ドラクエモンスターズ カレキの国のアンダーランド 作:極薄饂飩
「フェアリーラット達、マヌーサ!! グレムリンはギラで焼き払え!!」
マヌーサはマンイーターには良く効く。
成功率で考えれば一度で十分のはずだ。
でも余りに不安だったので、二重に掛けてしまった。
濃密な霧で覆われているマンイーター。
姿が見えなくなったら見えなくなったで、それはそれで怖い。
何時、あの霧の中から触手が伸びてくるのか…。
こちらに近付いてくる足を止めたかった。
マンイーターからの攻撃は無かった。
どうやら、物理的な通常攻撃をしようとしていたらしい。
呪文であれば、こちらに届いているはずだから。
マヌーサがあるからハッキリとは見えないが、きっとそうだ。
攻撃が後攻という時点で、こちらよりも素早さが低い。
即ち、レベルも高くない事が分かる。
少しだけ、安堵出来たがそれでも怖さは消えてはいない。
「フェアリーラット達、ボミエ。グレムリンは通常攻撃で叩け」
マンイーターの足を止めたいがあまり、この場にいるモンスターの中では、既に最鈍のマンイーターにボミエを掛けさせた。
フェアリーラット達の呼び名がどちらもフェアリーラットなので、区別を付けられないというのもある。
グレムリンはこの後はホイミ要員として、MPを温存させておこう。
突如雷鎚が落ちてきた。
私にも当たりかけた。
まだ震えが止まらない。
しかし、やはりデインは持っていたか。
所謂下級モンスターは、デイン系への耐性が低い事が多い。
フェアリーラット等は寧ろ、デイン系統には弱いと言っても良い。
グレムリンがホイミを使ってくれて良かった。
グレムリン自体が回復出来たので、次は薬草があれば、次のホイミと薬草でパーティの三体とも回復出来たが、薬草の手持ちは無い。
あったとしても、マンイーターに近付くリスクを承知してフェアリーラットに近付き薬草を与える勇気があったかは疑問が残る。
またデインが来たら、ホイミを受けていない方のフェアリーラットは倒れるだろう。
しかしどうにかする手段がない。
フェアリーラット二体が霧の中のマンイーターを叩く。
グレムリンは片方にホイミを掛けた。
そして再び落ちてくる雷鎚。
フェアリーラットの片方が倒れた。
こちらは残り二体。
次でデインが来たら、もしかしたらホイミ出来ていない方が、倒れるだろう。
グレムリンよりフェアリーラットの方が攻撃力が高い。
それに回復無しでデインを二回受けたら死亡確定のフェアリーラットと違って、グレムリンの体力と耐性を考えれば、二度は耐えられる。
思えば、グレムリンが最初に自分にホイミをしたのが間違いだった。
…いや、指示しなかった私のミスだ。
魔物の責任ではない。
散々魔物の知能に限界があると言っておきながら、作戦の立案をしなかった私が悪い。
更に言うなれば、薬草をもっと重視しておくべきだった。
何故初心者マスターには薬草ばかりが与えられるか。
それは体力が低い魔物が多いと、バギやギラやデイン等の全体魔法を受けた際に、パーティの回復役だけに任せておけばジリ貧となるからだ。
偉そうに薬草よりも魔物の餌を下さいなんて、言うべきではなかった。
私は命が惜しい。
無敵の人にはなれない。
無敵の人というのは、失うものの無い人だ。
失うものの無い人は、そもそも何も持ち得ない人。
つまりは価値のない人の事だ。
それなりの教養と能力と容姿は持っている私は、自分の価値があることを知っている。
だから無敵の人にはなれない。
換えの効く魔物を捨てて、私だけでも助かろうか。
手元に掴んだキメラの翼を見て、いざという時の対応を考えた。
グレムリンにはフェアリーラットにホイミを掛けさせた。
雷は二体を襲う。
そしてまた、フェアリーラットだけを回復させた。
雷は二体を襲った。
グレムリンはまだ生きていた。
フェアリーラットにホイミを掛けさせた。
雷が二体を襲った。
グレムリンは倒れた。
フェアリーラットだけが残された。
後はない。
…雷は落ちなかった。
希望的観測としては、MPが切れた。
そうでない観測としては、残り一体に対して全体攻撃の必要を感じなかった。
後者であれば二重に良くない。
フェアリーラットは麻痺に弱い。
麻痺攻撃を持たれていれば、もし攻撃が当たった時点で一体しかいないフェアリーラットが麻痺して終わりだ。
キメラの翼を掴む手の力が強くなり過ぎて、疲れによる感覚の低下により、しっかりと掴めているかが不安になる。
だが、マスターとして最後に務めは果たすべきだろう。
駆け出して、倒れたグレムリンとフェアリーラットを掴む。
マンイーターから少しでも距離が取れれば良い。
ヤバいと感じたら、フェアリーラットをこちらに退却させてキメラの翼を放り投げれば良い。
そうしていると、何かが視界の端を掠めた。
皮膚が擦れた。
軽く血が滲み出ている。
だが、全く痛くない。
痛く…ない…?
感覚そのものが、無い。
嘘だろう?
足も動かせているのか分からない。
感覚が鈍い。
嘘だろ…。
そんな、もっと早くキメ…ラ……
§
レイカが倒れた後、マンイーターの攻撃が一度己から逸れたところを狙って、繰り出されたフェアリーラットの攻撃がマンイーターを倒した。
マンイーターは大人しくしなしなと萎れたままレイカを見ていた。
「もし食べたら、もうここに来る人間はいなくなるんよ」
マンイーターは植物系としての最高位の存在を背後に感じた。
「もし、そこのレイカに着いていくんなら、肉を食べる機会には恵まれるだろうね。人間のものかどうかは別やけど。…どうする?」
マンイーターはのそのそと地面を摺りながら、レイカに近付くと、そのまま触手を伸ばした。
「そうか、それが君の選択なんだね。じゃあ、帰ろうか」
マンイーターは巻き付けた触手の中のものを、高く高く空へと掲げた。
世界は歪み、捻れ、そして流浪し暗転する。
カレキの王の間が映し出された。
闇に光が差し込み、流れは停まり、捻れと歪みは正される。
§
「…カ、レー…カ!!…レーカッ!!」
ホーリィ王女…だ。
そうか…。助かったのか…?
手に握っているものを目の前に引き寄せると、やはりそこにはキメラの翼…ではなく、高価なネックレスとブレスレットがあった。
「あれ…?」
「ああ、レーカ。目を覚ましたのですね。わたくしのぱぷぱふ看護が功を奏したのでしょう」
…私はもっと早く目覚めるべきだったのかも知れない。
「あら、それは…」
マスターとはいえ平民の私には似つかわしくない、明らかに高価なそれ。
私は以前にお姫様がグレムリンを仲間に旅の扉に出掛けた件を思い出した。
「もしかして、殿下のですか?」
「はい」
私がそれを返すと姫は静かに笑いながら言った。
「わたくしが、マンイーターに食べられた時に落としたものです」
驚いて姫を見ると、その形は崩れてマネマネへと変わってしまった。
思わず後ろへと下がると、マネマネの後ろからホーリィ王女が現れた。
「こら、驚かしてはいけませんよ」
…ああ、王女の手持ちの魔物のイタズラだったのか。
少し安心した。
マンイーターに食べられたお姫様はいなかったのだと。
「…実はわたくしも、マネマネなのですけれどね」
二人目のホーリィ姫も、モシャスを解いてその本性を表した。
安堵は次の恐怖の為の布石に過ぎなかったようだ。
私は疲れと恐怖と不条理の余り、再び気絶した。
§
「少し驚かせてみただけなのですが…」
十体のマネマネに囲まれたホーリィ姫は、再び気絶したレイカを膝枕して、その額を撫でている。
彼女はこわいはなしの本を幾ら読んでも臆病にはならず、勇敢なままだという、スプラッタジョークが大好きな18歳である。
彼女のジョークは、客観的に見てそこそこ性質が悪い。
「お爺様を諌めていたわたくしは、レーカにだけ見えている亡霊で、たからこそ私が諌めてもお爺様の反応が鈍かった…と言ったらどんな顔で驚いて下さるでしょうか」
いや、かなり性質が悪いと言えるだろう。
ウットリとしながら、己よりも僅かだけ歳上な青年の髪を指で弄びながら笑う。
絶世の美女である故に、恐ろしさと美しさが同居していて尚更に恐ろしい。
「お爺様の方が亡霊に見えるので、騙されてはくれないかも知れません。そうですわね。
御爺様とわたくしがレーカだけに見えている亡霊という設定なら、リアリティがあって良いのでは無いでしょうか?」
周囲のマネマネの半数はキャッキャと同調していたが、もう半分くらいのマネマネは、とっとと寿退社したそうにしていた。
「何かレーカがわたくしに仕出かしてくれれば良いのですが。
真剣に追い詰めた振りをしたら、カワイイところを見せてくれると思うのです」
彼女はレイカの冷静なようで、本心は臆病なところを一目で見抜いていた。
そういうところを克服していく様を見るのも格好良いと思うし、それを隠そうとして隠せていないのもゾクゾクさせる。
自分好みの男が成長していくのも、分不相応な癖に、既に成長の必要が無い程のハイスペックである振りをしているのを、敢えて気が付かない振りをしているのも、どちらにしても彼女にはとても美味しい展開であった。
配下のしにがみきぞくとマネマネを引き連れて、敢えて最初の扉の最奥に自分のアクセサリーや、バザー市場で買った作り物の人骨を置きにいった演出が、予想と寸分違わずの彼の反応を引き出してくれたので、今晩もぐっすりぐっしょりと眠れそうだ。
彼女はある意味において、このカレキの国で一番の魔物と呼べる存在なのかも知れない。
『始まりの扉』クリア!!
手持ちメンバー
グレムリン
フェアリーラット
フェアリーラット
マンイーターが仲間になった!!
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