スーパーロボット大戦The Inheritors 作:oneshot<a>man
北極、ポーラー・ステイション.。
北極地下で発見されたG鉱石を採掘し、研究のため民間企業の合同出資で建設された大型の採掘基地である。
「今すぐG鉱石の貯蔵庫を確認しろだなんて、どうして地球連邦軍がそんなこと気にするんですかね」
「世界各地の連邦軍基地が、DC残党軍の襲撃に合ったのニュースは知ってるだろう?あくまで噂だが、どうやらそいつらのMSにG鉱石が使われているらしい」
「残党に!?そりゃあ何かの間違いでしょう。現在地球圏でG鉱石が見つかってるのはここ北極だけ…それも我々がすべて管理してるんですから」
「ああ、だが要請とあれば調べるしかない。連邦はステイションの直接の出資者ではないが、スポンサーには連邦筋だったり関連の強い企業だって少なくはないからな」
「やれやれ…」
職員たちはそんな会話を続けながら貯蔵庫前までたどり着いた。
コンソールを操作すると、大型の隔壁が解放される。
「なっ…!?」
「そんな馬鹿な!?」
解放された貯蔵庫の奥。そこには何もない空間が広がっていた。
いや、正確には中心部に黒い穴が広がり、すべてを飲み込み生き物のように脈動していた。
「こ、こんな…なぜこんな異常に気付かなったんだ…!」
「とにかくスタッフを集めろ!緊急対応マニュアル通りに…」
慌てふためく職員たちに、大きな影が差す。
「君たちもついに気付いてしまったようだね」
「だ、誰だ!」
振り替えると、人間の背丈を優に超える巨大な女が彼らを見下ろしていた。
その腹部から胸にかけてしつらえられた王座のごとき椅子に、銀の髪を揺らし細身の少年が優雅に腰かけている。
「ここのG鉱石はすべて私の亜空間テレポートで頂いたよ。君たちは私の作った幻覚にずっと騙されていたのさ」
少年がそう告げると、周囲の光景が見慣れた採掘基地から禍々しく不気味なものに変化する。
さらに職員たちを全身を機械で作られた兵士と、奇妙な姿のミュータント達が取り囲んでいた。
「う、うわぁぁぁ!」
恐怖に襲われる職員たちをあざ笑う声が響く。
「ここはもはや我らが前線基地、蛇牙城(ベガゾーン)よ。おまえ達には世界中に我々の恐怖を伝える重要な役目を与えてやろう」
哄笑と共に一人の老人が姿を見せた。頭部は機械へと繋がれ、その目には狂気のみが宿っている。
「あ、あなたは…プロフェッサー・ランドウ!?」
「ロボット工学とコンピュータ開発の権威が、なぜここに…!?」
ランドウはそれに答えることもなく、銀髪の少年に向かって指示を出す。
「ナルキス、やるのだ!」
「では」
ナルキスと呼ばれた少年がぱちりと指を鳴らす。
すると職員たちの足元に黒い穴がぽっかりと現れた。
「うわああ!」
「何が、何が起きてるんだ!」
「安心したまえ。邪魔な君たちをテレポートで送ってあげるだけさ…亜空間でどのような恐怖を味わうか、私にも想像できないけれどね」
「やめてくれええええ!!」
数秒後、悲鳴や絶叫すら掻き消え、職員たちは完全に姿を消していた。
「よくやったぞナルキス。おまえのその絶大な念動力のおかげでG鉱石に加え、完成した兵器まで自在に転送が可能となった」
「ですが、私の能力も無限ではありません。特に亜空間テレポートは強く力を消耗します」
「わかっておる。完成したMSやメタルビーストはこれまで通り逐次投入しかあるまい。さあ時は来た!ナルキスよ、おまえには子爵の位を与えよう!これからも存分に働くがよい!」
「ありがたき幸せ」
「ヤシャよ!」
「はっ!ここに!」
一つの体に二つの顔を持つ、奇怪なミュータントが前に出る。
「メタルビースト・ギルガを与える!これで極東地区を壊滅させてくるのだ!」
「極東地区、でございますか?」
「ああ!あの地はかつて数多くのスーパーロボットが開発された場所だ。そこを徹底的に破壊し、スーパーロボットがすでに存在しない事実、そして我らの恐怖を世界中に知らしめるのだ!!」
「承知しました」
「地球に、もはや我々の敵などいない!」
*
「メグ!これ見て!」
輸送艇がユーラシア大陸の東に到達し、北上を開始してしばらくのことだった。
ベルが大慌てで操縦席に飛び込み、モニターを操作する。極東地域の放送電波を受信した映像が表示される。
「何よこれ…機械獣ともメカザウルスとも雰囲気が違うわね」
大型のロボット怪獣とでも呼ぶべき存在が大都市を襲撃していた。
ロボット怪獣は口にあたる部分の左右にそれぞれ機銃、肩にミサイルを備え、右腕は鎌に、そして左腕は大型のキャノン砲となっていた。
何者かが攻撃意思を持って製造し、送り込んだのには間違いない。
「連邦軍の攻撃が全然効いてない…G鉱石製だよ」
「こんなものまで出てきたのね…ってベル、まさかあなた」
ベルがマーガレットをまっすぐ見つめる。
その目には強い意志が宿っていた。
「今の僕たちの位置からなら、そんなに時間はかからないよ」
「ベル、前回の基地の時とは状況が違うわよ。自ら戦いに飛び込むなんて、反対ね。わたし達は軍人でも無ければましてヒーローでもないんだから」
「わかってる。けど…」
ベルが改めてモニターを見る。そこには恐怖に逃げ惑う民衆の姿があった。
誰もが様々な思いを抱え、ただ日常を生きてきた普通の人々だろう。
「あれは直接街を狙ってきている。しかも軍事施設も何もない、ただの街だ。あそこには、戦えない人しかいない…僕より小さな子どもだって沢山いるんだ!それをこんな近くにいて見過ごすことなんて、やっぱり僕にはできないよ」
「ベル…」
「メグ、僕だけでも行くよ。ART-1が離脱したら、すぐに遠くに逃げて」
そういう瞳には揺るぎない覚悟が宿っている。
恐らく、いや間違いなく一人でも飛び出していくだろう。
「あー!もう!この子は!」
マーガレットはベルの頭をぐしゃぐしゃと乱暴にかき乱し、両頬を抑えて顔を近付けた。
「わたしがベルを一人で放り出すわけないでしょ…本当に頑固なんだから」
「メグ…」
マーガレットは優しい声色で言うと、すぐに操縦席に着いた。
「オートパイロット解除。ベルも座ってベルトして。全速力でかっ飛ばして、あの怪獣をぶっ飛ばしましょ」
「ごめんね、メグ。地球の裏側とかじゃなくて、これだけ近いと、ね」
そう言うが、たぶん地球の裏側でも行くと言い出しただろう。マーガレットの知るベルは、そういう子だ。
「いいわよ。わたしも、本音言うと無視してたら寝覚めがよくなかったわ」
覚悟を決め、輸送艇の進路を極東方面に変更した。
*
街の上空に辿り着くと、高度があるにもかかわらず赤く染まっているのがわかった。
「ひどい…」
「輸送艇はオートモードでここに待機させるわ。上空から奇襲をかけて、できるだけ早く仕留めましょう」
「うん」
ART-1が輸送艇を離れ、一気に降下する。
あっという間に炎に包まれる街の姿が映る。
その炎の中心に、あのロボット怪獣が見える。
まだこちらには気づいていないようだ。
「メグ、ミサイルはだめだからね!」
「ええ!」
照準を合わせ、射程に入った瞬間ART-1のHGリボルヴァーが火を噴いた。
それはロボット怪獣の頭部に直撃するも、ダメージの入った様子はない。
「さすがに硬いわね…仕方ない、接近戦よ」
ART-1がPTモードに変形し、降り立った。
ロボット怪獣もそれに気付いたようだ。
左腕の砲を構え、威嚇するような声を上げた。
「さあ、かかってらっしゃい!」
「僕たちが相手だ!」