生徒会の犬となりまして   作:秋月月日

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 なんか、最近スランプだなぁ。

 あんまり悩んでも無駄だとは分かってるんですけどね……。


Process of Betrayal③

「お、ゆりじゃん。おはよ――って、どうした? なんかやけに目付き悪ィけど……」

 

「おはよう、暖人。別に大した問題じゃないわ、気にしないで……ふぁぁ」

 

 仲村ゆりという強気なツンデレ女と俺が知り合ってからしばらく経った頃の昼の事。

 いつも通りに寮部屋で目を覚ましていつも通りに着替えていつも通りに食堂へと移動した俺を待っていたのは、深い隈とぼさぼさの頭に彩られた可愛らしい女子生徒――仲村ゆりだった。噛み殺すことも無く欠伸をする今の彼女からはだらしなさしか感じられないが、キリッとした時の彼女は凛々しく雄々しく騒々しい。基本的には俺へ殴る蹴るの暴行を加え、機嫌が悪くなったらそこに殺害までもが含まれる。これこそが俺が彼女と出会ってから今までで知った《仲村ゆり》という少女の姿だ。

 明らかに寝不足なゆりと共に食券を購入し、俺達は長蛇の列の最後尾に加わる。

 

「別に早寝しろとか優等生みてえな事を言うつもりはねえけどさ……流石にそこまで分かり易く寝不足アピールするぐれえに夜更かしするのはどうなんだ? 腐っても女なんだからもうちょっと美容に気ィ遣えよ」

 

「余計なお世話よ……と言いたいところだけど、今回ばかりはその説教を素直に受け入れてあげるわ……」

 

 そう言って、ゆりは大口開けて欠伸を零す。

 そんなに眠いのかよ、と指摘しそうになった瞬間に立ったまま前後左右へと揺れ始めるゆり。目は何度も開閉を繰り返していて、傍から見ても分かるほどに完全に舟を漕いでいる状態だ。これはあと数分足らずで膝から崩れ落ちて爆睡してしまうかもしれんね。

 流石にそんな恥ずかしい目に合わせる訳にもいかないので、今まさに寝落ちしそうなゆりの肩を俺は軽く叩き、彼女の手から食券を引っ手繰った。

 

「おい、ゆり」

 

「んふぁ?」

 

「何だよそのだらしねえ顔は……このままじゃお前耐えらんねえだろうから、俺が代わりに並んどいてやる。その代わりと言っちゃなんだが、俺とお前の二人分、先に席を確保しといてくれ」

 

「……いいの?」

 

 涙目&上目遣いで言うなドキッとするだろうがドキッと!

 

「ああ、いいよいいよ、オーケーオーケー。だからさっさと席確保してこい。確保した後は寝てようがなんだろうが関係ねえよ、好きにしろ」

 

「…………うん……」

 

 突き離すような俺の言葉に抗議の声を上げることも無く、ゆりは右へ左へとふらつきながら自分たちの座席の確保に向かった。アイツ、あんなになるまで一体何やってたんだか……なんか夢中になれる漫画でも見つけたんかね。

 ゆりを見守りながらも進んでいく列の流れに従って行き、数分足らずで受付へと到着。そこで俺は麻婆豆腐と肉うどんの食券を提出し、予め作られていたであろうその二つの料理を受け取った。

 

「一人で二つとは、アンタ結構大食いだねぇ……?」

 

「育ち盛りなんで」

 

 訝しげな顔の食堂のおばちゃんに軽く応対し、俺は二人分のトレイを両手にゆりの姿の捜索を始める。さっきアイツはかなり中央の方に向かってたから、そこら辺を重点的に探せば……

 

「……って、いたのはいたけど既に寝てやがる」

 

 視線の先――食堂のちょうど中央付近に、彼女の姿はあった。あったのはあったのだがゆりはテーブルの上で爆睡中で、ここから顔は確認できないが背中が上下に動いている事からかなり深い眠りについている事が確認できる。確かに寝てろとは言ったが、まさかあそこまで爆睡するとは……流石はゆり、神経の図太さが段違いだ。

 込み合っている食堂で生徒達をうまく回避しながら、俺はゆりの隣の席へと移動。完全に夢の世界へと旅立ってしまっているゆりの横にトレイ――麻婆豆腐が載っている方――を置き、寝ている彼女の横で一人寂しく肉うどんを食べ始めた。勿論、ゆりが起きないぐらいの音量で「いただきます」と言う事も忘れない。

 ずるるーっ、とうどんを啜り、小さく刻まれた肉を食していく。個人的にここの食堂で一番上手いのはこの肉うどんだと思ってるんだが、一般生徒達からの需要としてはどうなんだろう。やっぱり定番のカレーライスとかが一番人気だったりすんのかね……いや、俺も好きだけどさ、カレー。

 そんな事を思いながら一言も喋ることなく肉うどんを食していく俺の隣で、ゆりは未だに起きる様子も無く静かに寝息を立てている。出会った当初もそうだったが、コイツは一回寝るとすぐには起きない体質であるらしい。つまり、麻婆豆腐が冷めるより前にゆりが起きる可能性は極めて低い、という事だ。

 しかし、そんな事は俺には関係ない。

 ゆりの料理が冷めようがなんだろうが、俺に非はないし俺に害はない。ただ、ゆりが損をするだけ。ただ、それだけの事である。

 故に、俺は数分足らずで食べ終えた肉うどんの食器を片づける事も無く、子供のように惰眠を貪る可愛らしい相棒の爆睡姿をただただ見守る事にした。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 結局、ゆりが目を覚ましたのは俺達が食堂に来てから四時間後――つまりは昼休みだった。

 昼食を摂る為に食堂へとやってきた一般生徒達の騒々しい声が目覚まし時計の代わりとなったのか、「ん、ぅう?」と身をよじらせながら眠れるお姫様がようやく目を覚ました。

 

「おはよう、ゆり。やけに長い眠りだったな。待ちくたびれたぞ」

 

「…………今、何時?」

 

「もうすぐ午後十二時半、ってところだな。勿論、お前の寝姿は一般生徒のほとんどから目撃されてっぞ?」

 

「………………………………死にたい」

 

「この世界ではその言葉も最早冗談にしか聞こえねえな」

 

 真っ赤に染まった顔を両手で覆って再びテーブルの上に顔を伏せったゆりに、俺はあえて彼女の心に突き刺さる言葉を放つ。

 そして、この四時間何をするでもなくただ待ち惚けをくらっていた俺は、彼女に新たな嫌がらせを吹っ掛ける事にした。

 

「ほら、ゆり。寝起き早々なお前に俺からの贈り物だ」

 

「……聞くまでもないんだけど、これってどう考えてもあたしの朝食になるはずだった麻婆豆腐よね?」

 

「勿論! お前が居眠りしちまったせいで職務を全うできずにいる冷めきった麻婆豆腐だが?」

 

「こんなもん食えるかぁああああああっ! そしてわざわざ嫌がらせを仕掛けてくるなぁぁああああああっ! せめて新しい料理を買ってきなさいよ! なんで朝に買った麻婆豆腐をまだここに配膳してるのよ!」

 

「はぁ? お前が俺に買わせたんだからお前が責任もって食うのは当たり前だろうが。それとも何か? お前は俺が努力して買ってきたこの麻婆豆腐をゴミ箱に放り捨てて、努力を踏み躙られた俺を嘲笑するつもりでもあるんか?」

 

「流石に極論過ぎるわよ! いや、食べる気なんてないけど! それでも流石にそれは極論過ぎるわよ!?」

 

「いいから食えって、ゆり。大丈夫、冷めてても辛さはそのままだと思うぜ?」

 

「余計性質が悪いわ! 冷めてて辛いとか何のプラスになるのよ! やっぱり嫌がらせじゃない!」

 

「嫌がらせなのは当然だろうが! こちとら四時間も待ち惚けくってんだよ! そりゃ嫌がらせの一つや二つ、したくなるのは当然だろ!?」

 

「うぐっ。そ、それはそうだけど……」

 

「じゃあ食え、今すぐ食え、残さず食え。お残しは許しまへんで!」

 

「うーっ!」

 

 俺の剣幕に圧されながらも、食べるまでは足を進める事が出来ていない様子のゆり。確かに冷めた麻婆豆腐に魅力を感じないのは十分に共感できるが、それとこれとは話は別だ。この麻婆豆腐は俺の努力と労力が詰まっている、云わば俺特製の麻婆豆腐なのだ!

 スプーンで麻婆豆腐を掬い上げる。

 そして十秒ほどそれを見つめた後、ゆりは涙目で俺の方に顔を向けてきた。

 

「は、暖人ぉ……」

 

「いっき! いっき! いっき! いっき!」

 

「お、鬼! やっぱり貴方は鬼よ!」

 

「はン! 何とでも言えよこの惰眠女! お前はその麻婆豆腐を食べ終わらねえ限り俺と同じステージに立つことは出来ねえのさ! キラッ☆」

 

「殴りたい、その笑顔!」

 

 しかし殴る事はしないゆりはやっぱり優しい子だと思います。

 俺に言っても無駄だとようやく悟ったのか、ゆりはスプーンに載った麻婆豆腐と真剣な表情で向かい合った。これから彼女はこの世界最強の辛みと戦わなくてはならないのだ。それは常人が予想できるよりも辛い戦いであり、下手を打てば当分の間の味覚を失う悲しい戦いでもある。因みに、(から)いではなく(つら)いであるのであしからず。

 涙目&弱腰という母性本能を激しく刺激する状態のゆりはゆっくりと口を開き、スプーンをそこへと移動させる。その動きはかなりのスローペースで、何故か無駄に感動の瞬間だった。

 ゆりは「あむっ」と勢いよくスプーンを加え、麻婆豆腐を咀嚼する。

 ―――直後。

 

「――――ッ! ――――ッ!?」

 

 顔を真っ赤にして口を抑えて悶え始める女子高生が爆誕した。

 涙をぽろぽろと流しながら悶絶する俺の相棒。その姿はかなり嗜虐的で思わず胸が高鳴るが、ここでそれを表に出したが最後ゆりから怒りの右ストレートを浴びせかけられることはまず間違いないので、俺は極めて冷静にこの状況に対処する事にした。

 ゆりが目覚める前に買って置いたラッシー(インドの飲み物。辛さを抑える働きがあるらしい)を俺は彼女に差し出す。

 

「ほら、これでも飲んで落ち着け」

 

「がぶがぶがぶがぶがぶごくごくごくごくっ!」

 

 下品に飲み物を流し込む彼女は本当は可愛い子なのだとここに記しておこう。

 

「ぷっはぁっ! あ゛ー、死ぬかと思った!」

 

「死なねえけどな」

 

「辛辣なツッコミは時に人を傷つけるのよ!?」

 

「はいはい、お前が俺に八つ当たりしてえっつーのは十分伝わった。……だが、まだ安心するのはまだ早いんじゃねえか?」

 

「へ?」

 

 間抜けな声と顔を俺に曝け出すゆりに俺は悪者のような笑みを浮かべる。

 そして。

 彼女の目の前にある赤い悪魔を指で差し、俺は彼女に辛い現実を突きつける事にした。

 

 

「麻婆豆腐。お残しは許しまへんで、って言ったろ?」

 

 

「うっ……うわぁっ、うわぁあああああああああああああっ!」

 

 結局その日、麻婆豆腐の完食に一時間以上を費やしたゆりは食べ終わると同時に意識を失い、次の日の朝まで呻き声を挙げながら辛みと戦う事になった。

 

 




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 次回もお楽しみに!
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