スーパーロボット大戦The Inheritors 作:oneshot<a>man
「ベル!ベル・ファリア!」
自分を呼ぶマーガレットの声を聞き、その少年ベルは振り返った。
「メグ、どうかしたの?」
「どうかしたの、って…もう、全然返事しないんだから…」
マーガレットを愛称のメグで呼ぶこの少年、ベルと共にリングを脱出してから半年。
脱出の翌日、目を覚ました少年は何も覚えていなかったのだ。
なぜあんな場所にいたのか。自分の年齢や名前ですらだ。
ベル・ファリアという名前も、カプセルに刻まれていた文字から辛うじて読み取れた『B』と『F』からマーガレットが名付けたに過ぎない。
穏やかで純粋無垢。間違いなくいい子なのだが、のんびりとマイペースそのもののベルにはマーガレットも少々手を焼くことがあった。
今もぼんやりと港から海を眺め、まったく反応が無くなっていたのだ。
「まあいいわ。さ、行きましょ」
「うん」
濃い茶色の瞳を輝かせ、ベルが駆け寄る。
背丈はマーガレットの胸ほどくらいだ。
子犬のような動きにマーガレットは思わず頭をくしゃくしゃと撫でる。
「メグ!やめてよ髪めちゃくちゃになっちゃうよ!」
「あっごめんごめん」
悪戯っぽく笑いながら自分たちの輸送艇へと急いだ。
*
「船の修繕メンテナンス。保管料、管理料、燃料に水に食糧、あとは細かい日用品…っと。全部注文通り揃ってるよ。チェックと問題無しならサイン頼むね」
ドッグ内で管理業者の壮年の男がマーガレットにリストを手渡す。
輸送艇はリングから脱出した時に使ったものだ。
脱出時に乗っていたMSは連邦軍に引き渡したが、こいつと、そしてベルの存在は隠しておいた。
どう考えても面倒なことになるし、何より輸送艇は改めて調べてみると全地形対応型の超高性能機だ。素直に軍に渡すのはあまりに勿体ない。
とはいえかなり無理をさせたためあちこちダメージが見られたので、休暇も兼ね修理と共にオーバーホールにかけ、今日やっとすべての準備が整ったのだ。
「しかし、この船規格品じゃないからね。あちこち構造的にわからん箇所が多くて、申し訳ないがそこは手を付けてないよ」
男はしわの刻まれた顔で申し訳なさそうに説明する。
「ああ、そこは大丈夫。航行には問題ないんでしょう?」
「そりゃあ勿論。弄れる箇所は新品同然のピカピカさ」
「なら何も問題ないわ」
打って変わって自信満々な男を見て、マーガレットは安心して小型のケースを取り出した。
「支払いは、おや?今どき現金かい」
「迷惑?」
「まさか。むしろ助かるよ」
地球圏はまだ混乱の最中にある。
散発的な戦闘が続く宇宙に比べ、地上はまだ落ち着いている方だがそれでも流通や経済は大きく影響を受けている。
差し出された紙幣を手にし、男は目を見開いた。
「こりゃあ驚いた!新品の札なんて久しぶりに見たよ。しかも連邦政府の発行証明書付きとはね」
「こっちのチェックも問題ないわ」
「だけど海に出るにも宇宙に出るにも、クレジットに変えといた方が身のためだぜ嬢ちゃん」
「でしょうね」
この現金はリングの情報料に加え、敵から奪取したMSの引き渡し分も含めかなりの金額になる。
今の連邦からしてみれば、完全動作する無傷のMSは喉から手が出るほど欲しいのだろう。
驚くほどの追加報酬を与えられ、おかげで半年もの間ベルと二人で何不自由なく過ごせたのだ。
「管理事務所の隣にちゃんとした銀行の支店があるから、そこで手続きしときなよ」
男の忠告にマーガレットは素直に従うことにした。
何かのトラブルで船を捨てることになった場合、現金ごと沈んでしまえば完全に失ってしまう。
その点クレジットに入れてしまえば生体認証で預金は間違いなく保証されることになる。もしも現金取引を持ち掛けられた場合は不便だし、少々もったいないがこちらの方が安全面では確実だ。
「じゃあ行ってくるわ。ベル、お留守番お願いね」
「うん、いってらっしゃい」
マーガレットが去った後も、子供のような顔で新品のお札を透かしたり眺めていた男が、ベルの視線に気付きばつが悪そうに頭をかいた。
「ええっと、チョコレートでも喰うか?」
その時、遠くで警報音が鳴り響いた。
*
「接近してるのはMSで間違いないんだな!?」
マーガレットたちのいる港の対岸。
連邦軍基地は敵機の接近に備え、迎撃態勢が整えられていた。
「まったく、こんな小さい基地まで狙うか普通」
ジェガンのパイロット達は愚痴りながら、機体を外に出す。
そこに波しぶきを上げ、敵MSが姿を見せた。
「はぁ!?」
目の前には、フロートを切り捨て武器を構えるザク、グフ、そしてドムだった。
「舐めやがって!そんな旧式で!」
そう言いながらもジェガン数機が教練通りフォーメーションを組み、 次々にビームライフルを撃つ。
その動きは目の前の骨董品…オールズMSよりはるかに速く、そして鋭い。
ビームの閃光が旧式MSに次々とヒットする。
「な、なんだと…!?」
ジェガンのパイロットたちは愕然とした。
直撃を受けた目の前のMSのいずれもが、まるで何事もなかったかのように佇んでいるのだから。
ザクがマシンガンを放つ。それが呆気に取られていたジェガンの足に叩きこまれる。
するとその弾丸が装甲はおろか内部フレームまでを砕き、わずか数発でジェガンは行動不能へと追い込まれた。
「な、なんだこの威力は!?こいつら…なんなんだ!?」
混乱し、挙動の乱れたジェガンの群れに向かい、ドムがジャイアントバズの照準を合わせた。
*
「攻撃されてるの!?」
銀行から戻ったマーガレットは、対岸から上がる爆炎を目にし、すぐさま状況を理解した。
「ベル!とにかくシステムを立ち上げるわ!すぐに動ける様にだけは…」
輸送艇のコクピットに向かうマーガレットを、ベルが遮った。
「ベル…?」
「メグ、格納室の『A-1』を使おう」
その突然の提案にマーガレットは言葉を失いかけた。
「ベル、あなたこんな時に何を…あれは武装もないSFSよ」
マーガレットの訴えも聞かずに、ベルは後方の格納デッキへと向かう。
その先には扉に『A-1』と記された格納庫がある。
ここにはリングから脱出するときに輸送艇に積まれていたSFSを保管してある。
ベルの真意を図りかねていると、その小さな手が扉のコントロールパネルにかざされる。
「あれは、SFSじゃないよ」
ベルの言葉に応えるように、扉がゆっくりと開いていく。
その中から現れたSFSの外装が剥がれ落ち、見たこともない大型戦闘機が姿を見せた。
「どういう、ことなの…!?」
「この機体は可変PT(パーソナル・トルーパー)、ART-1」
「ART-1…ってPT!?」
PTは地球連邦の研究機関であるテスラ・ライヒ研究所の開発する対異星勢力用人型機動兵器の総称だ。
実験的な機体が多く、まず一般兵が触れる類のものではない。
そんなものがなぜあんな場所の輸送艇内に、しかもSFSに偽装してまで置いてあったのか。
様々な思考が駆け巡る。
そうこうしてるうちに、機体のコクピットが解放されベルは迷いなく操縦席に飛び移った。
「ちょっと!?」
見るとこの機体は二人乗りのようだ。前方の小さな席にベルが収まっている。
(迷ってても仕方ないわね…)
そのままマーガレットも後部座席に体を滑り込ませた。
二人の乗った機体は格納デッキからエレベーターに乗せられ、そのまま輸送艇上部デッキまで誘導された。
どうやらこれが発進システムのようだ。
(つまり、この輸送艇自体がこの機体、ART-1用…?)
わけのわからないことだらけだが、とにかく今は出るしかない。
「メグ、行こう」
「そうね…テイクオフ!」
*
上空から見える基地は、燦燦たる状況だった。
迎撃部隊は全滅。防御を失い、MSたった三機に壊滅寸前に追い込まれている。
ART-1の基本操作はMSと大差ないようだ。
マーガレットはミサイルを眼下の敵機に向かって発射する。
「ウソでしょ!?」
爆炎の中から無傷の三機が飛び出し、ART-1に向かって反撃を仕掛けてきた。
「くぅ!」
機体を増速、旋回し回避する。
「あれは、たぶんG鉱石…」
「何ですって!?」
G鉱石。それは北極で発見された超高硬度物質である。
加工し、装甲材として用いればおそらく地球圏でこれに勝る物質はないだろう。
「残党がいったいなんでそんなものを」
「わかんないけど、とにかくこのままじゃ無理だよ」
そう言うとベルは大きく深呼吸し、目を閉じ、ゆっくりと口を開き、そして凛とした叫びをあげた。
「T-LINK、フルコンタクト!フィールド展開っ」
コクピットに何らかの装置の駆動音が鳴り響く。
「メグ、これで大丈夫!PTモードにチェンジ!接近戦でいこう!」
「もう!とにかくなるようになれよ!」
ART-1が人型に変形し、急降下する。
両腰からHGリボルヴァーを抜き、真下に迫るザクへ連射する。
突然のことにザクは動作が遅れたようだ。直撃したリボルヴァー弾がザクの頭部を砕き、機能停止に追い込む。
「効いた!?」
驚きつつも機体に急制動をかけ着地の衝撃を消し去る。
「メグ!」
ART-1の左後方から、グフがヒートソードを手に迫っていた。
「見えてるわっ」
振りかぶったグフの腕を、ART-1の左腕のシールドが弾く。
瞬時にバックパックから短刀コールドメタルブレードを抜き、一閃する。
グフの右手首から先がヒートソードごと宙を舞った。
次の瞬間、HGリボルヴァーが火を噴き、グフの胸から上を吹き飛ばした。
「あと一機!」
機体の姿勢を立て直そうとした直後、真横を砲弾が掠めた。
慌ててスラスター機動でその場から離れる。
直後、そこに砲弾が直撃し大穴が穿たれた。
「なんて威力!」
「たぶんあのバズーカの弾もG鉱石製!」
「でしょうね!」
ホバリング機動で移動しながらドムがバズーカを撃ってくる。
それに向かいHGリボルヴァーが放たれ、直撃する。
しかしドムは機体を仰け反らせこそするものの、すぐに体勢を立て直した。
どうやら分厚い装甲で弾丸が食い止められているようだ。
「これを使おう!」
ベルの声に呼応し、ART-1右腕の装甲がトンファーの要領で前方に展開した。
さらにそこからサメの歯を思わせるギザギザのノコギリ刃が展開する。
「チェーンソー!?」
その見た目の物騒さにマーガレットは唖然としたが、とにもかくにも今はこれに頼るしかない。
チェーンソー・トンファーを構え、スラスタースロットルを目いっぱいに押し込む。
爆発的な推力でドムへと一気に接近する。
まさか真正面から来るとは思っていなかったのだろう。
ドムが巻き添えを恐れ、バズーカの発射を躊躇する。
「遅いわよ!」
バズーカの砲身が真っ二つに叩き斬られる。さらにマーガレットは振り下ろしたチェーンソー・トンファーの刃をアッパーカットの動作で今度は真上に振り上げる。
その駆動する刃はドムの強固な装甲をずたずたに切り裂き、本体深部にまでダメージを与えた。
ドムのモノアイから光が消え、そのまま真後ろに倒れ込んだ。
「終わった…」
呼吸の乱れだけを整え、ART-1をウイング形態に戻しその場を飛び立った。
「メグ…?」
「残ったままだと絶対に面倒なことになるわ。今のうちに船に戻って出発しましょう」
ベルに聞きたいことはそれこそ山ほどあるが、とにかくさっさと姿をくらますのが先決だった。
(なんだか、妙なことになって来たわね)
まだ動作に硬さの残る操縦桿を握り直しながら、マーガレットは胸のざわめきを抑えるので精いっぱいだった。