ドラクエモンスターズ カレキの国のアンダーランド 作:極薄饂飩
「どうか頼む。最後のカレキのマスターよ。
どうかわしに…いや、この国に最後の夢を見させてくれ」
骨の様に痩せ細り、それでもその眼光は衰えぬ老人は私にそう言った。
断るつもりは無かったが、正直なところ、私には夢を見せるだけしか出来ない事が分かっていた。
思わず
この世界が架空の物語だなんて、物語の住人には言っても伝わらないし、言うべきでもない。
だが、それ以前に私では役者が不足している事も分かっていた。
何せ、テリーがいる。
この世界はテリーが夢見た、テリーの為の夢の世界だ。
テリーが主人公であり、観測者である『テリーのワンダーランド』だ。
私など、精々他国マスターとして、霜降り肉でレア特技を持ったレアモンスターをテリーに奪われたり、肉やキメラの翼を渡すくらいが関の山だろう。
彼の孫娘と違って、健康的では無さ過ぎる見た目の、元気なご老人の夢を防御無視で潰すつもりはないが…。
この王自身が凄腕のモンスターマスターであるのにも関わらず、何も変えられない状況が今なのだというのも、芳しく無い。
第一、ここが『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』である以上、テリーが勝利するまでの物語であるはずだ。
「頭を上げてください陛下。かくれんぼうがどこにも見当たらない以上、最初から私も分の悪い賭けに乗る他は無いのですから。
このレイカ、微力ではありますが、星降の大会に向けて全力を尽くしましょう」
カレキ王はピタリと動きを止めたかと思うと、震えだして感涙しながら話し出した。
「おお…。
やってくれるか!! そうじゃ、わしはマルタやタイジュのケチ共の様に出し渋ったりはせん!!
城にある全てを好きにして良いぞ。
ゴールドでも、牧場の魔物も、孫娘も、全部持っていけ」
「お爺様、それ言い過ぎです」
カレキ王は当の孫娘本人に窘められていた。
少しタイジュの王と道化の遣り取りを彷彿とさせた。
それがなくとも、かくれんぼうに拉致された時には、「自分の力でやってみなよ」と言われたのだ。
あまりにもカレキ王の力を借りていると、かくれんぼうが出て来ない可能性もある。
せめて、配合の祠関係の使用料だけは、全額出してもらう程度にしておこうか。
あとは貧困国家には酷かも知れないが、異界の扉から帰って来た時には、薬草じゃなくて魔物の餌を貰えたら嬉しい。
カレキ王の孫娘のホーリィに連れられて、彼女の部屋へと入った。
別に妙な雰囲気になったりはしない。
色んなゲームでよくある、最初のモンスターを貰うイベントがあっただけだ。
『グレムリン』だが、彼女が仲間にしたらしい。
大したものだ。
「レーカ。グレムリンは最初の扉にいるモンスターだから、別に珍しくはないわ」
そう言いながらも、それなりに嬉しそうなことは指摘しないでおく。
何せ相手は王族だ。
機嫌を損ねて良い事など一つもない。
ホーリィとはドラクエモンスターズというよりは、ファイナルファンタジーかモンスターファームみたいな名前だね、みたいな意味不明な事も言う必要は無かった。
さて、最初から出てくるモンスターは、タイジュならスライム、ドラキー、アントベアなのだろうが、いきなりグレムリンとはハードルが高い。
新人マスターには、厳し過ぎるのではないだろうか?
カレキが没落した理由の一つが分かった気がする。
「あとフェアリーラットも」
「フェアリーラットですか…」
フェアリーラットは一見アントベアよりも強力に見えるが、実は同レベル帯ではアントベアよりもステータスが弱い。
難なく勝てる相手、いわゆるドラキー枠だろう。
バランスとしては変ではない。
そしてフェアリーラットは、虫系統のモンスターと子を作らせると、ヘルホーネットという恵まれた容姿と名前に反して、全ステータスが最低基準なモンスターが誕生する。
そのステータスの低さは、あのキリキリバッタをも下回る。
私がこれ程までにテリーのワンダーランドに詳しいのは、ユーチューブでとあるVtuberがプレイしている動画を見たせいで、自分もやってみたくなったからだ。
幸いにして、スマートフォンのアプリで遊べたのでデスタムーアまで作ったところで、かくれんぼうと名乗る、わたぼうみたいな何かが現れて、一方的な説明と共にタンスの中に無理矢理引き摺り込まれてしまった。
些かホラー染みた導入から、カレキの国へと連れられて、気が付いたら一人だった。
突如現れた私を無理矢理引き摺って王の間に連れて来たのが、このホーリィだ。
この国に来る前といい、来た直後といい、引き摺られてばかりだ。
この国には外の世界から、もうずっと長いことモンスターマスターが来ていない。
それはかくれんぼう、本来の名はかげぼうという世界樹の精霊が姿を消したからだ。
この国はもう死んでいるのだ。
この国を作る世界樹は、既に枯れている。
少なくとも、目視する限りは枯れている様に見える。
カレキの王が世界樹のヘソを壊しかけたとか、ずっと星降の大会で負けているとか、まあ理由はあったようなのだが、この国には精霊はいないし、世界樹は枯れた。
世界樹が枯れたから精霊がいなくなったのか、精霊がいなくなったから世界樹が枯れたのかはどうでも良い。
この国にとって衝撃だったのは、かくれんぼうが生きていて、そして異なる世界からマスターを連れて来たという事実だった。
国民全てが夢を見たのだろう。
枯れる国で、最後の希望を見たのだろう。
自惚れでもなく、私がこの国の夢であり希望なのだ。
出来ないでも、出来る限りでもなく、やらなければならない。
「ホーリィ殿下」
「何かしら」
私は跪いて礼を取った。
その形が正しいかなんてのは分からない。
ゲームやお芝居で見た所作を真似ただけのものだ。
「必ずや、この国に栄光を」
先ずは誓いを立てよう。
そして誓いを立てるのなら、きっとそれは麗しき姫にこそ見届けて貰うべきものなのだ。
だってこの世界は魔法が存在する
この世界が誰かが夢見るものだとしても、この国の人々が夢見る希望を否定する事にはならない。
「レーカ、期待しています」
「お任せ下さい」
この世界に私が呼ばれた理由が漸く理解出来た。
枯れ果てた国が最後に見た夢を叶えるために、私はここにいる。
夢は────、枯れない。
【この世界は確かにドラゴンクエストモンスターズではあるが、『テリーのワンダーランド』ではない。】