生徒会の犬となりまして   作:秋月月日

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process of Betrayal⑤

 物語は動き出す。

 春野暖人()という捻くれた少年を語り部に、

 仲村ゆり(あいつ)という憐れな少女をヒロインに、

 立華奏(生徒会長)という報われない少女を悪役に。

 物語は時として、無情な事だが動き出す。

 物語の主人公を迎え入れる為に世界は歪みに歪み、そして物語は進み始める。

 プロローグはもう終わった。

 ここからは、本編に向かうための前座の時間だ。

 これから始まるのは、そんな無情で無意味な主人公がお送りする物語。

 俺という捻くれた語り部が語る、日向秀樹という主人公(前座)の物語―――。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「暖人! 見つけた、見つけたのよ!」

 

 それは、突然の事だった。

 最早日課となりつつある校庭のベンチでの昼寝を満喫していた俺の鼓膜を、最早相棒以上の存在になりつつある少女の声が刺激した。

 鈴のようだが芯のある、はきはきとした美しい声。

 しかし美しいのは声と外見だけであり、中身は最低な下衆である少女は寝ている俺をベンチから投げるように落下させ、それでも興奮冷めやらぬ様子で先程と同じ台詞を吐き捨てやがった。

 

「暖人! 見つけた、見つけたのよ!」

 

「俺の平穏で平和な時間を暴力によって邪魔したというのにやけに嬉しそうだなテメェ」

 

「そんな事はさておいて、あたしの話を聞きなさいってば!」

 

「ンだよもう……」

 

 こうなったゆりは俺の話を聞かないし、そもそも止める事すら不可能である。

 彼女とある程度の期間を過ごした俺は瞬時にそう判断し、地面にぶつけた額を擦りながら彼女の話に耳を傾ける事にした。

 

「それで? 何を見つけたって?」

 

「人間よ、人間! この世界に最初からいる一般生徒じゃなくて、あたし達と同じ、死んだ人間をついに見つけたのよ!」

 

「へー」

 

「なんだそのうっすいリアクションはぁああああああッ!?」

 

 ゆりの華麗なハイキックが俺に直撃――はしない。

 回避&防御行動の上手さだけが取り柄である俺はゆりの蹴り上げられた足を腕で軽くガードしつつ、ゆりに気怠そうに返答する。

 

「最近は校内の事情で色々と大変だったかんな。俺とお前以外の人間の姿もそれなりに目撃してたんだよ」

 

「それは何? そういう理由があったから、あたしの報告に特に驚くことも無かったと? そういう事?」

 

「イエス、マム」

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 顔を手で抑えて呆れたように溜め息を吐くカチューシャ少女。コイツは本当にテンションの落差が激しいなぁ。そんな生き方でよく疲れないよな、マジで。いや、既に死んでるけど。

 「まぁ、いいわ」俺の態度についてはそこまで指摘するような事でもなかったのか、ゆりはすぐさま話の転換を図り出す。

 

「それはそうと、暖人。ちょっと相談に乗ってくれない?」

 

「ダイエットについての知識は持ち合わせていねえんだが……」

 

「ぶしつけにも程があるだろうがぁあああああっ!? 何であたしが相談する=減量になるのよこのバカ暖人! 脳内お花畑か! しかも女子に対して体重の話を持ち出すとか非常識すぎますからぁっ!?」

 

「じゃあ何なんだよ。全校生徒殺戮計画についてとかか?」

 

「あなたのあたしに対するイメージ酷すぎない!? そんなにバイオレンスじゃねーし!」

 

「は? ちょっと何言ってるか分からないんですけど……」

 

「うっきゃぁあああーっ!」

 

 まさに発狂。

 発狂としか呼べない様な絶叫を上げ、ゆりは激しく髪を掻き毟る。

 

「いいから話を聞きなさいよ! 話を逸らすな、ムードを感じ取れ!」

 

「分かった分かった。俺が悪かったから……ほら、話してみ?」

 

「くっそマジでムカつく……」

 

 だろうな。俺がお前の立場だったら間違いなく右ストレートを入れてるわ。

 それでは、そろそろ真面目に彼女の話を聞くとしよう。このままでは話が進まないし、これ以上はゆりの堪忍袋の緒の耐久が持たないだろうしな。

 「ぐぬぬ……」と可愛らしく上から目線で睨みつけるも、ゆりは溜め息を吐いていつもの調子を取り戻す。

 

「あまり長い前置きをするとあなたの集中力が持たないだろうから簡潔に言うわ」

 

「おう」

 

「拳銃を持った危険な男に挑戦状を安全に渡す方法を考えて欲しいの」

 

「なんか突然にバイオレンス!」

 

 え、何、どういう相談なの!? 何でこの平和な世界でそんなバイオレンスの香りしかしねえ相談をされてんの、俺!?どうしよう、頭が混乱してきた!

 しかも拳銃って何だよ。この世界にそんな危険なモン、存在してねえはずだろうッ!? 誰かが作ったってのか? その危険な男が? どんだけファンタジーなんだよ。

 俺の動揺が目に見えたのか、ゆりは大きく肩を竦める。

 

「それはあたしにも謎なのよね。もしかしたらこの世界の秘密に繋がる謎なのかもしれないけれど……」

 

「まぁ、分かったところで拳銃なんて作る予定もねえだろうけどな」

 

 こんな世界でそんな危ないモンを生産する必要なんて皆無だと言える。

 しかし、ゆりは俺と同じ考えを持っていた訳ではないようで、「そうでもないわ」と首を僅かに横に振った。

 

「銃を生産しさえすれば、あたしたちもようやく天使への対抗手段を所持する事が出来るわ。あのふざけた光の刃がどれ程の力を持っているかはまだ未知数だけど、銃火器さえあれば百人力よ!」

 

「待て、ちょっと待ってくれ。その天使ってのは一体誰の事を言ってんだ? 突然過ぎて頭が追い付いて行ってねえ」

 

「ああ、そういえばあなたにはまだ言ってなかったわね。これは日向くん――あたしが見つけた仲間の一人なんだけど、その日向くんが名付け親なのよ。あの生徒会長を天使と呼んで、一般生徒の事をNPCと呼ぶの。これからあたしもそういう風に区分付けるから、あなたもちゃんと覚えておきなさい」

 

「また面倒臭い事を……生徒会長が天使? あいつは人間だろうよどう見ても」

 

「人間があんな超常的な力を使える訳がないじゃない」

 

「そりゃあそうかもしれんけどさ……」

 

 うーむ、これは困った。何が困ったって、コイツが生徒会長を人間として認識していないという事実が非常に困った。ゆりにはまだ言っていない事ではあるが、俺が最近忙しかったのは生徒会への参入手続きによるものだ。何で生徒会に入るんだ? という質問にはあえて曖昧な苦笑を送る事にしよう。生徒会長から誘われた、という理由もあるにはあるが、これには他に、海よりも深い理由があるのだ。とりあえずは察してくれ。

 とにかく、俺が今後生徒会に入る以上、ゆりが生徒会長と敵対する流れで話を進めようとしている今の状況は、俺としては非常にマズイ。勿論言うまでもないが、俺はゆりと敵対するつもりはない。敵対するつもりはないが、生徒会長からの厚意を無碍にする訳にもいかない以上、生徒会入りを断念するつもりもない。

 まさに八方塞がり。

 ゆりと生徒会長。

 この二人のどちらを選ぶか――事態はそういう状況にまでシフトしつつある、という事か。なんて面倒臭いのか。神は死後の世界ですら俺に試練を与えているようです。

 とりあえず、このままゆりの行動を看過する訳にはいかない。看過する訳にはいかないが、ここで彼女を引き止めて感付かれるのも御免被りたい。

 結局のところ、俺は何処までも臆病なのだ。

 何も失いたくはないが、全てを得ようとしたい。

 結局のところ、俺は何処までも我儘なのだろう。自覚はしていたが、あえて思ってみると成程、これほどまでに俺に似合う言葉もないと思う。

 我儘。

 自分勝手。

 確かに、俺という人間はそんな人格を持っている。ゆりと出会った理由も自分勝手な行動が原因だったし、今回の事態を引き起こしてしまっているのも元を辿れば俺の我が儘な選択が元凶だ。

 結局のところ、全ての元凶は俺という訳なのだろう。

 何かが出来る訳じゃない。

 何かを選べる訳じゃない。

 何かになれる訳じゃない。

 何も出来ない無力な一般人の癖に、何でも出来る天才気質のように振舞う人間――

 ――それこそが俺、春野暖人という人間なのだろう。

 何という自虐行為だろうか。あまりにも、それを自覚するのが遅すぎた。遅すぎたからこそ、今になって焦り始めてしまっている。

 生徒会には入る。

 ゆりの味方も続ける。

 だが、生徒会長とゆり、そのどちらの敵にもなりたくない。

 ほら、見ろ。俺は何処までも我儘で自分勝手な選択をしようとしてしまっているじゃあないか。

 結局俺はそういう人間なのだ。

 だから、今更になって気付いたところで、別に焦って事をし損じる必要はないんだ。

 頭を切り替えろ、そして演じろ。

 いつも通りの春野暖人を。

 今まで当然と思っていた自分を演じれば、これ以上物語を悪い方向に進めないで済むのだから。

 

「分かった。とりあえず銃の話は置いておこう」

 

 あくまでも逃げ。

 あくまでも逃げだが、それが俺の中での最善の逃避方法だった。

 

「その銃を持った男に挑戦状を叩きつける方法、だっけか?」

 

「そうなのよね……何かない、良い方法?」

 

 こくん? と首を傾げながら俺の顔を上目遣いで覗き込んでくるゆり。

 そんな彼女に僅かな罪悪感を感じてしまうも、俺はあくまでも平常に、平静を装って返答する。

 

「あるっちゃああるが、そこまで確実な方法とは言えねえな」

 

「別に不確実な方法でも構わないわ。あなたが考えた方法が間違っている訳がないもの」

 

「っ」

 

 コイツは、本当に大馬鹿者だ。

 こんなに自分勝手な人間を、我儘な春野暖人を、心の底から信頼し、信用してしまっている。

 ダメだ、ダメなんだよ、ゆり。俺を信用しちゃあ、ダメなんだ。

 そう言いたいのに、俺の心がそれを邪魔する。

 ゆりに嫌われたくないという気持ちが、

 ゆりに信じていてもらいたいという邪念が、俺の行動を抑制している。

 ―――そうか、そうだよ。やっと気づいた。そう考えれば、俺のこの謎の動揺にも説明がつけられる。

 何故、ゆりに対してだけここまで動揺しているのか。

 その謎が、そう考えれば完璧に説明がつく。

 

「それで失敗しても俺に文句言うんじゃねえぞ?」

 

「大丈夫よ。あなたが考えた作戦を、あたしが失敗するはずがない。昔からそうやってあたしたちはやってきたでしょう?」

 

 そう言って笑うお前の顔が、何よりも○○で。

 

「……そうだったな」

 

「それで結局、その方法ってのはどういうものなの?」

 

 そう言って上目遣いするお前の目が、何よりも○○で。

 

「ぶっちゃけた話、地味に手が掛かる事ではあるんだ。でもまぁ、手配ぐらいは俺がしよう。お前はそれを実行に移すだけでいい」

 

「そんなの言われるまでもないわ」

 

 そう言って胸を張るお前の態度が、何よりも○○で。

 

「それじゃあ俺のファイナルアンサーだな」

 

「うんうん」

 

 俺は、春野暖人は―――

 

「この学校に弓道部があんだろ? そこで弓具を借りて、矢文をすりゃあいいんだよ」

 

「成程! その発想はなかったわ」

 

「俺としては全くオススメせんがな。後処理が面倒臭そうだし」

 

「大丈夫、そこは上手くやるわ」

 

「マジで大丈夫か……?」

 

「任せなさいって。あなた、あたしを誰だと思っているの?」

 

「仲村ゆりだろ、仲村ゆり。唯我独尊で絶対無敵の俺の相棒だよ」

 

「フン。分かってるなら良いのよ」

 

 ――そうやって嬉しそうに笑うお前の事が、大好きなんだ。

 

 

 

 

 物語は進む。

 一人の少年が誤った道を選択してしまっていたとしても、この物語が戻る事はない。

 終わった後の物語に、リセットボタンは存在しないのだから―――。

 

 




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 次回もお楽しみに!
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