もう一人のカプ厨   作:立冬

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カプ厨達は家探しする 「……そろそろ解放してやるか」

「──『しょうらいのゆめ かわなみこぐれ ぼくのしょうらいのゆめはケイサツカンです。つよいケイサツカンになって、あかつきちゃんをまもれるように』──」

「やああああああめええええええええろおおおおおおおおおおっ!!!」

『(バンドンゴンガンガンバキッ!!!)』

『ちょっ、暁月さんストップストップ! バキッって言った! バキッって言ったから!!』

 

 伊理戸弟による大好評の小学校の作文読み上げを背中で聞きながら、私は川波の部屋あさりを続行する。

 おっ、机の引き出しの最下段の一番奥に何やら古びた菓子の缶箱が。

 長らく開閉していないのか、少しばかり開けにくいが、少し力を入れればあっさり開いた。

 

 

 写真、意気揚々と開封したその箱の中に入っていたのは写真の束だった。

 

 景色が良い場所での家族写真、ランドマークでのツーショット、ポーズを決めての単独での一枚、構図やシチュエーションは様々だったが、いずれも同じ、幼い女の子が写っていた。

 

『川波ぃいっ!! そういうの捨てろって言ったでしょうがあっ!! 結女ちゃんに聞かれちゃったじゃんっ!!!』

 

 今とはだいぶ印象が違うが、予備知識があれば判別は容易だった。

 

「オレのせいじゃねーよっ!!」

 

 紛れもなく、かつての南暁月その人だ。

 

『あんたが変な冗談言うからじゃん馬鹿ぁーっ!!!』

 

 手に取った写真を箱に戻し蓋を閉める。

 

「うるせーアホぉーっ!!!」

 

 箱を最下段の一番奥に押し込み、どかした諸々を上に重ねてから引き出しを戻した。

 

 

 さて、自傷も済んだことだし真面目にやろう。いよいよ大本命だ。卓上に置かれたノートPCを立ち上げると、エンターキー一つでホーム画面に遷移した。PINすらセットしていないとは不用心な奴め。

 FANZAの購入履歴を検めるのは最後に取っておくとして、とりあえずエクスプローラーを覗く。

 

 ん? 

 

 まずは画像フォルダを目指して進んでいくが、その途上妙なフォルダが目に留まる。名前はない、ない事はないがダッシュが一本入っているだけ。

 もしやと思いながら、やめた方がいいと思いながら、私はフォルダをダブルクリックした。

 

 

 入っていたのは大量の写真だった。

 

 写っていたのは小学校高学年頃の女子ばかりで、ちょくちょくツーショットも混じっていた。

 慣れないスマホで撮ったのを撮り損じまで含めて全部保管しているらしい、手ブレがひどいのも少なくない、ツーショットで自撮りなんかしてるのは酷いもんだ。

 

「川波……君たち、やっぱり実は、まだ仲いいんじゃないのか?」

 

 だが、何度撮り直していても、被写体達の笑顔は眩しいままだった。

 

 南暁月、またか。またお前か。なぜ消えない、なぜ消えてやらない。それなら私がこの手で……

 

 見当外れな衝動を押し込め、私はファイルを閉じて深呼吸をした。

 

 

「おおノートパソコンがあったな。パスワードは突破できたのか」

「そもそもかかってなかった」

「そいつは僥倖だな」

 朗読会をひとしきり終えた伊理戸弟が、新たなネタを探して入ってくる。

 

「何かめぼしいものは?」

「あんまり。FANZAってかDMMのアカウントは持ってなかった」

「なんだっけそれ」

「君にはまだ早いさ」

「いかがわしいサイトだと言うのはわかった」

 少し意外な事に年齢詐称をしていたりはしなかった。

 

「ん、これって……」

「日記か……」

 伊理戸弟が指差したのは日記と題されたWordファイル。

 また南絡みで何か出てきそうな……日付も去年の十月とかだから関係がもしかしたらまだ付き合ってる時期かもしれない。

 

「半年以上前ならまあいいだろう」

「あっおい」

 制止する間もなく、伊理戸弟が日記を開く。

 

『10月13日

 この日記が誰かの目に触れているのなら、そのとき、オレはこの世にいないのだろう』

 

「「……………………」」

 どこかで見たような書き出しに、伊理戸弟と思わず顔を見合わせる。

 もしかして厨二妄想日記でも開いてしまったのだろうか。

 

 

『10月14日 悪夢を見た。暁月に身体を洗われる夢だ。オレは負けない』

 

『10月15日 腹の調子が悪い。今日も下痢だった。ずっとぐるぐると鳴っている』

 

『10月16日 十円ハゲができた。なんとか髪型で誤魔化せた』

 

『10月17日 人生で初めて吐血した。これってヤバい?』

 

『10月18日 しんどい。だるい。あたまがいたい』

 

『10月19日 なにもできない。させてもらえない』

 

『10月20日 も むり たすkkkkkkkkkkkkkkkk』

 

「「……………………」」

 私達はまた顔を見合わせた。

 そして互いに何も言わずファイルを閉じた

 

「……そろそろ解放してやるか」

「それがいいな」

 私達はいそいそとリビングへ戻っていった。

 

 

 

「さて、私だけ何も恥を晒さずに終わりというのも不公平だからな。ここで一つ私の黒歴史を暴露するとしよう。そういうわけだから、隣のお嬢様方もよければ聞いていってくれ」

「はあ」

「聞かせて貰おうじゃねえか」

 興味津々な川波と、割とどうでもよさそうな伊理戸弟。

 

「私にもその昔、家が近所でいつもつるんでる同級生がいた。男子だったがな。ソイツを仮にSとしよう。まあ私はそのSに長いこと虐められていたわけなんだが」

「……おう」

「……」

 あっ、一気に空気がよどんだ。

 

「まあそんなわけで、時は小学六年生の頃、精神を小学校入学以前からすり減らされ続けた結果、私は遂にキレた。精神の安寧を得るにはもはやSを殺す他ないと決心した」

「「…………」」

 

 川波も伊理戸弟も完全にドン引きだった。こいつらのこんな表情初めて見た。

 

「ここ笑うところなんだけどな。いやー、昔は私もワルでね」

「「…………」」

 

 小ボケを挟んでみたが見事にスベったらしい。

 

「まあいいや。そんなわけで解決策が見つかったことで、極度な視野狭窄に陥っている事を除けば冷静そのものだった私は綿密な計画を練り始めた。相手は私を片手でのせる空手経験者だったもんだから半端な手段は取れなかった」

「…………」

「………………」

 

 二人はおっかなびっくりといった様子だが、黙ってこちらの話に聞き入っている。

 

「そして熟慮を重ねた結果、私は犯行の場に家庭科の調理実習を選んだ。包丁を持っても怪しまれない事と、多少立ち歩いても怪しまれない事、当時の家庭科教員が気弱で採用されたての女性教師だった事が主な理由だ」

「「………………」」

 

 二人の顔が徐々に険しいものになっていく。

 

「そして遂にその時が来た。私は周囲の目を盗んで包丁を横向きに構えた状態で手をタオルで縛り、ガラ空きになっていたSの背中目がけて突進した」

 

「……………………」

「…………………………」

 

 二人は押し黙ったまま目を見開く。川波の瞳はどこか悲しそうにも見えた。

 

 

「最初は時間が凍りついたようだった。皆混乱と恐怖で身動きがどころか声さえあげられなかった。だけど誰かが悲鳴を上げた途端、堰を切ったように誰もが叫び始めた。家庭科教師も私の読み通り泣き叫ぶことしか出来なかった」

 

「……………………」

「………………………………」

 

「しばらくして、冷静さを取り戻した何人かが職員室に駆け込んだことで、手すきの教師十数人が刺叉構えた体育教師を先頭に家庭科室に突入した。でもその時にはもう全てが終わった後だった」

 

「……………………」

「……………………………………」

 

「教師達が目にしたのは血を吹き出しながら静かに横たわる私と、その傍らで傷一つなく笑い転げるSの姿だった」

「……は?」

「……え?」

 

 川波と伊理戸弟は揃って口をあんぐりと開けこちらに身を乗り出した。

 

 

 いや愉快。こんな反応をしてくれるのならあんな恥をかいた甲斐もあると言うものだ。

 

「あの凍り付いたような時間の中で思うとおりに身体を操れたのは私だけじゃなかったのさ」

「マジで?」

「そんなことある?」

 引きつりはじめる二人の口角。

 

「いやね、いくら格闘技を習得しているとは言え所詮は小学生。突然殺意を持って刃物で襲いかかられれば混乱も恐怖もすると当時の私も思ったし、実際に突然凶器で襲われれば訓練を積んだ人間でも思うように動けないらしい。だが奴はそうじゃなかった」

「なんか気味悪くなってきた」

「君は怪物の類いに虐められてたのか?」

「どうもそうらしい。あの時のアイツは本当にイカれてた。自分の胸元めがけて突進してくる私を認めるや、薄ら笑いを浮かべながら事もなげに横に躱し、すれ違いざまに私の鳩尾に掌底を叩き込んできた。これがすさまじい威力で、腹を抱えて後ずさったところで今度は顎に一発」

「なにそれ」

「冷静すぎる」

「バランスを崩してのけぞったところで鳩尾のおんなじ場所に今度はワンツー。たまらず倒れ込んだところで素早く左手で頭を仰向けに床に押さえつけ、もう一度顎に一発。私の記憶がはっきり残ってるのはここまでだ」

「相手も完全に殺す気だろそれ」

「現代日本で育った人間とは思えん」

 ツッコミが止まらない。

 

「さて、こっから先、私自身は詳しく覚えてないんだが、意識が朦朧とする中、Sが手を叩いてはやし立てていたのはわかった。曰く腹を切れと」

「マジかよ」

「なんだその寝る前の妄想みたいな奴」

 

 屈辱だった。悔しくて仕方なかった。私は人生捨てる覚悟でSに襲いかかった。

 アイツを殺して自分も死ぬとまでは行かずとも、少年院くらいは行ってやる気だった。最後の最後で奴に思い知らせて、自分は成し遂げたんだと思いながらパトカーに乗り込むつもりだった。

 それがどうだ、私が人生棒に振ってやったことを、奴はヘラつきながら赤子の手を捻るようにいなした。

 

「目的をなせなかった私は、せめて潔く死んでやろうと、言いようのない激痛の中最後の力を振り絞って自分の腹に包丁を突き立てた」

「お、おう」

「結局やったんだな」

 かくも生き恥を晒した私ができる事は、もはやそれしかなかった。

 

「ま、私はかくのごとくして齢十二にして大きすぎる十字架を背負わずに済んだというわけだ。脳振盪と内臓破裂で死にかけたがその代償としては安く済んだ方だと思う事にしてる」

「よく生きてたな」

「意外とタフなんだな君」

 さっきの沈痛な面持ちはどこへやら、すっかり呆れ返る二人。

 

「ちなみに自分で切った傷は皮下脂肪を貫けなかった。内臓破裂の原因は全部奴の掌底だ」

「言っておくが、それを笑いながら話せる君も大概ヤバい奴だからな」

「私のような集団に溶け込めない奴は正気なんて保っててもしょうがないのさ。そう思うだろ伊理戸弟」

 何が正常で何が狂っているかなんて所詮相対的なものだ。

 

「僕は正気でないとでも言いたいのか」

「自分が正気か否かは自分で決めていいことだと思うぞ。それを世間が認めてくれるかはさておいて」

「よしてくれ。捻くれてる自覚はあるけど狂気に堕ちたつもりはないし堕ちる予定もないぞ僕は」

 呆れたようにはぁとため息をつく伊理戸弟。

 

 友人の家に上がり込んでこんなしょうもない話に花を咲かせるなんていつ以来だろうか。

 少しノスタルジックな気分になったひとときだった。




お泊まり編二話目。
高梨くんの過去は一部作者の実体験です。モリモリに脚色しましたけど
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