。

「禁じられた廊下とかいう、明らかに生徒の好奇心を煽る部屋があるだろ?」

「痛い死に方なんて煽ってくれちゃって……当然、俺たちへの挑戦状だと受け取ったわけだ」

「だから何回か突撃してるんだけどさ」

「うへぇ」ロンが感心とも呆れともつかない声を洩らした。

 

「でもあそこはフィルチがうるさいじゃないか」

「フィルチなんか問題じゃない」

 どっちかがこともなげに言った。

「適当に違う場所で騒ぎを起こしてやればいい。そのための悪戯グッズならたくさんある」

「泥水を吐き出し続けるゾウのぬいぐるみとか」

「食べるとビービー音が出るヌガーをスリザリンに食わせたりな」

 想像して、それはうんざりするだろうな、とハリーは思った。相手がスリザリン──マルフォイならもっといい。

 

「でもあの廊下、なんか変な仕掛けがしてあるみたいで」

「扉に触った瞬間、どっかからノースエルが現れるんだ」

「触っただけなら見逃してくれるけど、魔法なんか掛けてたらもう最悪」

「もう二回もマクゴナガルのところに連れていかれちゃったよ。次は罰則になるな」

「あーあ、どうやって出し抜けばいいんだ?」

「まずあの扉にかかってる魔法を解析しなくっちゃな」

 

 話している内容は悪戯のことなのに、それが随分大人っぽく感じて、ハリーはびっくりした。ロンが言ってた「双子は成績がいい」っていうのを目の当たりにした気分だ。ロンが目を輝かせた。

「おっどろいたなぁ。でも魔法の特定なんか出来るものなの?」

「まだ分からないけど、出来なくもないと睨んでる。時間を伸ばすために、効果は単純にしてあるはずだ」

「分かってるのは、扉に触るとノースエルが来る。たぶんどうやってか連絡が行くようになってるんだな」

「そして鍵あけ呪文の対策がされてて」

「魔法を使ったかどうか分かる」

「でもなんの魔法かは分からない。前、試しにアロホモラじゃなくて、インクをちょっとだけ零してテルジオしてみたけど、また開けようとしたのね?って言ったんだ」

「つまり呪文の特定は出来ないってことさ。それと、術者の特定も」

「こっそり隠れて遠くからエイビスして逃げた時は、誰がやったかわかんないみたいだった」

 ハリーはふたりを憧れの目で見つめた。まるで研究者みたいだ。三年生になったら、自然とこんな風になれるんだろうか。自分はとてもこうなれるとは思えなかった。

 

「すごいね、何回もトライして考えてるなんて」

 双子はハリーとロンがいたことを思い出したらしく、ちょっと気まずそうな、照れくさそうな顔をした。

「おっと、話しすぎた」

「この話は内緒にしてくれよ。あと、くれぐれもマネしようなんて無謀なこともな」

「俺たちは慣れてるから出来るけど、チビちゃん達がもし見つかったらママってばきっと噴火しちゃうよ」

 

 ロンは少しムッとした顔をして、言い返した。

「僕より自分たちの心配した方がいいんじゃないの。ノースエルがとうとう怒って、ママに手紙を送るかもしれない」

「それはないね」

「なんでそう言い切れるのさ?」

「だってあの先生、僕たちのやることちょっと楽しんでるみたいだった。禁じられた廊下は怒るけど、他の悪戯は見ないふりしてくれるよ」

「ノースエルはグリフィンドール出身らしい。お互いの髪の色変えて遊んでたら、友達を思い出すって笑ってたよ。話が分かる先生だ」

「そんじゃ、俺たちはこれからもっと楽しい悪戯を考える仕事があるから」

「くれぐれも内緒だぞ、ロニー坊や」

 

 ニヤッと笑って、フレッドとジョージがロンの頭をかわりばんこにぐしゃぐしゃにして、ハリーの頭もぽんぽんと撫でていった。誰かに優しく頭を撫でられるのは初めてで、ハリーはびっくりして固まってふたりの背中を眺めた。

 

「ノースエルってグリフィンドールなんだ!やっぱり昔も悪戯っ子がいたんだね。さすがにあいつらみたいに、手に負えないくらいじゃないだろうけど」

「う、うん」

「他の先生みたいに加点出来ればなぁ。マクゴナガルったら頭が固すぎるもの。スネイプみたいに贔屓してくれる先生がいてほしいよ。そんで、バンバンスリザリンから点を引くんだ」

 ハリーは頷いたが、組み分けの時の様子を思い出した。彼女がグリフィンドールでも、スネイプとあんな風に笑顔で話せるなら、スリザリンを嫌って点を引くのは望めないに違いない。

 

*

 

 ハリーは息を潜めて慎重に歩いていた。心臓がドラムみたいに全身にドクドク響いていて、その音が廊下に反響していないか心配だった。

 高窓から月明かりが差し込む静かな廊下に、四人分の足音が重なる。やっとトロフィー室に駆け込むと、ハーッと肺から巨大なため息が零れた。

 

「マルフォイの奴はまだ来てないみたいだな」

 ロンが教室内を睨んで言った。ガラス棚のカップや盾がキラキラたまに光っている。暗闇の中でそれだけが光を発していて、お互いの影もぼんやり滲むみたいだった。

 ハーマイオニーが気が気じゃないというようにイライラと貧乏ゆすりして、ネビルは縮こまって震えていた。ハリーは杖を構えて暗がりの中からいつマルフォイが飛び出してきてもいいように警戒していたが、ふいに叫んだハーマイオニーに飛び上がった。

 

「ハリー!」

「どうしたの!?マルフォイたちを見つけた?」

「いいから見て!」

 ハーマイオニーは器用に小声で怒鳴り、ぐいとハリーの腕を引き寄せた。よろめきながらハーマイオニーが示すのを見ると、クィディッチの優勝杯とガラス盾が並んでいる。十四年前の物だ。

 この年優勝したのはグリフィンドールで、盾には選手の名前がずらずら書かれていた。

 

──ジェームズ・F・ポッター。

 

 心臓に太い釘を打ち込まれたような衝撃があった。ハリーは食い入るようにその文字を眺めた。名前の後にキャプテン、チェイサーと続いている。

 

 パパだ……。パパもクィディッチの選手だったんだ。

 優勝するくらい強いチームのキャプテン……。誇らしさが全身を満たしていく。

 

 その瞬間ハリーは何もかも忘れていた。マルフォイとの決闘も、校則違反も、隠れていることも忘れ、顔も覚えていない父親がホグワーツで生きていた頃の残滓に胸を震わせていた。

 

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