ドラクエモンスターズ カレキの国のアンダーランド   作:極薄饂飩

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支配者を支配する力

 統制の扉の最奥は、まるで蜂の巣だった。

 いや、真実蜂の巣だ。

 フェアリーラットが何体も密集している。

 壁のように集まって、中央の通路だけを開けるように分かれている。

 左右に揺れてはいるが、真っ直ぐ進めば当たらないだろう。

 …襲って来なければ。

 

 グレンデルにフェアリーラットに纏めてマホトーンを掛けさせる。

 フェアリーラットはマホトーンへの耐性が弱いから、よく効く。

 これでマヌーサが掛けられる恐れはなくなった。

 

 中央突破する侵入者を素通りさせる程、フェアリーラットも無能ではないようで、波がこちらに押し寄せたタイミングで、一〜三体ごとに襲ってくる。

 

 一度に来られても堪らないが、それはそれで同士討ちも狙える。

 もし受け流しを覚えていたら、その時は大活躍しただろう。

 …これだけの数を揃えられたら、攻撃が通らない魔物を無視して、最初から私を直接襲う事もあり得るが。

 

 

 

 いや、そろそろ慣れるべきだ。

 この世界で魔物に出会ってから、私は常に自分の(・・・)身の危険だけ(・・)を気にしてきた。

 

 私は星降りの大会で勝てなければそもそも戻れない。

 この枯れた国で、今後を過ごす事になる。

 それに、私は誓ったではないか。

 あれはかくれんぼう以外の魔物を知らない故の、魔物の恐怖を知らないが故の自惚れが言わせた戯言であったかも知れない。

 

 だが、それでも誓ったのだ。

 枯れ木に花を咲かせると、この国の希望は未だ枯れていないと証明するのだと。

 

 

「三体とも戻って来てくれ」

 

 この階層の一番奥まで三体と共に下がる。

 フェアリーラット達の両壁は徐々にこちらに伸びては来ているが、こちらを警戒して、一定以上には伸びてこない。

 …ここで良いか。

 私は群れの奥に向けて宣告する。

 

 

「私達は最底の階層までやって来たんだ。

今度はお前達から来い。

こっちはこれ以上逃げ道は無いんだ。

遠慮なんて要らないさ。

何なら、全員纏めて来ても構わないぞ。

私は君達よりも弱いが、私のツレは君達よりも強い」

 

 

 奥から喚くような声が聞こえた。

 直後、物凄い速度で戦闘のフェアリーラットが突っ込んで来た。

 私達の背後には壁がある。

 故に前、右、左の三方向からしか敵の攻撃は来ない。

 そしてフェアリーラットの攻撃手段に、遠距離のものは無い。

 

「全てを叩き落とせ」

 

 グレンデルが、デンタザウルスが、そしてマンイーターが、フェアリーラットを叩きのめす。

 野生のフェアリーラットに勝てるようなメンバーを、勝てるレベルまで仕上げたんだ。

 攻撃力と素早さのステータス差により、MPを使わず先制の通常攻撃で、一撃で倒せる面子ばかりだ。

 敵が次から次へとやって来ているが、同じ速度で倒せている。

 

 …実はまだ一つ敵の進路は残されている。

 

 

 視線だけ上へ向けると、予想通り私を狙ったフェアリーラットが一匹、真上から突撃してきていた。

 相手が不意を打てたと油断しているのなら、それこそが相手の不意というものだ。

 擦って動かした片足を軸に、身を捻って回避すると共に拳で打ち抜く。

 蝶の様に舞い、蜂の様に刺す。

 高校時代にはボクシング部のキャプテンをしていたんだ。

 この程度なら何とかなるさ。

 美人アスリートと呼ばれた母と、そんな母を妻に出来る財力と権力を持った父に感謝しないといけない。

 人間の才能も魔物の才能も、生まれがほぼ全てだ。

 優れた両親の配合によって生まれた事に感謝せねば。

 勿論私の両親は、魔物とは違い、私が生まれた後に失踪したりはしていない。

 

 …それにしても、フェアリーラットを殴り付けた手が痛い。

 私が人間の上澄みだとしても、やはり戦闘という形においてはフェアリーラット一匹で腕一本損傷する弱者だ。

 人間は魔物よりも脆い。

 …フェアリーラットが思いの外硬くて、左手はもう使えそうにない。

 痛みは何とか耐えるしかない。

 薬草って本来は人間にも使えるのだろうけど、以前の失敗もあるしここは温存しておかなければならない。

 

 

 

 魔物の群れ()は晴れた。

 残された哀れな扉の主(ヘルホーネット)は、それでも不敵にこちらを睨み付けている。

 

 例え兵を失ったとしても、それは王が哀れまれる事にはならないという事か。

 王国の核は民でなく王であり、民が滅んでも王がいるのであれば、王国は健全だ。

 その王一人は、全ての民を足したよりも価値がある。

 それが王国の本質だ。

 

 王国が滅び、当時の民が死に絶えても、王の権威だけは残したピラミッドがあるように、死した後でさえ、王の価値は民より高い。

 

 

 私達の会社も、本質的には創立メンバーだけで成り立っていた。

 いや、リーダー(アイツ)だけであの会社は成り立っていたと言っていい。

 結局のところ、あの頃の私も、王ではなく民であった。

 

 だが、今は違う。

 私もまた王だ。

 

 

 私は社長であった幼馴染の生き方を思い出し、トレースする。

 生まれ持っての強者で、何と戦っても勝ち続けた男の思想を。

 

 

 弱者を切り捨てる。

 弱者を受け入れない。

 弱者を拒絶する。

 弱者には、弱くて悪い者も、悪さ故に弱いフリをする者もいる。

 弱いだけなら足手まとい。

 弱くて悪い者と、弱いフリをした者は、足手まといな上に害悪。

 

 私の仲間に弱い者はいない。

 ステータスに裏打ちされた価値がある。

 弱いのは、無価値なのは、────私だ。

 

 弱い私は生きていてはいけない。

 放っておいて見殺しにするのではなく、積極的に殺さねばならない。

 だからこそ、この場で一番弱い私を、私自身が(・・・・)抹殺しなければならない。

 そうすることで、足手まといはいなくなる。

 

 私は弱い私を殺して、強い(アイツ)の在り方を再構成する。

 

 私は私を強き王だと認識する。

 仲間の魔物を優秀な臣下だと認識する。

 搾取されるような平民はいない。

 私達は皆、奪う側にある。

 故に私達は強い。

 この世に生き延びるべき一群(集団)だ。

 生き延びる価値があるのなら、敵を排除してでも生き残る責務がある。

 

 

 

 およそ普段の己(怖がり)とは対極の思考を貼り付け、それを固着させる。

 普段の己(役立たず)では、生き残れない。

 その為の精神の再構成だ。

 役立たずは生き残れない、ではない。

 役立たずは────生き残らせてはいけない。

 

 世界に弱者は存在していても良い。

 けれど自分達の側に弱者を存在させてはいけないのだ。

 弱者がいない強者だけの集団で、弱者相手に無双する。

 

 世の中には満遍なく弱者がいて、自分達は強者だけで揃えれば優越出来る。

 私は強い。

 グレンデルは強い。

 デンタザウルスは強い。

 マンイーターは強い。

 弱い奴はいない。

 だから勝てる!!

 

 弱き者(カレキの国)を守る為には、私達は強くなければならない。

 弱き者では弱き者を救えない。

 強き者だけが弱きの希望になれるのだから。

 

 元々食らう側として生まれるのが一番良いが、食らわれる側として生まれても、食われる側に成長しなくてはならない。

 食らわれる側で生まれて、そのままの生き方でいる者は、食われたがっているのと変わらない。

 容赦なく食らい尽くせ。

 

 幼馴染で、常に勝ち続けていたアイツの思考を完全にトレースした。

 もはや負ける気はしない。

 

 

「マンイーター、ライデイン」

「グレンデル、身代わりでデンタザウルスを守れ」

「デンタザウルス、捨身で特攻しろ」

 

 デンタザウルスには攻撃を、グレンデルにはその防御を、マンイーターには、倒れているフリをしているだけかも知れないフェアリーラットを含めて、ライデインで場全体の制圧を任せる。

 

 時折、グレンデルのベホイミでグレンデル自身を回復させつつ、合わせて薬草も使う。

 デンタザウルスの体力が落ちてきた。

 ここが使い時だろう。

 

「デンタザウルス、メガンテ。グレンデルは精霊の歌だ」

 

 ここからは、デンタザウルスを再利用可能な爆弾として扱う。

 生まれてきて早々に申し訳ないが、それも仕事だと割り切らせよう。

 

 

 目標はヘルホーネット──────ではなく、フェアリーラット軍の第三陣だ。

 右側の一陣と左側の二陣。

 それだけでなく、ヘルホーネットの後ろにも控えの軍団があるのは理解していた。

 私ならそうする。

 だが、感心したのは第三陣が出てきたのは、ヘルホーネットではなく私達の後ろだったことだ。

 

 魔物にしては流石だと思う。

 このヘルホーネットは名将かもしれない。

 しかし、同じく将が優秀なる軍同士が争うなれば、兵士の質が勝負を分ける。

 経営者だけが優秀で何とかなるのなら、人事部なんて要らない。

 使えない中卒を仕入れても、経営者次第で何とでもなる…はずがないから、有名な企業でも有名大卒を好んで採用するのだ。

 

 優秀な私の下で、優秀な兵士が命懸けで仕事をするのなら、優秀な指揮官に率いられる無能な兵士を蹴散らすのなんて訳ないさ。

 

 成果を重ねる成功者と、死にたくないから生きているだけの負け組の差は、僅かな運の差でしかないという者もいるが、それはある意味でのみ正しい。

 その運の中に、親から受け継いだ本人の才能という点を含めるのならば、という前提においての話だが。

 逆に言えば、その他の運の要素等はおおよそ無視できる。

 

 生まれつき足に問題がある者が、オリンピック選手に勝つ。

 天文学的な確率であれば、運によって起こり得る事象かもしれないが、そんなのは例外も例外で良い事だ。

 基本的には能力が高い者が勝つ。

 同じ研修や教育を受けても、毎回成績が出る者と出ない者は変わらない。

 同じ仕事を任されても、大抵同じ人間が成果を出して、同じ人間が足を引っ張っている。

 そこに運が介在する要素は無い訳では無いが、傾向としてはおおよそ能力と結果が比例する。

 そしてそれは、ずっと続くものだ。

 

 三つ子の魂百までとは言ったもので、幼い時から優秀な者は優秀で、無能な者は無能だ。

 ましてや、二十二歳で就職するにあたって、これまで二十二年間有能だった者が無能になることも、無能だった者が有能になることも起こり難い。

 どんな教育や訓練であっても、生まれてから二十二年間という期間を覆す事は殆ど無い。

 だからこそ、これまで有能であったあかしとしての学歴がフィルターとして有効なのだと言われるのだ。 

 

 

 さて、結論を言おう。

 生まれ持った種族単位の差や、野生個体と配合個体の差は埋め難い。

 有能として生まれてきた私の配下は、そうでないフェアリーラットに負けるはずがない。

 

 グレンデルの親はフェアリーラットだが、それは問題ではない。

 配合による個体という事も勿論ある。

 だが、積み上げは必要なのだ。

 親がお金持ちであったから、楽な生活が出来る者を不平等だと僻む者はいるが、親は子供の為により多く稼ぐ為に働くのだから、親の努力は子に利益を(もたら)して当然だ。

 

 受け継ぐものが無かった無配合の野生個体に、配合という親からの受け継ぎで生まれ持って有利な個体が勝つ事は、理不尽でも卑怯でもなく、当然の権利であり、当然の使命だ。

 

 

 デンタザウルスの生命エネルギーが爆発し、それは精霊の歌で引き戻される。

 何度も、何度も────何度も、だ。

 幾度となく繰り返されたその後には、もはや動けるフェアリーラットの姿は無かった。

 

 

 再び幽鬼の如く復活したデンタザウルス。

 グレンデルにはもうMPは残っていない。

 マンイーターもMPが尽きた。

 

 手札は残りは特技も使えず、単調に殴り付ける以外にはない。

 

 だが、それで十分だ。

 

 

 

 

 

 

「さあ、叩き潰せ」

 

 

 

 

 ヘルホーネットは最後まで誇り高く戦った。

 配下などいなくても、たった一つの命だけで王国が存続することを証明していた。

 だが、遂には落日の時は来たれり。

 

 

「私達の勝利だ」

 

 多勢に無勢。

 無勢の側に圧倒的な才覚があれば話は変わっただろう。

 しかしヘルホーネットは、将としての才は(アイツ)を下回り、兵としての才はグレンデル達を下回っていた。

 

 倒れて尚、ヘルホーネットもフェアリーラット達も、媚びた目は向けてこない。

 それでも最早動かない。

 いや、動けない。

 動く気力をへし折れたのだろう。

 

 十分、十分良くやった。

 私は相手が屈服したのを見て、アイツの思考を取り外した。

 (アイツ)は私に戻った。

 

 その直後だった。

 ヘルホーネットの毒針が真っ直ぐ私を向いた。

 マンイーターの触手が庇ってくれなければ危なかった。

 

 …なるほど。

 本能的に弱い私に戻ったことを察したのだろう。

 アイツの思考をトレースした私であれば脅威だが、素の私程度なら勝てると見込まれたのだろう。

 これ程までに露骨に他者からの評価の差を見せ付けられると、アイツがいない私には価値がないのだと思い知らされる。

 

 ならば良い。

 アイツと同じやり方で教育してやる。

 昔アイツが私達を教育したやり方で。

 アイツではなく、この私が教育してやろう。

 

 

「マンイーター、その蜂をゆっくりと嬲って潰せ。

デンタザウルスは動いているフェアリーラットを叩いて周れ。

もう殺しても良い。

グレンデルはMPが回復したなら時折ベホイミをかけてやれ、その蜂にな」

 

 

 

 時間にして数時間が経過しただろうか。

 ヘルホーネットは動かなくなった。

 死亡はしていない。

 フェアリーラット達とは違って。

 ただ、動けるのに動こうとしなくなったのだ。

 その理由を考える必要はない。

 

 

「グレンデル、精霊の歌だ。

殺したフェアリーラット共を生き返らせろ」

 

 

 

 死者は蘇る。

 この場から死体はいなくなる。

 此処には生者しか存在しない。

 されど、生者らしい騒がしさは此処には存在しない。

 

 蜂とその配下は、今度こそ完全に屈服した。

 私はアイツと同じことをしても、アイツと違って加減が分からない。

 他人を痛め付ける事に慣れてはいないので、上手く出来ないのだ。

 私は使えない者を切り捨てる事はあったが、手元に置いたまま痛め付けた事はない。

 痛め付けなくても逆らわず、それでいて優秀なものしか配下にしようとは考えなかったからだ。

 そんな私が敢えて誰かを傷付けようとすれば、これは予想が出来た結果だ。

 

 

 …さて帰ろうかと考えた時、大量のじんめんちょうが雪崩込んで来た。

 生きているだけの無気力なフェアリーラットに襲い掛かっている。

 

 

「蜂と蛾は戦争中やったんや。

蜂の側が弱ってたら、それは蛾が叩きに来るに決まっとる」

 

 その声に私は咄嗟に振り向くと、そこには何もいなかった。

 けれどその声には聞き覚えがある。

 かくれんぼう。

 わたぼうやワルぼうの同類で、何処かの世界樹の精霊。

 私をこの世界に呼び込んだもの。

 

 

 再度前を見ると、カレキの国に戻れそうな穴と、私を見るヘルホーネットがいた。

 

「着いてこい。お前の敵にも敗北を与えて、侵略を止めてやろう」

 

 

 ヘルホーネットは、平伏す様に私に頭を下げた。

 それを見て私はカレキに続く穴に飛び込んだ。

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