戦車道仲間、増えます!(急)
――翌日――
放課後、愛宕を除いたみほ達は、生徒会長の角谷に呼ばれ、戦車倉庫で集合しておいてと告げられ、現在会長待ちの状態であった。
武部「会長に言われたから来てみたけど…どうして居ないのよぉ!」
と、戦車倉庫の中を見て回る武部。
かくれんぼの鬼かの様にあちらこちらと入念に見て回っていたが、其処には自動車部の部員しかいなかった。
自動車部の部員達はその様子を特に気にも留めず作業をしている。その中に愛宕の姿はなく、現在は家で休養を取れと自動車部の先輩達に言われ、家で大人しくしているらしい。
五十鈴「時間が掛かっているのでしょうかね。」
と、その様子を見ながら言い切る、時刻的にはそこまで日が傾いている訳ではない為人気もある。だが自動車部の部員しか居ないのは少々早く来過ぎてしまったのではないのかと薄々思う五十鈴であった。
優花里「西住殿、会長殿は一体どの様な方をお連れになるつもりなのでしょうかね?」
みほ「会長さんの事だから恐らくまともな人ではあって欲しい…のだけれどね…」
みほはそう言いながら秋山の方を見て苦笑の笑みを浮かばせる。
無論、みほは角谷会長の事を少しばかりは信頼しているつもりではあるが、心配している様子は隠しきれない。
その時、戦車倉庫の外からグラウンドの砂を踏む様な音が此方に向かっているのが分かった。
みほ達はお待ちかねの会長さんが来たと思い心の中で期待、若干不安の渦を立ち込めながら待ちかねていた。
ガンッ…と、戦車倉庫のドアの淵を掴む音が戦車倉庫に響いた。
武部「もう会長、待ちくたびれたんだからね!?」
そう言って戦車倉庫のドアに向かって歩き出した。みほ達も武部に続いて同じく戦車倉庫の外に向かって歩き始めた
「その声は…沙織か…?」
武部の声を見知っているかのような返答が返ってきた。武部も驚く素振りを見せたが、すぐに冷静になった。
武部「もしかして…麻子…?」
と、武部は恐る恐る名前を聞き返す。辺りは自動車部員の整備音以外は静まっていた。
冷泉「麻子だが…もうボケていないだろうな、沙織。」
戦車倉庫に入ってきたのは角谷よりは小さくはないが、頭部に付いてあるカチューシャが特徴の子だった。
冷泉は、武部同様戦車倉庫の周囲を確認する。
冷泉も誰かを探してここまで来たようだった
優花里「失礼ですが武部殿、この方は一体…?」
優花里は少々困惑した目で冷泉を指差した。
武部「この子は、冷泉麻子。私の幼馴染なの。」
みほ「お…幼馴染だったんだ…」
優花里「武部殿に幼馴染が居たんですね!」
みほと優花里は若干驚愕した顔を見せていた。五十鈴は知っていたのか、顔色一つ変えはしなかった。
武部「けど珍しいね、麻子がこんな所まで足を運ぶなんて。」
武部は麻子と並び、若干屈んで麻子の顔色を伺う。
冷泉「人に呼ばれて来ただけだ、用が済んだらすぐ帰る…」
武部に近付き、疲れたと言わんばかりに体重を掛けた。
みほ「え、えっとあの…冷泉さん…でしたっけ…?」
と、恐る恐るもう一度聞く。
冷泉はみほの方へ顔を向ける。
冷泉「そうだ、昨日振りだったかな。ところd…」
武部「え、麻子ってみほと知り合いだったの!?」
冷泉が何か言いたげだったが、武部の大声でよく聞き取れなかった。武部は冷泉が転げないようにフォローしつつ、驚きの表情を浮かべた。
みほ「ええっと…知り合いって程じゃないけど、一応顔見知り…ぐらい…かな?」
と、みほは自分の頬を優しく掻きながら困惑の笑みを浮かべる。
武部「えぇ!?でも、今まで麻子からみほと知り合った連絡なんて一つもなかったよ!」
冷泉「昨日あった人がまさか沙織と友達だなんて知らなかったからな…」
そう言って冷泉は体力が回復したのか武部から離れ、そのまま冷泉はみほの方へと近寄る。
武部「けど麻子が呼ばれるなんて風紀委員の人達だけかと思っていたけどね。」
冷泉「私もそう思っていたよ。何しろ、ずっと遅刻しているのだからな。ところで皆は何故こんなところに集まっていたんだ。」
武部「え?それは会長g…」
角谷「やぁやぁやぁ、皆もう集まっているみたいだね。」
武部が冷泉に呼ばれた理由を話そうとしていたところ、角谷が到着した様だった。
みほ「あ…会長…」
五十鈴「こんにちは、会長さん。」
優花里「会長、お待ちしておりましたぁ!」
みほ達は角谷の方へ身体を向かせる。角谷の大好きな干し芋の袋は相も変わらず片手に抱えられていた。
角谷は皆が居る事を確認し、改めて今回呼び出し事を告げる。
角谷「おほん、先日、私が代わりの戦車道履修者を頼んでおくと言ったよね?まぁ、実際見た感じ、君達はもう既に打ち解けているみたいだけど。」
みほ「は、はい…けど、どうして会長さんが…冷泉さんを…?」
角谷「昨日の朝方校舎であったでしょ?その時の会話を盗み聞きしていたんだぁ。」
懐から取り出したのはボイスレコーダーだった。何故その様な物を常備しているのかは定かではなかった。
武部「えぇ、盗聴!?麻子を脅す為にそんなことした訳!?」
冷泉「大丈夫だ、会長からの脅しはなかった。それに、みほさんに返す。今がその時らしいしな…」
そう言って冷泉は角谷に近付き、みほ達に身体を向けた。
角谷「そう、今回君達の戦車道チームに代役として入って貰うのが、冷泉麻子さんだ。」
バシバシと冷泉の肩を叩く、叩かれる度に倒れそうになるのがヒヤヒヤする。
五十鈴「という事は、私達の新しい操縦手は…」
優花里「冷泉殿になられるのですか…?」
角谷「うん、自動車部の皆ぁ、今Ⅳ号動かせられる状態?」
自動車部の皆に話しかける。現在自動車部はⅢ号の整備をしていた。
ナカジマ「はい、動かせられますよ。それ以外の戦車は整備で動かせられません。」
そう言ってナカジマはまたⅢ号の整備へと取り掛かった。
角谷「そんな訳で、この戦車。動かせられる?」
角谷から渡されたのはⅣ号の扱い方についての説明書だった。
冷泉はそれを受け取り、コクリと頷いて黙ったままⅣ号の戦車に乗り込む。
武部「麻子大丈夫かなぁ。」
優花里「信じてみましょう。」
皆は固唾をのんで見守った。
その時
DON…GGG…GGG…!!!!
Ⅳ号のエンジン音が倉庫に響いた。
角谷「よーしじゃあ、ここまで動かしてみて。」
みほ「えぇ、いきなりそこまでさせるのは…」
みほが心配の表情を浮かべた。愛宕の全速前進の件もあってか他の皆も心配そうな表情を浮かばせている。
角谷「平気だってば西住ちゃん。」
角谷はⅣ号の前に立ち塞がり、片手を振って合図を送った。
GGG…BRRRRR…!!!
優花里「うわぁ、本当に行うつもりですよぉ!」
武部「麻子、無理しなくていいんだからねぇ!?」
武部はⅣ号戦車に向かって大声で叫ぶ。しかし、Ⅳ号戦車は角谷に向かって進み続けた。
BRRRR…GGYUUUNNnnn…
その速度は試運転化のように適度な速度を保ちながら角谷の元まで進み、停止した。
角谷「ね、大丈夫だったでしょ?」
ニカっとみほの方を向く。
優花里「す…凄いです…」
五十鈴「惚れ惚れしますね。」
みほ「どうして会長さんは冷泉さんの事をあそこまで信じてあげられたのかな…」
武部はみほの疑問に答えた。
武部「麻子って…学年主席なんだ、会長さんはそこを見越して信頼してあげたんじゃないかなって…でもそれってかなり不覚的要素だよね。頭が良くても運転が上手だと決まったわけじゃないんだから。」
武部はみほにそう伝える。しかし、一歩間違えれば大怪我を負う事は確かであった。
角谷「西住ちゃん、前の学校で何されたかは分からないけどさ、戦車道は皆を信頼してあげなきゃ成り立たないものであると思うんだ。」
角谷はⅣ号にそっと手を置いて告げる。
角谷「西住ちゃんは、このⅣ号の…ううん、大洗女子戦車道のリーダーとして頑張ってもらいたい。無理矢理誘った私が言うのもなんだけれど、引き受けてくれるかな…?」
みほは少しばかり嫌な顔を浮かばせた。この学校に来て以来様々な人達と会ってきた。これからも、色んな人たちと出会い、そして戦っていくのだろう。
模擬戦の様に負けるかもしれないし、更には強敵とも戦わなくてはならないかもしれない。
その時私がチームを引っぱるその覚悟があるのだろうかと頭の中で悩ませていた。
武部「みほ…私が…いや、私達が居るから!一緒に乗り越えよう!」
五十鈴「ここから先、どんな困難な道があっても、進めますよ。」
優花里「戦車はマグマも通れます。西住殿となら、私は戦えますよぉ!」
皆はみほを励ました。共に戦ってくれる、支え合ってくれる仲間がいると。
みほは顔を上げ、角谷と目を合わせた。角谷はそっと頷いた。
みほ「わ…私は…」
みほは覚悟を決めて告げた。
角谷「それが西住ちゃんの…か…」
その後、角谷は納得した笑みを浮かべて戦車道倉庫を去って行った。
武部「みほぉぉ、麻子がやらかすんじゃないかって内心怖かったよぉ。」
武部はみほの身体に蹲っていた。
五十鈴「そういえば、冷泉さんが戦車から出てきませんね…」
五十鈴はⅣ号戦車を見つめる。
冷泉「終わったのか…?」
ゆっくりとハッチを開け、顔を出した。
優花里「冷泉殿、お疲れ様であります!見事な運転さばきでありました!」
冷泉「うん…」
冷泉に向かって敬礼をした。冷泉はその行動に興味がなかったのか、あまり見向きもせずに戦車を下り、沙織に寄り掛かる。
冷泉「眠い…少しだけ枕になってくれ…沙織…」
武部「もう、家の布団で寝てよぉ。ごめんねみほ。今日は麻子を連れて帰るね。」
みほ「途中まで付き合うよ?」
優花里「私もお付き合いしますぅ!」
五十鈴「私も。」
皆は交代で冷泉を背負いながら帰路をつくのであった。
――翌日――
愛宕「はあぁぁ…」
放課後、机に突っ伏して項垂れていた。
休養扱いで部活動は不参加でも良いのはまだしも、戦車道履修は履修扱いにするから戦車に乗る事以外は自由行動していて良いという角谷会長からの命令には頭を抱えていた。
履修中は戦車倉庫にて戦車のエンジンとなるものを弄っていられる、それだけで退屈はしないからまだよかったのだが、現在の怪我が酷くなってしまう事を周りも心配しているのか、戦車には乗らせてはくれなかった。
愛宕「一体いつになったら皆と戦車道が出来るのやら…」
と、小さな消しゴム戦車を動かしていた。
?「おや、それはタンクゲーに出てくるBT戦車ではありませんか?」
声を掛けられたので気怠そうに顔を上げた。
外見は厚底グルグル眼鏡に猫耳カチューシャを着けている。
彼女の名前は猫田舞、同じ学年の友達である。
愛宕「うん…?あ、あぁ!?ね、猫田さん。こんにちは…」
持っていたBT戦車を急いで収納しようとしたが。
猫田「隠さなくていいですよ愛宕さん。ボクも戦車は好きですから。」
机に置かれたのは先程と同じのBT戦車の消しゴムであった。
愛宕「同じの持っていたんだ!猫田さんって戦車好きなのに戦車道には入らなかったの?」
猫田「いやぁ、ボクだけだと人数的に足りないと思うし、同じオンライン戦車ゲームのネッ友と相談してから履修することにするよ。」
愛宕「オンライン戦車ゲーム…かぁ。それって面白いの?」
猫田「えぇ、面白いですよ。オフラインで一人コツコツとクリアするのも良いですが、皆と協力してクリアするオンラインが特に燃えますね。」
半ば姿勢を前屈みにして興奮気味に愛宕に説明をする猫田。
顔の距離が近いが、好きな事を話すとなると周りが見えなくなるのだろう。
愛宕「そこまで言うのなら、ちょっとやってみても良いかな。一応家にそれらしき物もあった気がするし。」
猫田「おぉ、愛宕さんも一緒にオンラインゲームをしますか。私が教えますので、帰りに家に寄らせても良いですか?」
愛宕「うん、良いよ。一人だと慣れるのに時間が掛かっちゃうからね。」
愛宕と猫田は一緒に愛宕の家まで帰路を辿った。
ーーその頃の戦車道ーー
戦車道の授業が終わり、皆で戦車を戦車倉庫に入棟していた。
秋山「皆さん凄く上手になりましたね。」
五十鈴「砲撃のやり方も、コツが掴めてきた気がします。」
みほ「うん、麻子さんの操縦技術や華さんの砲撃の命中率にも今後目を見張るものがあるよ。」
冷泉「西住さんにそう言ってもらえて何よりだ。」
五十鈴「うふふ…嬉しいです。」
武部「だけど…由衣っていつ本格的に戦車道出来るのかなぁ…」
武部が愛宕の名前を出すと、静まりかえった。周りの履修者は今後の反省、はたまた帰りに何処に寄るかの雑談で話題が飛び交う。
秋山「確かに、会長さんからは大怪我させない為に乗せないでね。という注意だけですし、戦車道履修中はエンジンを弄っているだけですからねぇ…」
五十鈴「会長さんは愛宕さんを外して大丈夫なのでしょうか…」
秋山「私達の戦車は人数的に無理ですし、他の戦車も乗れたとしてもすぐに連携が取れるでしょうか…」
武部「ある意味贔屓よ贔屓!」
武部が地団駄を踏んだ。共に戦車を乗れないのもあるが、愛宕だけまともな戦車道を受けさせてもらえてないことに不満なのであった。
みほ「会長さんが無闇矢鱈に人数削減をするのは状況的におかしいし、やっぱり何か考えがあるんじゃ…」
しかしこの段階で結論を出す事は非常に情報が足りないし、何より会長さんが言った信用をする事に相反する為、みほはその場で結論を出さず、会長に聞きに行こうという判断で生徒会室に向かった。
ーー生徒会室ーー
みほ「その、会長さんにどうしてもお聞きしたい事があって…」
河嶋「なんだ、会長は今忙しいのだ。後にしてもらえるか。」
そう言いながら河嶋と小山は忙しそうに事務作業をしていたが、当の本人は干し芋を食しながらのんびりと何かの書類を見つめていた。
武部「全然忙しくなさそうじゃない…」
五十鈴「忙しいのは河嶋先輩と小山先輩の様ですが…」
秋山「お手伝い致しますね!」
冷泉「愛宕さんの話をしたらすぐ帰る。」
麻子はそう言ってソファに座ってリラックスした。
その様子を見た角谷は会長椅子から腰を上げ、麻子と反対側に座る。それを見た皆は麻子と同じソファに座る。
角谷はゆっくりと口を開け、話を始める
角谷「愛宕ちゃんの話をしに来たのは、この部屋に訪れた瞬間から察していたよ。君達が気にしない筈がないもんね。」
みほ「え、そうだったのですか。」
角谷「うん、早速だけど。愛宕ちゃんの戦車道復帰は気にしなくて良いよ。怪我が全回復したら元通りに受けさせてもらう。」
みほ「ですが、私達の戦車は満員ですし…他の方達との交流もまだ芳しい状態で受けさせるのは…」
角谷「間違いなく、上達速度に少しぐらい影響は出るだろうね。だけど私達にはそういう事情を受け入れる暇はないんだ。」
と、残念そうな表情をして見つめる。
武部「じゃあどうすれば良いのよぉ!」
冷泉「このままだと愛宕は戦車道履修者の幽霊部員となりかねないぞ…」
五十鈴「せっかく履修しているのですからね…」
秋山「他に方法はないのでありますか!?」
と、事務作業を手伝っていた優花里、それと河嶋、小山が戻ってきた。
河嶋「我々は熟練不足でも良いから戦力を増やしたいと思っている。」
小山「だから、私達に考えがあるの。」
角谷「取り敢えず、コレを上げるから愛宕ちゃんに会長が宜しくって伝えといて。」
渡された紙を広げると、それは大洗学園艦の全体図の地図であった。駐車場付近の赤い丸が描かれているのが気になる。
角谷「実は裏で金属探知機を導入して戦車を探していたんだ。反応があった所に赤い枠を表記しておいたからね。高性能じゃないからこれぐらいしか出来ないけども。」
生徒会が出した結論は戦車を探して戦力を少しばかり増やすとの事。
戦車が増えれば愛宕も必然的に乗る事も出来るので、最適かと思いきや…。
武部「これ、人手はどうするのよ…」
角谷「まぁそこは成り行きで何とかなるんじゃない?」
みほ・秋山・武部「えぇ!?」
そこまでは頭が回っていなかったのか、無茶な発言をした。
その後、みほ達は生徒会室を出て行き、辺りは静まり返った。
小山「みほさん達には頑張って欲しいものですね…」
河嶋「アレで良かったのですか、会長。」
小山と河嶋は角谷を背中越しに見つめる。
角谷「今の私達に西住ちゃんを支援するのはこれぐらいで充分だよ。それに…」
角谷「愛宕ちゃんには、これから頑張ってもらいたいからね…」
河嶋「ところで会長、練習試合の件に関して話が…」
小山「現在調べてみたところ、予定が空いているのはこの学園のようです。」
角谷は資料に目を通すと、ゆっくりと口角を上げた。
角谷「聖グロリアーナ女学院かぁ…面白そうだね。早速明日電話を掛けて取り合ってみようか!」
袋から干し芋を取り出し、口の中に放り込んだ。
如何でしたでしょうか?
誤字脱字、物語構成に違和感があるかもしれませんが、温かい目で見守って下さい。
次回もお楽しみに。