生徒会の犬となりまして   作:秋月月日

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process of Betrayal⑥

 ゆりが拳銃を持つバイオレンスな男と決闘する事になった。

 その根回しをしたのは他の誰でもなく俺自身なのだが、やはり言葉として再認識すると、この平穏な死後の世界におけるイベントとしてはだいぶ非常識なものであると改めて実感させられてしまう。その非常識なイベントを引き起こしたのが俺の好きな女であるという事実がまた、俺を襲う頭痛のレベルを僅かながらに酷くしている。

 さて。

 これは自分で得た情報なのだが、ゆりはどうやら生徒会長を立会人として選出したらしい。大方、拳銃同士の対決の最中に天使の手助けを得るつもりなんだろうが、確かにそういう手段こそがゆりにとっての一番の最善策なんだろうと思う。いくら彼女が平均女子以上の怪力であるとしても、相手は拳銃を持つ危険な男だ。勝てる見込みがないとは言い切れないが、ほぼ確実に敗北する事だろう――まともに戦えば。

 これは俺個人の主観でしかないが、ゆりはおそらくかなり姑息な女だ。姑息で狡猾、良く言えば頭の回転が速い天才頭脳タイプの人間だ。俺と同系統に見えて、実は根底が異なる――そんな人間なのだ。

 

「結局のところ、ゆりと俺は似た者同士なんだろうよ」

 

「あの子と春野くんが似た者同士だとは到底思えないわ」

 

「それは生徒会長がまだゆりの事をよく知らねえからだよ」

 

 悪戯っぽく笑いながらの俺の言葉に、生徒会長は小さく首を傾げる。

 さて。

 現在、俺は珍しい事にこの学園の生徒会室にいる。その理由というのは改めて説明する事でもなく、ここで更に掘り下げる必要もない話題でしかない。

 つまるところ、俺の生徒会入りについてなのである。

 

「それで? 俺はどうやって生徒会役員になる感じなんだ? 選挙とかやんの?」

 

「選挙をやるのは生徒会長だけだから。役員については、生徒会長が直々に指名するだけなの」

 

「成程。っつー事は、俺はすぐにでも生徒会役員になれるって訳だ」

 

「そういう事になるわ」

 

 意外と簡単なんだな、生徒会役員になるのって。もっとこう、複雑な手続きを必要とする感じかと思ってたわ。

 麦茶で喉を潤し、生徒会長は話を続ける。

 

「生徒会入りの方法は今言った通りだけど……どうする? もう今この瞬間から生徒会役員になる?」

 

「そうだなぁ。俺としちゃあ別に今すぐになってもいいんだけど……」

 

 そう呟いた瞬間、俺の頭にあのカチューシャ少女の顔が浮かび上がってきた。

 それはつまり、俺がまだ生徒会入りする事を迷っている、という事だった。

 生徒会入りすれば、ゆりと敵対する事になる。極論だと言われるかもしれねえが、生徒会とはつまり『天使側の組織』を意味する。天使との敵対を決めたゆりにしてみれば、そんな生徒会役員に彼女の一番の味方である俺が所属するなんてことは絶対に有り得てはならない事なのだ。

 ゆりの敵になるかどうか。

 その葛藤こそが、俺が生徒会入りを迷う大きな理由なのである。

 どうする? と可愛らしく首を傾げている生徒会長の視線を浴びる事、約一分。

 俺は自分でも分かる程の苦笑を彼女に向け、これでもかという程に平静を装いながらこう言った。

 

「とりあえず、正式な所属は少し待ってくれねえか? ちょっと心の整理だけでもさせときてえからさ」

 

「……そうね。あなたの境遇はまた少し、ややこしいようだから」

 

 返事はない。

 俺はただ、生徒会長に沈黙と笑顔を返すのみ。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ゆりが例の男を仲間にしたらしい。

 したらしい、というのは、俺が気づいた時には例の男――チャーがゆりの仲間になっていたからである。そしてその旨をゆりの口から聞かされたから、という訳だ。

 更に言うのなら、ゆりから話を聞かされた時に、俺は彼女が見つけたという人間たちとも初めて知り合った。

 日向。

 大山。

 そして、チャー。

 どいつもこいつも一癖も二癖もある奴らで、成程、こういう奴らだからこそ一般生徒との見分けがついたんだろうなぁ、とか思ってしまっていた。――しかも、如何にもゆりに惹かれそうな奴等ばかりだった。

 そして意外な事に俺の知名度はそこそこ高かったようで、大山曰く『いつも生徒会長と一緒にいる人』という感じのイメージであるらしい。俺が生徒会長と一緒にいるようになったのはかなり最近の話であるのだが、それを聞いたゆりが不貞腐れた顔で『暖人の相棒はあたしよ』と呟いていたのが妙に印象深かった。

 そして、妙に嬉しかった。

 俺の一方通行な想いではなく、ゆりもまた俺の事をそれなりに大切にしてくれてるんだな、と。その事実を認識できたことだけで、俺はかなり満足してしまっていた。

 そう、満足してしまっていた――そんなばかりに、

 

「くっそ重ぇ……全員分の食糧とか、絶対に有り得ねえだろうが……ッ!?」

 

「そうは言うけどよぉ、春野。その荷物の半分をオレが持ってやってる訳なんだが?」

 

「うるせえよ俺は元々非力なんだよチビだしな。お前みてえな長身イケメンなんかに気持ちが分かられてたまるかよ死ね」

 

「流れるように酷いなぁオイ!? 流石にそこまで言わなくてもいいんじゃないですかねぇ!?」

 

「俺は生まれつき口が悪いんだよ」

 

「どんな子供だよ可愛げなさすぎんだろ!」

 

 パンパンに膨れ上がったリュックサックを何個も抱えて左右にふらつく俺に、日向の渾身のツッコミが炸裂する。コイツとの接触期間はまだほとんど皆無と言ってもいいが、その短い期間で俺はこの日向という男が『おちゃらけているのにやる時はやる主人公のような男』という感じのキャラクターであるという事を完璧に把握する事に成功していた。これでも俺は人を見る目にだけは自信があるのだ。

 とりあえず、現在の状況を説明するとしよう。

 ゆりと愉快な仲間たちと合流した後、俺たちはチャーという大男について行き、とある地下室へと案内された。そこで俺達は『土塊を釘に変える』という奇跡のような技を見せられ、この世界では錬金術と酷似した技が可能となっている、という新たな発見をすることができた。

 そして話は、地下室の奥の扉の向こうにある地下ダンジョンについてへと進み――それじゃあダンジョン攻略と行こう、それならまずは何が必要だ? とりあえずは食糧だろ、それじゃあいってらっしゃーい――というやり取りの後、俺と日向が全員分の食糧を確保する次第となった訳である。

 改めて、言わせていただこう。――なめとんのか。

 

「それにしても、よくゆりの仲間になろうと思ったよな、お前。普通にきついと思うんだけど」

 

 長い草を手で掻き分け進みながら、俺は後方の日向へと話を振る。

 

「確かにきついのはきついが……オレにはゆりっぺしか頼れる奴がいなかったんでね。だからそうだな、つまりは仕方なくって感じだよ」

 

 そういうアンタはどうなんだ?

 日向のそんな質問に、俺は迷わず即答する。

 

「ゆりが好きだから、だな」

 

「…………は? え、えーっと? それはどういう意味での『好き』なんだ?」

 

「そりゃあもう、恋愛的な意味での『好き』だよ。俺はアイツの事が好きだから一緒にいるし、アイツの事がほっとけねえから一緒にいる。お前もゆりを見てきたんなら分かんだろ? アイツは放って置くと何を仕出かすか分かったもんじゃねえんだよ」

 

「それはまぁ、確かに……オレも散々振り回されてるしなぁ」

 

 思い当たる節があったんだろう。日向は神妙な面持ちで首を何度も縦に振る。

 

「だけど、ゆりっぺが恋愛的に好き、かぁ……うーん、悪りぃけど、オレにはちょっと理解できねぇかなぁ」

 

「安心しろよ、それが普通の奴の発言だ」

 

 確かにアイツは美少女で、これでもかという程に魅力のある奴ではあるが、しかし、日向の様な普通の感性の持ち主に恋愛視点で好かれるかと言われると、首を捻るしかなくなる。アイツを好きになれるのは俺のような危篤者か相当寂しい奴の二択であろう。というか正直な話、俺以外の奴にゆりを好きになって欲しくはない。

 前も言ったが、俺は我儘で自分勝手な人間だ。

 だからこそ、俺はゆりを独り占めにしたくてたまらない。

 ここは死後の世界だから恋愛なんて必要ない――その意見も御尤もだ。事実、ゆりはそういう考えを持っている。報われない人生を送ってきているのに今更そんな幸せな事なんて考えられない、というのが彼女の意見である。

 確かに、俺も嘗てはそうだった。

 報われない人生を送ってきたんだから、今さら何をやっても幸せに何かなれっこない。さっさと成仏して来世に期待するか、この世界でだらだらと山も谷もない暮らしを続けるか。この二択以外に俺の選択肢はないんだと、そう思って死にながらに生きてきた。

 だが、彼女との出会いが。

 仲村ゆりという少女との出会いが、俺の価値観を大きく変えた。

 死後の世界がなんだ、報われない人生を送ってきたからなんだ。

 守りたい奴がいる、大切にしたい奴がいる、好きになった奴がいる。

 それだけで俺は、人間は、どうしようもなく幸せになれるんだ。既に死んでいるから矛盾した表現になるかもだが、俺は今、世界中の誰よりも生きている実感を得ているんだ。

 誰かを愛する事こそが、最も人間らしい生き方なのだから。

 

「ま、価値観は人それぞれってな。お前もいつかはこの世界で見つかるかも知んねえぜ? 死んでも守りたくなる程に好きになっちまうような女がさ」

 

「既にオレたち死んでるけどな」

 

「本当にそれだけは笑えねえ冗談だと思うよ」

 

 そう言った俺の顔は、しっかりと笑えていたのか否か。

 その確認ができないまま、俺と日向はゆりたちが待つ地下室へと辿り付いてしまった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 時々、思う事がある。

 もし、俺たちがまだ生きていて、あんな悲惨な人生を送ってなくて、互いにしっかりと出会っていたとしたら。

 そんなIFの物語を、思い浮かべる事がある。

 その物語でも俺はゆりの事が好きで、ゆりはある程度は俺の事を大切に思ってくれている。二人は同じ高校に通っていて、大学受験を控えた受験生である。

 さて、ここで問題が一つ。

 もし、そんな世界に生きていたとして、俺はちゃんとゆりの事を心の底から好きでいられるのだろうか。

 今、この冗談としか思えない死後の世界だからこそ、俺はゆりの事を好きでいられるんじゃあないか。これが普通の現世だったら、俺は他の奴の事を好きになっちまうんじゃないか。

 考えたって分からないし、答えが出る事はない。

 だって、そんな世界なんて絶対に有り得ないんだから。

 来世に今の記憶を持ち越すなんて不可能で、もし持ち越せたとしても彼女と無事に出会える可能性なんてほぼ皆無と言ってもいい。六十億分の一の確率だ、期待するだけ無駄だろう。

 だけど時々、思う事がある。

 もし、その奇跡がすべて実現したとして、俺の心が揺らがずにいられるのか、と。

 考えたって答えは出ない。

 思ったって解決しない。

 だけど時々、思う事がある。

 もし、普通の青春を送る事が出来ていたら。

 もし、ゆりと共に普通の人生を送る事が出来ていたら。

 そんなIFの物語を、俺は時々、思い浮かべる事がある―――。

 

 




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