ハリー・ポッターのモンスターペアレントおばさん   作:しらなぎ

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 ハリーはロンと合流すると、クィディッチや練習の話をひとしきりしたあと、さっきの話を聞かせてみせた。

「スネイプを名前で呼んだの?」

 ロンがおぞましそうに顔を歪めた。

「なんでグリフィンドールのノースエルがあいつと仲がいいんだろう?」

「分かんない。学生時代交流があったとか?」

「まさか!昔からスリザリンとは犬猿の仲だよ!それに昔はもっと酷かったんだ。ほら、例のあの人が一番幅を利かせてたから……」

 ゾーッとロンは肩をすぼめた。

「それにどう見てもあの二人の学生時代が被ってるようには見えないよな。何歳かは知らないけど、ノースエルってたぶん卒業して数年くらいだろ?」

「すごく若いよね。クィレルも若いけど、もっと年下かも」

「ビル──いちばん上の兄弟は二十歳なんだけど、たぶん同じかちょっと上くらいじゃないかな。ノースエルのこと知らないか聞いてみるよ。名前ってなんだっけ?」

「うーん、知らない」

 

 ちょうど双子が通りかかったので、ロンが「おーい」と呼んだ。

「どうした?」

「二人ともノースエルと仲良かっただろ?ファーストネームは知ってる?」

 双子は最近扉へのトライは慎重にして、今はノースエル先生にかまうのを楽しんでいた。フィルチの手に余る悪戯を仕掛けてはノースエル先生から逃げ出そうとしている。今のところチャレンジは全敗中らしい。

「セツナだよ」

「セツナ?へぇ、変な名前」

 

 ロンが呟いた。あんまり聞かない響きだった。ヨーロッパ系の名前ではないと思う。

「日本人のハーフらしいよ」

「日本ってどこ?」

「アジアだ。なんか東のちっちゃい島。よく知らないけど」

 東洋人だと言われると、たしかにそれっぽいとハリーは思った。小さいし、肌は白いけどマルフォイみたいに病人のような青白さじゃなくて、少し黄色味がかっていて、英国人ほど彫りが深くない。それに独特な静かな雰囲気がある。でも話す言葉は綺麗なクイーンズイングリッシュでぜんぜん訛りを感じなかった。

 

「なんでそんなこと聞くんだ?」

「もしや、先生が気になるのか?ませてるな、ロニー坊や」

「可愛いよな~あの人。分かるぜ。でも二十も年上の相手に相手してもらうなんてむりだよ、諦めな」

「俺たちから口聞いてやろうか?」

「そんなんじゃないよ!」

 ロンの頬が髪の毛と同じ色にカーッと染まった。

 

「二十?そんなに上なの?」

 ハリーは目を丸くした。他人の年齢をあれこれ言うのは良くないって分かってはいるけれど、思わず口から飛び出ていた。

 彼女が三十路とはまったく見えない。

「三十一って言ってたぜ」

「俺たちも聞いた時は思わずえーって言っちゃったよ」

「日本人が老けないって本当だったんだな」

「もしかしたら若返りの薬を飲んでるのかも。だって信じらんないだろ?近くで見ても皺なんかぜんぜんないし、なんならビルより若く見えるよ」

「ホグワーツの学生でも通るくらいだよな?」

 ロンとハリーは口をハクハクさせた。人は見かけによらない。

 

*

 

 ロンとハーマイオニーの相性の悪さはすさまじく、何かとあれば二人はぶつかり合っていた。すぐ皮肉を言うロンもロンだけど、いちいち人に口を出したがるハーマイオニーは寮の中でも浮いていた。

 ある日、二人の亀裂は決定的になった。

 呪文学でペアを組んだロンが、ハーマイオニーに残酷な悪態をついたのを聞かれてしまったのだ。

 

「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなやつさ」

 

 ハーマイオニーは泣きながら走り去っていった。ロンは気にしていないという風に装っていたが、言いすぎたと思っているのは明白だった。ハーマイオニーは一日中どこかに消えていて、あんなに規則にうるさく、勉強に命をかけていたのに、その日の授業に出てこなかった。

 パーバティいわく、トイレでずっと泣いているらしい。

 

 ハロウィーンの飾り付けやごちそうで、ハーマイオニーのことを忘れていたハリーとロンだったが、クィレルが駆け込んでトロールが出たと倒れて、談話室に戻ることになった途中でハッと彼女のことを思い出した。

 慌てて向かう途中、スネイプを見かけた。

 四階の廊下の方に向かっている。気にかかったが、今はハーマイオニーの方が先だ。

 

*

 

 ロンが呪文を唱えた。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

 

 棍棒が脳天を直撃して、トロールはノックアウトされた。壁に張り付いていたハーマイオニーが息も絶え絶えに口を聞いた。

「これ……死んだの?」

 いつもの神経質な声じゃなく、呆然として気の抜けた声だった。ハリーもぼんやりとした心地で呟いた。「気を失っただけだと思う」

 三人はドサッと座り込んだ。

 

 バタバタとした足音が駆け込んできて、まずマクゴナガル先生が顔を出し、その後にスネイプがやってきた。ちょっと遅れてクィレルとノースエル先生もいる。

「ヒーッ」

 弱々しい悲鳴を上げてクィレルが胸を抑えた。ノースエル先生が慌てて背中を撫でる。ハリーはドキリとした。一瞬彼女の顔がとても冷淡に見えたからだ──でも次の瞬間には、優しさを湛えた心配そうな表情で、ハリーは気のせいだと思った。

 

 ノースエル先生は、倒れているトロールを顔を顰めて眺め、壁が崩れたトイレを見回して、ハリーをしっかと見つめた。近くに寄ってきてしゃがみこむと、身体をあちこち触った。ハリーはびっくりして固まった。

 

「ハリー、怪我は?どこか痛むところは?」

 

 あんまりにも必死な様子に、ハリーは何も言えず首を振った。ノースエル先生はあったかい布団にくるまった時のような安堵のため息を漏らして、胸を撫で下ろした。

「ウィーズリーとグレンジャーは?怪我はしていない?」

 二人の身体も確かめる。「良かった、怪我はしていないみたいね。何があったの?」

 

 ハーマイオニーが小さく震えながら前に進み出た。

 怒りのあまり蒼白になっているマクゴナガル先生に、あろうことかハーマイオニーは二人を庇って嘘をついた。ハリーはなんとか「その通りです」という顔をしたが、心の中は驚きでいっぱいだった。結局ハーマイオニーは五点引かれただけで済み、ハリーとロンにはそれぞれ五点ずつ加点してくれた。

 スネイプは鋭い目でハリーを睨んでいた。

 

 談話室はガヤガヤしていた。三人はちょっと気まずい気持ちで視線を交わし、おやすみを言った。

 そしてその日から、ハリー、ロン、ハーマイオニーは親友になった。

 

*

 

「ノースエルってハリーのことお気に入りだよな。そう思わない?」

 

 ロンが言った。

 十一月になるとクィディッチ・シーズンが到来し、明日はいよいよハリーの初試合だった。練習や宿題に追われるハリーの気晴らしに、三人は中庭でおしゃべりに興じていた。

 持ち運び可能なブルーの炎で暖を取りながら、「クィディッチ今昔」を膝の上に乗せていた。

「そうかな?よく分からないけど……」

 ハリーは言葉を濁した。でも、本当は心の中でそうかもしれないとはずっと思っていた。だって……。

 

「たまにハリーって名前で呼ぶし、よく君のこと見てる」

 そうなのだ。たぶん先生といちばん仲のいい双子のことも、ウィーズリーとしか呼ばないのに、今まで何回も「ハリー」と呼ばれたことがある。それに、食事のときや廊下を歩いているとき、視線を感じるとふっと彼女と目が合って優しく微笑まれる。

 前に規則破りで怒られているから、最初は監視されているのかと思ったけれど、すぐにそれは違うと分かった。こんな言い方をするのはすごく変なんだけど……まるで、ペチュニアおばさんがダドリーを褒める時みたいな顔だと思った。

「どうだろう、先生は誰にでも優しいし」

 言い訳するようにハリーは呟いた。なんとなく気まずかった。

 

「ノースエル先生は平等だけど、やっぱりハリーのこと気にかけているとは思うわ。それと、ネビルのことも」

「そう?」

「そうよ。わたしはネビルとも結構話すから知ってるけど、ノースエル先生って彼のこともたまに名前で呼んでるわよ。それにネビルがからかわれてるのを見ると背中を撫でてあげてるの」

「そうなんだ……」

 なぜかハリーは胸が何となくきゅっとしたような気分になった。

「双子みたいに特別仲がいいってわけじゃないのになんでだろう?」

 

 ノースエル先生は生徒から人気だ。フィルチみたいに理不尽じゃないし、校則を破ったら叱られるけど、ちゃんと話を聞いて優しく諭すように話す。自習して門限に遅れそうになった時は、寮まで送り届けて見逃してくれたという話を上級生も何人か話しているのを聞いたことがあった。

 それに担当教科は持っていないけれど、オーラーは成績が良くないと就けないらしく、どんな科目でも生徒の質問に分かりやすく答えてくれるらしい。

 自分が特別扱いされているとは思わないけれど、色んな人に優しくて人気なのを見ると、ハリーはちょっとだけモヤモヤするような気持ちになる気がした。

 

 そんな雑談に興じていると、ふとそこにスネイプがやって来るのが見えて、あわてて三人は寄り添った。校則を全部覚えているわけじゃないが、たぶん火はスネイプに減点の口実を与えてしまうだろう。

 しかしスネイプは目ざとく粗探しをし、「図書室の本は持ち出し禁止だ」と本当かどうか分からない小言を言って、「クィディッチ今昔」を取り上げて行った。もちろん去り際にしっかり「グリフィンドール五点減点」と付け加えるのは忘れない。

 

 片脚を引き摺りながらスネイプはズルズル去っていった。怪我をしている。ロンが「ものすごく痛いといいのに」と悔しがった。

 

 その夜、ハリーはなかなか落ち着かなかった。神経が高ぶってピリピリして、興奮状態がずーっと続いている。ハーマイオニーに呪文学の宿題を見てもらうのにもぜんぜん集中出来ず、チクチク注意された。

 ハリーは立ち上がった。

「スネイプに本を返してもらってくるよ」二人は仰天して何度もついてこようとしたが、ハリーは頑として言い張った。落ち着かない気持ちが通じたのか、心配そうにハリーを見送った。スネイプも他の先生の前では取り上げた本くらい返してくれるだろう。

 

 しかし職員室をノックしても返事がない。もう一度叩いても、なんの反応もなかったのでハリーはそっと中を覗き込んだ。飛び込んできた光景にハリーは目を疑った。

 

 スネイプがローブを脱ぎ、ガウンをたくしあげていた。脚を引きずっていた理由が分かった。捲りあげた脚はズタズタで、目を背けたくなるほど血みどろになっている。

 

「まったく忌々しい。三つの頭に同時に注意なんて出来るか?」

 

 隣に座って、顔を歪めながらスネイプの脚を見つめていたノースエル先生がスネイプに包帯を手渡した。職員室には二人しか見えなかった。

「本当に大丈夫?マダム・ポンフリーのところに行ったほうがいいんじゃない?」

「必要ない。この程度なら自分で処置できる」

「せめてエピスキーくらい……。痛々しくって見てられないわ」

「見てくれと頼んだ覚えはないのだがね」

「もう、皮肉を言えるなら大丈夫だね。それにしてもハグリッドはよくあんな三頭犬を飼ってるよね……。役には立ってるけれど……」

 

 ハグリッド?三頭犬?ハリーは好奇心が膨れ上がるのを感じた。

「イカれた怪物が役立つ、最初で最後の例だろう」

 スネイプは舌打ちでもしそうな顔だ。包帯を二人でそっと巻き付けると、スネイプの陰鬱な顔が痛みに歪み、ますます陰険な顔つきになった。

「四階には誰もいなかったのよね?」

「ああ。形跡もなかった。だが警戒は……」

 その途端、スネイプがバッと顔を上げた。

 

「ポッター!」

 ハリーは飛び上がった。スネイプは素早くガウンを下ろして脚を隠した。凄い形相で睨み付けるスネイプにハリーはモゴモゴ言った。

「あの、僕、本を返してもらえたらと思って……」

「出て行け、失せろ!」

 鼻っ面を殴りつけるような怒鳴り声にハリーは慌てて踵を返した。

 

 息を荒くしながら戻ってきたハリーにロンが声をかけた。

「返してもらった?どうかしたのかい」

 ハリーは見聞きしたことを話して聞かせた。点々とした謎が一本の線に繋がるような感覚が全身を巡っていた。

「分かるだろう、どういう意味か」

 

 ハリーが初めて魔法界に来た日に、グリンゴッツという厳重な警備がされた銀行に何者かが侵入した。それはハグリッドが何かを取り出した七一三番金庫だった。茶色の紙でくるまれた薄汚れた小さな小包……。お茶会のときハグリッドは目を逸らしたし、明らかに何かを知っている様子だった。ハグリッドは隠し事が上手じゃない。

 それに、スネイプの何かを隠しているみたいだった。

 

「ノースエル先生はハグリッドの三頭犬って言ってた。四階とも。たぶん立ち入り禁止の廊下に三頭犬がいて、スネイプはそれに噛まれたんだ!

 グリンゴッツに誰かが泥棒しに入ったのを覚えてる?あの日ハグリッドがダンブルドア先生のお使いで取り出した何かを、三頭犬が守ってて、スネイプは裏をかこうとしたんだ。僕たちが見たのはそこに向かってる途中だったんだよ──トロールを手引きしたのはあいつに違いない。みんなの注目を逸らすために……箒をかけてもいい」

 ハリーは小鼻を膨らませて力説したが、ハーマイオニーが目を見開いて言った。

「そんなはずないわ。たしかに意地悪だけど、ダンブルドア先生の守ってるものを盗もうとするだなんて」

 

「おめでたいね。先生はみんな聖人だとでも思ってるんだろう。僕はハリーに賛成だな、あいつならやりかねない」

 ロンが手厳しく言った。

 ハーマイオニーはショックを受けたようになおも反論した。

「だってそれなら、ノースエル先生も一緒に狙ってるってことになるじゃない!」

 

 そう言われて、ハリーもはたと気付いた。たしかにそうだ。ノースエル先生は明らかにスネイプと共通の情報を握っている。ロンも思案げな顔をした。

「うーん、騙されてるとか?あの人、すぐ人のこと信じやすそうだよ」

「ロン、ノースエル先生はオーラーだったのよ?犯罪者のことは誰よりも詳しい人なのよ」

 納得いっていなさそうな……いや、納得したくなさそうなロンに続ける。

 

「それに、パーシーが警備員を雇うのは今年が初めてだって話してたわ。そして禁じられた廊下も、その理由を話してくれないのも、痛い死に方をするなんて生徒を脅すのも初めてだって。つまり先生は、その何かを守るためにダンブルドアから新しく雇われたに違いないわ。じゃなきゃわざわざオーラーを辞めてまでホグワーツに来ると思う?魔法省のエリートなのよ?」

 

「魔法省を辞めるってのが信じられないよな。ホグワーツってそんな高給じゃないらしいし。やたらスネイプと仲がいいし、もしかしてその何かを盗むためにホグワーツに来たのかも……」

「ロン!」

「冗談だよ」非難したハーマイオニーにロンが肩を竦める。「よく知らないけど、ノースエルは悪人とは程遠いと思う」

 ハリーも同感だった。いつもニコニコして、すごく怒った時もバーノンおじさんの押さえつけるような怒鳴り方じゃなく、諭すように叱りつけるノースエル先生が、泥棒だなんてとても思えない。

 

「だけど何があるんだろう?その犬、何を守ってるんだろう?」

 三人は頭を捻ったが、ぐるぐる頭の中を疑問が巡るばかりで、結局ハリーはその夜なかなか寝付くことが出来なかった。

 

*

 

「スネイプだったんだよ!」

 ハグリッドの小屋でロンが興奮して言った。

「ハーマイオニーも僕も見たんだ。君の箒にブツブツ呪いをかけていた。ずっと君から目を離さずにね」

 じくじく怒りが内蔵を突き刺してくる気分になった。結果的にはなんとか勝てたけども、ハリーは箒から振り落とされそうになったのだ。思い出すと心臓がヒュッと縮み上がりそうだった。

 

「バカな」

 会話を聞いていたハグリッドが口を挟んだ。

「なんでスネイプがそんなことをする必要があるんだ?」

 少し迷い、ハリーは無難に返した。

「だってあいつは僕を憎んでるよ。知ってるでしょ?」

「スネイプは生徒が全員嫌いなだけだ。前もそう言ったろうが?」やっぱりハグリッドとは目が合わなかった。

「私見たの。いちばん前の席に座ってたノースエル先生も呪文を唱えてたわ」

「ノースエル先生が?」

 

 ハリーは一瞬ズキンと心臓に痛みが走ったが、ハーマイオニーが続けた言葉にすぐさま霧散した。

 

「たぶん反対呪文を唱えてたのよ。だからハリーはなんとか落ちずに済んだんだわ」

「そうだったんだ……。先生が助けてくれたんだ」

「ね、言った通りでしょ?ノースエル先生はダンブルドアを裏切ってなんかいないわよ」

「おーや、スネイプは僕たちの言った通りだったろ?でも、オーラーなのにスネイプを抑え込めないなんてなあ」

「逆よ。スネイプはずっとDADAの教師を望んでるって噂だし、闇の魔術にも詳しいとか聞くし……。オーラーのノースエル先生と拮抗するくらい、スネイプの呪いが強かったんだわ」

 ロンはウームと唸って腕を組んだ。

 

「お前さんら、バカなこと考えるんじゃない。なんでホグワーツの先生がハリーを殺そうとする?」

 三人は困った顔で顔を見合せた。控えめにハーマイオニーが頷いたので、ハリーは本当のことを話すことにした。

 

「僕、スネイプについて知ってることがあるんだ。あいつ、ハロウィーンの日、三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ。何か知らないけど、あの犬が守ってるものをスネイプが盗ろうとしたんじゃないかと思うんだ」

 ガシャン、とハグリッドの手から落ちたティーポットが割れる音がした。

「なんでフラッフィーを知っとるんだ?」

「フラッフィー?」

「そう、あいつの名前だ――去年パブで会ったギリシャ人のやつから買ったんだ――俺がダンブルドアに貸した。守るため……」

 

*

 

 ハグリッドは色々と口を滑らせた。

 

「三人ともよく聞け。おまえさんたちは関係のないことに首を突っ込んどる。危険だ。あの犬のことも、犬が守ってる物のことも忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの……」

 

「あっ!」ハリーは聞き逃さなかった。

 ハグリッドは自分自身に腹を立て、三人を追い返した。

「いいか、これ以上この件に関わらんことだ!」

 

 三人はニコラス・フラメルについての情報を集め始めた。

 

*

 

 校舎の前でノースエル先生がウロウロしていた。三人を見つけると、「ハリー!」と言って駆け寄ってくる。

 彼女はハリーの頬を触り、身体を確かめ、ハリーの瞼をグイッと開いて瞳孔を覗き込んだり、怪我の確認をした。

「何か外傷じゃなく、痛むところは?」

「意識がぼうっとしたり、理由の分からない幸福感を感じたり、頭の中に語りかけて来るような声を感じたりは?」

 そして何回かハリーに向かって杖を振り、入念に全身をくまなく眺めて、やっと安心したようだった。

 

「良かったわ、ポッター。箒が暴走していたから、一応念の為にチェックしたけど、いきなりで驚いたよね。ごめんなさい」

「いえ」心配しているのがまっすぐ伝わってきて、なにか胸の中にぽっと花が咲く。「ありがとうございます、ノースエル先生」

「生徒を心配するのは当然のことよ」

 ハリーが言ったのは自分を守ってくれたことだったが、先生は気づかずに微笑んだ。

 

「おめでとう、ポッター。素晴らしかったわ。初試合で初勝利、しかも前代未聞のキャッチ!ジェー……」

 何かを言いかけてノースエル先生はそれを飲み込んだ。「……きっとご両親が生きていたら、あなたを誇りに思ったでしょうね」

 くすぐったくなったが、不思議にも思った。ノースエル先生のしみじみとした言い方には、喜びの他に切なさのようなものが滲んでいる気がしたから。

 

*

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