【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~ 作:ウルハーツ
9月24日。午前。悠達は学生のため、どんなに焦っている状況であっても授業を受けざるを得なかった。授業を受けている悠達だが、その誰1人として集中できている者は居ない。それもその筈。今この時にも自分達の友である零がテレビの中に居るのだ。許されるのならばきっと授業を放棄してでも助けに行きたいだろう。
だが、現実的にその行動を行うのは不可能だった。零が何の連絡もなしに無断で休んでいる事になっている学校で、今現在『零がテレビの中に入っている』と伝えて信じる者など誰も居ないのだから。テレビの中と言う存在を知っている悠達のみがそれを知り、悠達のみが零を救えるのだ。
先生の話が普段よりも遠く感じる中、雪子は深めの溜息をつく。千枝はそんな雪子の後ろ姿を心配し、小さな声で「きっと大丈夫だよ」と雪子に伝える。少なからずその行動は雪子に元気を与えたようだ。そんな横での会話を横目に見ながら悠は片手でノートを取り、頭の中ではどうやって助けるべきかと考える。悠の背後に座っている陽介は隣の空席を見ながら考え事をしているようで、授業など一切耳に入っていない。
零と直斗の救出を開始したその日、りせの言った通りに危険と思われる場所を後回しにして先に今までどおりに感じた場所に向かった悠達。そこは研究所の様な場所であり、悠達は現れる障害を排除しながら3日をかけて最奥にたどり着くことに成功した。そこに居たのは探偵王子こと【白鐘 直斗】だった。そこで悠達は直斗に関する【衝撃の事実】を知った後に救出に成功し、昨日は救出後と言う事もあってテレビの中には行かなかった。
直斗の救出に成功した。それはかなり喜ばしいことである。が、同時に分かってしまったことが1つ。りせによって言われた危険な場所に居るのは間違い無く零であると言う事だ。悠達は今日の放課後、全員で行動を開始する約束をしている。だが今は授業中。焦る気持ちを抑えながら全員は放課後になるのを今か今かと待つのであった。
「準備は良いか?」
ジュネスのフードコートにて、悠達は集合していた。直斗は事件に巻き込まれたこともあって今現在は大事を取って学校を休んでおり、悠達のメンバーにも参加はしていない。が、最後に分かれた雰囲気などから今起きているこの事件を解決する者として仲間になる可能性は非常に高いだろう。
学生が6人と着ぐるみ1体で集まっている光景は珍しい物の筈だが、何度も来ている+陽介が店長の息子と言うこともあって幸い不審に思われることはまず無い。そのため、周りに居る人々で常連さんなどは『またか』と感じるだけである。
そんな中、自称特別捜査隊のリーダーである悠の言葉に全員が頷く。そしてそれを聞いたと同時に悠は座っていた席から立ち上がり、それと同時に全員も立ち上がる。向かう先は勿論テレビの置かれている売り場。周りに人が居ないことを確認した後、全員はテレビの中に入る。最初に見えたのは霧だらけの光景。それぞれがクマが作ったメガネを掛けてりせを見る。と、何を言われた訳でも無くりせは頷いて行動を開始した。
「……やっぱり凄く怖い。私は私と直斗君のしか見てないけど、こんな場所は多分……他に無いよ」
「抱えている物が大きければその分この世界で出来る場所は反映されて、危険になるんだったよね? じゃあ辰姫さんが抱えているのは」
千枝の言葉に全員の中に浮かんだ言葉は【大きい】の1言。だがその事実を知っても尚、助けることを止めると言う選択肢は悠達には一切無かった。悠がりせに「教えてくれ」と言えばりせは頷いた後に歩き始める。場所の位置が特定できるりせのみが全員を案内出来るのだ。
不気味な世界を歩き続ける悠達。最初にりせが言っていた通りに零の居るであろう場所は距離があり、数分歩き続けた末に徐々に景色が変わりだした事に気づく。先ほどまでのテレビスタジオの様な場所から一変、石が転がり、草が生い茂る野原のような場所に変わっていたのだ。そんな場所を更に歩き続けること数分、りせが立ち止まる。
「……こ、ここに……姫先輩が」
「おい、ここってどう見ても……あそこだよな?」
「【墓地】……だね」
悠達の目の前に広がるのは何処からどう見ても死んだ者たちが眠る場所、墓地であった。
墓地と言う場所は死者の眠る場所。夜などに入ればかなり怖い場所である。そしてここはテレビの中であり、その場所に周りの景色は反映される。結果、目の前に広がる墓地は非常に恐怖を感じさせる場所であった。が、全員はそれ以外にも違う物を感じる。
「何、これ」
「身体が重ぇ。! 何だよこれ、何で俺……震えてんだよ?」
目の前の光景からは恐怖以外の何かが溢れ出ていた。それは決して目に見えるものでは無い物の、確実に悠達の心を震わせて居る。現に最初に言葉を発したりせは今現在、膝から座り込んでいた。彼女は最初にこの場所を見つけた時もこの感じを受け、座ってしまったのだ。それを直に受けてしまえば当然と言えるだろう。だが今回は前と違い、誰1人として彼女に駆け寄らない。いや、駆け寄れなかった。
りせに続いて雪子がその場に座りこんでしまう。そしてそれを境にクマ、千枝、完二、陽介の順で座り込んでしまう。意識が飛んでいる訳では無い。が、その場から動くことの出来なくなってしまった仲間達の前には悠が1人立っていた。そんな彼も表情は非常に苦しそうだ。
「ま、不味いクマ……動けないクマ」
「姫ちゃんが……中に居るのに。こんな所で座ってるなんて駄目なのに!」
背後から聞こえるクマと雪子の声を聞き、悠は座りかけていた身体に鞭を入れるように真剣な顔になると後ろに振り返る。横にはりせが。そして前方には座ってしまった仲間達。
「俺達が行かなければ、俺達がここで座っていれば辰姫は死ぬんだ。怖くても例えプレッシャーを感じても、俺達はここで止まる訳にはいかない。俺達の手で辰姫を救うぞ!」
悠の言葉に座り込んでいた全員が顔を上げる。そして驚愕した。何故なら先ほどまで辛そうだった悠の表情が変わり、何時もの頼もしいリーダーの顔になっていたからだ。全員がそれを見て驚く中、陽介が突然笑う。
「言われなくても、わかってるっての! おい完二! こんな所で座ってたら大好きな辰姫さんが居なくなっちまうぜ?」
「な、何言ってんだゴラァ! 別に俺は姫先輩の事、す、すす、好きな訳じゃねぇ!」
「こんっの! ちょっと完二! その話、後で聞かせて貰う、からね!」
「クマの、ヒメちゃんは、誰にも、渡さないクマ!」
「姫ちゃん、は、クマ君の、じゃないよ? 誰の者でも無い、からね?」
「……あんた達、この状況で、よくそんな話が出来る、わね!」
陽介が立ち上がりながら言った言葉に完二とりせが反応して立ち上がり、完二の言葉に反応したクマが立ち上がり、クマの言葉に反応した雪子が立ち上がる。そしてそんな光景を見ながら千枝が心のうちを大きく言いながら立ち上がり、全員はその場で再び立つことが出来た。それを見て悠は笑う。
「辰姫のことは本人が居る時に話せば言い。俺たちはその時を今日、作らなければいけないんだ。行こう、助けに」
【死者の魂が誘う墓地】
それぞれが立ち上がり、零を救出する決意を改めて深くした悠達。そんな彼らに襲い掛かるプレッシャーは既に意味を成していなかった。それ以上の思いがそれぞれにあるからだ。
自分たちの武器などを手に進み続ける悠達。そんな彼らの目の前に突然異形が出現する。そしてその存在に逸早く気づいたりせが全員に敵の接近を警告。それぞれが応戦を始める。
「気をつけるクマ! ここの【シャドウ】はかなり強い筈クマ!」
「どんな奴が相手でもぶっ飛ばすだけだ!」
目の前に現れる異形……シャドウを前に悠達は臆する事無く慣れた感じで戦闘を開始する。それもその筈。今までテレビの中に入ってしまった人を助ける度に何度もシャドウと戦闘を重ねてきたのだ。りせがサポートする中で敵の行動を考え、殲滅していくその様は既に高校生とは思えない。しかしシャドウの数は中々に多かった。
と、突然雪子が全員に向かって「離れて!」と言う。と同時に雪子の目の前には1枚のカード。全員が離れた時、少し距離がある物の雪子の前方にはシャドウの群れ。それに怯える事無く雪子は目の前のカードを見た後、目を閉じる。
「おいで……コノハナサクヤ!」
そして目を開けたと同時に言い、持っていた扇子でカードを叩いた。目の前にあったカードは割れた様な音と共に消え、代わりに雪子の背後に現れたのは人の姿に近いものの、明らかに人では無い異形……コノハナサクヤが現れる。コノハナサクヤは両手について繋がっている羽の様な物を使って舞うように動く。と、目の前に突然炎が出現。それは徐々に前方に移動し、目の前に居たシャドウ達を焼き払っていく。不思議な事に周囲は焼けず、焼けたのはシャドウのみ。
コノハナサクヤは炎が消えると同時にその姿を消し、シャドウは既に1体も残っていなかった。それを見て雪子は息を吐くと後ろを見る。そこには呆然としている仲間たちの姿。その中で代表するかのように千枝が前に出る。
「ゆ、雪子? 何か威力強くなってない?」
「そうかな? 何時もどおりにやったんだけど」
千枝の質問。それは先ほどの光景が今までと余りにも懸け離れていたからである。何時もは冷静な悠も先ほどの光景には驚いたのだろう。静かに「凄いな」と感想を漏らしていた。が、当の本人である雪子に自覚は無いようだ。それどころか「早く姫ちゃんを助けよう!」と言って歩き出す。そんな雪子を見て誰かが呟いた。『あれが愛の力?』と。
そんな出来事がありながらも悠達は奥に進んでいく。最初止まってしまっていた時とは違い、走り始めた彼らは止まることを知らない。現れる敵を本当に蹴散らし、進み続けていく悠達の目の前に大きな墓石が現れる。この墓石は開くことの出来る扉となっていた。そしてりせがその墓石の向こうを探り、顔色を変えた。
「先輩! この先に居るみたい!」
「分かった。……行くぞ」
悠はりせの言葉に頷き、後ろに立つ仲間達に言う。悠の言葉に全員は頷き、ゆっくりと開かれる墓石の向こうに視線を向けた。墓石の向こう。そこには少し広い円形の何も無い所に1人の少女の後姿があった。長く青い髪をした制服姿の少女は入ってきた悠達に気づくと振り返る。その顔は、その身体は紛れも無く【零】であった。だが違うことが1つ。目の前に居る零の身体から黒い何かが浮いているのだ。
「辰姫のシャドウ……か」
「……」
悠の言葉に何も言わない零。と、何処からとも無く零はスケッチブックを取り出す。そして同じく何処からともかく取り出したペンで何かを書き始めるとそれを悠達に向けた。書かれていたのは『ようこそ』と言う言葉。そしてそこからは書かずにスケッチブックを捲り始める。
『ここは死者が眠る場所。死人はここで永遠の眠りにつく』
『死者が眠るここでの死はそのままあの世へ直結する』
『最奥にある死の台座。そこで私は生を終える』
「『生を終える』って、やっぱり姫先輩は死ぬ気なのかよ!?」
「駄目! 姫先輩が死んじゃうなんて、そんなの絶対に駄目!」
捲られていくスケッチブック。そこに書かれていた言葉はこの場に居る全員を驚かせた。今まではテレビでの零が見せた字だけで予想していた内容だが、今。目の前でそれは確定してしまったのだ。思わず完二とりせが叫ぶ中、零のスケッチブックは止まる事無く捲られる。
『存在する事が罪ならば、死で全ては救われる』
『私の死は救いであり、皆にも知ってもらいたい』
『世の中には死による救いが存在し、それを求める者も居ることを』
零は持っていたスケッチブックを下ろす。と同時に零の背後に静かに文字が現れた。それは零が行っている『番組』の題名であり、全員はそれを見て再度驚く。
【体験 罪となる存在に送られる死と言う永遠】
字を読んで驚く悠達を尻目に零は背を向けると先に進んでいってしまう。雪子が零の名前を読んで行かせない様にしようとするが、そんな雪子と零の間にシャドウが割り込む。全員が武器を取り、戦いを始める中で零はその姿を消してしまった。
シャドウを何とか倒した悠達は零が去っていってしまった方向を見る。先ほどの零が書いた言葉をそのまま考えるならば、この墓場の最奥に零は居る可能性が高いのだろう。全員それは分かっていたため、何も言わずに歩き出した悠に続く形で全員は歩き始める。まだ最奥までの距離は長い。
予定では零の救出編を次話で終了。色々な方が原作の悠達の行動に賛否両論な事から、もしかすると終わり方がお気に召さない方も居るかもです。が、とりあえずは決定して居ますのでご了承ください。
また、今まで零のペルソナの意見等。ありがとうございました。こちらも決定いたしましたので、次回をお楽しみに! です。