戦車から降りようとしたら、隣に乗っていた眼鏡を掛けている子の足が震えている事に気づく。
普通に会話してた気がするのだが、内心は70キロ近いスピードで走行していたため、怖かったんだろう。
「足震えてるけど手伝い必要そうか?」
「手伝ってほしい」
「なら後ろに乗ってくれ」
乗ってくれとは言ったものの、立てなさそうだったので、しゃがんでから背負った。
そのまま背負って戦車から降りたが、明らかにまだ足が震えてるのが分かる。震えが止まるまで少し待つか。
なんかおんぶをしていると、戦友を思い出す。
「もう、大丈夫、降ろしてほしい」
そう背負ってる子に言われたので降ろす。
めちゃくちゃ恥ずかしそうに言ってたが、そんなに恥ずかしいか?
負傷者を運ぶ時は背負ってたりしたから個人的にはそこまで恥ずかしいと言うことはない。
そして後ろを見ると沙希って子が、柳田に背負われていた。
もはや柳田の背中で寝ようとしてる。
大丈夫なのかこの子は。
「羽黒さん、この戦車は一体?」
「帝国陸軍のチトを現代の技術で作った物かな」
「それは、新型戦車を開発した方が良かったのでは?」
「明らかに新型戦車を作るより予算が掛かってる」
蝶野さんが、よく分からんみたいな顔をされているが、正直にいうと俺にも分からん。
普通に新型戦車を使った方が良いと思うが俺だけなのだろうか。
「予算の話で思い出したが、柳田は給料は何に使ってるんだ?」
「ほぼ貯金ですよ。使う機会が無いです」
「日本に帰ってきてからも、大洗だしな」
「中佐は使うんですか?使わなそうですけど」
「基本貯金で、何かあったときに使ってるかな」
うん?電話が鳴ってるのだが、こんな時間に掛けて来るのなんて朝霧少将でしょ。
そう思って見てみると、参謀本部と表示されていたので仕方ないし電話を取る。
『混成第一部隊、隊長の羽黒です』
『お久しぶりです。参謀本部の雪島です』
『お久しぶりです。それでどういった要件で?』
『混成第三部隊が壊滅寸前の状況なので、第三部隊を廃止して第一部隊に統合する案が現在出てるのですが、羽黒中佐のご意見も伺おうと思いまして』
『混成第三部隊って佐田少佐の意見はどんな感じですか?』
『後方支援部隊に戻りたいと言ってますね』
『あの方が賛成してるなら、こちらとしては賛成です』
『賛成という事で、上層部に伝えておきます。それではまた何かありましたら連絡いたします』
そう言われて電話を切られた。
なんか部隊が大きくなりそうだな。
大きくも小さくもなって良いように中隊や旅団などを名前に付けてないのでまぁ良いか。
「中佐、なんの電話でした?」
「混成第三部隊を廃止して第一部隊と統合する話がきた」
「第一部隊に合流する感じですか?」
「分からないが部下が増えるのは確実だな」
そんな事を話している間に、他のチーム?の人も集まってきた。
戦車道って思ったより履修者が居るじゃん。
スマホをもう一度見てみると部下からLINEが入ってるが…あいつのLINEは見なかったことにしたい。
「ほいでさ、柳田はその子をいつまでおんぶしてるんだ?」
「全然降りる素振りを見せない物でして、驚きですよね」
「警戒心というのはこの子には無いのか」
何この子、もう連れて帰れば良いのか?
連れて帰った所で面倒を見るのが大変そうなので是非、ここに置いていって欲しいものである。
「何なら寝ようとしてますよ」
「……何故こうも変な奴ばかり周りに集まるのだろうか」
そんな事を思っていると、蝶野さんがヒトマル戦車にメガホン片手に登り始めた。
あなたの声量ならメガホンは要らないと思うのですが、そんな事を言えるはずもなく、
「みんなグッジョブ!ベリーナイス」
蝶野さんがルー大柴みたいな事を言い始めた。
戦車の上から叫ぶ人って側から見たら、変な人だな。
「初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ!羽黒さんからは何かあります?」
何故この人は俺に振ってくるのか。
てかこの人が俺に敬語を使ってくる度に、他の生徒から変な目で見られる。
階級的には俺の方が上なので仕方は無いか。
とりあえず柳田の方を見てみたが、目を合わせてくれなかった。
本当に部下なんですかこの子。
「練習を全く見てないので、そっちは何とも言えないがその服についた煤や染みは早めに落としたほうが良いぞ。取れなくなるかもしれん。柳田からはなんかあるか?」
「え?私?…そうですね。操縦は出来てるので、戦車をしっかりとすることですかね」
めっちゃ柳田からは見られては気がするが、無視をしよう。
そんな中俺にまた電話がかかって来た。
先ほどの部下からか。蝶野さんが話し始めたのでとりあえず俺は少し離れたところに急ぐ。
「もしもし、どうした?」
「あ!隊長の声だ」
「そりゃそっちからかけて来たんだから、声を発するでしょ」
「LINE見てくれた?」
「見たけど、こっちに本当に来るの?」
「うん。行くけどダメ?」
「良いけど、家とかどうするの?」
「そんとき考える」
「どうせ、ダメって言っても来るんでしょ?」
「よく分かってるね」
「何年一緒にいたと思ってるんだ。とりあえず着いたら連絡して欲しい」
「分かったよ。またあとでね」
そう言われて、電話が切られた。
なんかめんどくさくなりそうだが、これも運命と割り切っていこう。
そう思いながら、柳田の方に戻ると多分蝶野さんと皆が礼をしている。
それでも相変わらず、柳田はおんぶをしたまま。
「羽黒さん私は先に帰ります。山下大将にもよろしくお伝え下さい」
そういうと、蝶野さんは戦車に乗って帰って行った。
「なんか凄い人でしたね」
「軍人って変な人しか上がらないのか」
「それなら私たちは相当頭のおかしい人ですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないからこんなことになってるんだろう」
「それもそうでしたね」
「てか、おんぶしてる子をあっちに預けてこなくて良いのか?」
「なんか大浴場行くとか言ってたんで、預けてきます」
柳田が、戦車道の人たちの方へ走っていった。
軍人になってからあんまり考えたことなかったが、大人をおんぶして走るのって案外大変なはずなんだけどな。
慣れというものは怖いものである。
またLINEが来たと思ったら次は朝霧少将からか。
嫌な予感しかいないのは、なぜだろうか。
見てみると『明日の12時に横浜駅に来てくろがね四駆を渡す』と書かれていた。
あの人同じ関東なら近いだろうと横浜を選択しているが、実際はクソ遠い。
もうほぼここは南東北である。
『中佐、今戻りました」
「なんとか預けてこれたか」
「説得するのが大変でしたがね」
『一体あの子は何に固執してるんだ」
「分かりませんが、なんとかなりましたね」
「そう言うもんか?」
「多分そう言うもんですよ」
「なら良いが、さて、戦車を戻しに行くか」
「帰るのも一苦労ですね」
そんな事を二人で話しながら戦車を倉庫に戻しに行った。
やはり坂をすらすら登れる戦車は良いものである。
チハは…お飾りだねあれ。
戦車を戻した後は、そのまま家まで二人で帰り、今は自分の部屋で朝のことを考えている。
大洗から横浜まで行くのがめんどくさすぎるが、頑張るしかない。
戦車を高速で走らせたら道譲ってくれたりしないだろうか。
そんな事を思いながら1日が終わって行った。
あとがきもないね