日向を照らす彼岸花   作:シャングリラ

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「才能」というキーワードが出る以上、誰かが書くかなと思いつつ出てこなかったので書きたくなるのを抑えきれませんでした。
どうぞゆっくりお楽しみいただければ。


きっさ☆リコリコへようこそっ! どきどき人体実験で大パニック?

法治国家日本、その首都である東京。

この都市には危険などない。

社会を乱すものの存在を許してはならない。

 

――存在していたことも許さない。

 

消して、消して、消して……綺麗にする。

 

 

そんな都市の一角に、喫茶「リコリコ」はあった。

 

 

 

 

 

「どうも」

「おやいらっしゃい」

 

そんなリコリコに最近、新たな常連が一人増えた。

普段は黒いネクタイに黒いスーツ、手にはカバン。見た目はどこにでもいる社会人だ。

顔つきはそこまで整っているというほどではないが不細工というわけでもない、いわゆる普通の顔。

しいて特徴をあげるとすれば、頭の一部だけアンテナのように尖っているようなその髪型だろうか。

 

彼の来店にまず声をかけたのは喫茶「リコリコ」の店主であるミカ。

褐色の肌に口ひげ、縮毛を長く垂らした髪型と見た目だけであればいかつい男性ではあるが、その顔に浮かべる表情はいたって穏やかなものだ。

また、彼の淹れるコーヒーの味はなかなかのものである。

 

「今日もお疲れのようだな」

「ええ、まぁ……コーヒーをお願いします」

「あぁわかった。ゆっくりしていきなさい……日向くん」

 

えぇ、と頷いた青年の名は、日向(ひなた) (はじめ)といった。

 

「おや? おやおや? 日向さんじゃないですかー」

「あぁ、久しぶりだな、千束」

 

のんびりコーヒーを待っていると、今度日向に声をかけてきたのは店員の一人である千束。

最初は名字の「錦木」で呼ぼうとしたのだが、

 

「ちょいちょーい、錦木とかそんなよそよそしいじゃん? ち・さ・と、でオッケー♪」

 

とまあ、千束本人からぐいぐいと名前呼びを強制されたので、流されるように彼女を名前で呼ぶようになったのだ。

他の客も同じように千束を名前で呼ぶので、むしろ名字で呼んでいる人間がいない。

皆がそうしているなら、それで、いいのか……。と流されてしまったのは大衆心理によるものだろうか。

 

「ほら、できたぞ。コーヒーだ」

「ありがとうございます……それと、草餅を」

「草餅だな。しばらく待っていてくれ」

 

出されたコーヒーをゆっくり飲みつつ、せっかくだからと日向は甘いものも注文する。

リコリコは和風の喫茶店ということもあり、メニューにあったのを見つけてからお気に入りの品だ。それこそ、初めてきた時から日向はしばしば草餅を注文している。好物があるなら頼まない理由もないのだから。

 

「千束スペシャルの桜餅はいかがですかー? 桜がきれいな季節だし?」

「いらないよ、やめてくれ。桜餅は好きじゃないんだ……前にも言っただろ」

 

反面、日向の嫌いなものは桜餅。

なぜ嫌いかと言われると説明に困るのだが、なぜか好みにはあわない。

 

他にも客はいるので、千束はそれ以上日向にちょっかいをかけ続けることはなく他の客の方へと応対にいった。

そのままぼんやりとしているところで、目の前に草餅が出されたことで現実へと意識を戻す。

顔をあげると、いつも通り穏やかな表情を浮かべるミカの顔があった。

 

「本当に大丈夫か? 疲れているなら休んだ方がいいぞ?」

「いえ、ただぼんやりしてただけですから」

 

笑ってごまかしながら添えられていた爪楊枝を手に持ち、草餅に刺して口へと運ぶ。

こうしていられる時間は、今の自分にとってとても大事だと日向は感じている。

 

――自分が、紛れもなく”日向創”であると実感できる。

 

今の自分が、通常ではないと実感しているからこそ。

本来なら、自分が今ここに()()()()()()()からこそ、今自分がここに存在していること。それを実感できるのはとても大事なことなのだ。

 

例えそれが、仮初のものだったとしても。

 

「あっら、若い男が」

「またそれですか……」

 

もう一人現れた店員がいきなり発した言葉に、日向は思考を戻してげんなりとした目を彼女に向けた。

黄緑色の制服を着た女性は中原ミズキ。千束同様リコリコの店員である女性だが、結婚願望が強いらしく日向にも何かと絡んでくるので日向はしばしば迷惑を被っていた。

正直日向のタイプではない。

 

もっとも、そもそも自分がここで結婚できるなんて思っていない、というのもあるのだが。

 

「俺みたいな人間に絡んで何がいいんですか」

「アンタみたいな冴えない男でも粉をかけない理由はない! 数うちゃ当たる!」

「俺に対して失礼すぎだろ!?」

 

初対面でならさすがにここまでは言わないだろうが、何度もミズキが日向に絡み、そして断られていることで多少なりとも冗談を言い合えるくらいの間柄にはなっている。

そんなわちゃわちゃとしていた時間もあったが、草餅を食べ終えた日向は休憩ができたと少し伸びをして支払いを行う。

精算を担当した千束はにっこり笑うと

 

「毎度ありー! また来てよね!」

「あぁ、また来させてもらうよ。ありがとうな」

 

ひらひらと手を振って日向を見送る。それに日向もこたえて手を振り、喫茶リコリコを出るのだった。

 

 

 

 

 

リコリコを出た日向の顔は、それまで浮かべていた笑顔から一転して表情のない真顔になっていた。

 

「千束……あいつも、か」

 

リコリコから離れて歩きながら、日向はスマホで検索をかける。

検索のキーワードは、いつもと同じある言葉。

そして、その結果はやはりいつもと同じ。

 

「該当するものが見つかりませんでした、か。そうだよな。やっぱり、そうなんだな……」

 

検索できなかった、という結果を見て日向は空を見上げる。

日向のスマホの画面には「検索:希望ヶ峰学園」という言葉と、それが()()()()()()()()()()()ということを意味する「該当するものが見つかりませんでした」という言葉だけが表示されていた。

 

 

 

 

 

私立希望ヶ峰学園。

それは、全国から様々な分野に秀でた才能を持つ少年少女を迎え入れていた学園である。

「現役の高校生であること」「その分野において「超高校級」の才能を持つこと」が入学の条件であり、生徒は皆スカウトによってのみ入学する。

スカウトのみの入学であるため一般入試は存在せず、卒業生たちは各界における超一流の存在となっていることから学園名自体が強力なステータスになっているほどだった。

 

日向もまた、希望ヶ峰学園の生徒の一人である。

では、彼の「超高校級」の才能は何か?

 

結論をいうと、日向創にそんな才能はなかった。

 

希望ヶ峰学園は多くの才能を集め、そしてその才能を研究し、最終的には自分たちの手で“あらゆる才能を備えた万能の天才”を人工的に作り出すという悲願を抱えていた。

 

しかし、研究というのはとにかく金がかかる。

いくら超高校級の才能を集め政財界にも太いパイプを持っていた希望ヶ峰学園ですら、財政難に悩まされるようになってしまった。

 

その結果設立されたのが、「予備学科」である。

才能を見込んで集められた本科と違い、予備学科は高額な学費と引き換えに希望ヶ峰学園の生徒の肩書を得られる、ただそれだけの言わば金ヅル集め。

 

それでも、人は集った。

才能に憧れ、希望ヶ峰学園の生徒になることを夢見ていた日向創もまた、予備学科の一員だったのだ。

 

 

 

 

 

(……結局、俺には何の才能もなかった)

 

日向は空を眺めながら静かに思う。

そんな自分の今の立場は……あまりにも皮肉で、それでも、一縷の望みが捨てきれないもので。

自分にとってやけに都合がいいと自覚はしているが、それでも。

 

「本来ならここにいるどころか、消えていなくなっていたはずなんだ。だったら、今の状況は幸運と思わないといけないよな……」

 

本来ならいなくなっていたはずだった。

その意味は言葉通りの意味である。本来、”日向創”という存在は……消えてなくなっているはずだった。

 

 

 

 

 

希望ヶ峰学園上層部は、長年の悲願である「あらゆる才能を持った人工の天才」を作り出すことに着手しようとしていた。

その上で必要だったのは、「才能のない人間」。

 

人工的に才能を植え付け、才能を持った天才を作り出そうというのだから当然素体としては才能のない人間が必要だったわけだ。

そして白羽の矢が立ったのだ。日向創に。

 

当然、彼だって迷った。

だが、どうしても捨てきれなかった才能への憧れ。そして希望ヶ峰学園の生徒として過ごしている中で起きたいくつかの出来事……それらが、日向を最後の一歩へと踏み出させた。

 

才能を得るうえで、才能の獲得に邪魔となり得る思考や感情、感性や趣味、更には記憶といったものは一切彼から排除される。

つまり、才能を得る代償として日向創という存在は消えるはずだったのだ。

 

だから。

実験が始まり、彼があらゆる才能を持った「超高校級の希望」となるために。

 

日向創という存在は消えて――

 

いなくなる――

 

はず、だった――

 

 

 

 

 

表示されることはなかった検索結果の画面を消し、今度は「才能」という別の言葉で検索をかける。

自分の記憶の中では「希望ヶ峰学園」という言葉が多く見られたはずの検索結果では、代わりに別の言葉が何度も表示されていた。

 

ピリリリリリリ

 

「!」

 

前までは聞き覚えがなかった、そして今では何度も目にした言葉を見ていたスマホから突如電話の着信音が鳴る。

画面に表示された名前に日向は一瞬顔をしかめるも、その表情はすぐに消えた。

何度も会話したこともある人物からの着信に、日向は特に迷うこともなくそのまま電話に出る。

 

「……もしもし」

『もしもし、日向くん。千束には会ったかい?』

「えぇ、会ってきましたよ、あなたの指示通りに……吉松さん」

『そうか。君から見て彼女はどうだった? 我がアラン機関が支援した、社会に送られるべき”才能”を持つ彼女は』

 

 

 

 

 

アラン機関。

それが、今のこの世界において「才能」を大きく支援する組織の名であり……

 

 

 

日向創が保護され、現在まがりなりにも所属している、組織の名である。




ここでの日向くんは、ダンガンロンパ3絶望編の3話時点の日向くんだと思ってください。
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