生徒会の犬となりまして   作:秋月月日

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 二話連続投稿です。


Day Game:2

 あからさまなトラブルメーカーが現れた!

 あまりの苛立ちに日向をボコボコに殴っていた俺が向いた先にいた少女は転んだ拍子に勢いよくぶつけた額を「おおおおお……」と涙目で摩り、何事も無かったかのような笑顔でこう叫んできた。

 

「ふっふっふ! お困りのようですね、センパイ方!」

 

「はうす!」

 

「誰が犬じゃこらー!」

 

 ぷんすかぷんすかと露骨に怒りを露わにする後輩――ユイ。コイツはガルデモの雑用のような仕事に就いている奴で、いつも学校のあちらこちらで路上ライブを行っていたりする音楽家志望だ。普通だったら生徒会としてやめさせるべきなんだろうが、コイツがガルデモに入るためにいつも頑張ってるのは知ってっから率先して止める気にもなれねえんだよなぁ。……まぁ、いつも教師たちに追い回されてるのは目撃するけど。

 ――っつか、

 

「俺たちに何か用か、雑用部隊」

 

「誰が雑用部隊ですか! これでも正式にガルデモ入りが決定したんじゃー!」

 

 耳を疑った。

 思わず音無に視線を向ける――苦笑しながら首を縦に振りやがった。マジかよ、コイツが遂にガルデモ入りしたんかよ……音楽性違くね? コイツが入ったらもはやアイドルユニットじゃね?

 と、そこで俺が与えたダメージからやっとの事で復帰した日向がユイを発見し、露骨に嫌そうな顔を浮かべてこう言った。

 

「お前は……デスメタ気取りのパンク女!」

 

「誰がパンク女じゃコラァアアアアアアアアアアアッ!」

 

「ぐぶえぇっ!」

 

 ユイの飛び回し蹴りが日向の後頭部を勢いよく蹴り飛ばした。おお、あれは凄ぇ痛そうだな……そして意外と運動神経良いんだな、ユイって。

 

「お、おまっ、俺は先輩だぞ……っ!」

 

「センパイは鼻から脳髄零れ落ちちゃう系男子ですか? あ、バカなんですねアホなんですね、かっわいそー!」

 

 トスン、と頭に振り落とされたユイの手刀に日向の怒りのボルテージが急上昇した。いつも弄られキャラな日向だが、まさか後輩にまで舐められてるとは……今度ジュースでも奢ってやろう。

 日向を完全に舐めてかかっているユイはトン、と薄っぺらい胸に右手を当て、

 

「センパイ方の行動をずっと見ていましたけど、球技大会のメンバー集めに苦労してるみたいですね? それでここでお買い得、ユイにゃんにお任せください! 良い働きしますよー?」

 

「…………あぁ? テメェ今、何つった?」

 

 ドスを利かせて問いかける日向にユイは猫真似のようなジェスチャーをし、

 

 

「ユイにゃん☆」

 

 

 ブチィッ! と日向の中で何かがキレた。

 ゆらぁっと幽鬼のように立ち上がった日向は音も立てずに素早くユイの背後に回り込み、目にも止まらぬ速さで彼女に卍固めをお見舞いした。あいつ、生前は野球やってたとか言ってたけど、本当はアマレスやってたんじゃねえのか? 今の動き、素人にしちゃあ流石に華麗過ぎるだろ。

 うぎぎぎぎ、と女子にはあるまじき悲鳴を上げていたユイは解放されると同時に地面に人形のように崩れ落ち、俯せ状態で地面との睨めっこを開始。彼女のチャームポイントである悪魔の尻尾までもが力なく垂れ下がっている始末だ。

 パンパン、と手を払う日向にユイは地獄の底から響いてくるような声色で言う。

 

「…………センパイ、痛いです」

 

「俺だって痛ぇよ!」

 

 やけに息の合った二人の体を張った夫婦漫才に、俺と音無はほぼ同時に苦笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 あの後、日向の活躍で俺の恋敵――野田と、くノ一少女――椎名を仲間にした俺たちは、先ほどと同じように当てもなく校内を歩き回っていた。

 にしても、これは本当に試合開始に間に合うのかねえ? 朝早くから行動していたおかげで球技大会開始まで残り一時間ぐれえはあるにはあるが、俺たちのチームは総勢六人。外野を二人にしたとしても残り二人を一時間以内に見つけなくてはならないんだ。……ははっ、無理ゲーじゃね?

 

「なぁ日向、やっぱり今回は無理なんじゃないか?」

 

「いやっ、まだ余ってる奴がいるはずだ! 俺は絶対に諦めねぇ!」

 

 どうせゆりからの死より怖ろしい罰ゲームを回避するためなんだろうが……流石にそろそろ諦めてほしいんだがなぁ。俺も暇って訳じゃねえし、できるならゲリラ参戦の片棒を担ぎたくもねえんだよ。後で絶対に生徒会長と副会長に文句を言われちまうだろうしな。

 ……だが、一応は球技大会に参加してみたいっつー気持ちもあるにはある訳で。こんなに長く日向たちに協力してるのは、やっぱりその気持ちが関係している訳であって。これが俗に言うツンデレってやつなんだろうが、俺は絶対に認めない。だって別にコイツらのためにやってるわけじゃねえし。俺が単に参加してえから手伝ってやってるだけだし。

 ――と、そんな事を考えていた、まさにその時だった。

 

「あ、岩沢! ちょっといいかっ?」

 

「ん?」

 

 校舎付近でキョロキョロと辺りを見回していた音楽キチに、日向が声をかけたんだ。……っつか、お前まだチームに入ってなかったんかよ。ああそうか、副会長を追いかけまわしてたから声を掛けられてすらねえんだろうなぁ。

 いろんな意味で滑り込みセーフっぽい岩沢の登場に安堵した様子の日向は下手に出るように頭を掻き、

 

「今回のオペレーションのために必要な人数にまだ届いてなくてさ……もし他のチームに入ってないってんなら、俺のチームに入ってくれねぇか?」

 

「オペレーション? 今日って何かゆりから指示が出てるの?」

 

「ああ、そういえば岩沢は校長室にいなかったっけな。えっと、それについてはだな――」

 

 首を傾げる岩沢に日向は簡単に掻い摘んだ説明を行った。日向の話の間、岩沢は耳を傾けながらも時折視線をあらぬ方向へ向けていた。おそらくだが、未だに副会長を捜しているんだろう。……こんなイェーガー状態の岩沢からよく逃げれたな、あの人。

 「――という訳なんだが、協力してくれるか!?」今ここで断られたら後がない日向は必死な形相で岩沢に詰め寄る。その必死さはある意味では暴力だよ、と思っているのは何も俺だけではあるまい。事実、俺の後ろでユイが「アホですね!」って言ってるし。

 日向の勧誘に岩沢は考える素振りを見せる。コイツの性格から考えて絶対に断るだろうから、ここは俺が一肌脱ぐしかねえだろうな。……後で副会長には謝っとこう。

 そんな訳で、岩沢が口を開く前に俺はジョーカーを切らせてもらうことにした。

 

「もし参加してくれたら副会長を一週間自由にする権利を与えよう」

 

「うん、分かった。交渉成立だ」

 

 副会長を生贄に捧げ、俺は最強の音楽バカを召喚した。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 岩沢の勧誘に成功したことで、球技大会参加の最低人数まで残り一人となった。球技大会開始までの残り時間はあと十五分。なんともギリギリな時間だと思う。これから校舎中を走り回ったとしても、見つけられない方の確率が高いだろう。

 そういう訳だから、ここは俺が再び一肌脱ぐことにした。……いや、さっき一肌脱いだのは事実的には副会長の方なんだが、それについてのツッコミは野暮というもんだろう。アレは俺が提示した作戦だ、それでオーケーだ問題ない。

 そんなこんなで俺たちがやってきたのは、天上学園の放送室だ。この学園の放送室はあまり使われることが多くないが、俺はこの放送室がある一人の女によって支配されている事を重々に承知している。っつーか、完全に校則違反だから早急に追い出したい存在だったりする。

 

「なぁ春野。本当にここにいる奴が俺たちに協力してくれるのか?」

 

「それについての心配は要らねえよ、音無。俺の口車にアイツは勝手に乗ってくれるだろうかんな」

 

「その人もアホなんですね!」

 

 ユイの口癖が「アホ」になりつつある件。

 あんまりゆっくりしていられないため、俺はノックもせずに勢いよく放送室の扉を開き、遠慮することなくズカズカと放送室内へと足を踏み込んだ。

 

「あ、暖人だー」

 

 そんなのんびりとした声を出したのは、放送室のブース内でのんびりと寝転がっていた小柄な少女だった。

 腰の辺りまでの長さの青髪と猫を彷彿とさせる雰囲気を身に纏った少女。制服は一般生徒用のものを着用しているが、袖口が大きく余ってしまっている。完全に小学生レベルの体型だ。無論、胸のサイズはAAである。貧乳はステータスだ!

 まったく驚く様子もないクソ女――遊馬小夏(ゆまこなつ)の頭を上から拳でグリグリと押し付けながら、俺は彼女に脅は――もといお話をする。

 

「おいコラ放送室の生きる都市伝説。ここの永住権が欲しかったら今から俺が言う事に拒否権無効で応じやがれ」

 

「うーん、それは内容次第かなー」

 

「お前の相手係として野田を差し上げてもいいぞ?」

 

「おい! なに勝手に人を生贄に捧げようとしているんだ貴様は! 俺はゆりっぺ以外の女には興味はない!」

 

「それもそうだな。うーん、そんじゃあ……俺からの願いを聞いてくれたら、TKをお前の相手係としてここに派遣しよう」

 

「わーい、てぃーけーだー。わたし、てぃーけーは大好きなんだー。れっつだんしーんぐ」

 

「そうかそうか。だったら俺の要望を聞き入れてくれるよな?」

 

「うん、いいよー」

 

 よし、やっぱりチョロかった。

 この小夏という女子生徒はほんわかした雰囲気を持っているため、こっちがマシンガンのように交換条件を提示すれば基本的には受け入れてくれるという特性を持っている。俺はいつもその特性を利用してコイツに頼みごとをしている訳だ。……まぁ、放送室から出て行け、っつー要望だけはいつも拒否するんだけどな。

 そして小夏はこの見た目と雰囲気に反し、運動神経がずば抜けて高かったりする。確か、五十メートル走のタイムは六秒前半だったか? 男子顔負けどころかお前どこの陸上部だよレベルの好タイムだったのを覚えている。あのタイムを出して以来、こいつには陸上部からの勧誘が絶えねえって話だが、コイツの性格的に全部断わってんだろうなぁ。コイツ、自分がやりたくねえことは絶対に了承しねえし。

 

「それじゃあ暖人、わたしをおんぶして連れてってー」

 

「自分で歩けや布団の化身!」

 

「あ、そんな事言っちゃうのー? わたし、協力やめよっかなー」

 

 …………こういう狡賢い所もあったりするから面倒臭いんだよな、コイツって。

 でもまぁ、今はコイツの言う通りにしておかなければならない。球技大会が終わるまでの辛抱だ、何も問題はあるまい。あとでTKさえ与えてやりゃあ俺の出番は終了だろうしな。

 そういう訳なんで小夏をおんぶし、俺は皆を引き連れて放送室の外に出た。出るときに放送室の時計を確認したが、残り時間は五分ほど。これは急がなくてはなるまい。

 俺の背中で既にうとうとし始めたバカに苛立ちを覚えつつも、俺は我がチームの主将である日向を見てこう言った。

 

「そんじゃ、さっさと行こうぜ――キャプテン?」

 

「お、おう。目指すは優勝だな!」

 

 この雑技団としか言えないチームで優勝という、どう考えても不可能な目標を掲げ、俺たち八人は運動場へと移動を始めた。

 

 




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 次回もお楽しみに!
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