「メリークリスマース!」
ナザリック地下大墳墓、玉座の間。チサトの声が響いた!
「あ!チサトさん!おはようです!めりーくり?」
アイテム整理をしていたモモンガは、インしたチサトに挨拶を返す。
「こんな日にもゲームなんてモモさん、だめねー!ま、私も同じだけどさ!」
「?」
意味ありげに「にしし」と笑うチサトをモモンガは見つめた。
「今日はークリスマス恒例!『リコリコ!クリスマス杯』でゲームしまくってさー!その後は『朝まで千束セレクション!XマスSP!』で、たきなとー……」
興奮してわちゃわちゃと、はしゃいでまくしたてるチサトを見つつモモンガは首を傾げた。
なにか特別な日だったかな?
朝起きて、働いて、寝る。そうした日々から『ユグドラシル』に逃避し没頭していた。今日も三百六十五日の中の、そんなただの一日だったからだ。
――最下層労働階層にとってそういった記念日なるものなど無い世界。それがモモンガのプレイヤーである「鈴木悟(すずき さとる)」の日常なのだった。
でも、そういえば。『ユグドラシル』にそんなイベントもあったような……。
モモンガは思考する。
『ユグドラシル』初心者のチサトさんがそれを知っているとは思えない。するとチサトさん個人でのなにか特別な日なのかもしれない。そういえばペロロンチーノさんがいってたっけ。
――いいかい、モモンガさん?女子というものはやたら記憶力がよくて、なにかと記念日にしてしまう生き物なのさ。そしてそれは攻略に重要なフラグ!絶対見逃しちゃあ、駄目なんだぜ?!
よく見ればチサトさんは白いボンボンのついた赤い三角帽子に、白い縁のある膝丈高の赤いスカート装束。特別な衣装に違いない。
単純なデザインではあるが、だからこその良さ。色素の薄い髪と肌の白さに赤が映え、チサトさんにとても似合っている。
この出来ならばペロロンチーノさんはもちろん、ブリムさんやへろへろさんすら唸らせるに違いない!
……そうして熟考するモモンガは、チサトを見下ろしつつ固まっていた。
そう。それは困惑する小娘を前にオーバーロードが佇んでいるという風景にほかならない!
「ふうぇ?も、モモさーん?」
異様な圧で見下ろしてくるモモンガの顔に、チサトは手をひらひらと揺らし声を掛けるのだった。
*****
「クリスマスという行事だったのですねー」
そうして再起動したモモンガは、心配そうなチサトに話しかけた。
「えええー?う、うん。そっちではまだ?時差かな?」
「えーと。こっちではその行事はないですねー」
「えええっ!そうなんだ?」
クリスマスを説明してもピンときていないモモンガに、チサトはカルチャーショックを受けていた!
凄い……。世界って広い!クリスマスが無い地域があるなんて!
そんなところの人と遊べるインターネットすごい!
そんなところに行ってみたいな……。そしたらモモさんと直接会えたりするのかな?
モモさんはー、どんなひとなんだろう……?
背は私より高いだろうし、やっぱりやさしい感じなのかな?それで……。
「……サトさん?チサトさーん?」
「んんん?」
モモンガの問いかけに、チサトは意識を取り戻した。
「どうしたんですか?」
「えええ?ど、どうもしませぬよー!」
なんだかばたばたと暴れるチサトに、モモンガは首を傾げる。
「あーっと、ええとね!だから私もう戻らないとなんだけど、とりあえずモモさんにメリクリの挨拶したかったから。あとこれ!食べられないだろうけどー、雰囲気だからってクルミがー!」
チサトは赤いリボンで装飾された白い箱をモモンガに押し付けた。
「メリークリスマス!じゃーまたね?」
ほんのりと微笑んだチサトは、そうしてログアウトしたのだった。
*****
チサトがログアウトした後。モモンガは暫くの間フリーズしていた。
リアルで女子との交流などないモモンガにとっては、衝撃的な出来事であったのだ!
あくまでゲームのアバター。なのだが、ウォールナットさんはいってたっけ。
――ああ?お前みたいな初心者は、そのまんまのほうがわかりやすかろ?
なら。チサトさんの中の人もあんな美少女だったりするのだろうか?
いやいや!中の人の詮索はルール違反だ!
とはいえそんなチサトさんからのプレゼント!こんなに嬉しいことはない!
モモンガはかつてない興奮に身を震わせつつ、その箱を開けた!
*****
「くふふふ!たきなスペシャルX’Ver!!通販いけるぜー!あとふるさと納税品にもー……」
押し入れの薄暗やみの中。薄笑いながらキーボードを叩きつつ、クルミが全力で悪だくみをしていると。
「クルミー!」
押し入れの戸ががらり!と開きはなたれ、千束が声を上げた。
「クリスマスゲームパーティはじまるぞー!ほらー!こいや!こいやー!」
テンション高く雄叫ぶ千束に、くるみは苦虫を潰す。
「ち。あーわかったわかった。んー?そういえばモモンガはー」
「ちゃんと挨拶しといたよ!あとケーキも渡したよ!でもさーモモさん、クリスマスないとかいってさー」
「ああ?まあゲームオタクはそんなもんだろ?だからサプライズをくれてやったのさ」
――モモンガめ。たきなスペシャルにさぞ驚くだろうな……。
にししと、悪い微笑みを浮かべつつクルミは千束に引きずられていくのだった。
*****
「ええと……」
チサトに渡された箱を開けたモモンガは困惑していた。
その中にはいくつものクリスマスとやら用のアイテムの数々が入っていて。
そのなかの最後のひとつ。たっぷりと茶色いものがかかった、とぐろ巻くブツを見つけてモモンガは固まったのだった!
それにはさらに不吉に白い粉が振りかけられていて、エフェクトで湯気がたっていたりする。
フレーバーテキストには、
『特別な日に食す特別に豪華な菓子。たきなのひねりたて!味は落とし紙、いや折り紙付き!とぐろを巻くジンアナゴを模したもの事情』
と、ある……。
クリスマスは特別なものを食べて祝う日だとチサトさんはいっていた。
そしてこれがその特別なものなのだろうか?特別感はある!うんうん!ある!あるよ?あるのだがしかし……それを差し引いても、これは口にしていいものなのだろうか?
ゲーム内の物であるし、そもそもモモンガはアンデットであるため食すことはできない。
だが!折角のものなのだ!食す気分にはなりたい!うん。食すことはできないけど!と、モモンガは繰り返し呟きつつ、何度も小さく頷いた。
ならばとりあえず形式的にも皆で食して喜びを共有したい!俺は残念ながら!食べれないけども!
「……よし!各階層守護者、並びに全ての配下の者に命ずる。本日を祝うため、玉座の間に疾く馳せ参じよ!」
絶対支配者モモンガの命によりナザリック地下大墳墓に激震が走る!
そしてそれは後世語り継がれる、その日となった……。
そして伝説へ……!
まさにパンドラの箱!なんちて!悪ふざけ全開です!ごめんなさい!
メリークリスマス!
じつは去年やろうとしてたしゅくべん……いえ、宿題を流しましたー。
おたのしみいただければ幸いでございます!
日本では『餓鬼草紙』(鎌倉時代)にとぐろ状のンこが描かれ、ヨーロッパではベルナール・ピカール(1673年~1733年)が描いた『調香師』の絵に、とぐろを巻いたンこが描かれているそうです(ウィキペデイア
まじかー。まことちゃんが初とかおもってましたわ……。
あと鈴木さんのクリスマス事情はー捏造です。
相違があるならー直すんでー教えてくだしい。ぐわし!
@オマケ
『2024辰年!幸運を呼ぶ!白い竜がとぐろを巻くを模した事情なバリぅーム満点!鏡もちアイスケーキ!』
クルミ「くくく!こっちも売り上げ好調だな!」
――走り出したクルミの悪だくみ無双は止まらない!