やっとの事で八人のメンバーをそろえることに成功した俺たちチーム日向は運動場に移動していた。これから俺たちがやらなきゃならねえのは一回戦を制した勝者のチームに戦いを吹っ掛ける事。どう考えてもウザいことこの上ねえ行為だが、これ以外に球技大会にゲリラ参戦する方法がないんだから仕方がねえ。……ぜっったいに生徒会長の目に留まらないようにしよう、全力で。
代表として日向とユイと音無の三人が相手チームの代表者の元に行っている。音無と日向はともかくとしても、ユイがまともに交渉をできるとは到底思えねえんだが……。
「だいじょーぶだよー、ユイっちならー。暴力行為をさせれば右に出る人なんていないしねー」
「いやそれダメだから。絶対に参戦を拒否されちまう流れになっちゃうから!」
相っ変わらず脳内行楽日和だな、このほんわか女は……。
ねむねむ、と大きな欠伸をする小夏に大きな溜め息を返しつつ、日向たち三人の交渉を遠目ながらに見守ってみる。
『ほら、お前もちゃんとお願いしろ』
『全力でかかってこいやこらーっ!』
『挑発してどうすんだこのアホがぁああああああああああああああっ!』
『い、痛い痛い、痛いですセンパイ! ホームランが打てなくなっちゃいますぅ……っ!』
『端からテメェには期待してねぇよ!』
なんか予想通り過ぎる展開になっていた。そして日向、お前の関節技は今日も凄い切れ味ですね。もう松下五段みてえにアマレス経験者を名乗ってもいいと思うぜ?
物理的にノックアウトさせられたユイを引きずって、日向たちがベンチへと戻ってきた。遠目からだったら単にふざけているだけにしか見えなかったが、どうやら参戦を承諾してもらえたらしい。こっちには生徒会役員がいるから了承しろ、とか言われてねえと良いなぁ。そんな職権乱用みてえな真似したって噂が立ったら、根絶は難しいだろうし……。
そういう訳で球技大会参戦が決定したチーム日向はだらけつつも円陣を組み、キャプテンの日向が一応の打順を説明し始めた。
「俺たちのチームが先攻だからな。そういうわけで、とりあえず一番打者は音無って事で」
「俺は!?」
何故か食って掛かる野田に日向は「まぁ待て」と言い、
「二番が俺で、三番が椎名っち。そして野田、お前が四番バッターだ。音無と野田はヒット数の少なかった方の負けって事で」
「お前らは何と戦ってんだよ」
俺のツッコミを日向は目線を逸らしてスルーした。
「あとは後半の打順だが……五番が春野で六番が岩沢、七番がユイで八番が遊馬って事でどうだ? ユイと遊馬がどれぐらいの運動神経を持っているかは知らねぇけど、とりあえずはこの打順で問題はないだろ」
「守備位置はどうするのー?」
「それは俺たちの攻撃が終わった後に発表する。今は相手方を待たせちまってるから、出来るだけ早めに試合を始めないといけないしな」
そういう気遣いが出来るなら端からゲリラ参戦なんてするんじゃねえよ……というツッコミは野暮なのだろうか? いやまぁ、このゲリラ参戦はゆりからのオペレーションらしいんで、コイツ等には全く持って非はねえんだけどさ。
全員分の打順を発表し終えた日向は腰の辺りでギュッと拳を握り、
「それじゃあ、しまっていくぞー!」
『『……………………』』
「…………お、おー」
「おー! がんばろー!」
日向の謎のテンションに五人が沈黙を返し、戦線唯一の良心である音無と万年脳内行楽日和の小夏だけが掛け声を返していた。俺? 俺は単にタイミングを見逃しちまっただけだよ。
でも、まぁ、とりあえず……だな。
「驚くべき結束力の無さだな」
「そう思うなら少しは協力してくれよぉっ!」
日向の悲痛な叫びが俺の良心に微妙に刺さった。
☆☆☆
――そして、チーム日向の一回戦目が始まった。
先頭打者である音無はバットを持ってバッターボックスに入り、なんとも面倒臭そうに一般生徒である男子生徒に視線を向けた。あいつは球技大会そのものにやる気がなさそうだからなぁ。エアコンが効いた部屋でゆっくり寛ぐ方が好きなんだろう。……いや、それは俺も心の底から同意するんだけどさ。
「プレイボール!」
審判の試合開始のコールが響き、数秒後にピッチャーが両手を大きく振り上げる。そして左脚を前方に踏み込み、勢いよく右腕を音無目掛けて振り下ろした。――なんだ、結構良いピッチングフォームじゃんか。
百キロは優に超えている速度の硬式ボールがキャッチャーミットめがけて宙を突き進んでいく。球の軌道から予想するに、どうやらこれは普通のストレートみてえだな。――さぁ、音無はどうする?
「音無くーん、がんばれがんばれがんばれー」
「小夏うるせえ、音無の気が逸れたらどうすんだ」
「むぅ。可愛いキャピキャピJKの黄色い声援がウザいだなんてぇ、そんなの有り得ないって感じー」
「なんだそのギャル口調は」
「むっふっふ。エロかったー?」
「背伸びして空回りしてるガキにしか見えなかったよ」
「あ、音無くんいい打球だねー」
あぁっ! このバカの相手してたら音無の打席見逃しちまった!
と、一瞬焦ったが、どうやらその心配は杞憂に終わったようだ。
―――何故なら、
「貴様の打球は――こんなものかぁああああああああああっ!」
音無が打ったヒット性の打球を、何をトチ狂ったのかピッチャーの後方に割り込んでいた野田がハルバートで勢いよく打ち返しちまった。何で長ったらしいハルバートをそんなに小回り利かせられるのかは、流石に俺じゃ分からない。
「む。負ける――か!」
そして、野田が打ち返したボールを(これまた何をトチ狂ったのか)音無がバットで正確にミート。打球は野田に向かってワンバウンドで飛んでいき――
「ふんっ!」
――野田がまたそれを打ち返し――
「まだまだぁっ!」
――音無が再び打ち返し……という謎のコンボプレーが爆誕していた。
チームメイト同士で野球ボールを打ち合う音無と野田。面積が広いハルバートで打っている野田はともかくとして、どうして音無は野球バットでボールを正確に野田の元に打ち返せているのか。現世のプロ野球選手でもあんな芸当は出来ねえだろ、普通に考えて。音無の高すぎるポテンシャルに俺は驚きを隠せません。
んで、驚きも何もねえが、当たり前のように音無にアウト宣告が下された。まぁ、そりゃそうなるだろうな。アレってイレギュラーすぎる守備妨害の一つだし。……打者側の味方に害する守備妨害って何なんだろう?
一発目からバカ丸出しの音無と野田を冷たく見ていると、傍にいた女子組が溜め息を吐きながら彼らを冷たく見つめ――
「アホだな」
「アホですね!」
「……あさはかなり」
「アホだねー」
「何やってんだよアイツらあああああああああああああああっ!」
頭を抱えて慟哭を上げる日向が、かなーり可哀想に思えてしまった。
☆☆☆
音無がアウトになった後、日向と椎名と野田の活躍で一挙三得点をマークしたチーム日向。何で打者が三人しかいねえのに三点も入ったのかって? 日向と椎名がヒットで出塁して野田が片手でホームランを打ちやがったからだよ。……本当、何でこのチームは地味に強いんだろうなぁ。
そういう訳で四番打者まで打ち終わり、とうとう俺の打順となった。
カッターシャツの袖を捲り上げた俺はバットを肩に担いでバッターボックスへと移動していく。
「へーい、バッタービビってるー!」
「へいへいへい!」
「バッタービビってるー!」
「へいへいへい!」
あぁやばい、あのバカコンビにバットを投げつけたい衝動に駆られちまってる☆
しかし、こんな所で暴力事件を起こすわけにはいかねえ。あんまり目立ちたくねえし、そもそも俺は生徒会役員だ。生徒の模範であるはずの生徒会役員が自ら暴力行為を行ったとあっちゃ、今後の立場が危うくなっちまう。平常心だ、春野暖人。へーじょーしん。
しかしまぁ、何もしねえっつーのも癪なんで、ユイと小夏をギロリと睨みつけ、俺はバッターボックスに入った。
ピッチャーが振り被り、ボールが投げられる。さっきまでの四人の打席で分かった事だが、どうやらこのピッチャーはストレートしか投げられないらしい。まぁ、ただの一般生徒がそんなホイホイ変化球を投げられても変なんだけどな。相手が普通の生徒であることに今回だけは感謝しておこう。
予想通りに投げられたストレート。俺は勢いよく左脚を前に踏み込み、構えていたバットをボールに向かって叩き付けた。
直後。
俺が打ったボールはライナー性の当たりで外野まで飛んでいき、教科書にでも載っているようなレフト前ヒットとなった。
「「ぶー!」」
「お前らベンチに戻ったら覚えとけよ!?」
流石に俺に対する態度が酷すぎんだろ!
――という感じで俺の打順が終わり、続く岩沢がピッチャー強襲のセンター前ヒット、ユイがひょろひょろのピッチャーフライという結果になってしまった。勿論、アウトになったユイをバカにすることは忘れませんでしたとも。しかも、普通にやり返すんじゃない――倍返しだ!
これでツーアウト、一・二塁。打順は我らがチーム日向のダークホースである遊馬小夏だ。ちんまりとしたロリ高校生は一体どういう事を仕出かしてくれるのか……こりゃあ見ものだな。
「おっねがいしまーす!」
「あ、えと……ど、どうも」
元気いっぱいに挨拶をする小夏に相手チームのピッチャーが動揺しつつも挨拶を返す。既にペースを小夏に持って行かれちまってるぞ、アンタ。こりゃあ小夏の勝ちで終了かなぁ。
しかも、ピッチャーも守備陣も小夏の小さな体格を見て表情を和らげている。大方「あ、こりゃ余裕でアウト獲れるな」とでも思ってるんだろうが……それは流石に早計というヤツだ。俺が知っている小夏は、体格なんか気にしねえ程に常軌を逸した運動神経をしている。
――そして。
流石に全力投球は危ないと思ったのか、ピッチャーはゆるいスローボールを小夏に向かって投げた。それは今までの球速とは比べ物にならないぐらいに遅く、俺たちじゃ逆に空振りしてしまいそうなほどのスローボールだった。もしかしたら流石の小夏でも空振りしてしまうかもしれない。
――しかし、そんな心配は全くの見当外れだった。
「そりゃー!」
カキーン! という爽快感溢れる音が球場全体に鳴り響く。
完全に体とのバランスが取れていないバットを振り回した小夏は飛んでいくボールを手で庇を作って眺めていて、スローボールを投げたピッチャー及び守備陣は予想外すぎる展開に間抜けな表情で立ち尽くしてしまっている。……その気持ち、痛いほど分かるよ、本当に。
……数秒後。
小夏の打球は綺麗な放物線を描いてホームランゾーンへと吸い込まれていった。
「わーい! ホームランだホームランだー!」
ぴょんぴょんと喜び勇んで跳ねまわりながらダイヤモンドを一周し始めるロリ高校生。あまりにも予想外すぎるホームランに俺を含めたプレーヤー全員が度肝を抜かれてしまっていた。そりゃ、まぁ……なぁ? あんな小学生スタイルの奴がホームランを打つだなんて誰も思わねえだろうしなぁ。
俺がホームベースを踏み、次に岩沢が、そして最後に小夏がホームベースを踏み、彼女は満面の笑みで相手ピッチャーにピースサインを向けながらこんな言葉を彼に送った。
「ハエが止まってるみたいに遅かったねー!」
結局その試合は、俺たちのチームが圧倒的点差でコールド勝ちするという驚愕の結末を迎えてしまった。
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次回もお楽しみに!