全学年対抗野球大会。
春が過ぎ夏に差し掛かった頃に行われる球技大会で、この世界の学園にいる生徒達が好きにチームを組んで野球で競い合うという汗水溢れる青春イベントの一つだ。その参加者数は年々増加傾向にあり、今年は今までにない程の人数が参加するという。
そんな、死後の世界最大のイベントの裏で、
「うあー……暑い怠い死っぬぅ」
俺こと春野暖人は生きる屍と化していた。
中庭にある木々の木陰に作られた木製のベンチの上で、俺は力なく横たわっている。首には買ったばかりの炭酸飲料の缶を接触させていて、夏に対して僅かばかりの抵抗をしていたり。正直全然涼しくないんだが、それはあれだ、気分ってヤツだ。
『こらー! 直井ー! あたしの歌を聴けー!』
『もういい加減にしろぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
もはや校内公認カップルとなりつつある中二病と音楽キチのやり取りをBGMに、俺は木陰で静かに目を閉じる。っつーかアイツラまだ付き合ってないんだよな、実は……見ているこっちがイライラするぐれえには仲が良いんだから、さっさとくっつけばいいのに。
はぁぁ、ふぅぅ、と体内の熱を逃がすように深呼吸を繰り返す。ここであえての補足情報。俺は春と秋以外では通常の能力を引き出せない傾向にある。――つまり、春野暖人の弱点は夏と冬なのだ!
「…………生徒会長が『節電!』とか言ってエアコンつけてくんねえしなぁ」
本当、そろそろあの堅物生徒会長はなんとかするべきなのかもしれない。とりあえず、ここは死後の世界なんで電気代云々は考える必要はないんだ、という訴えかけでもしてみようか。俺の演技力と必死さがあれば流石の生徒会長でも首を縦に振るに違いねえ。――うん、後で検討だけでもしてみよう。今はあんまり動きたくねえし。
申し訳程度に吹き込む風に全神経を集中させつつ、ゆっくりとベンチに腰掛ける体勢にシフト。用意していた炭酸飲料のプルタブを開け、身体が許す限りに全力で飲み込んだ。
「っぅ!? うっぷ……げほげほげほっ! ~~~~~っ!」
やっぱり炭酸の一気飲みとかやるもんじゃねえですね。
炭酸がのどに詰まって咳き込んで、挙句の果てには鼻を激痛が襲う始末。なんだ、今日は厄日か何かか? 球技大会は俺にとっての大凶イベントなのか? これは即刻中止にせねばな。
――などという無駄な思考に頭を回していると、
「おーい、春野ー!」
「…………春野暖人はクールに去るぜ」
「俺の顔を見た瞬間に逃げんなよ傷つくだろうが!」
ちぃっ! 一歩遅かったか!
俺は露骨に吐き捨てるように舌を打ち、俺の腕をがっしりと掴んでいる青髪の同級生――日向に苛立ちを込めた視線をぶつける。
「こんなクソ暑い日にクソ暑苦しい野球少年と邂逅しちまった俺はもう死ぬかもしれんのだが?」
「この世界じゃどんなことがあっても死ねねえから安心しろって。ってかさ、お前、野球に興味はあるか?」
「ゆりの胸に付いてる二つの野球ボールになら大きく興味を惹かれるが?」
「…………お前、暑さのせいでいつもとキャラがだいぶ違くね?」
「若干夏バテしてっからな、仕方ねえだろ」
しれっと運動したくないアピールをしてみる。
「そうか。だったら野球でその無念を晴らそうぜ!」
「………………」
「がっ! ぐっ! めぎょおぉ!?」
日向の爽やかスマイルが凄くイラついたんで、とりあえず顔面の三発ほど右ストレートを叩き込んでやった。カッとしてやった、反省はしていない、後悔もしていない。
……って、よく見たら音無もいるじゃん。なんだ、日向の奴、まず最初に音無を誘った訳か……ん?
「なぁ日向。とりあえず気になったんだが……お前らって球技大会にエントリーしてたか?」
球技大会のエントリーシートをまとめたのは俺だから参加チーム名は頭の中に残ってんだが、日向たちが所属してるチームなんてどこにもなかったぞ? っつか、あれって部活動対抗みてえなところがあるから、部活以外の参加者ってそこまで数はいねえしなぁ。
という感じで球技大会についての想いを馳せていると、殴られた顔面を擦りながら日向は笑顔で親指を立ててこう言ってきた。
「ゲリラ参戦に決まってんだろ!」
「死ね! 惨たらしく死ね! このミジンコ野郎!」
「ぎぃやぁああああああああああああっ! 目が、目がぁあああああああああああああっ!」
どったんばったんと釣り上げられたばかりの魚のようにのた打ち回る日向。この野郎、ゲリラ参戦とか面倒臭い事しやがって……あれ、後で生徒会が色々と手回しする羽目になるんだぞ!?
「テメェらはいい加減に常識っつーもんを弁えろや……っ!」
「あ、あんまり日向を責めないでやってくれ、春野。これは、その、あれだ。…………ゆりからの指示なんだ」
「………………ほぅ?」
ゆりからの指示。ということは、今日の球技大会には戦線メンバーが組んだチームが何個もゲリラ参戦してくるということか。ギルドの連中は不参加だろうから、できたとしても五チームぐらいが限界だろう。その全部がゲリラ参戦……うん。
これは、あれだな。
「オーケー。全面戦争だ」
懐からバズーカを二丁ほど取り出し、脇目も振らずに校長室へと――
「ストォ―――ップ! 落ち着け春野、流石にそれは洒落になってねえ!」
「ええい、縋りつくな気持ち悪い! 今日こそはあのバカ女を爆裂させてやるんじゃーっ!」
「それでも流石に校長室爆破はやり過ぎだろ! ほら音無、お前も何か言ってやれ!」
「え、えーっと……とりあえずそのバズーカは何処から取り出したんだ?」
「練成した」
「お前はどこの錬金術師だ!? ていうか、それは質問の答えになってない!」
暴れる俺と日向から少し距離を置いてツッコむ音無に俺は出来る限りの最高の笑顔を向け、
「大丈夫だ! 日向の命を等価交換として差し出すから!」
「逆人体練成!?」
直後。
中庭で三人のバカが爆死した。
☆☆☆
「あーくそ、朝っぱらから酷い目に遭った……」
「「それはこっちのセリフだ!」」
うるせえよ。
物理的に中庭を爆発させてしまった後、俺たち三人は校舎を当てもなく彷徨っていた。
日向に聞いたところによると、球技大会に参加するためにあと六人のメンバーを集めなければならないらしい。何で俺がもうエントリーされているのかが疑問で仕方がねえが、「中庭爆破の犯人だってばらされたいか?」と凄味のある顔で脅されてしまったのだからもう何も言えない。流石にさっきの件が生徒会長に露見するのだけは避けたいからなぁ……ハンドソニックとかで切断されるかもしれんし。
煤だらけになってしまったワイシャツを叩き、俺はケホッと軽く咳き込む。
「ンで? 残りのメンバーに当てはあんのか?」
「………………てへ☆」
俺の渾身のアッパーカットが日向を殴り上げた。
「がっふっ、ぐぷっ……!?」
「テメェふざけてんのかコラ!? 当てもねえのにあと六人もメンバーを見つけられる訳ねえだろ!」
「い、いや、当てがないわけじゃないんだって! 椎名と野田が残ってるだろうし、きっと他にも何人かは残ってるはずだ!」
「その希望的確率に振り回される俺の気持ちにもなれやこのバカ野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺の渾身の右ストレートが(ry。
俺の怒りの攻撃を浴びせかけられたせいで顔面が通常の二倍ほどに腫れ上がってしまった日向の襟首を掴み、追撃を加えんと右腕を大きく振り上げた――まさにその瞬間。
「あっはっはー! お困りのようですね、センパイが――ふげっ!」
桃色の髪と悪魔の尻尾が特徴の凄く面倒くさそうな女子生徒が何もない所で盛大に転んでいた。
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次回もお楽しみに!