【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 ミス八高・コンテストに出る

 10月30日。昼間。『ミス八高・女装コンテスト』・『ミス八高・コンテスト』が行われるこの日、最初に行われる前者の準備をする為に教室に集まって居た悠達。自分達に化粧が施されると言う現実に目に見えて嫌な顔をする陽介だが、千枝はそんな姿に自業自得と言わんばかりに席へと座る様に促す。千枝は陽介に。雪子は悠に。りせは完二に化粧を施そうとする中、教室にはまだ1人。目を引く男子が残って居た。綺麗な金髪に美少年とも呼べる美しい容姿をした男子。

 

「クマはどうするクマ?」

 

「?」

 

 その正体は普段大きな着ぐるみの様な姿をして居たクマの中身であり、零はそのクマと初対面であった……にも関わらず特に驚いた様子も無くクマの質問に他のメンバーを見る。どうやらクマは陽介によって道連れにされた様だが、当の本人は優勝する気満々であった。

 

「辰姫さん、メイク出来る?」

 

 クマの質問にメイク道具を持ったまま傍に居た零へと聞いた千枝。だが零にその技術は無い様で、首を横に振って答えれば再び考え始める。今現在他に手が空いて居るのは、直斗だけであった。

 

「う~ん、じゃあ直斗君と一緒にお願い出来る?」

 

「ぼ、僕もですか?」

 

『分かった』

 

 直斗も余り化粧関係に詳しそうには見えないが、2人でなら何とかなると思ったのだろう。自分がクマをメイクアップすると言う事に直斗が戸惑う中、零は紙で了承の意を伝えると直斗の近くに近づいて首を傾げる。文字を見せ無くとも、どうすれば良いのかと指示を待って居る事がすぐに理解出来た直斗。一度クマに視線を向けて、最初にするべきことを考え始める。

 

「クマ・ヒメちゃん・直斗組で優勝を狙うクマね! まずは素敵にメイクアップクマ!」

 

「そうだね。ならメイク道具を借りて来ます」

 

「むむっ! 勝負は道具選びから始まるクマ!」

 

『3人で』

 

「……分かりました。行きましょう」

 

 自分をメイクする相手が零と直斗であると分かったクマが楽しそうに言えば、するべき事として必要な道具を思いだした直斗。しかしどうやらクマは何事にもやるからには本気な様子であり、零は取りに行く直斗と選びたいクマの意思を酌んで全員で行くことを提案する。直斗はすぐにそれを了承し、そのまま教室を後にする3人。そんな姿を見て居た千枝は大丈夫そうだと安心すると、自分と同じ様に男性陣に化粧をして居る2人を見て……顔を引き攣らせた。

 

「専属のプロメイクさんが居た時はほぼ毎日それを見てたんだから、雪子先輩より私の方が絶対にメイクは上手いよ!」

 

「見て居れば自分が良くなるとは限らないよ? それに私だって旅館でお客さんにお化粧をする場面も偶にあるからね?」

 

「……何であの2人、揉めてんだ?」

 

「さぁ? 何となく想像付くけどさ」

 

 明らかに何方がメイクが上手いかを競い合って居る2人と、それに巻き込まれて化粧される完二と悠。そんな光景を見て陽介が巻き込まれている2人に同情しながらもその原因について疑問に思えば、最近雪子の事に関して新しい理解を持ち始めて居た千枝はその答えをすぐに察し呆れながら答える。そして小さく溜息をついた時、2人は視線の間で火花を散らしながら声を重ねる。

 

≪姫ちゃん(先輩)にメイクするのは私!≫

 

「いや、あたしらは別にメイクする必要ないから」

 

 その後、無事に何とか男性陣のメイクを終えた千枝たちは『ミス八高・女装コンテスト』を鑑賞することになった。結果として、酷い女装を披露することになった悠・陽介・完二。そんな中、熊田として登場したクマがその美少年の様な姿と女の子の衣装を来たことによって満場一致で優勝を手にする事となる。が、その賞品は何と午後に行われる『ミス八高・コンテスト』の審査員の座であった。そしてそこで調子に乗ったクマは爆弾発言を行ってしまう。

 

『午後の審査は、水着審査にするべがなー!』

 

 当然受け入れられないと思った全員。だが主催者である柏木は余程の自信があるのか、それを了承してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ミス八高・女装コンテスト』が終わった後、そのまま『ミス八高・コンテスト』が行われる為に準備をする事になった零達。そんな5人の傍には主催者である柏木を始め、以前林間学校で千枝たちに悪夢の様な鼾を聞かせた女子生徒、大谷 花子もその準備に入って居た。

 

「ねぇりせちゃん、今度あのクマ。始末しない?」

 

「珍しく意見があったね、雪子先輩」

 

「いや、あんたら怖いって」

 

「でもどうしますか? 僕達、水着何て持って居ませんよ?」

 

 控室で雪子とりせが珍しく同調するも、その内容に思わずツッコミを入れながら引いてしまう千枝。そんな傍らで直斗は現状の問題について考えて居た。クマによって強制的に水着審査にされてしまった物の、当然水着等用意して居ないのだ。直斗の言葉に千枝が一瞬、「無ければ参加しないで済むんじゃね?」と期待するが、その期待を裏切る様に袋を持った零が近づいて来る。

 

『クマから。中身は、水着』

 

「受け取っちゃったの!?」

 

 見せられたメモを見て目に見えて落胆する千枝。逃げられる可能性を失ったと分かった時、それを見て居た柏木と大谷が嘲笑う様に話しかけ始める。自分の身体に余程の自信があるらしい2人は千枝が出場したく無い理由に関して『惨めに負けるのが分かって怖気づいて居る』と思って居る様子であり、最初は相手にして居なかった千枝も言われる言葉に徐々にイラつき始めて居た。

 

「アイドルなんて言ってもやっぱり餓鬼よねぇ。心も度胸も……体も」

 

「はぁ?」

 

「どうせミス八高に選ばれ様も無い人達だし、辞退で良いんじゃないですかぁ?」

 

「そうねぇ。どうせ負けるんだから、逃げた方が良いんじゃ無いかしら?」

 

「逃げるですって? 誰がアンタら何かから逃げるかっての!」

 

 売り言葉に買い言葉。柏木の言葉に目に見えてイラついたりせとその後に続けられた言葉にキレてしまった千枝。雪子は何とか千枝を抑えようとするが、怒りが頂点に達して居た彼女を止める事は出来ない様であった。

 

「ここまで喧嘩売られて黙ってられないでしょ! ね? 直斗君も辰姫さんも、逃げる何て出来ないでしょ!?」

 

「?」

 

「僕もですか!? そ、そんな簡単に挑発に乗って……み、水着何て絶対に無理です!」

 

 突然振られた言葉にどうして逃げられないのかが理解出来て居ない様で首を傾げる零と、目に見えて動揺する直斗。するとまだ冷静で居られた雪子が千枝の元に近づいて話しかける。……が、

 

「そうだよ千枝。それに私も姫ちゃんの肌を晒すのは流石に……」

 

「良いのよ~? どうせ私達よりも醜い肌を晒すぐらいなら、無理しない方が良いわぁ」

 

「……ふ、ふふふ、今のはちょっと私もカチンと来たかも」

 

 雪子の言葉を遮る様に言った大谷の言葉が雪子の怒りの導火線に火を付けてしまう。結果、直斗と零以外の3人は見返すと言うモチベーションから参加する気を示し始め、逃げ場所の無い現状に直斗は思わず零に視線を向ける。だが零もまた、自分と同じ様に流されて巻き込まれた者。お互いに視線が合い、零が静かに首を横に振れば直斗は思わず肩を落として憂鬱になってしまう。

 

 『ミス八高・コンテスト』は水着審査の前に出場者の発表として一度壇上に上がると言うプログラムになって居た。紹介される順番は立候補した順番であり、柏木と大谷が最初に出て行く中、今度は千枝たちの番になってしまう。

 

『里中 千枝さん! どうぞ!』

 

「うわ、急に逃げたくなって来た」

 

「先輩頑張って! 私達であの2人をぎゃふんと言わせてやるんだから!」

 

 呼ばれた事で急に勢いを目に見えて衰えさせた千枝。その姿に同じ様に柏木と大谷にイラついて居たりせが応援すると、千枝は意を決して壇上へと足を進め始める。途端に聞こえて来る歓声にあがり乍らも自己紹介を行った千枝。まだ顔見せの為にそこまで深く1人1人に時間を割く訳では無く、すぐに次の人として雪子が呼ばれ始める。

 

「じゃあ、行ってくるね?」

 

『頑張って』

 

 千枝と同じくあがり乍ら言った雪子に零が励ます様に紙で見せれば、それだけで強く頷いて進み始めた雪子。そして姿が生徒達に見える様になった時、千枝よりも高い歓声が会場に響き始める。それは雪子が学校内で人気である事の証明であり、その歓声に更に緊張しながらも雪子は自己紹介を行う。その中に自分の家が旅館である事なども伝えて宣伝をする辺り。まだ何処か余裕があるのかも知れない。

 

『久慈川 りせさんです!』

 

「よーし、行っくよ~!」

 

 次に呼ばれたりせはやはり人前に慣れて居るからか、緊張した雰囲気など一切見せずに元気よく壇上に姿を見せる。千枝よりも雪子よりも響く歓声は流石アイドルだと他の者に思い知らせ、りせは慣れた様に自己紹介を行った。……知らぬ者が殆ど居ない為、形だけだが。

 

『白鐘 直斗さんです!』

 

「や、やっぱり僕は場違いな気が……」

 

 直斗は呼ばれると同時に帽子を深く被り乍ら呟いて壇上へと足を進め始める。直斗もりせとは違うベクトルではあるが、テレビに出たり等して居た人物。それでいて最近までは男子と思われて居たために、その恥ずかしがる姿も混ざってギャップを感じる者が多かった。故に歓声が同様に会場内に木魂する。

 

『最後はこの方、辰姫 零さんです!』

 

「……」

 

 袖に隠れて居たのは既に零だけであり、呼ばれた零は緊張した面持ちも何も見せずに全員が並ぶそこに立つ。零も一時ではあるがテレビに出た人物であり、喋らないと言う事から少しだけ八十神高校の中では有名になって居た。故にこうしてこの様な行事に出る事自体が予想外な存在であり、どの様な自己紹介を行うのかと待つ生徒達。そんな彼らを相手に零は……首を傾げた。

 

「辰姫さん、自己紹介ですよ」

 

 今までの流れで理解出来そうな内容だが、当たり前の様に何もしなかった零の姿に思わず隣に居た直斗が助け船を出す。すると思いだした様に零はメモ帳を取り出すと何も書かずに、司会者の元へと歩き始めた。突然自分の場所に来たことに困惑した司会者だが、『予め用意されて居たメモ』を渡されると辰姫 零がどんな人間であったかを思い出して喋り始める。

 

「え~、どうやら代読の様ですので読ませて頂きます。『辰姫 零。家は神社。お賽銭は何時でも歓迎。ご利益があるかは人に寄る』だそうです」

 

 自己紹介の文を自分では無く司会者に読ませると言う行為に生徒の大人数が驚き、それと同時に聞いた事の無い零の声を期待して居た者達が肩を落とす中。その生徒達に混ざって居た悠達や、隣で並んで見て居た雪子たちは普段通りの零に思わず笑みを浮かべてしまう。

 

 今回の『ミス八高・コンテスト』出場者は7名。その全員が壇上に上がった事で、司会者は先程まで行われていた女装コンテストで優勝して審査員の席を勝ち取ったクマに質問をして貰うべく話を振る。するとクマは「自分を怒らせれば不利になる」と軽い脅しを掛けた上で、質問を始めた。

 

「えー、千枝さん。彼氏は居ますか?」

 

「なっ! ば、馬鹿!」

 

「雪子さん。チッスの経験は?」

 

「クマ君、後で絶対に始末するからね?」

 

「じょ、冗談クマよ! な、直斗さん。身体のくすぐったい部分は?」

 

「……は?」

 

「今度、りせちゃんの家に遊びに行っても良い?」

 

「質問じゃないじゃん。クマ、後で覚えときなさい!」

 

「な、何で怒ってるクマ? ヒメちゃん、あの夏祭りに着てたのまた見せて?」

 

「……」

 

 尽く行われるクマの質問は意味を成さなかった。千枝は顔を赤くし、雪子は目から光を消して。直斗はされた質問に呆けてしまい、りせは呆れながら睨みつける。そして零に関しては反応すらせず、クマから放たれた無意味な質問に司会者は呆れながらも次のプログラムへと進める。それはクマによって急遽決められた、水着審査である。

 

 一度控室へと戻った全員は用意された水着を着用する事になった。用意された水着は数種類あり、千枝と雪子は以前林間学校で着た水着を見つけると過去に着たことがある事からそれを選択。りせも自分で選び取り、直斗も出来る限り露出の少ない目立たない物として水着を選ぶ。そして零は……選ぶことすら出来なかった。

 

「はい、これが姫ちゃんの水着だよ」

 

「……」

 

 水着姿の雪子に渡されたのは、上も下も柄の無い真っ白なビキニであった。唯一特徴的なのは、胸の双丘を隠す布と布の間に白いリボンが付いて居る事だろう。他の人が選ぶ中、選ぶ猶予も無く渡されたそれを受け取った零は一度首を傾げる。だが微笑みを見せ乍ら「それが一番似合うと思うの」と雪子が言えば、零は一度それを見た後に何も言わずにその場で脱ぎ始める。そしてすぐに生まれたままの姿になると、まずは下を履いた後に胸部分を付けようとし始める。が、普段水着など付ける機会の無かった零は上手く後ろで縛る事が出来なかった。

 

「姫ちゃ「姫先輩! 私がやってあげる!」……」

 

 苦戦して居る零に手助けをしようとした雪子だが、それを遮る様に零の後ろに立ったりせがそれを行ってしまう。そうして出来上がった零の水着姿に雪子とりせが思わず見惚れる中、零は普段着ない水着に少し興味を持つ様に上下の紐の部分を引っ張ったりなどし始める。男子が居ない為に何の問題も無いが、それでも千枝は零の姿に何処か危機感を感じた。

 

「辰姫さん、あんまりそう言う事はしない方が良いよ?」

 

「?」

 

 感情を上手く理解出来て居ない零は恐らくまだ羞恥心が余り無いのだろう。傍から見れば出場だけでも恥ずかしいこの大会も、何事も無く居られるのは恥ずかしさを余り感じて居ないからである。ある意味今回は救われていると言えるが、もしも壇上の上で同じ様な行為を行ってしまえばそれはもう他人事では無い。故に千枝はしっかりと気を付ける事等を説明し始める。そしてそれを黙って聞き、最後に頷く零。そんな姿に千枝はふと思う。

 

「何か妹とか居たら、こんな感じなのかも……?」

 

「そろそろお願いします!」

 

「あ、はい! ……よし、辰姫さん。行こ!」

 

 何処か自分に比べて頭が良いのに抜けて居る零の姿にそう思った千枝。その呟きに誰かが答える訳でも無く、突然現れたミスコン実行委員の女子生徒が呼びに来たことで千枝は返事をすると覚悟を決める。そして零の手を引き、壇上へと上がるためにその脇へと移動し始めた。当然雪子やりせも着いて行き、直斗もソワソワしながらその後を着いて行く。

 

 その後水着審査は男子生徒の興奮と、恥ずかしがって一瞬姿を見せた後に逃げてしまった直斗の可愛らしさに胸キュンする女子生徒を作り上げる事となった。零は基本的に黙って立って居ただけであり、投票の結果逃げだしてしまった直斗が優勝と言う形で『ミス八高・コンテスト』は幕を閉じるのであった。


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