スーパーロボット大戦The Inheritors 作:oneshot<a>man
御使いの光輪が地球へと迫っていた。
その巨大なリングの中で、マーガレット・ハリスは機体を急がせていた。
外ではすでに地球連邦軍艦隊による攻撃が始まっている。
情報によれば独立部隊ロンド・ベルまで合流している…そうなれば陥落も近い。
「冗談きついわよ…」
ヘルメットのバイザーを上げ、汗で額に張り付いたブロンドの髪をはらう。マーガレットの仕事はDC残党に乗っ取られた巨大リングに潜入し、盗み出した構造や戦力配置の情報を連邦軍に流したらお終いだ。
しかし地球に迫るリングの脅威に焦ったのか、連邦軍は艦隊が合流しきるよりも前に攻撃を敢行してきた。
こちらの脱出など当然待ってなどくれない。
混乱に乗じMS(モビルスーツ)に乗り込んだはいいが、全長20キロメートルの超巨大構造物だ。そう簡単に出口には辿り着かない。
壁を吹っ飛ばすのも手だが、無駄な被害を拡大させてしまう。それはもう最終手段だ。
しばらく進んだところで、機体のマップ表示に見慣れない区画の存在を見付け、マーガレットは思わず目を見張った。
(わたしの把握してないブロック!?)
かなり機密レベルの高い情報まで抜き取ったというのに、それでも表示されなかった箇所だ。
極一部の…つまりトップレベルの人間専用の脱出路の可能性は充分にある。
迷ってる暇などない。マーガレットはそこに向け機体を再加速させた。
*
「何よ、ここ…」
多重ロックの先にあった区画。
その光景にマーガレットは唖然とした。
MSも悠々と動ける広いフロアの真ん中に、コールドスリープ用のカプセルだけが置かれている。
まるで神殿に飾られたご神体のようだが、それにしても飾り気がない。
「子ども…男の子…?」
ガラス越しに見える姿はまだ幼い少年に思えた。
(放ってはいけないわよね…)
決断し、カプセルを外すと機体の手で極力優しく覆う。
どうやらここがお偉いさん達の脱出ルートの一つであることは違いないようだ。
奥に大型エアロックが見える。
エアロックを通り抜けると、MSも搭載可能なサイズの大型輸送艇に護衛用なのかSFS(サブフライトシステム)まで用意してある。
「よし…」
マーガレットは機体を輸送艇に乗せた。
「さあ、後は出たとこ勝負!」
*
「議長!」
ノックもなしに部屋に飛び込んで来た秘書の姿に、ゴップは眉をひそめた。
ここ数日、作戦立案に艦隊編成と攻撃準備のために忙殺されほとんど寝ていない。
その上攻撃作戦の成否を待つ状況だ。
内心いら立ちを覚えながらも口を開いた。
「どうかしたか?」
「そ、それが…!」
秘書からの報告を聞き、ゴップは眠気が完全に吹き飛んだ。
「ロンド・ベルが、あのリングごと消滅した…?」
*
マーガレットは目の前の光景をただただ見るしかなかった。
あの巨大構造物が、急に発光したかと思えば跡形もなく消滅してしまったのだから。
もしあと少し脱出が遅れていれば…その想像に全身がぞっとする。
「もしかしたら、君のおかげかしら」
マーガレットの膝の上の少年は、いまだ目覚めることなく静かに寝息を立てていた。
*
「隊長、攻撃目標がいきなり消えちまったがどうすりゃいい?」
呆然とする小隊員の中で真っ先に動いたのは、ΖプラスC型に乗るレッド・ウェイラインだった。
「あ、ああ…とりあえず母艦に…」
その時レーダーが反応しけたたましい警告音を発した。
「敵機接近!」
「ええい!次から次に!!」
索敵機からの報告に、隊長機ネロに乗るジル・ブロッケン・フーバーはすぐさまデータリンクを指示した。
確かに敵機が接近してくる。
「なんだこの速度は…!?」
敵機を指し示す光点が凄まじい勢いで向かってくる。
高機動MSかMA(モビルアーマー)か、もしくは異星人の機動兵器の危険性もある。
「機体照合…え…?」
「ゲルググだと!?」
機体のコンピュータが弾き出した結果に小隊一同唖然とした。
「何かの間違いでは…旧式のゲルググにこんなスピード出せるはずが」
「とにかく敵が来ることには違いない。各機迎撃に…おい、レッド!」
レッドのΖプラスがWR(ウェイブライダー)形態に変形し、目標に向かって加速していた。
「何している!戻れ!」
「この中ではこいつが一番速い!隊長たちの鈍足じゃやられるだけだ」
「俺の機体だって高機動型だ!」
フーバーが機体の推力スロットルを全開にしてレッド機を追う。
「おまえたちは援護に回れ!絶対に無理はするな!」
*
「クソ!マジでゲルググかよっ」
迫る敵機をモニターに捉え、レッドは困惑していた。
ゲルググ…しかも深紅にその全身が彩られている。
「赤い彗星の真似っこってか」
レッドは照準を合わせビームスマートガンを発射した。
迫り来るビームの束をゲルググは機体をローリングさせ避ける。
「まだまだ!」
今度は二門あるビームカノンを交互に連射する。
雨のごとく降り注ぐビームの猛攻を、ゲルググは流れるように避ける。
さらに加速し、ジグザクな軌道を描きながらレッドのΖプラスに接近する。
「何なんだよこいつは!!」
紅い閃光の尾を引いて、稲妻のような軌跡を宙に刻み付け、ゲルググがついにレッドを捉える。
「くッ!」
咄嗟に機体をMS形態に戻す。
1秒にも満たない変形時間だが、目前のゲルググにとってそれは充分すぎる時間だった。
ゲルググが手にしたビームライフルを撃った。
そのビームの速度も大きさもレッドの知るゲルググのものではない。やはり大幅なカスタマイズが施されているようだ。
「なんでわざわざゲルググなんだよ!」
レッドが毒づくと同時に、ゲルググのビームがZプラスの右腕をスマートガンごと撃ちぬいていた。
これではWRに変形することもできない。
機体のダメージを認識した直後、視界いっぱいに深紅のゲルググが迫っていた。
「う、うおおおおおおおおお!!」
思考を超越した行動だった。咄嗟にビームサーベルを展開し、がむしゃらに振るう。
その直後、モニターにビームの光が走った。
それがゲルググの物だと認識するよりも前に、レッドの意識は闇の深い底に沈んでいった。
*
「レッド!」
追いついたフーバーの眼前で、レッドのΖプラスと紅いゲルググは互いにビームサーベルを突き立て動きを止めていた。
まるで時間が止まったかのような光景にフーパーの背筋に悪寒が走る。
「どけぇ!」
スラスターを全力噴射しゲルググに体当たりをぶちかます。
先ほどまでの猛攻が嘘のように、ゲルググのボディがあっさりと吹き飛ばされる。
体勢を崩したゲルググを一瞥し、フーバーは傷付いたΖプラスに自機を寄せる。
「レッド!無事か!?」
見るとΖプラスの肩から胸部にかけてがビームに焼かれ、ばっくり大穴が開いている。
幸いコクピットにまでは到達していないようだが、レッドからの反応がない。
「おい、冗談だろう!?レッド!返事をしろ!!」
フーバーの悲痛な叫びが宇宙に響く。
その姿を、微動だにしなくなったゲルググのモノアイが静かに見守っていた。
「レッド!何とか言え!レッド・ウェイライン!!」
そして、半年の時が流れた。