ゆるめに書き綴る遺品回収屋の日常生活短編集、ハンターではない普通の少女が主人公なので狩猟シーンは皆無のおはなし   作:しゃくなげ

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日常短編集
雑話、新米ハンターへの報酬


 銭金のやりくりというものは、なかなかどうして厄介な問題だ。出費は減らし、収入は増やす。言葉にするのは簡単で、行動に移すのは難しい。

 

 一度の狩りでまとまった金額を手にできるハンターならいざ知らず、少女の稼業は遺品の回収だ。その日暮らしよりはましか、否か。そのていどの稼ぎでしかない。

 

 祖父のころは、もっと上手くやっていたのだろう。ドンドルマという都会に、小さいながらも店を構えるなど、現状からは想像もできなかった。

 

「むぅー、……」

 

 さて、おいて。

 

 少女は朝から事務机にかじりついて、書面とにらみあっている。ハンターズ・ギルドに提出するための諸々だが、普段とは勝手が違っていた。

 

「私がなじみやすそうなところだと、ユクモと、カムラだよなあ……」

 

 申請用紙のかたわらには、広げた地図と手帳のページ。いくつかの候補を絞り、その土地の状況やら文化やら、あれやこれやと確認をくり返す。

 

 きっかけは、ささいなことだ。

 

 とある村で、年端もいかない小さな子どもが、若いハンターにお礼を言っていた。なんの気もなく聞こえてしまった会話だが、どうやら、ハンターは子どもの依頼をこなしたらしい。

 

 そこにまず、少女はおどろいた。ハンターに仕事を依頼するとなると、かなりの報酬が必要になる。とてもではないが、子どもは金持ちのご子息といった風ではない。むしろこう、少女と同じように、裕福とはほど遠い位置に存在するようにさえ見えた。

 

 いったい、どうやって報酬を用意したのだろう。そんな好奇心からすっかりと盗み聞きをするようになってしまったわけだが、品のない行為への収穫はそれなりにあった。

 

 ひとつは、依頼の内容。療養していた父親の快気祝いに、ポポノタンを納品してほしいというものだ。ハンターに依頼するには、多少、いやかなり簡単な依頼である。

 

 もうひとつは、両者の間を取り持つのが、寂れた寒村の受付嬢だったということ。ハンターズ・ギルドに登録された集会所ではなく、村のかたすみでの依頼であった。

 

 あとはもう、恥も醜聞もなく、村のひとが見ていないタイミングを見計らってから、受付嬢に声をかけたというわけだ。

 

「こんな制度があるって知ってたら、もっと早くに利用してたのに……無知とは、罪だぜ……」

 

「ニャ……ご主人ご主人、おちゃをいれたニャ!」

 

 トレーを頭に乗せるように掲げて、アイルーが湯気の立つカップを運んでくる。お礼の言葉を返しつつ、少女はそれを受け取った。

 

 こげ茶色の液体を、冷ますようにゆっくりとすする。炒った茶葉の芳ばしい香りが、口いっぱいに広がって鼻から抜けていった。

 

「うん、おいしい。淹れるの、上手になったね」

 

「ニャ!」

 

 自慢げに胸を張って、アイルーはとことこと早足で戻っていく。少女は相棒のうしろ姿を見届けたのち、カップを置くと腕組みをして天井を仰いだ。

 

「助成金って、すげー……」

 

 つぶやきは、誰に向けたものでもない。少女の心が、そのまま声に現れただけのことだ。

 

 ハンターとは、危険な稼業である。遺品の回収屋なんて仕事ができるくらいには、死と密接している。だから、というのも妙な話だが、ギルドはいつだって、新規に登録されるハンターの育成に力を入れているのだ。

 

 その施策のひとつが、助成金制度である。ドンドルマやミナガルデといった都会ではなく、地方の小さな村でのみ適用される制度であるから、少女も知らないことだった。

 

 各地の村からギルドへと登録された、まだ経験の浅い新米ハンターに限定された話では、あるが。彼ら彼女らに対しての依頼は、ハンターズ・ギルドが報償金を負担してくれるというものだ。

 

 薬草や食材の納品だとか、年若い竜種の討伐といった、言ってしまえば難易度の低い依頼たち。こうした依頼は、一流のハンターからは見向きもされないのが現状だ。ハンターズ・ギルドのえらいひとが、そこに目をつけたらしい。

 

 狩猟場に慣れ、竜種や牙獣種との戦いに慣れるための、いわゆる経験を積む場として利用しようという話である。依頼を請け負うのはその村に登録されているハンターひとりに限定されてしまうのだが、依頼をする側の少女としては破格の値段でハンターを雇えるのだ。

 

 これを利用しない手はないと、早速ギルドから申請用の書類を受け取って、現在に至る。もっぱらの悩みは、どこの村に登録をするのか、という点だった。

 

「ジャンボ村は、密林がなあ……虫が多いんだよなあ……ココット村は、そもそも遠いし、過疎だって聞くし……」

 

 ハンターが仕事を請け負ってくれた場合、少女の依頼は護衛になるからして、彼女自身も現地に行かなくてはならない。そのための、場所選びが難航しているのだ。

 

 下世話な話、今回の依頼はハンターの知り合いを作れたら、という淡い期待もある。見ず知らずのハンターに護衛を依頼するのは、やはりどうしても緊張するものだ。

 

 友人とはいわずとも、顔見知りくらいには。そうした打算的な思惑もあると、なるべく多くの仕事を依頼したい。であれば、やはり。

 

「私だって、快適に、過ごしたいんや……」

 

 そう思ってしまうのが、どこまでも人間であった。

 

「なにを重視するか、だよな……汗かいたらきれいにしたい、虫がいない方がいい……ごはんは、大事……」

 

 使い古しのペンが、地図の上をふらふらとすべる。第一候補と第二候補を、行ったり来たり。

 

 ユクモ村は、すっかりと有名になった風光明媚な温泉街だ。観光地としても栄えていて住み心地は上々、温泉で身体は癒されるし、なにより食事がうまい。

 

 カムラの里は、最近になって観光地としての名前を聞くようになった。エルガドで食べたうさ団子発祥の地だというから、まあ、食事の面では問題ないだろう。

 

「あー、もう、だめだー、ちっとも決まらねえー……!」

 

 長い髪をかき混ぜて、少女がうなる。依頼の登録先をどちらにするのか、まだまだ、時間はかかるだろう。

 

 少女がハンターと出会えたかどうか、少女の依頼がどんな結果をもたらすのかは、また別の、おはなし──

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