ドラクエモンスターズ カレキの国のアンダーランド   作:極薄饂飩

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枯れた木の若芽

 ホーリィ王女に手を振られながら、私は『始まりの扉』に飛び込んだ。

 前後左右どころか上下まで回転して浮遊する感覚。

 果たしてしっかりと着地出来るのか?

 

 私は頭部を守る様に手で抑えながら、頭から落ちない事だけを祈っていた。

 

 結論から言うと、それはただの杞憂であり、私は頭部を抑えたまましゃがんだ状態で大地の上にあった。

 

 グレムリンは間抜けな私を見て笑っている。

 笑っているのも今のうちだ。

 直ぐに消えることになるのだから。(配合的な意味で)

 

 定番はグリズリーだろう。

 獣系に悪魔系を配合すれば作れるモンスターで、序盤においてゲームバランスを崩壊させる存在だ。

 具体的には、レベル1からレベル20までの間は???(魔王)系に匹敵する攻撃力の伸びを見せる。

 序盤のモンスターなんて、レベル20を超えたあたりで配合に注ぎ込まれる事や、成長限界が40超えたくらいで止まる事を考えれば、それで充分に過ぎる。

 

 獣系のフェアリーラットを捕まえたら、悪魔系のグレムリンと掛け合わせてグリズリーを作って、序盤でグリズリーを三体揃えればタイムアタックさえ狙える。

 そこからグリズリー×物質系でキラーマシンを作り、獣系とメダルおじさんのスライムファングでユニコーンを作り、キラーマシンとユニコーンを掛け合わせてキングレオにする流れなど、伝統さえ感じる

 

 それはそれで夢のある話だが、しかして機械的過ぎる。

 知らない者に夢を見させる事が出来るのだが、まあそれはおいおい考えるとしよう。

 取り敢えずはフェアリーラットを仲間にして、グレムリンと共にレベルを10以上にしてから考えれば良い。

 

 そう考えていたら、早速モンスターと遭遇した。

 運良くか悪くかは分からないが、二匹のフェアリーラットだった。

 早速魔物の餌を投げる。

 ゲームだと最後の一匹しか仲間にならないルールがあった気がするが、この世界だとそれがどう解釈されているのかは知らない。

 

 だが、魔物の餌に飛び付いて空腹を満たしている二匹は余りにも隙だらけで、息を吐く系や呪文が使えなさそうな位に、必死に口に肉を詰め込んでいるフェアリーラットを攻撃するのは悪い気がした。

 ここで攻撃したら鬼か悪魔だろう。

 

 いや、グレムリンは小鬼で悪魔だからセーフか。

 やれ、グレムリン。

 

 えっ? 今襲うの?

 みたいな顔をしているフェアリーラットだったが、左側の方がグレムリンに殴られて倒れた。

 多分死んではいないのだろう。

 気絶しているモンスターって、強制的に拘束して捕獲出来そうなものだが、そんな勧誘方法だと、後で暴れられても困る。

 もう一つ魔物の餌を投げると、やはりフェアリーラットは食い付いた。

 先程よりビクビクしているが、食べないという選択肢は無かったらしい。

 これはどのモンスターでも、賢さ255以上にはならない訳だと思った。

 

 グレムリンはニヤニヤと拳を振り上げている。

 これで仲間になったとしても、パーティーでやっていけるのか? そもそも、このグレムリンとの配合様にフェアリーラットを捕まえるのだけど問題無いのか?

 倒されるのを分かってビビり気味なら、降参してくれた方がマシなのに…。

 と色々悩んだが、力の差を教える事で初めて人間をマスターと認めるのだろうし、ボコらない選択肢はない。

 

 グレムリンが再び殴り付けるとフェアリーラットは倒れ込んだ。

 そしてフラフラと立ち上がる。

 起き上がり仲間になりたそうにこちらを見るって、どんな動作かと思ったが、見た目から仲間になりたそうな感が溢れてくる視線でこちらを見ていた。

 なるほど。

 これは鈍い人でも分かりそうだ。

 

 

 ゲームの時は、フェアリーラットならフェという適当極まりない名前を付けただろう。

 ファーラットならファ。

 出現するタイミングも近く、フェとファでどちらかどちらか紛らわしくなったりもするだろう。

 図鑑を埋めたり、基本配合に使う前提のモンスターだから、当然そうなる。

 しかし、四文字以下の名前の制限が無ければどうなるだろうか?

 私の場合はそのまま種族名を呼ぶ事にした。

 

 

 そこから暫く野生のグレムリンやフェアリーラットと戦っていたが、ふと確認すべき事に気が付いた。

 

 残念な事が分かった。

 このフェアリーラット、グレムリンと性別が同じだった。

 本当に残念なので、フェアリーラットに肉を与えてもう一匹仲間にすることにした。

 先程倒れていたフェアリーラットは死んでいないようだったので、様子を見ることにした。

 時間が経っても動かない…。

 死んではいないだろうが、放置しておくと死にそうだったので近くの浅い洞に引っ張る事にした。

 世界樹の葉が無いと復活しないやつだろうか?

 

 カレキの国では世界樹の雫も世界樹の葉も売られていないし、もし旅の扉から持ってきたら高価買取するとも言われている。

 カレキの国だから仕方ない。

 寧ろ世界樹の中にあるにも関わらず、世界樹の葉でなく薬草ばかりをくれるタイジュの方がケチなのかも知れない。

 

 薬草くらいならあげても良いが、私は薬草はいらないから魔物の餌をくれと言ったせいで、手持ちにはない。

 

 でも問題は無い。

 グレムリンというホイミを覚えた、特技に恵まれた魔物がいるから。

 このグレムリンに関しては、タイジュの魔物と同じくギラ、ホイミ、マホトーンの構成だった。

 野生のグレムリンは微妙に違うようだが、ホイミは覚えていたのは間違いないが、他にもマヌーサを使っていた。

 これは他国のマスターの魔物のは違う特技を覚えているという事の再現なのだろうか。

 

 まあそんなことは今は良い。

 取り敢えず起きないフェアリーラットにホイミをかけておく。

 

 少し動いたが、それ以降再び動いていない。

 死ぬのなら、腐った死体かゴーストになってくれたら、肉で捕獲するのにと考えるのは、少々ヤバい思考かも知れないな。

 フェアリーラットの前に魔物の餌を持って来ると、鼻をクンクンとさせていた。

 …死んだふり、か。

 

 低レベルなフェアリーラットの低い体力は、生きていれば全てホイミで快復しているはずだ。

 悪いけど、フェアリーラットというか魔物の知能では我慢の限界は早いだろう。

 

 ほら、食い付いた。

 起き上がったばかりのフェアリーラットをもう一度叩きのめそうとしたら、大人しく仲間になった。

 …降参というのもあるのか。

 それとも一度既に倒したからか。

 理由は追々調べれば良いさ。

 

 

 グレムリンとフェアリーラット二体の経験値を高めながら、私は二度、次の階層へと進む穴へと落ちた。

 

 幸運にも宿屋があった。

 次で4階層目。

 最後に扉の主(ボス)がいるのだろう。

 ゲームならここでセーブ出来たのだろうけど、人生にはセーブはない。

 沢山レベル上げをしたつもりだが、負ければ終わる。

 せめて、負けても見逃してくれる温厚なボスなら良いのだけれど…。

 

 そう期待して、私は最後の穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、豊かな自然だった。

 長年マスターが来ていないカレキの国の旅の扉。

 その奥に待っていたのは─────

 

 

「マンイーター…」

 

 そうか、それはカレキが衰退していく訳だ。

 そして生き残りは強い訳だ。

 魔物の中では強くない。

 何なら、ステータスで見ればエビルシードの完全下位互換な訳だ。

 エビルシードとエビルシードを配合して作るマンイーターは、エビルシードよりも弱い。

 芽生えた植物よりも、その種の方が強い。

 もっと言えば、ダークアイからエビルシードが作れるが、ダークアイとマンイーターではダークアイが圧勝してしまう。

 

 ホイミスライムは以外にも全ステータスは平均以上のハイスペックモンスターであり、初期ステータスと寿命さえ何とかすれば、普通に使っていける。

 有名なマネマネ無限増殖法で、ホイミスライムにマネマネを掛け合わせ続けて強化する手段もある。

 マネマネはコアトルを作る時にとても便利だったから、この世界にもマネマネが沢山確保出来る手段が欲しい。

 カレキの国の人々が皆マネマネなら、配合材料に困らないと言えば、あの王女は「それ、言い過ぎ」と言うだろうか。

 

 

 さて、冗談はそろそろ良いだろう。

 マンイーターは動かない。

 それは、ボスを倒せなければ帰ることが出来ないからだ。

 

 勿論、例外もあってキメラの翼というアイテムがある。

 これを使えば直ぐにカレキの国の王の間に戻れるだろう。

 

 キメラの翼を眺めながら、考えていた。

 マンイーターとは洒落にならない。

 人間を食べるという事は、倒された後のマスターの末路は、つまりはそういう事だ。

 ホーリィ王女に渡されたキメラの翼の意味を、今になって悟った。

 エビルシードの何が邪悪(エビル)なのか。

 その答えは明白だ。

 マンイーターもひとくいそうも、英語か日本語かが違うだけで同じいみだが、エビルシードが育った先には人を食らう花が咲く。

 

 勝てるとは思う。

 勝つ可能性が高いのは分かっている。

 他国特有の理不尽な強さの特技を持っていなければ、単純なステータスはグレムリン以下だ。

 マホトーンには強いが、グレムリンのギラにもフェアリーラットのマヌーサにも強くない。

 タイジュ産と同じ特技構成なら、ドラゴン斬り、甘い息、気合を溜める。

 他国マスターの魔物と同じなら、ライデイン、岩石落とし、舐め回し。

 デインはあるとしても、岩石落としは無いと信じたい。

 アレは100を超えるダメージを与える技で、最序盤で出て良い特技ではない。

 

 相対したから分かる。

 正直なところ、ステータスが高いとか、特技が強いとか、そういった事は大した重要度は持たない。

 グレムリンやフェアリーラットしか見ていなかったから、今になって唐突に理解させられたが、マンイーターは人を食べる。

 これまで持っていた魔物の餌。

 その上位互換に骨付き肉や霜降り肉というものがある。

 草食の魔物達でさえも夢中にさせるものだ。

 マンイーターには、私もそう見えているのだと分かった。

 

 材料はおおにわとりやあばれうしどりの肉だとは思うが、目の前のマンイーター…、いや、私の手持ちの魔物にとっても、魔物の肉でも人間の肉であっても変わらない。

 そう思うと、近くにいる自分の魔物でさえ信じられなくなる。

 

 周りをキョロキョロと見回すと、高価な首飾りが落ちていた。

 首飾りだけではない。

 ブレスレットもあった。

 こちらも高そうだ。

 

 

 高貴な身分のマスターも、ここで食われたのだろう。

 高価な物を持つ者は、無駄に金を使う馬鹿ではない。

 それだけの物を持てる能力がある分、他者より賢い。

 優れた者は成功して、良い物を身に着ける。

 立場の強い人には、それを裏付ける能力があるのだ。

 そんな人がここに、高価な物を落とした意味…。

 そんな人でもここに、高価な物を落とした意味……。

 私には、キメラの翼だけ(・・)が命綱に思えた。

 

 

 視線を前に戻すと、動かないと思っていたマンイーターが、じわりじわりと、近付いてきていた。

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