黒学園   作:過酷な透き通るような世界観してる

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第1話

 ぽつうん――と。

 見るからに10歳前後で、艷やかな藍色の髪をした、日本人離れした容姿の男の子が、周囲からジロジロ見られつつ、杖を支えに整列していた。ジロジロと見られていた理由だが、彼が今いる処は日本の高校であり状況は入学式であった。一般的に考えれば、小学生ぐらいの子がその場にいると場違いのような感じだ。ただし、それだけではない。

 

 ーーあの子、けっこう可愛い顔なのに眼帯してて可哀そう……。

 

 そう、一番はそれ。眼を病んでいるのかと、哀れみである。

 といっても、少年はそんな思いを向けられるのに慣れていた。そして――

 

(どこも同じだな)

 

 小さくため息をつきながらそんなことを少年は呆れていた。

 入学式は滞りなくすすみ、国歌斉唱を終えて、式も終わりとなった。

 体育館から出て、教室に向かう途中の少し広まった場所で少年は胸の大きな可愛い女の子に呼び止められる。

 

「ねぇ、きみ大丈夫? 支えてあげよっか」

 

 少年は一瞬うんざりな表情を浮かべたが、その顔を潜ませて微笑みながら振り向く。

 

「お気遣いありがとうございます。こうゆうのは慣れてるので。ですが、今は入学したてて気分も興奮気味で、ここは初めて歩く場所でもある。ちょっとした拍子にこけてしまうかもしれないので、支えずとも近くにいられたら嬉しいですよ」

「そう! じゃあ一緒にいこっか!! ああ、名乗り忘れたけどわたしは櫛田桔梗って言います。友達百人できるかな?ってな感じで絶賛友達募集中です。よろしくね! かわいい男の子くん!!」

 

 春の嵐。そんな言葉が似合う彼女、櫛田に少年はあてられ、少し圧倒されてひきつった表情を見せつつ返答する。

 

「シエル・ファントムファイヴ。出身はイギリスです。はやくこの生活に慣れたいと思ってるので、僕からも宜しくしたいです櫛田さん」

「わーい、じゃあ私たちは今日から友達ねっファンちょむッ!! ~~っくぅごめんした噛んだ……」

「……シエルでいいですよ」

「うん、シエルくん……」 

 

(この(おんな)、うちの使用人たちのようにバカ明るい性格だな。すこしうっとおしい)

 

 それから、櫛田とシエルは雑談しながら教室に着いたのだった。二人ともDクラスのようだが、二人が教室に入ると、室内にいた生徒たちのほとんどが二人の方に顔を向けた。

 二人はギョッと固まる。固まるも、櫛田はすぐさま明るい声であいさつをする。対してシエルは何事もなかったように席に座った。

 

 シエルの席は前列一列目で廊下側の一列目だった。頬杖をついて、取り出した日本史の教科書を軽く読んでいた。

 

「――でね~! それがさ~」

「拙者のマイエンジェル――の素晴らしき性能は――!」

 

 Dクラスの雰囲気は入学時特有の変な静けさはなく、結構明るかった。だが、その騒々しさは隣のクラスに響いていた。

 

 オタク特有の推しの話、カースト上位の生徒ぐグループにありがちな誰々が可愛いかっこいい、根暗そうだのランキングを作り上げるような会話、さりげなく耳に入ってくる俳優や映画の話、そして時々おっぱいだお尻だのゲスい会話が耳に入ってくる。

 

 シエルは静かに本を読んでいたいというに、周りのボリュームにうんざりしていた。

 まるで――

 

「動物園か(ね)、ここは――」

 

 ――む。自分の声と重なった声が方へ顔をむける。と言うより顔をあげると黒髪ロングの、鋭い目つきをした女子と目が合ってしまった。

 彼女からは同じ人種かと思ったが。

 ――ふん、とつまらなそうに鼻息を鳴らして、シエルの前を通り過ぎていった。

 

(腹のうちで思うか、誰にも見られずにするならまだしも、堂々と鼻に着く態度を見せるとは、あいつは駄目だな。大成しない)

 

「隣人の堀北がすまん」

 

 端正な顔立ちだが地味な雰囲気を醸し出してる男子生徒がシエルに謝った。

 

「大丈夫、気にしてませんよ」

 

 そして、シエルの答えを聞いてその生徒は安どのため息をついた。

 自身の席へ歩いていった堀北に対して、シエルは彼女の方へ視線を向けた。

 読書をしようとした堀北はシエルと、シエルに詫びを入れた男子生徒の視線を感じ取り、ぎろりとにらみつけた。

 

 シエルと男子生徒は自然と彼女から目を離して、改めて彼らは向かい合った。

 先に口を開いたのはシエルだった。 

 

「嘘ですけど」

 

 シエルは笑みを携えながら言ったが、眼だけは笑っていない。

 

「俺も隣人をフォローしなければよかったと後悔してる」

 

 堀北より万倍もマシな男子生徒にシエルがところで、なぜ隣人かと理由を聞くと、学校に向かうバスの席で隣だったからのよう。

 そして、堀北がシエルとにらみ合った後、彼の隣の席に堀北が座ったから。

 

「度し難い隣人を持つとは苦労しますね」

 

 シエルの発言に男子生徒は力なくうなずく。

 そんな彼をシエルはまじまじとみつめ、彼に手を差し伸べて自己紹介をした。そして、男子生徒は嬉しそうにシエルに握手を返した。

 握手を返されたシエルは、彼の手と、足、腹を見て、最後に彼の目を見つめた。

 

「俺は綾小路清隆だ。その……できれば友人に……」

 

 しかし、綾小路は友人といった言葉を放った瞬間ごにょごにょとしだした。 

 なぜか躊躇いだした。

 

「ええ、綾小路さん。いや、清隆さん。僕もあなたと友人になりたいです。僕のことはシエルと呼んでください。あと、友人に歳の差は関係ないですよ」

「! そ、そうなのか? そうなのか! 不束者ですがよろしくお願いするシエルっ」

 

 そんな綾小路を見て、シエルはクスリと微笑みながら、清隆を今日の昼か夜のご飯を誘った。

 清隆は、噛みしめるようにうなずいた。

 それからは、互いに趣味や好きな食べ物等を話した。

 シエルはゲーム全般で、清隆は茶道、書道、華道を習っていたらしく文化人であった。 

 

 そして最後に、最近起こった奇妙なことがあるのかシエルが聞いた。

 とたん、清隆の目がシエルの瞳を覗くように見つめた。

 シエルが首を傾げると、清隆は何事もなかったように元に戻り、――サメが空から降ってきたことかな?と清隆は答えた。

 そして離れ際に清隆はシエルとのご飯の約束の時間を確認して、ニマニマした表情で自分の席に向かっていった。

 清隆が離れ、シエルが再度日本史の教科書を読み進めていると、イケメンな男子生徒が自己紹介をしようと言い出した。

 

「僕は平田洋介。気軽に洋介って呼んでほしい。この学校ではサッカー部に入ろうと思う! みんなよろしくね」

 

 洋介の自己紹介が終わった後男女ともども、よろしくだの口笛がなった。

 そして櫛田桔梗が自己紹介をした。こちらも男女から好印象を持たれたようだが、男子のごく一部が黄色い声を上げた。 

 その後も幸村、軽井沢、長谷川、池――とクラスメイトたちの自己紹介が続き、清隆の出番がやってきた。シエルは教科書を読むのはやめて綾小路に視線をやる。シエルと会話していた時の清隆はしどろもどろだった。会話が苦手そうな清隆を、友人としてささいなフォローぐらいはしようとシエルは思った。

 シエルの予想どおり清隆はまごついていたが、シエルと視線が合うと、清隆はハッとしたように茶道等を習っていたとクラスメイト達に言う。 

 ――文化系とかいがーい。――いや、シャイっぽいし合ってるしょ~。――文化祭いけそうじゃん?――こんどお茶いれてくれな! とクラスメイト達の反応はまあまあよさげ。

 清隆は着席するとシエルに向かって手を合わせた。シエルは小さくうなずく。

 友人の雄姿を見届け日本史の教科書に視線を落とした。

 自己紹介は続くが、シエルの後ろからガタン!と音が鳴った。そして、自己紹介なんざ下らねーと男子生徒が荒げた口調で横やりを入れる。

 彼のおかげでしばらく微妙な空気が教室を漂っていたが、そこに女教師が教室に入ってきた。

 

「ほう。私の担当科目を予習しているとはいい心がけだ。まぁ、それだけだがな」

 

 はぁ、どうも。とシエルは機械的な返事をした。

 

「席に着け。私はお前らDクラスを担当する茶柱佐枝だ。この学校にクラス替えはない。卒業までの3年間お前らの担当となる。そして日本史を担当している」

 

 茶柱は教壇に立ち、クラス全体を一瞥し、この学校の資料を配るように指示をする。

 ガイダンスの内容だが、独自のルールの説明、学園生活、そして、学園内でお金の代わりに利用されているポイントの説明。

 一ポイントが一円。そんなポイントが生徒個人個人に10万ポイント振り込まれていることを茶柱が説明すると、クラスが色めきだつ。

 

「この学園は生徒の実力をはかる。入学を果たしたお前たちにはそれだけの価値があるということだ」

「まじかよー!俺たちすげえじゃん!!」

 

 茶柱の説明後、山内なるクラスメイトが喜びながら口にする。

 それからは教務連絡、事務連絡と続き、一通りの説明が終わり、茶柱がDクラスの生徒たちに質問があるかをたずねる。

 

「ないようだな。では、これからも引き締まって励むように。以上だ」

 

 

 午前の授業と言う名のガイダンスが終わり、昼食を迎えたシエルは食堂へと向かう。

 人が多くてうるさい場所は苦手なシエルだが、彼は食堂のスイーツを目当てに足を運んだのだった。

 

 (入学前(・・・)からスイーツの出来の良さは聞いていたが、僕の舌を堕落させられるか楽しみだな)

 

 シエルは生粋の甘いもの大好きなおこちゃまである。

 列がはけて、シエルはニマニマしながら食券を購入しようとする。

 端末を食券機の読み取りにかざし、食券をえる。日替わり定食+日替わりスイーツセットの食券である。無事目当てのものを手に入れたシエルは食券を、食堂の職員に見せにいった。シエルが食券機から離れた後すぐに、シエルが購入した食品が売れきれ表示になった。

 

 シエルは心なしかワクワクしながら食券を職員に見せると、職員は困った顔をした。

 

「ごめんなさい。そのスイーツ一品だけになったの。あなた達二人が押す直前に」

 

 ――あなたたちって。とシエルが反すうしていると、堀北がシエルに近づいてきた。

 

「あなたもなの」

「残念でしたね。これはぼくのものなので堀北さんは別のモノを買われては?」

「どうしてファントムファイヴくんに私の権利を譲らないといけないのかしら」

 

 ――こいつ。シエルは微笑みながらも内心イライラしていた。

 しかし。

 

「なら半分にわけませんか?」

「……」

 

 堀北は少し考えるそぶりを見せつつも、シエルをまじまじとみつめる。

 

「大人しく引いてあげる。私は誰よりも清い心を持ってるから。ではさようなら」

 

 ――っは? なんなんだこいつは……。

 

「あー、オーダーストップするの遅くなっちゃって悪いね! ほんとごめん!」

「いえいえ」

 

 食堂の職員からの謝罪を受け入れつつ、無事に昼ごはんをゲットできたシエルであった。

 

 

 

 応接室で国の役員との会談を終え、部屋の鍵を締めて退室した坂柳理事長は頭を悩ませていた。それは先程の会談の内容ではなく、シエルについてである。

 

「改めて全ての教員達から話を聞いても、あの子を受け持った方が

いないとは」

 

 そう。シエルはいつの間にか、この学校の生徒となっていたのである。願書受付の記録も、入学試験をパスした記録もしっかりある。が、シエルの存在が認知されたのは、一年のクラス決めのときだった。シエルの件で、緊急会議が起こされたが揉めに揉めた。

 

「文科省に聞いても知らぬ存ぜぬ……。あまり期待してませんでしたが」

 

 そこに長身で色白の端正な顔をした教師が理事長に向かってきた。微笑みを崩さないイケメンの教師である。

 

「おや? どうされましたか理事長、顔色が悪いご様子」

「ああ、この通り元気ですよ。と言っても、歳を取ると常に身体か精神のどこかがダルい時がありますが」

「私の前職で仕えていた御婦人も仰っていましたね」

「そう言えば先生は使用人でしたね。いいですねえ。貴方のつくる料理は美味しいですから」

「有難うございます。では、今月末近くにでも腕をふるいにかけましょう」

「言ってみるものですが、こちらこそですよ。28日にお願いしますが宜しいですか」

「イエス……マイロード。……28日にまた」

「ははっ、そこまで畏まらなくとも。ええ、また」

 

 坂柳理事長はにこやかな表情で、教員に手を振って立ち去る。

 

「おかげで今月も踏ん張れますよ、ミカエリス先生」

 

 ミカエリスと呼ばれた教員は恭しく一礼して見送った。

 ミカエリス教員は坂柳理事長に背中を向けて歩き出す。

 

「シエルくんの1件は、悪魔の仕業かもしれませんね……ふふっ」

 

 厭らしく笑うミカエリスのひとり言は誰にも聞かれることなく、静寂に消えていく。

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