ドラクエモンスターズ カレキの国のアンダーランド 作:極薄饂飩
…………。
あれから、ホーリィ王女には冗談だと伝えられたが、正直なところ本当に冗談なのか、未だ僅かに疑いは晴れない。
カレキの国で生きているのが実は私だけでした。
カレキの国は住民諸共滅びた廃墟で、住民は幽霊でした…というオチがあっても、もう納得してしまえる。
ドラクエ3のテドンの村で一度使われた手法だけに、カレキの国がそうであっても、別に不思議な話ではない。
………………。
うん、考えるのはやめよう。
でも星降の大会に優勝したら、あわよくば王女様と…という考えが吹き飛んだのは事実だ。
流石にマネマネか幽霊かも知れない女性には本気になれない。
多様化が叫ばれる現代だが、テリーのワンダーランドの発売時は平成前半だった事を含めて、そこは許してもらいたい。
私は早速配合にしに行くことにした。
「…カレキ王?」
「いや、よく間違えられるがわしは気の良いモンスターおじさんじゃ。宜しくな。
で、ここでは配合と付加と卵の鑑定と祝福が出来るが、まず説明から始めようか」
…いや、どう見てもカレキ王だった。
これはアレなのか。
タイジュの国でメダルおじさんと名乗っていた、本人以外からは即バレなタイジュ国王の派生パターンなのだろう。
幾らメダルおじさんが国の有力者とはいえ、王妃の部屋に入り浸っているのが王様とは別人のおじさんなら、王妃共々関係を疑われて処されるだろうから。
しかし、気になることがある。
「はい・いいえ で答えずにすみません。
もしかして、私が配合関係を無料にしてくれと頼んだから、経費削減で自ら担当されているのでしょうか」
そう。
この王の奇行が、私の発言のせいであったら、その奇行を訝しむ権利さえ、私には無いのだから。
「…いや、何のことか分からんが、これは趣味じゃ。前任者はもうよい歳だったし、わしや孫娘が一番配合をさせているから丁度良かったのもある」
………趣味、なのか。
それは良かった。
私の責任でなくて本当に良かった。
そしてカレキ王自身もかなりの御歳なので、次の後任者を即急に見付ける必要がありそうだ。
下手に突っ込むと、その役割を任されて、本当は廃墟かもしれないカレキの国に永遠に閉じ込められる事になるかもしれない。
それは勘弁して欲しい。
ちょっとこの世界は、気が付かないけど裏面がホラーな雰囲気あるから好きになれそうにない。
「分かりました。グレムリンとフェアリーラットでお願いします」
「よし、心得た…はて、これは王女のグレムリンでは…まあ、よかろう」
そして一晩が経った。
一晩で妊娠して出産出来るとか、魔物の繁殖力は恐ろしい。
「生まれたのはグレンデルの卵じゃ、そのまま孵化させるかの?」
…あっ、グリズリーではなかった。
…まあグレンデルもMP、素早さ、賢さ以外の伸びは高性能だし。
私はグレンデルを連れてバザー市場で薬草を幾つか買うとと、次の旅の扉へと向かうことにした。
その途中で、ホーリィ王女様に会った。
「わたくしのあげたグレムリンは元気にしていますか?」
「…あ、配合に使いました」
「…………」
とても気まずい。
「……良かったら、どうぞ」
それもなんとなく違うと思ったが、私はグレンデルを渡す事にした。
さて、どうしようか。
「もし、宜しければもう一体グレンデルを用意しますので、そのグレンデルとお見合いさせませんか」
「…ええ、よろこんで」
何とかなりそうだったので、最初の扉で再びグレムリンを捕まえて育てて、グレンデルを用意した。
ちゃんとお姫様のグレンデルと性別は別にしてある。
仲間にしたグレンデルの経験値獲得の為に、敢えてフェアリーラット一体で挑み、フェアリーラットとグレムリンだけで戦闘を繰り返してレベル上げに勤しんだ。
さて、私としては連れて行くのは些か抵抗があるのだが、マンイーターを牧場から連れて行く事になった。
流石に孵化したばかりのグレンデル一体では洒落にならない。
牧場はかなり小さかったが、これでも他に殆どマスターがいないから何とかなりそうではある。
ふと足元を見ると、卵があった。
先を見るとデンタザウルスがいる。
恐らくは母親だろう。
これは怒らせない様にしようと、そーっと下がろうとすると、デンタザウルスはそのまま向こうに去ってしまった。
育児放棄かと最初思ったけれど、もしやアレだろうか。
タイジュの国でテリーに卵をくれたスカイドラゴンと同じようなイベントなのかもしれない。
スカイドラゴンの卵って、高所から産み落とされるようだけど、アレはテリーではなく地面に落ちたら割れなかったのだろうか? 若しくはテリーにぶつかってもダメージがある程の重さではなかったのか? 等の疑問はあったのだが、今は置いておこう。
デンタザウルスか。
特殊配合の材料として考えると、ミルドラース(変身)に使う事で有名だが、メタルドラゴンやスライムボーグの材料にもなる。
単体で見ると、成長は遅いが弱くはない。
特に守備力とMPの上がり方はそれなりのものだ。
悪くはない。
私はさっそくカレキ王、もといモンスターおじさんに孵化を依頼した。
話はズレるが、魔物とモンスターが併用されているので、ドラクエの世界は微妙に面倒だとは、この世界に来る前から感じていた。
まあ、別に良いけれど。
取り敢えず、特殊配合で作れる魔物で三枠埋まったのは良い事だ。
安心感が違う。
元の世界では、大学に通いながら友人と会社を起ち上げて、人事部長をしていた。
データベーススペシャリスト試験に合格していた事から、友人に人事を任せられたのだ。
とにかく統計的な傾向を最重視していた。
例えば新卒と中途の能力的な傾向。
有名大卒とそうでない大卒と高卒の能力的な傾向。
美形と醜形の営業成績の傾向。
難しい質問をした時に、すぐ答えられる人とそうでない人のIQの傾向。
MBAを取得した者の成功確率。
親の資産の多少と、子供の知能の傾向…
膨大なデータを集めて、それらの傾向を見ることに終始した。
勿論例外もあったが、大きな枠組みとしては成功していた。
人間の内面を見ることは自信がなかったが、データを把握する事には長けており、会社の人事としては非常に成果を上げられていたのだ。
堅実過ぎて挑戦は無かったが、ベンチャー企業を起ち上げる時点で十分な挑戦であったから、要素要素としては堅実であろうとするのは、間違っていなかったと思う。
二つ目の扉で特殊配合三体を揃えた状態というのは、その基準から言えば十分だと判断した。
マンイーターのステータスは、所謂高卒レベル以下の大卒者に近いのかも知れないが、それはそれで構わない。
因みにはねスライムの最終的な合計種族値は驚異の2800程度で、マンイーターは1800。
なのだが、素早さと賢さ、特に賢さは限界値が低い。
全ての魔物に共通することだが、HP、MP、攻撃力、防御力は999が上限だとしても、素早さは511、賢さは255が上限だからだ。
よって、賢さが600程上昇する余地があったとしても、それは無駄なステータスとなる。
マンイーターは、MPの伸びが高くそこが評価出来る。
植物系全般に言える事としては、他種族だと上がりにくいMPには難が無い代わりに、上げ過ぎても無駄となる賢さにステータスの配分が高い事だ。
かりゅうそう、ローズバトラー、わたぼう等は攻撃力も高いが、アレらは例外だろう。
しかし、マンイーターも熱系統以外の呪文には弱いデンタザウルスには、耐性面で優っている。
雇われやすい労働者はいるが、どんな雇用主にも雇われない程の労働者はそうはいない例と言えるだろう。
さて、マンイーターとグレンデルとデンタザウルスを連れて、私は旅の扉の間に来た。
『統制の扉』『自由の扉』
また意味深な名前だと思う。
私は統制の扉を選んだ。
どの道、両方行かなくてはいけない。
自由の先に統制が待つよりも、統制の先に自由がある方がまだマシに思えたからだ。
自制心ある生徒が多い、有名な進学校程校則が緩い的な理屈で。
世界の扉に飛び込んだ。
世界は歪み、捻れ、そして流浪し暗転する。
回転型ジェットコースターを緩やかにしたような気持ちの悪さ。
本当に気持ちが悪い。
三度目の旅の扉の扉も、やはり慣れなかった。
いつか、慣れる日が来るのだろうか。
その前に帰れるのなら帰りたい。
帰れなくて、旅の扉に慣れるというのも望む所ではないのだから。
山の麓に立ったまま、この扉の向こうの世界に再構成された感覚。
まるで最初から立っていたような感覚は、平行世界の私に憑依したかと勘違いさせる程自然だった。
あまりに荒唐無稽な推測は、逆に妄想を現実に引き寄せてしまうようでやりたくはない。
だが、怖い想像ほど止められない。
辺りにはフェアリーラットが飛んでいる。
じんめんちょうと戦っているものも多い。
じんめんちょうは、大して強くはないが、ギガスラッシュが効かないという変わった特性を持つ魔物だ。
無論、序盤でギガスラッシュを使う敵は出てこないはずだろうが…。
しかしじんめんちょうはとにかく不気味だ。
おじさんの頭やお姉さんの頭に大きな翅と脚が付いている。
勿論首から下はない。
生理的嫌悪感と、生者を仲間に引き込もうとする死者の様な不気味さを感じさせる。
因みにタイジュ産のじんめんちょうは仲間を呼ぶを覚えており、そしてじんめんちょうへの仲間を呼ぶは、ギガスラッシュ同様に効かない仕様だ。
まだフェアリーラットの方がマシだと思えたので、じんめんちょうを中心に戦った。
マンイーターがじんめんちょうを襲う様子は、引き千切られた人間の首を食べているようにしか見えなくて、少し吐きそうになった。
配合で生まれたグレンデルは、初期ステータスが高い分だけ、他の二匹よりも活躍した。
こんな見た目だが、パーティー唯一の回復役だ。
デンタザウルスは仲間を呼ぶ以外には、未だに技を覚えない。
恐らく下級の技ではなく、いきなり中、上級の技を覚えるのだろう。
それにしても仲間を呼ぶの仲間って何処から来るのだろうか?
謎は尽きない。
マンイーターは麻痺攻撃とデインを持っていた。
もしあの時麻痺攻撃が、私の魔物に当たっていたらと思うと、流石に恐ろしく感じる。
フェアリーラットとじんめんちょう以外には、ピッキーとスライムがいた。
じんめんちょうとピッキーとスライムは仲間にした。
ドラキーはいなかった。
ドラキーはピッキーとスライム系ので作れる特殊配合で、配合面で言うなれば、実はそれなりにレア種族と言える。
私は仲間に出来る魔物は、なるべく仲間にしていくつもりだ。
配合の材料は多いに越した事はない。
背後に仲間を増やして、更にその背後には屍を積み上げる。
それがモンスターマスターだと、私は認識している。
この扉の難易度としては、最初の扉と大きくは変わらなかった。
私はまたしても三層目でボーナス部屋に当たった。
今回は道具屋だった。
セーブは出来ないが、それでも薬草を買えるのは大きかった。
さて、準備は出来た。