生徒会の犬となりまして   作:秋月月日

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 お待たせしました!
 久しぶりの更新で申し訳ないです。
 応募用を一人称で書いているという事もあってか、意外とすらすらと書けました。
 という訳で久しぶりのAngelBeats、スタートです。



Process of Betrayal④

 突然な話ではあるのだが、この学校には『生徒会長』と呼ばれる少女がいる。

 ……いや、学校に生徒会長がいるという事は極めて当然、極々当たり前のことではあるのだが、しかし、俺はあえて生徒会長という存在が俺たち一般生徒とは比べ物にならない程の異常者だという風に扱わさせていただこうと思う。

 彼女は、極めて無口である。

 容姿端麗、

 成績優秀、

 運動神経抜群、

 眉目秀麗。

 素晴らしさの四字熟語を並べればキリはなく、更に生徒達からの信頼も厚いという完璧っぷりはもう目も当てられないレベルである。

 彼女は、極めて無口である。

 しかし、いくら人間離れな完璧さを誇っていると言っても、彼女もまた、俺やゆりと同じ人間――つまりは何かしらの未練を持ったまま死んでしまった若者の一人だったりする。

 彼女は、極めて無口である。

 俺と生徒会長の親交はそれなりに――まぁ、ゆりと出会う前までは生徒会長ぐらいしか喋る人がいなかったため、この学校の生徒の中では最も彼女と仲が良い俺ではあるが、しかしまた、彼女の事を誰よりも分かっていないのもまさしく俺ではないだろうかと、俺は矛盾した思考に頭を捻るばかりである。

 彼女は、極めて無口である。

 彼女、つまりは生徒会長の話の続きなのだけれど、俺は彼女についての情報をあまり所持してはいない。

 彼女が生前、何をしていたのか。

 彼女はどういう経緯で、死に至ったのか。

 彼女は死ぬ間際、何を心残りとしていたのか。

 彼女は、極めて無口である。

 学校で一番――いや、この死後の世界で最も無口な存在と言えるであろう生徒会長について、俺が知っている事は微々たるものでしかない。

 少々知っているが、少々しか知っていない。

 故に、俺の口から語れる事実はほんの僅かであり、更に信憑性という点では甚だ信用できるようなものではない。はっきり言ってお粗末だ。信じる方がバカを見る。

 だが。

 そう、だが、である。

 そんな俺の話でもいいというのなら、俺の口から説明する事にしよう。

 彼女という、人間の話を。

 彼女という、生徒会長の話を。

 彼女という、立華奏の話を。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

『ちょっと森の方を散歩してくる』

 

 そんな内容の書置きを寮部屋の扉の前で発見した俺の表情は、必然、更には当然の如く優れてはいなかった。

 それも、寝惚け眼の――

 ――それも圧倒的超絶的寝起き状態であった俺は書置きを発見すると同時に両手で細かく破り裂き、元の位置、つまりは扉の前にその手紙(だったもの)を放り捨てるという比較的非常識な行動に出てしまっていた。

 さて。

 朝からの熱いサプライズによって眠気という最高の幸せから解き放たれてしまった俺は、寝癖塗れの頭を整え、更には学校指定の制服に身を包んだ後、再び我が寮部屋の扉を開き、男子寮の廊下へと身を乗り出した。先程捨てたはずの紙屑は既にその姿を消しており――おそらくは掃除のおばちゃんか誰かが撤去したのだろう――少しの罪悪感を抱きつつも、俺は男子寮の外へと欠伸交じりに移動したのだった。

 そして、次の瞬間。

 

「おはよう、春野くん」

 

「生徒会長か……朝から何やってる訳?」

 

「清掃活動」

 

「そりゃあ毎度の如く流石なお姿で」

 

 彼女は、極めて無口である。

 普段から必要最低限の事しか話さないその少女は、美しい銀髪が特徴の美少女だった。

 人形のように整った顔立ちから始まり、琥珀色の瞳は太陽の光を反射して煌々と輝いている。それは美しく長い銀髪も同様で、その二つが相成って、彼女はまるで宝石のように輝いていた。

 そんな、美しさの権化と言っても過言ではない少女は小柄な体躯をトテトテと動かし、俺の傍まで歩み寄ってきた。

 そして、彼女は言う。

 極めて無口な彼女は、まるで天から与えられたかのように使命を全うする。

 

「ん」

 

「……その差し出された箒と塵取りは一体何を暗示してるんでしょうかねぇ?」

 

「昨日、授業をサボったでしょう? その罰だと思ってくれれば助かるわ」

 

「成程。つまりは奉仕活動をしろ、と?」

 

 こくん、と可愛らしく頷きを返す我らが生徒会長。

 成程、これは随分と困った状況だ。

 あえて言うまでもない事ではあるが、俺は奉仕活動というものに興味はない。勿論、掃除が好きという訳でもないので、生徒会長の誘いに柏手打って乗る事はありえない。

 だが、ここで彼女の提案を無視すると、俺が首を縦に振るまで彼女は俺を追いかけ回す事だろう。今から少し昔の話なのだが、今のような状況で首を横に振った時、俺は不可視の刃で腹を刺され、十割方強制的に奉仕活動を行わされた経験がある。

 つまり、逆らえば、痛い目を見る事になる。

 ……しょうがない。誠に遺憾な事ではあるのだが、ここは俺が折れることにしよう。痛いのは嫌だし。

 

「分かった、分かりましたよ。ほら、その掃除用具を貸せよ。とりあえずはここら一帯を掃除すりゃあいいんだろ?」

 

 こくん、と可愛らしく頷きを返す天使のような少女。

 彼女は、極めて無口である。

 だが、極めて無口であるが故に、その威圧感は半端ではない。

 生徒会長から渡された掃除道具を駆使し、俺は男子寮付近の掃除を行っていく。朝食を摂る為に食堂へと移動中の男子生徒達から奇異な視線を送られているのを視線の外でビシビシと感じるが、ここで声を荒げる訳にはいかない。

 何故なら、生徒会長が無表情で俺を見張っているからだ。

 彼女は、極めて無口である。

 音も無く声も無く表情も無く。

 ただ、視線だけを俺に集中させている。彼女とは長い付き合いではあるが、未だに彼女のこういう所には慣れる事が出来ない。……まぁ、慣れたところで何かが変わる訳ではないのだろうけど。

 ササッ、と箒を動かし、カカッ、と塵取りにゴミを入れる。

 そんな作業を――まさに奉仕活動の権化とも言えるそんな動作を繰り返しながら、俺の朝はものの見事に過ぎて行った。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 勿論、朝食を食べる暇なんて無かった。

 まさかの朝食抜き。

 そんな罰ゲームのような朝(奉仕活動も言い方を変えれば罰ゲームの一つではある)を望まずして迎えてしまった俺は一時間目の数学の授業を終えた後、予想外にも校庭で行き倒れてしまっていた。

 まさに予測不能回避不可な状況である。

 

「くっそ……腹減って死にそうだ……」

 

 まぁ、この世界で俺が死ぬことはないのだけれど。

 というか、誰かが死ぬなんてことは絶対にありえないのだけれど。

 しかし。

 そう、しかし、である。

 いくら死なないとは言っても腹は減る訳であり、胃袋がきゅーっと締め付けられるような激痛に苛まれていた俺は顔を青褪めさせたまま、校庭で無様にも俯せに寝転がる結果となってしまっていた。

 笑いたければ笑えばいい。

 だが、その代わりに、俺に食料を恵むことが最低条件だ。

 そう、例えば――

 

「あははっ! 誰かと思えば暖人じゃない! これは滑稽ね! 滑稽すぎてお腹が痛くなるわ! あーっはっはっは!」

 

 ――最高の笑顔で俺を上から見下ろすクソカチューシャ女の様に。

 上から降ってくる不愉快な笑い声にビキリと青筋を浮かべつつも、俺は横目でクソカチューシャ女――仲村ゆりの顔を確認する。

 

「……戯言を言うなら飯をくれ。朝から何も食ってなくて動けねえんだよ」

 

「そこに石が転がってるけど?」

 

「そのふざけた口を縫い合わせんぞこの黒パン女かぼしゅっ!?」

 

「な、なに人の下着見てんのよこの変態! 死ね! 死ね!」

 

「バッ……マジで死ぬ、マジで死ぬからやめろバカ!」

 

 ガスガスと勢い良く俺の背中を踏み躙るバイオレンス女に必死に制止の声を上げる俺。

 それでも五分間ぐらいは俺を蹴り続けたゆりは「はー! はー!」と大きく肩を揺らして酸素を肺の中に取り入れながら、激しい運動によって紅潮した顔を上から俺に向ける。

 

「次、セクハラ発言したら、首を捻じ曲げるッ!」

 

 なんて怖ろしい脅迫だろうか。しかも捻じ曲げるって……お前みてえな怪力だからこその脅迫文句だと言えるかもしれんね。

 とりあえず、このまま寝ていたらどんな攻撃をされるか分かったものじゃない。

 そう判断した俺は空腹で弱った体に鞭を打ち、ふらふらと左右にふらつきながらもなんとかその場に立ち上がる。

 と。

 必死に立ち上がった俺の前に、何かが差し出されてきた。

 確認すると、それは包装されたおにぎりだった。

 視線を上げると、それを差し出していたのはゆりだった。

 成程、つまりはこういう事だろう。

 下げてから上げるというか、素直に慣れないツンデレ少女の姿がそこにはあった、という事だ。

 それはあくまでも予測でしかないが、この直後のゆりの行動が俺の予測が正しかったと証明する事になる。

 

「何してんのよ、さっさと受け取りなさいよ」

 

「何で俺にそんなものを差し出してるのか僕には理解できません」

 

「このっ……恍け腐りやがって……ッ!?」

 

 はて、何の事だろうか。

 

「お、お腹が減ってるん、でしょう? だ、だったら、これ、食べればいいじゃない……」

 

「何を言いたいのかが理解できねえんだけど。ハッキリと素直に且つ慈愛を込めて言ってくんね?」

 

「~~~ッ!?」

 

 よほど恥ずかしいのか、耳の先まで紅蓮に染まったゆりはおにぎりを俺の胸板にポスンと投げつける。

 

「こ、これ以上あなたが空腹で苦しんでいるのを見てるのは耐えられないから! べ、別に、アンタにあげようと思って用意した訳じゃないんだから! か、勘違いすんじゃないわよ!?」

 

「普通に『お腹が空いてるんでしょう? それ、あげるわ』ぐらい言えんのかお前は……」

 

 まぁ、そういう所がゆりの良さだとは思うのだけれど。

 とりあえずは空腹を満たす為、ゆりから貰ったおにぎりの包装を剥ぎ、パクリと一口。カバーをよく見ていなかったために把握できていなかったのだが、どうやらこのおにぎりの具はツナマヨネーズの様で、マヨネーズによって柔らかくなったツナと白米、そして海苔の食感が俺の口内を満たしていた。――うん、普通に美味い。

 ものの数秒でおにぎりを完食した俺は口の周りを手で拭い、

 

「とりあえずはごちそうさん。おかげで助かったよ」

 

「そう言いながら頭を撫でるな殺されたいのかしら?」

 

「分かった分かった。手を離すからそんなに睨むな」

 

「……むぅ」

 

「お前は褒められたいのか貶されたいのかどっちなんだよ……」

 

 上目遣いで頬を膨らませるな。惚れちまうだろうが。

 相も変わらず本日も平常運行のツンデレの睨みから逃げるように視線を逸らす。

 ――瞬間、こちらに近づいてくる銀髪の少女の姿が映り込んできた。

 

「あちゃー……早速お迎えが来ちまったか」

 

「お迎え?」

 

「ああ。今日は授業にちゃんと出る事になっててな。その見張りを生徒会長が担ってたんだが……多分だが、既に授業が始まってんのに俺が未だに教室に来ないからあっちから迎えに来たんだろうよ」

 

 ここで言うのもなんだとは思うが、俺と生徒会長は同じクラスに所属している。……まぁ、所属していると言っても書類上そうなっているだけで、俺にとってはこの世界におけるクラスなど心底どうでも良かったりする。別に授業を受けたところで何かが変わる訳じゃあねえしな。いや、模範的に過ごしてると消えちまうんだっけ? じゃあ尚更受けたくねえわ。

 肩を竦めながら生徒会長の方に体を向ける俺。そんな俺の背後でゆりが「お迎え、ねぇ」と呟いているのが怖ろしくて仕方がない。今更ではあるが、コイツと生徒会長って初対面だもんなぁ。まぁ、俺が二人を合わせ内容に暗躍してただけなんだけど。

 トテトテと靴音を立てながら俺の前へとやってきた生徒会長は相も変らぬ無表情を俺に向け、いつも通りの感情の薄い声で言葉を紡ぐ。

 律儀で規則正しい言葉を、彼女は奏でる。

 

「春野くん。もう授業が始まってるわ」

 

「俺はまだ消えたくねえんだけどな」

 

「授業を受けたからと言ってすぐに消える訳じゃない。私という存在がそれを証明してる」

 

「成程、それは凄い説得力だ」

 

 確かに、生徒会長は誰よりも規則正しく過ごしているのに消えるどころかこの世界に馴染みつつある。何か絡繰りがあるのだろうか。それとも彼女の無念は学校生活とは関係ないものなのだろうか。謎が謎を呼び、俺の頭に軽い頭痛を与えている。

 とまぁ、そんな悠長に頭を押さえていた、まさにその時。

 ザッ、と。

 俺の傍にいたゆりが、俺の前へと一歩踏み出した。

 

「あなたが噂の生徒会長?」

 

「あなたは……」

 

「あたしはゆり。誠に遺憾ではあるけれど、暖人の相棒よ」

 

 何で俺の相棒が誠に遺憾なのかを小一時間ほど問い詰めたい。

 

「そう。……春野くん、あたし以外にお友達がいたのね」

 

「サラッと酷い事言うなアンタ」

 

 しかし友達がゆりと生徒会長以外にいないというのもまた事実。

 俺と生徒会長の間に割り込むように、ゆりはずいっと言葉を吐く。

 

「あなたが暖人を連れ戻しに来たのは分かったけど、残念だったわね。暖人はこれからあたしと一緒に麻婆豆腐を早食いするという大切な用事が入ってるの」

 

「なん、ですって……ッ!?」

 

 生徒会長に電撃が走った。

 あちゃー……駄目だよゆり、生徒会長の前の前で『麻婆豆腐』という単語を出しちゃダメなんだよ。

 何故なら、生徒会長は――

 

「そういう事ならあたしも同伴するわ」

 

 ――大の麻婆豆腐オタクなんだから。

 

「いやいや、生徒会長? 授業はどうすんだよ」

 

「授業は麻婆豆腐の犠牲となったのだ……」

 

「授業の重みって意外と軽いのな。スッカスカじゃねえかよ」

 

「今回だけは特別。麻婆豆腐以外だったらこういう訳にはいかないわ」

 

「麻婆豆腐と授業を天秤に掛けられるなんて気の毒だなぁ教師陣」

 

 しかもその犯人が学校を代表する生徒会長と来た。俺は基本的には授業をサボる方面に大賛成だから別にいいのだけれど、生徒会長としてその選択は激しく間違っている気がしてならない。というか、絶対に間違っていると思う。

 「え、どういう流れなの、これ?」「いいから話合わせとけって、面倒臭ェから」小声で俺に疑問をぶつけてきたゆりを軽くいなし、俺は「麻婆豆腐……」と呟きながら上の空となっている生徒会長に言葉を振る。

 

「それじゃあ生徒会長。麻婆豆腐の為にまずは食堂に行くとすっか」

 

 こくん、と生徒会長は首を縦に振る。

 彼女は、極めて無口である。

 

 




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